季節外れのお花見ピクニック
お花見ピクニックをする日。ぽかぽか太陽さんが今日も元気に山全体を起こしてくれます。
村は連日の晴れ模様で、すっかり暖かく過ごしやすくなりました。
「ロキ医師準備まだかー?」
診療所の入り口では、三巳とリリがお弁当籠を持って立っています。
「ほっほ。そう焦るでないよ。昨日の今日で桜も逃げはせんわい」
そう言って笑うロキ医師は顎髭を擦りながら、ダイニングに続く部屋から出てきました。
「そーだけどー。せっかくなら堪能したいじゃーん」
口を尖らせてぶー垂れる三巳は、尻尾で地面を掃っています。まるで散歩をせがむワンコの様です。
そんな三巳の様子にロキ医師は人の良い笑みで、三巳の頭をぽんぽんと優しく撫でました。
「ほっほっほ。それはすまんのう。
しかしお花見と言ったらこれが欠かせんでの」
そう言うロキ医師の両手には色違いの大きな瓢箪がぶら下がっていました。
「あー。好きだよなー大人はー」
瓢箪の中身を知っている三巳は、胡乱げに見ます。ですが、三巳も前世では散々パラ飲んだ物なので非難はしません。寧ろちょびっと貰おうかな位に思っています。
「?三巳は中身知ってるのね」
一人判っていないリリは首を傾げています。
「おー、大人の飲み物ってやつだなー」
したり顔で頷き、三巳は少し悪い顔でニヤリと笑いました。
「ああ、お酒ね」
そうです。ロキ医師の持っている瓢箪には、大人の飲み物なお酒が入っているのです。
リリもまだ未成年とはいえ、流石にお酒を知っている為直ぐに理解しました。
「二つともそうなの?」
「いや、一個は違うな。
ふんふん。ああ、オレンジジュースだ」
流石獣鼻です。今は人間の形ですが。
手に取って嗅いだ訳でも無いのに、軽く匂いを嗅いだだけで、もう片方の中身がオレンジジュースだと判りました。
「ほっほ。リリはまだ酒が飲めんじゃろう」
だからほれ。と朗らかに笑ってオレンジジュースの入った瓢箪を軽く持ち上げました。オレンジジュースは薄いベージュ色の瓢箪に入っている様です。
「嬉しい!ありがとうロキ医師」
ペコリと頭を下げてお礼を言うリリに、ロキ医師は嬉しそうにニッコリと笑いました。
「じゃあこれで出発出来るなー」
三巳が大きく尻尾を振って楽しい楽しいピクニックの始まりです。
三巳達が診療所から出ると、外には山の民が大集合していました。
これにはリリもびっくりです。
三巳は気配で判っていたし、ロキ医師も仲間内の考える事などお見通しです。来るだろうなと初めから思っていたので「やっぱりなー」位にしか思いませんでした。
「やっと出てきたな!そんじゃ花見に出発だ!」
横に筋肉ががっしり付いたサンタさんの様なお鬚を生やした男性が、腕を高く上げて号令しました。
「「「おー!」」」
集まった山の民達は皆元気良く腕を高く上げて答えました。
その手には思い思いの籠や瓢箪、水筒がぶら下がっています。
思いがけず賑やかになって、リリはホッペを紅潮させて大喜びしました。
左を見ても右を見ても老若男女問わず山の民でいっぱいです。
「んじゃ皆でお花見遠足だな」
「うん!」
三巳が笑い掛けてくれたので、リリはそれに元気いっぱい答えました。
こうしてピクニックから大規模遠足に発展した一行は、件の山桜に向けて出発します。
道すがら山の民達はこぞってリリに話しかけます。
「すっかり元気になって良かったわね」
「はい。ありがとうございます」
「昨日は素敵な歌声だった。今日は歌わねーのか?」
「わわわっ、恥ずかしいですっ。あの時は三巳と一緒だったからつい……」
「「「ははは!確かに三巳の調子っぱずれも聞こえてた!」」」
「にょははー。三巳歌は(前世から)音痴でなー。でも歌は楽しむもんだからいーんだ」
時折三巳に飛び火していましたが、リリも三巳も楽しそうにお話しています。
お話していると時が経つのは早いものです。あっという間に山桜まで着きました。
「おーこれはまた見事な遅咲きの桜だ」
「この時期にまだ見れるなんて素敵ね」
「わーい!さくらさくらー!」
山桜を見上げて皆思い思いにシートを敷いていきます。
直ぐに山桜をグルっと囲んで宴会場の完成です。
「それじゃー今日はリリの全快と仲間入りを祝してー」
「「「かんぱーい!!」」」
「!」
示し合わせたようにタイミング良くカップを高く掲げて乾杯の音頭となりました。
その内容にリリは感極まって涙ぐんでしまいました。
「皆さん!ありがとうございます!
これから宜しくお願いします!」
リリが元気よく頭を下げて、場は最高潮に盛り上がりました。
「よろしくー!」
「仲間だから遠慮はなしだー!」
「これ!親しき仲にも礼儀ありじゃぞ!」
「わ!おばば!ごめーん!」
「「「わははは!」」」
皆も思いお思いに挨拶をしていきますが、リリのカップにお酒を注ごうとした男性が、矍鑠としたおばあさんに怒られて皆に笑われました。
「ふふふ!こんなに楽しいのって初めてかもしれない!」
そんなお茶目な山の民達に、釣られたリリはお腹の底から笑うのでした。




