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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
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学校見学

 話し合いが終わればロウ村長一行は三巳を待つだけです。待っている間は1人もしくは全員でロウ村長に付いてあちこちを見て回っていました。

 ウィンブルドン伯爵は先に自国へ戻っています。何故なら国王に相談したり領内の受け入れ体制を整えたりやる事が沢山あるからです。


 ロンとミズキは劇団に短期弟子入りしているのでこの日はロザイヤが1人でロウ村長に付いています。そして2人はリドルとオーウェンギルド長に連れられて学校に来ていました。


 「ほお、これが学校か」


 ロウ村長は入り口のガラス窓から邪魔にならない様に中を見学し、感心して顎を摩りました。

 ロザイヤも食い入る様に目を大きくして、黙々と中を見ています。


 「ここは高学年のクラスです。授業は共通学と選択学とあります。共通学は国語、数学、一般教養を。選択学はそれぞれ将来仕事をするのに助けとなる授業を選びます」


 説明をしてくれるのはリドルの護衛兼秘書の男の人です。ビシッとしたスーツを着ているのでロウ村長とロザイヤは窮屈そうだなと思っています。


 「どういった授業が選択出来るのだ?」


 ロウ村長が教室から目を逸らさずに訊ねます。


 「一番生徒数が多いのは農林水産系です。農業、漁業、畜産業などに別れています。次に多いのは経営学です。騎士学は今は無く、代わりに自衛隊があります」

 「王制じゃねぇし、リファラ人は争いを厭うから軍も作らねぇ」


 秘書の人の補足をオーウェンギルド長がします。争い事に特化しているオーウェンギルド長としてはヤレヤレと態度で表していますが、その目は優しくてそんなリファラの民が大好きだと伝わります。


 「とはいえ国民を守る力が必要な事は痛感したからね。だから自衛隊は特に男の子に人気だよ」


 リドルが元気良く手を上げる男の子を見てニコリと笑って言いました。

 きっとあの子は自衛隊に入っているのでしょう。よく見れば体のあちこちに小さな傷が付いています。


 「活発な良い子だ。ウチのロハスと気が合いそうだ」


 ロウ村長は村の子供達を思い出して目元を柔らかくします。

 同じ事を思ったのでしょう。ロザイヤも頷きました。


 「何れは交換留学もしたいね」


 リドルも頷き、子供達の未来に思いを馳せるのでした。


 教室を離れ、次に向かったのはロダ位の子達がいる別棟です。先程のは所謂小学校で、内容としては専門学校程度までを学ぶ場所です。そしてここはもっと本格的な設備が整っていました。


 「ここはより高度な技術を学んだり研究する専門棟です。高学年を過ぎれば卒業し、其々就職しますが、特筆した能力のある子や研究熱心な子はこちらの棟に進学します。私達の国では前の学校を一般技術学校、そしてこちらを高等技術大学と呼んでいます」

 「他の国じゃ王侯貴族だけの学園があったり、もっと細かく4段階に分けて学校を変えて行く国もある」


 秘書の人とオーウェンギルド長の説明に成る程と頷き校内を歩いて回ります。

 特にロウ村長はハンナに相談された事もあって熱心に聞いています。


 (リリやハンナがとても良い子なのはきちんと学んで来れたからか。ふうむ、どれここは思い切って……)


 「どのクラスにも教える者が使用していた板があったな。あれは何処ぞでか買えるのだろうか」

 「黒板ですね。それでしたら受注製作となります。必要とする場が限られている為普段は作っていません」

 「どれくらいで仕上がる?」

 「ではこの後工房へ寄りましょうか」

 「おお、それは有難い。良いだろうかリドル」

 「勿論ですとも」


 こうして次へ向かったのは工房です。

 工房は大学内に有りました。受付は校内と校外と2箇所有り、校内は関係者のみの受付です。リドルは勿論校内へ案内しました。


 「ほお、子供達が受付をしているのか」

 「はい。ここは購買と言って、販売業を学ぶ場の一環となっています」


 大きく開いた窓口に男女の生徒が並んで立っています。そしてリドルに連れられたロウ村長を見て緊張して固まっています。

 窓口の下には透明のケース内に授業で使う筆記用具などの必需品が並び、窓口の奥には裁縫道具からよくわからない物まで大きな物が並んでいます。

 リドルは固まる生徒に苦笑しました。


 「この方は三巳の村の村長だよ。黒板を作るのにどれ位時間が掛かるのか教えて欲しい」


 国の偉い人が連れている人だから粗相があってはダメだと思っていた生徒は、三巳と聞いて途端に力が抜けました。


 「三巳ちゃんとこの人か〜」

 「三巳ちゃん所の村長さん、リリちゃんと三巳ちゃん元気ですか?」


 最早三巳はリファラに良き友として浸透していたので、その友達は良い人だと安心しきっています。


 「これこれ、今は仕事中だろう」


 流石に公私混同を許しては勉強になりません。

 リドルに注意されて気付いた2人は直ぐに姿勢を正します。


 「「いらっしゃいませ!」」


 機敏に反応して態度を改める柔軟さに若さを感じます。

 ロウ村長はニカリと笑うと、うむうむ頷き真っ直ぐ生徒の目を見ました。


 「黒板の作成所要時間を知りたい。もしも時間が掛かる様なら村の者に作って貰うから作り方を教えて貰えるだろうか」


 「はい、黒板ですね。教室で使用するタイプですと大体1日頂いていますが、その後7日程乾燥保管をして頂いてからのご使用となります」


 女子生徒が説明している間に男子生徒が奥の棚から持ち運び用の小さな黒板を持ってきてくれます。そして裏返したり黒板塗料の部分を触って貰ったりして制作工程を説明しました。


 「成る程な。では一つ作って貰おう」


 乾燥だけなら村でも出来ます。ロウ村長は頷き気軽に依頼を出しました。

 これにビックリしたのはロザイヤです。お金の使い方を学んだばかりですが、それでもきっと黒板は高いだろうとお金の心配をしているのです。


 「心配するな。ワシは若い時分に稼いだ自前の金がある。ギルド銀行に預けたままだが下ろせば買えるだろう」


 そういえばロウ村長は若かりし頃に外の国で冒険をしていました。という事は少なからず金銭のやり取りをした事があるという事です。そして山ではそれらを使わないのでそのまま保管されているのです。


 「確かギルド銀行の長期取引無しでの保管期間は50年だったな」

 「そうだ。冒険者は行方不明になる事があるが、年月を経てひょっこり戻る事もあるからな。

 しかし山の民は外に出た事が無いのだと思っていたが」


 オーウェンギルド長の疑問にロウ村長は豪快に笑うと、若かりし日の事を話して納得して貰い、そしてお金を下ろす事に成功したのでした。

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