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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
210/372

怖い!でも見たいんだよっ

 三巳は今、レオの背に乗りタッタのターンと鬱蒼と茂る密林を進んでいます。

 暫くの間は駆ける度に動く筋肉にうっとりしていた三巳ですが、慣れてきた頃にはジャングル観光を堪能していました。


 「おーっ凄いっ、おっきいカタツムリ!んあーっ虹色に光る蝶々だっ!ふにゅっ!?あ、あれは!」


 レオの上であっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロしては大興奮です。

 そんな三巳を乗せたレオは『やれやれ』と子守を引き受けた近所のお兄さんな気持ちで大人しく進んでいます。けれども三巳が何かを見つけた様です。背中を掴む三巳の手に力が入ったので、レオも脚を止めて三巳が身を乗り出す方を見ました。


 『ん、ああ、人喰い花か』

 「食虫植物でなく!?」


 そこにあったのは、ジャングルにあって一際目立つ赤とショッキングピンクの水玉模様の大きなお花でした。

 大きな花弁の真ん中はポッカリ円形に窪んでいて、その縁にはギザギザの歯がミッシリと生えています。根本からは蔓が伸びてウネウネと動いていて、草が揺れる音がするやビッ!と勢い良く蔓が伸びました。


 「あれ?あれ?本当だ。折角捕まえた大蜂を離したんだよ。人以外は食べないのか?」


 それはとっても怖くてゾワリと毛が膨らんでしまいます。レオに跨っているので股下クルンが出来ない三巳は、膨らんだ尻尾を腰にクルンと巻いて顔を毛並みに埋めました。でも視線はしっかり人喰い花を見てしまいます。


 『正確にはあの花はここの守り手だ。不法に侵入した物を捉えて食す習性があってな。逆にいえば不法侵入者なら例えモンスターや動植物だろうと捉えて食す』

 「へぃや!?」


 不法に侵入していた三巳は変な声を上げてレオにしがみ付きました。そのしがみ付いた場所が首元だったにも関わらず、レオは苦しかったろうにまったくそんな顔は見せません。むしろ安心させる様に笑ってくれました。


 『安心しろ。流石に神族は襲わねえ』


 でもきっと山の民は襲われるのでしょう。三巳は冒険をしたがっているロウ村長にはキチンと伝えようと強く思いました。


 「お邪魔しますしたら襲わないか?」

 『どうだかな。生憎此処に入るのは密猟者位だ。経験がないからその答えは保留だな』


 成る程。こんなに鬱蒼とした場所に故意に入るのは人族位なのでしょう。だからその怖い名前が付けられたのだと、三巳は薄寒く感じながら思いました。


 (地球のサバンナでも密猟問題は悩みの種だったんだよ。それで絶滅しちゃった子もいたとかいなかったとかだった気がするんだよ)


 人喰い花は人族にとっては脅威ですが、ジャングルにとってはガードマンみたいなものなのでしょう。


 「ご苦労様なんだよ。でも食べないで済むならその方が嬉しいんだよ。あれ?でもそーするとひーちゃんはご飯食べれなくなるのか?それはそれで可哀想なんだよ」


 本気で心配しだした三巳にレオはふっと笑い、


 『大丈夫。あれも植物だから光合成で生きられる』


 そう言って安心させてくれました。

 三巳はニパリと笑って良かったと安堵します。


 「じゃあやっぱし密猟ダメ絶対!なんだよ」


 そこでふと三巳は思いました。


 (三巳の山は三巳の結界で悪い事考える人は入れないけど、このジャングルにはそういう結界張る神様いないのかな)


 態々結界張ってまで遠ざけるから引き篭もりの神として知れ渡っている事などつゆとも思わないのが三巳です。きっとこれからも気付かないのでしょう。

 それはそれとして綺麗なものは近くで見たくなるのが人情です。三巳は怖いもの見たさがムクムクと湧き上がってきました。


 「ラオ君ラオ君。三巳なら近くで見れるんだよな?な?」


 ワクワクソワソワしだした三巳に、レオは仕方がないなという顔で脚を人喰い花のひーちゃんに向けてくれました。

 ひーちゃんは近付く相手がレオだとわかっているのでしょう。蔓を態々避けて近寄り易くしてくれました。


 「こんにちわなんだよ!」


 レオから降りると元気良く挨拶をします。勿論口のない植物だから挨拶は帰ってきません。けれども蔓が伸びて来て三巳のほっぺやら耳やらをサワサワ撫でてくれました。


 「にゅふふふふっ♪」


 その優しい蔓に三巳もご機嫌でされるがままです。


 「あのなっあのなっ、三巳はひーちゃんのお口を見てみたいんだよ」


 言われるなりひーちゃんは蔓を伸ばして三巳をグルグル巻きにしました。そしてゆっくり持ち上げると口の真上まで連れて来てくれたのです。


 「にゅほー!凄い!トゲトゲの歯がびっしりなんだよ!お口の中は池みたい!蛍光イエローの池!あれで食べ物溶かすのか?」


 キャッキャとはしゃぐ三巳に、ひーちゃんはタジタジです。ちょっぴし照れて、ちょっぴし調子が良くなって、蔓で近くの実を取ると口の中に入れました。するとジュッ!という音と共に蒸気が上がって一瞬で実が溶けて無くなってしまいました。

 流石にその様子は怖かったのでしょう。三巳は


 「ぴっ」


 という情けない悲鳴を上げて尻尾を股下に丸めてしまいました。

 だって三巳は今その口の真上にいるんですものね。いくら神族である三巳はそれでは溶けないとわかっていても、怖いものは怖いんです。

 ひーちゃんは三巳がショックを受けた事を申し訳なさそうにして、ゆっくりと地面に三巳を降ろしました。


 「ふにゅぅ。折角見してくれたのにビックリしてごめんなさいなんだよ。見せてくれてありがとーな、ひーちゃん」


 三巳も申し訳なさそうに耳を垂らすと、ひーちゃんは蔓で頭を撫でてくれました。


 「にゅふふっ♪」


 あっという間にご機嫌が直った三巳は、ひーちゃんとバイバイして観光を続けながらグランへ向かうのでした。


 『怖いもの知らずなのか怖がりなのか。どっちなのかねぇ』


 面倒な子守と思っていたのに、今は面白い奴だなと感じているレオの呟きと共に向かうのでした。

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