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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
198/372

かまくら作ろう

 もの凄く寒い吹雪の日が続いています。そんな日は外には出ずに家の中でまったり過ごします。


 「こんなに前の見えない時に外に出たら迷子になりやすいし、降り続く雪に埋もれてしまうからのぅ」


 そう言って眉尻を下げるのは炬燵に入ってぬくぬくのロキ医師です。


 「しかしこういう日に病気や怪我をした人がいたらどうするのですか?」


 尤もな質問に、ロキ医師は「ふむ」とお髭を掻いてリリを見ました。リリなら一度経験しているからです。


 「軽度の症状なら皆自宅で療養して様子を見るみたい。

 でもそうでなかったり、家族が心配してる時は緊急連絡用に伝達魔法があるの。それを受けたら道具を持って向かうのよ。だってこんな吹雪の時に病人や怪我人を歩かせる訳にはいかないものね」

 「しかしそれではお二人の身が危険ではないでしょうか」

 「大丈夫よ。その時はロウ村長の元にも連絡がいってるから、魔法が得意な人が道を作って導いてくれるの」


 民同士の繋がりが深いから、そういう時の助け合いもスムーズにいくのです。

 それなら安心だと胸を撫で下ろしたハンナは、それでもキリッとした顔でリリを見ました。


 「安全はわかりました。けれどもその時はわたくしも必ずご一緒しますからね」


 一度多くの大切な者を失ったハンナは、こういう事には意固地です。リリは暖かい気持ちに包まれて「うん」と頷きました。


 さてはてハンナの心配を他所に、存外丈夫な山の民は病気も怪我もせずに吹雪をやり過ごしました。

 吹雪が収まった明くる日は快晴に恵まれています。


 「こりゃまた随分と積もったな」


 外を見て豪快に笑って言うのはロウ村長です。

 その手に持つのは大振りの武器かと見紛うスコップです。

 そして今いるのは村の広場です。


 「さて、皆集まったな。今日は村総出で雪掻きを行う。

 男衆はいつも通り雪下ろしに注力してくれ。女子供衆は各広場を担当。ただし池がある広場は大人だけでやる事。

 では各々持ち場に着いてくれ。散開!」


 ロウ村長は手短に伝えると自らが率先して雪を掻きながら家屋に向かって駆けて行きました。その背中は生き生きとして現状を楽しんでいる事が丸わかりです。


 「ヤレヤレ。俺達も続くか」


 その後を男衆も負けじと駆けて行きました。その手に持つスコップはロウ村長よりは小振りサイズですが丈夫そうです。

 男衆を見送って残った女衆は其々に班を決めて持ち場に散開しました。


 「ここが私達の持ち場ね。頑張ろう」


 小さな力瘤を作ってガッツポーズを決めるのは気合十分のリリです。モコモコの防寒着に全身包み、手にも可愛らしい毛糸の手袋をはめています。


 『おれ!役に立つぞ!』


 その横でネルビーが尻尾を振って「へっへっ」と興奮に息を上げています。その前脚は犬掻きをする準備運動に余念がありません。

 そんな1人と1匹を微笑ましく見守るのがロキ医師とハンナです。

 ロキ医師はいざという時の医療班として広場に臨時診療所を設けています。しかしいざが無ければ広場の雪掻き班としてまだまだ若い者には負ける気はありません。

 他にもミナミやミリーナなどの親しい人達に囲まれて、広場の雪掻きは楽しく進みました。

 掻いた雪は広場の中央にどんどんとうず高く積まれていきます。

 どんどん、どんどんと積まれても雪掻きは終わりません。

 積まれた雪は堅めて、また積んで、また堅める。その繰り返しで今では大きな半球形の硬い雪の塊になっていました。


 「凄いわ。まるで絵本に出てくるかまくらみたい。中は空いてないけれど」


 体力をうんと使い汗を掻いたリリは、額の汗を拭いつつ言いました。暑いのでモコモコの防寒着は上だけ脱いでしまっています。


 「かまくらか。いいね!この大きさで作ったら面白そう!」


 お祭り騒ぎには進んで首を突っ込み楽しむ山の民です。直ぐに場の雰囲気が雪掻きからかまくら作りに変わりました。


 「作れるの?」

 「大丈夫大丈夫。かなり堅めたしちゃんと崩れないように作るから」


 その力強い応えにリリの顔はパァッと輝きます。そしてそれならと思い付きます。


 「ねえミナミ。こういう風には出来ないかな?」


 ミナミの裾をちょいっと引いて地面を指差すと、思い付いた事を雪に指で描き込み図解で説明しました。

 ミナミは、というより話を聞いていた近くの女の人達も集まります。そして描かれていく図を目で追っていくと、次第にワクワクした気持ちになってきました。


 「いいね!」

 「それやろう!」

 「それならもっと大きくしたいよねっ。もっと雪集めて来よう!」


 そしてあれよあれよという間に村中から雪を掻き集め始めました。

 そんな事をしていて目に付かない筈がありません。案の定屋根の雪下ろしを終えた男衆も集まり、話を聞くや否や嬉々として参加を始めました。

 こうして生活に不便がない程度にと始められた雪掻きは、大規模イベントへと発展し、村の中の雪は殆ど広場へと移されたのでした。


 「オーライ!オーライ!ストップ!そこからもうちょい右!そこ!」

 「ここもう少し雪多めじゃないか?」

 「だな。これじゃ少な過ぎる。もっと持って来よう」

 「ここ一旦水掛けて堅めよう」


 広場は活気に満ち溢れ、雪が運ばれたり、シャワー状の水を雪の塊に掛けたりとワイワイガヤガヤ賑やかです。


 「よし。これで後はこれを付ければ完成だな」


 そう言って手に持った物をロウ村長へ渡されます。


 「最後の仕上げはロウ村長じゃなきゃな」

 「む。そうか。ならば請け負おう」


 ロウ村長は渡された物を持ってかまくらの上へと登り、そして左右と下に其れ等を埋め込み取り付けました。


 「「「やったー!完成(かんせーい)!」」」


 出来上がったかまくらを下から上へと改めて見上げます。

 それを見ていの一番に声を上げたのは子供達でした。


 「「「みみねえちゃんだー!」」」


 歓声を上げて駆け出す先はバラバラです。

 ある子は真っ直ぐかまくらの中へ、ある子は側面に作られたロッククライミングならぬスノークライミングへ、ある子は階段を登った先にある尻尾滑り台へと大声ではしゃいで満面の笑顔です。

 そうです。リリが示し、山の民達がこぞって乗っかり作ったかまくらは、獣神姿の三巳の形をしていたのでした。

 スフィンクスの様に伏せをしている胸元部分がかまくらの入り口です。その前脚から階段になっていて背中は広く平らに均して尻尾の先に向かって滑り台となっています。クライミングは頭の天辺に向けて設けられていました。


 「あら、まあ。中は温かいのですね」


 大人達もゾロゾロと中に入ればホッと一息吐いちゃいます。

 中でもかまくら初心者のハンナは大層気に入り、その後のかまくら内で食べたお汁粉がとっても大好きになるのでした。


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