お勉強①
お説教の日から数日が経ちました。
あの日から三巳は母獣にミッチリ神界の一般常識を叩き込まれています。ヘトヘトに疲れるまで復習を繰り返せど、三巳は前世の一般常識が邪魔をして中々覚える事が出来ません。
半泣きになった頃合いにクロがご飯に呼ぶので、三巳はすっかり父親が甘えどころになっていました。お勉強をしている間は家族以外は立ち入り禁止の領域にいるので、クロと母獣以外に甘えられる場所がないのです。
「んまんま。父ちゃんのご飯美味しい。おかわり!」
「口にあって良かった」
『我が娘ながら良く食べるのう』
ほっぺにご飯粒を付けてお代わりを要求した三巳に、母獣は呆れています。そういう自分もちゃっかりお代わりしてるのは公然の秘密です。
「父ちゃんもうずっと山にいれるのか?折角出会えたのにちょっとしかいられないの寂しいよ」
「三巳!」
素直に甘える三巳に、クロは感動し通しです。今迄会えなかった分の感動が一気に押し寄せているので当然かもしれません。
クロはそっと三巳に自分の分のデザートを分けました。
三巳は増えたデザートに大喜びです。尻尾をバッサンバッサンと大きく振ります。
「私もいっぱい三巳と居たいよ。暫くはこの村にお邪魔する予定だから安心しておくれ」
「暫く?暫くってどの位だ?」
「うぅん、そうだなぁ。愛しい人次第かな?私は愛しい人に付いてあちこち行っている身だから」
『ふん。我がクロを手放す訳あるまい』
母獣が独占欲を丸出しにして言いますが、神の時の流れは非常にゆっくりです。クロが人里にいる間は割とフラフラと外出していますが、感覚が人とは違うのでわかっていません。ネルビーともちょっと外出している間に出会っていたのです。
「うん。私も愛しい人と共にいたいよ。でも愛しい子とも共にいる時間をおくれ」
『うむ。その積りゆえ、堪能するといい。と、言いたいのだがな。
先ずは三巳の成長が最優先よの』
ラブラブな空気を作り出す両親でしたが、母獣がチラリと三巳を一瞥した事で消えてしまいます。
三巳も空気が変わった事に反応してデザートをゴクリと飲み込みます。そしてこれまで学んだ神々の一般常識を必死で思い出そうと足掻き、でも上手く思い出せなかった為視線を泳がせました。
『……』
「……」
無言で親娘の思考が飛び交います。
「三巳、これも美味しいよ」
三巳を甘やかしたいクロがさくらんぼを三巳に食べさせて思考を分断させました。
「ほら、愛しい人も」
同じく母獣にもさくらんぼを食べさせます。
暫くムグムグと噛み締めて、その内三巳は口をモゴモゴ動かし出します。
もう食べ切った頃合いなのに動く口に、母獣もクロもキョトンと不思議そうに見つめます。
「んえ」
視線に気付いてる三巳が口で作ったものを舌を出して見せました。舌に乗っていたのは軸で作った結びです。
それを見た母獣とクロはビックリです。不思議な物を見る様に目をパチクリさせています。
『ほう。なんとも器用なものよ』
「どれ、私もやってみよう」
そして興味深々に真似を始めました。
クロは「ムグ?む」と唸りを上げて四苦八苦します。でも上手く出来ません。
母獣に至ってはおっきなお口に対して小さ過ぎて手も足も出ません。悔しくなった母獣はパッと人型に変身します。小さくなったお口でモゴモゴムグムグ。鼻歌混じりに動かしました。
「っふ」
美女母はふふんと勝ち誇った笑みで舌を出しました。舌の上には蝶々結びの軸が乗っています。
「おお!凄いな母ちゃん!」
それを見た三巳は素直に称賛しました。
「凄いねぇ、二人共。私には難しいようだよ」
諦めたクロも称賛します。
『クロのそんなところが愛おしいのだ。出来なくとも良い』
「そうだぞ父ちゃん。これって結構コツいるんだ。一発で出来る母ちゃんが凄過ぎなんだよ」
しょんもりしたクロに、母獣と三巳がハグをして慰めます。
愛しい家族にハグされて、クロはとっても幸せそうに微笑みをたたえました。
「さて、食後の休憩も済んだしの、三巳よこれ迄教えた事を復習せよ」
タップリとクロを堪能した美女母が艶々の良い笑顔で言いました。
「うぐっ。が、頑張るんだよっ」
三巳は先程思い出せなかった事を思い出して息を詰めました。
「神族の住処は総じて神界にある。進化以外で生まれる神族は神界でしか生まれないから。
神界は隔離世にある。基本的に神族は精神世界に属してるから。でも三巳達獣神の様に器を持つ神族もいる」
「そこまでは知っておるな」
「そりゃ、三巳だって神界生まれだしな。器もあるし。
で、生まれた神族の子供はある程度育ったら現世で更に学び、心の成長と共に見た目年齢も上がっていく。歳若い神族は精神の乱れで力を暴走させてしまいやすい。だから一定の年齢までは成長する必要がある」
「そう。三巳はそこを躓いておるのだ」
「でも三巳暴走した事ないんだよ」
「それは三巳のいる世界が小さく、甘いからよ。
だが、三巳より強き者が三巳、又はその周囲を害さんとせんとも言い切れぬ。暴走した力に真っ先に巻き込まれるはこの山に住む者達だが、それでも良い。と本気で思えるのかのう」
「それは、ダメなんだよ……!」
三巳は最悪の事態を想像し、怖くなりました。想像だけでゾッとして震えます。
「三巳頑張る!友達守る為ならスパルタだって怖くないんだよ!」
三巳にとって大事なものは、最早自身のスローライフより山に住む友達全員でした。
渋々言う事を聞いていた三巳が、やる気に満ち溢れた瞬間でした。




