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獣神娘と山の民  作者: 蒼穹月
本編
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お説教

 歓迎パーティーが大成功で終わった翌日の事です。

 三巳の首根っこを仔猫宜しく摘んで連れ出した美女母は、クロと共に山の民のいない場所まで来ていました。


 『成る程のう、つまり三巳は平和ボケを享受して成長意欲がまるで無かったという事よのう』


 美女母は本性に戻ると三巳に正座をさせて、親離れしてからの事を洗いざらい聞き出しました。最後までなんとか聞いた母獣ですが、後半にいくに連れてこめかみをピクピク、口をヒクヒクと痙攣させていました。落ち着けようと閉じた目の上には青筋も出ています。モフ毛に隠れて見えませんが。


 「忙しい人生は嫌なんだよ……」


 三巳は俯きピルピル震えながら言い訳がましく反論します。


 『神生だがな。人生は既に終えておろう。

 まあよい。三巳は他と違い魂の記憶が邪魔しておるのであろう』


 母獣は片目を眇めて嘆息します。

 子犬な三巳がしゅーんと小さくなってる姿に、怒る気が行き場を失い彷徨っています。母獣は(ちんまいのは狡いのう)と心の中でごちました。


 「やっぱ知ってたのかー」

 『神族なら見ればわかる。伊達に精神面に強く作用してはおらぬ』


 ですよねー。と、三巳は遠い目で空笑いしました。

 三巳も神族の端くれです。魂を見る事が出来ました。でも随分長く生きてはいましたが、自分と同じく前世の記憶を持った魂に出会えた事がなかったので半信半疑だったのです。


 「それじゃあ、三巳が他より成長遅くても仕方ないよな?ないよね?怒らない?」


 三巳は起死回生のチャンスが来たと、一縷の望みを託してソワソワしながら上目遣いで懇願しました。

 母獣は調子の良い三巳に半眼になります。


 『それで許されると、ほんに本気で思うておるのかの?んん?』

 「でーすよねー」


 思う様に問屋が降りませんでしたが、三巳もわかっていて言っていました。スンとした表情で返します。


 『そもそも。山に住む者達は皆、それ程あくせくしておらん様に見えるがのう。大人になったからと言って馬車馬の様に働かねばならん道理もあるまいて』

 「んー。それは、わかってるんだけど……。

 なんでかなー。三巳はこのままが居心地良すぎるんだよ」

 『環境の問題か』

 「うむ。我ながら良い環境を作り上げたものだと自負するんだよ」


 三巳はドヤ顔でエッヘンと胸を張りました。

 母獣は成る程確かに気の良い連中ばかりだと認めます。


 『では暫く他の文明に触れてきなさい』

 「にゃんと!?」

 『案ずる事は無い。その間山は我とクロが見ていよう』

 「そうかーそれは安心ー。じゃないんだよ!?

 いくら母ちゃんでも横暴が過ぎるっ。三巳はもう親離れしてるし少しくらい成長が遅くても」

 『遅過ぎるわ!!』


 母獣の雷が落ちました。

 往生際が悪い三巳に、到頭堪忍袋の尾が切れたのです。

 母獣の咆哮に、暗雲が立ち込め、雷鳴が轟き、山には震度三の地震が起きています。これでも落雷も起きず、震度五を超えない辺りは他者に迷惑を掛けない様に抑えているのです。


 「~~~!」


 三巳も手加減してくれている事に気付いています。それでも母獣のお説教が怖くて目から大粒の涙がボロボロ溢れ落ちてしまいました。それを我慢しようと唇を噛み締めて口をへの字に曲げています。耳はこれでもかとペタンと張り付き、尻尾は丸まりピルピルと震えています。


 「ご、ごえんなさいぃ~……」


 震える声でなんとか謝る三巳に、母獣は若干いけない事をしている気分になりました。コホンと小さく咳払いすると、大仰しく姿勢を正して三巳を睥睨します。


 『闇雲に行けとは言わぬ。

 リリというたか。あの者の心の檻を見定めるのだ』

 「リリ……。

 そうか。母ちゃんはネルビーの師匠やってたんだよな。じゃあリリの事も知ってるのか?」

 『うむ。リリがリリとなる前より知っておるとも。

 あの者は、愛されし者ゆえのぅ』

 「?それはどういう?」

 『ほんに引きこもりが過ぎるのう。世情にも少しは目を向けぬか。全くこの子は……』


 母獣は前脚で器用に目を覆って天を仰ぎました。


 『我からは言わぬ。自らの力で知り得よ。

 然りとてこのまま外に出すに不安が過ぎるものよのう。先ずは我等の一般常識を畳み込まねばな』

 「知らなくても苦労してな……何でもないっ!頑張って畳み込まれる!」


 この期に及んで反論仕掛けた三巳ですが、母獣の鋭く光る眼光に臆するのでした。


 「もう良いかい?

 私は待ちくたびれてしまったよ。早くピクニックしよう」


 話が終わった頃合いに、敷物とお弁当を広げたクロがワクワクと二人を手招きしました。

 お説教だけだと三巳が可哀想だと、それが終わった後はタップリと甘やかそうと準備していたのです。

 案の定、心が疲れ切った三巳は一も二もなく飛び付きます。優しいクロにヨシヨシと頭を撫でられて嬉しそうに尻尾を振っています。


 「ほら、愛しい人も。私も良い加減に輪に入れて欲しいな」

 『仕方ないのう。クロの手料理の為に今日はココで終いじゃ』


 ニコニコ穏やかなクロに絆されて、母獣も三巳とクロを囲んで伏せました。

 最後は初めての家族水入らずを充分に堪能したのでした。

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