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大気圏の背中 -the bottom of the atmosphere-  作者: 鈴山浩美
第二章 研修スペースにて
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エレベーター▽

 オフィスから出ると、相田はエレベーターの間の壁に掌の指先の辺りを当て、一歩下がって左右のエレベーターの階数表示のランプを見上げた。エレベーターの間の壁では逆三角形がプリントされたボタンがオレンジ色に光っていた。渡瀬は右手で左腕を撫でた。




 先輩はランプがこの階に止まるより少しだけ早く渡瀬の目の前に来て、中に誰も乗っていないことがわかっているかのように、ドアが開くと同時にエレベーターに乗り込んだ。渡瀬は後ろにくっつくようにして後に続いた。操作盤の前のポジションを取られた渡瀬は落ち着かず、狭いエレベーターの真ん中で自分の場所を探していた。先輩は右側の壁に貼ってあった張り紙を見て、


「停電は来週……」


 とつぶやいた。渡瀬がそちらを見ると、先輩は渡瀬の方を真顔で振り返っていて、渡瀬が見返してまばたきをすると、前に向き直って少し顔を上げた。たぶん階数表示を見たのだろう。体が浮き上がるのを感じて渡瀬も階数表示を見ると、4と3の間だった。先輩が再び渡瀬の方を振り返ったのと、渡瀬が先輩の真後ろに移動したのはほぼ同時だった。先輩は渡瀬が移動したのがわかるとすぐにドアの方を向いて、右手を操作盤の近くにスタンバイした。ドアが開き、下の階に入っている会社の人たちがドアの周りを取り囲んでいるのが見えた。白系のシャツに黒系のパンツを穿き、袖を短くしている人ばかりだった。先輩は右手でたぶん開くボタンを押しながら、左手でドアを押さえていた。白系のシャツの人たちは先輩に軽く会釈しながら次々に乗り込んできた。全員が乗り込むと、先輩は左手を離し、ドアの方を見ながら右手を動かした。ドアが閉まっていった。完全に閉まると、狭い密室空間に名前を知らない人同士が同居している状態になった。白系のシャツの人たちは、エレベーターに乗る前の騒々しい雰囲気から、よそよそしい雰囲気に変わっていた。私は見た目は落ち着きを取り戻していたと思う。先輩との距離は縮まっていた。下を向くと、脚が真っ直ぐに伸びて、かかとがきれいに揃っていた。渡瀬は右側の壁を見た。




「どうぞ」

「ありがとうございます」


 白系のシャツの集団のうちドアに一番近い場所にいた人が丁寧にお礼を言って降りていき、他の人も会釈しながら次々に降りていった。渡瀬も白系シャツ集団に連なって狭い歩幅で歩きながら降りた。出口の方へ向かって歩こうとして、視界に何かが足りない気がして振り返った。


「え……?」


 渡瀬は一瞬ためらってからエレベーターの中を覗こうとした。


「わっ」

「わっ」


 陰から出てきた相田と渡瀬がぶつかりそうになった。渡瀬は身じろぎしながら二三歩後ろに下がった。靴音が響いた。相田はエレベーターから降りながら、


「すみません、貼り紙を見ていました」


 と言った。渡瀬ははっとなった。


「……停電の貼り紙、あった?」

「……はい、ありましたけど。主任も見てたんじゃないんですか?」


 そう言いながら相田は襟足に触れ、出口の方へ一歩踏み出した。渡瀬は何も答えずに相田と並ぶようにして出口の方へ歩き出した。微妙に違う靴音が交互に鳴った。出口のガラス戸から見える外はとても暗く見えた。

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