15/17
愛想
「主任、だいぶ酔ってるでしょう」
渡瀬が相田を見た。
「ウーロン茶、飲んだ方がいいですよ」
渡瀬はウーロン茶を見て、黙って持ち上げて飲んだ。視界の端で、相田が呼び鈴を振るのが見えた。渡瀬はウーロン茶のグラスをつかんだまま金魚を見た。金魚は相変わらず浮き上がったり沈んだりしていた。私とは大きさも形も心も違う金魚。もし私がこの水槽の中で一生を過ごすとしたら、過去の記憶はあった方がいいのか、なくした方がいいのか。店員さんが来て金魚ではなく相田君を見ながら会話を始めた。渡瀬は椅子をずらして、かがみ込んで鞄の中から財布を見つけ出し、一万円札と名刺を店員に差し出して「領収書ください」と言った。
店員がいなくなると、渡瀬は腕時計を取り出して左腕に着けた。相田はスマートフォンの背中を撫でながら金魚を見ていた。腕時計の裏側が肌に触れて冷たかった。その冷たさは、大きな金魚に見送られながら店を出て、ビルを出て夜風を感じるまで続いていた。渡瀬は手足を思い切り伸ばした。




