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第一話『勇者パーティのインフレに追いつけないのでパーティを抜けることになりました』

「お前、今日からこのパーティを抜けろ」


 いつも通りに雑用をこなしていた俺に、そう勇者(リーダー)が言い放った。


「レックス? 急に何を言いだすんだ……?」


 いつか。

 いつかは言われるだろうと思っていたその言葉に、乾いた笑いが止まらず、冷や汗がとめどなく湧き出てくる。


「ああ、急だ。だからこそだ」

「レックス、さん。理由を聞きましょう」


 僕がショックを受けてロクに会話ができないだろうと判断したうちのパーティーの頭脳こと賢者ノノスレトが口を挟む。


「そうだな。まずは何から言うべきか」


 レックスは少し考えるような仕草をする。少しわざとらしく僕とレトを交互に見ると口を開いた。


「……まずはクゥとノノ、お前たち存在だ。お前たちが恋人の関係に近いことを俺は知っている」

「……っ!」


 レトはピクリと肩と銀のベールのような長髪を揺らして僕を見る。きっとバレないでうまくやっていけるだろうと思っていたのだろう。

 レックスは勘が鋭く、レトの想定を遥かに上回っていたということだろう。


「だから現状戦力外にも近いクゥ。お前を外す。戦場では一瞬の油断が命取り、この言葉の意味をわかっていないとは言わせん」


 僕はレトを見て俯いた。見たとき目が合い、余計に気まずくなった。


「次にクゥ、お前の成長の伸び代の白さだ」


 指を二つ折り、レックスは淡々と告げる。その眼光は鋭く僕の心を冷たく射抜く。


「お前とは長くやって来たつもりだが、技術、努力、才能はどれを取っても素晴らしく高い。その点においてお前を超えられるものはいない。例え、勇者の祝福を得ている俺でさえもな」


 では、なぜ僕が追放されるのか。

 それはただ一つだった。


「……限界レベルが低い」


 レックスの言おうとする言葉を予測して、僕は吐き捨てるようにそう言った。レトは顔を俯けていたが見えないその表情は想像するのは難しくなかった。

 悔しいのだろう。僕をむざむざパーティから追放させてしまうのが。


「まあ、自分のことは自分でわかっているものか。……その通りだ」


 そう無慈悲に言うレックス自身もあまり乗り気ではないように見えた。それどころか悲痛そうに、まるで自分のことのように嘆く。


 そう、僕の最大レベルはたったの10。通常99まであるはずの最大レベルが十分の一しかない。


 そのかわりに僕の1レベル毎の伸び代は非常に大きくその分必要経験値も膨大だった。それでも努力して勇者(レックス)達について来たが既に限界だった。

 このパーティの面子の最大レベルは魔王邪神討伐のために選抜された選りすぐりであり、通常とはかけ離れたものだったからだ。


 僕は改めてステータスを確認する。

 勇者レックス lv.162/∞

 剛毅ガイン lv.163/2500

 賢者ノノスレト lv.160/5000

 聖女アルケイン lv.160/9999

 勇士クゥ lv.10/10 ex.


 僕がこのパーティに入ることができたのはそのレベルの伸び代にものを言わせてたからに過ぎず、成長限界を迎えた僕はもう無用の長物に過ぎないものだった。

 きっと彼はそうは思っていないが少なくとも僕はそう思う。


「限界突破の伝説を信じ探したがそれもこの前無駄に終わった。だからここで抜けてくれないか」


 レックスの姿勢は最初とは打って変わって指示からお願いに変わる。非情でいられなかったのだ。この人物はそういう特質を持っている。

 誰にだって優しすぎる……。


「俺たちに帰る場所を用意できるのはお前だけだ。だから……頼む……!!」


 本当にレックスはずるいのだ。

 僕は嬉しいのか悔しいのか、目頭が熱くなり涙が止まらずにボロボロと溢れ出て来る。

 それでも必死に、レックスの願いに応えるようにこくこくと首肯する。

 それを見かねたレトは僕を優しく包み込む。


 嗚呼、情けないなぁ……。


 僕は泣くことしか出来なかった。







「……迎えの馬車が来たな」


 パーティの盾、ガルドが低く呟く。

 僕が一人で大丈夫だと言ったのに護衛していくと言って聞かず、こうやって近くの街まで送ってくれている。

 それもここまで。


 僕は王国の派遣する馬車で帰還する。


「アルケインは……、最後までお前とは会ってくれなかったが、心配していたぞ」

「うん、知ってる」


 あの子はあの子で聖教皇国の聖女としての十字架を背負い、責任や義務、そして邪神とも戦っている強い子だ。

 仕方ないとはいえ、このような別れで辛いのだろう。


「クゥ殿。お迎えにあがりました」


 馬車より軽装の騎士が降りてくる。

 御者もそこそこな装備で身を固めている。


「クゥ、達者でな」

「ガルドこそ」


 僕はそう言って彼の肩を叩いた。

 嫌な顔はしていなかった。


「それじゃあ時間だから」


 僕の言葉にガルドは短くああ、と返事をすると元来た道を辿り歩き始めてしまった。

 そこそこ距離があるからガルドの足だと明日の夕方には戻れるだろうか。

 僕は彼らのパーティを抜けたというのに既に彼らのことを考えてしまっている。それだけ、心地が良かったのだ。あそこが。


 それじゃあね、みんな。


 僕は空に煌々と輝く太陽を見て言った。きっとレックスも今頃はこの太陽を見ている頃合いだろう。


「ガルドは行った。正体は見せてもいいだろうお前たち」


 僕は感じていた。彼らが普通とは違うということを。ガルドは特に言及することは無かったが彼らまで巻き込んでしまうわけにはいかない。


「勇士クゥ殿、何を言っているか分かりませんが?」


 隣に座る騎士はとぼけたように、おどけてみせる。きっと、確信させるために。

 僕が聞かされていた迎えは女性騎士のはずだったのだ。この騎士は中性的な顔立ちの男だ。


「……話なら町外れの遺跡で存分に聞きましょう、ふふ」


 対応できないほど早い手刀が飛んできて僕は身を硬くした。


「私のレベルは200です。今後、お忘れなきよう」


 隣の騎士はニヤリと笑う。

 この時、僕ははっきりと見た。男の口が人間の限界以上に裂けて笑ったのを。


「さて、あなたには死んでいただき、手駒になってもらいます。あなたの遺体は彼らへの優秀なカウンターとなるでしょう」


 いくらか喜びの混じった声音で化物は言う。


「僕を殺す?」

「ええ、あなたをアンデッドにすればレベル限界などたやすく超えられる。魔物扱いであるアンデッドはレベルを999まで上げられますからね」


 僕は歯ぎしりをする。最後まで僕は彼らの足を引っ張ってしまうのか。

 レベルだってなんだって僕は彼らに迷惑をかけ続けていた。最後に、最後に何か。抵抗できないのだとしても一矢報いて彼らに報いたい。


根元崩壊(デ・ラブュラリンス)チェイン(魔術連鎖)崩壊錬成【剣】(リバース・ソード)


 矢継ぎ早にスキルを詠唱する。


「短縮詠唱だと!? その上複合化まで……!?」


 隣の化物は驚きを隠せないようだ。

 それもそうだ。これは僕が隠れた努力の成果。そして僕の家系の定めだったのだから。


変化(プロデュース)勇者の剣(ブレイバーブレイド)


 いずれは彼に送ろうと思っていた剣、少し早くなるがこれな作成を以ってして真の勇士となる。


「まさか、自分の身体を、魂をも物質に変換する魔法とは……!!」


 ここで終わりではない。


「死ね……、錬成【剣】(ソードアウト)!」


 周囲のあらゆる物質が剣に変化する。こいつだけは確実に殺さなくてはならない。


「刺せ、刺せ、刺せぇ!」


木を剣に、草を剣に、石を剣に、岩を剣に、馬車の車軸の鉄を剣に、馬車のありとあらゆるものを剣に。

剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣な剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に剣に、剣に!


僕も剣だ。


刺す。


終わり、だ……。







 森であったはずのあたり一面は剣となり、深く抉れてクレーターとなっている。


「……かくも人間は恐ろしい、と」


 全く、先代が剣鍛治と呼ばれた理由がわかりました。そう思った魔族の男は全身に突き刺さった剣を抜いては捨て抜いては捨てを繰り返しズタズタにされた自分の身体を再生させる。


「この身体がスライムでなければ死んでいました……と、おや」


 魔族の男は一振りの剣を見つける。


 それは先代がいくら研究を重ねてもたどり着かなかった聖なる剣。人一人が命をかけて生み出した人生の結晶。

 それを見た魔族の男はそれを砕いた。


「興醒めです。次へ行きましょう。あの勇者を嵌める策を練らなくては」


 そうしており魔族の男は去っていく。

 砕かれた欠片がとある古の祭壇に飛んで言ったことにも気がつかずに。





 暗闇で僕の意識が覚醒する。


「手痛い敗北でしたね」


 僕の目の前に見えるのは一人の美しい女性だ。光を放っていてとても神々しくて眩しい。


「おや、神力を放ちすぎましたか。失礼しました。久々の来客で勝手がわからないものでしてね」


 神力?

 久々の来客?

 それよりも僕はどうなったのだろう。


「それより、ですか……」


 目の前の女性は不服そうな顔付だが僕にはその表情が認識できない。全身に靄がかかっていてきっと人間なのだろうと脳が勝手に補完している。


「ふふ、私の姿をまともに見たらあなたの微弱な意識など吹き飛んでしまいますからね」


 ところで、僕はどうなったの?

 それが気がかりで仕方がない。


「あなたは仲間思いなのですね。ですが私は力の大半が失われた神、外で戦っていた顛末と砕けたあなたの欠片がこの神殿に入り込んできたことを除けば一切分かりません」


 ……そうなのか。

 負けちゃったのか。


「絶望、していないのですね。人としてのあなたも死んだというのに」


 しないさ。

 きっとレックス達なら負けはしない。


「こうして出会ったのも何かの縁だと思うの。私の残った力を受けて転生してみる気はない?」


 ……転生?

 この僕が?


「ええ、だって今私が影響を及ぼせるのはこの神殿にいるあなた一人だけよ?」


 面白いかもしれない。

 もしこの世界に運命というものが存在するならばきっとレックス達とも出会えるかもしれないし。


「ふふ、どうやら決まりのようね」


 うん、僕は転生してみるよ。

 僕の知らない世界を見てみたい。


 そう考えて思い浮かぶのはレックス達との旅の思い出。ついに人間領の道半ばで別れてしまったけど世界はもっともっと広いはずだ。


「転生先は人間を狙うわ。少し精度が甘いから信用しすぎないでね」


 信用しないなんてあるもんか。今頼れるのは君だけなんだ。


「そうね。それじゃ、行ってらっしゃい!」


僕の意識が光に包まれてこの空間から剥離していくような感覚を覚える。


世界が反転していく。黒から白へ。

眩い生命の光に呑み込まれて僕の意識は途絶えた。

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