98:マジ、怪光線を浴びる。
最初見たとき全体が黒っぽかったし、逞しい足をしていたからダチョウだと思っていた。
いや、フォルムなんかはまさにダチョウだ。
だが奴の尾羽をよく見ると、ダチョウ特有のふさっふさした羽の下に、てっかてかに輝く飾り羽根がたくさん……。
その飾り羽根がいまや、空に向って扇状に広がっている。
孔雀だ。
「醜い孔雀だ!!」
《ピッギャアァァァッ》
あ、やべっ。余計に怒らせちまった。
扇状に広がった飾り羽根のうち、一際派手な数本が交互にチカチカと光り出す。
これは特殊攻撃だな。うん。
「た、退避ぃーっ」
「何かくるぞっ」
下がりながらその辺の木に隠れようとしたとき、背中に軽い衝撃を受けた。
あぁ〜、えっと。
痛く、ない?
「お、おい。なんか大丈夫っぽいぞ」
「いや、マジック氏、全然大丈夫じゃないから」
「へ?」
何が大丈夫じゃないって――あれ? なんか俺のHPがじわじわ減ってる?
バフアイコンの隣にデバフアイコンが付いてる!?
「マジック君! 戦闘中に何をハレンチな事を考えているのだっ」
「ハ、ハレンチ?」
《ぷっぷぷぷぅ!》
「ダーリンのスケベ? いや、何言ってるか意味分からないし」
「マジックさん、鼻血、出てます」
「はな――おわっ、本当だ!?」
拭ってみるとどろっとした赤い液体が手に付く。ついでに垂れた鼻血が首筋から胸元、腹――
「出血多量死するうぅーっ」
だばだば零れ落ちる鼻血を止めようと、ダメ元で絆創膏を鼻というか顔面に貼り付けた。
デバフが原因か?
調べようと思ったが、幸か不幸かデバフアイコンが消え、HPの減少も収まっていた。
「今の、『出血』というデバフでしたね。ヒール一回で解除できたのか、効果時間が短いだけなのか分かりませんが」
「エフェクトのせいで見てるこっちは焦るっていうか、ちょっと笑える?」
「笑うなフラッシュ!」
デバフが解除されると途端に、垂れ流れていた血の痕も綺麗に無くなっている。
そこへ俺を心配してくれているのか、チュンチュンたちがやってきた。
「お前ら、マジ可愛いな」
「あ、マジック君危ないぞ」
「ふへ?」
どごっっという鈍い音と共に吹っ飛ぶ俺。
モミジアタックも健在かよっ。
「くっそ、『ヒール!』あとポーションも……んなろうっ!」
さっき隠れようとした木に八つ当たりして拳を打ち付けると、予想外な展開に……
めきめきっと音を立てて木が……折れた!?
はいーっ?
「すげぇ、マジック氏」
「さすがですね、マジックさん!」
「マジック君。そのままそれを担いで奴に叩きつけるのだっ」
いやいや、無理ですから。
ん。だが丸太運びでは担いでたよな。
出来るかも!?
ぐわしっと掴んで、担いで――出来た!!
「うおおおぉぉぉりゃあぁぁっ!」
セシリアとルーンが道を空け、木を担いだ俺がピーコックに迫る。
《ピヤアァァァァッ》
「どりゃあぁぁっ」
振り下ろした木の鉄槌ダメージ……1。
「ノオオォォォォォォッ」
「やっぱり武器じゃないからダメなのかな」
「でもある意味惨いな」
「マジック君。き、君の勇気は素晴らしいと思うよ、うん!」
何が俺の勇気だ。やれと言ったのはお前じゃん!
やったもは俺だけどさ。
再び尾羽を光らせはじめたロックンピーコック。
その一本がカっと輝くと、そこから怪光線が飛んできた。
俺に向って……。
痛く無い。
痛く無いが……ないが……
「くふ。くふふふふふ。ふははははははは。なんだよこれ。痛くないぜ。痛くないんだよあはははははははは」
笑えるっ。すっげー笑える!
「ふひゃひゃひゃひゃ」
「マジックくぅーんっ」
「またデバフだな。えーっと今度は――」
「『爆笑』って書いてあるよ。これデバフなのかな?」
ば、爆笑だって!?
笑えるぅーっ。どんだけーっ。ふひひひひひひひ。
は、腹、痛ぇ。
あ、さっき痛く無いって思ってたのに、痛いじゃん。
ぶふーっふっふっふっふ。痛く無いのに痛いだってさー。
「ルーン、デバフ解除の魔法とか無いのか?」
「うん。最近は攻撃スキルか攻撃補助ばかり作ってたから」
「俺もありましぇー。シェーッ!」
《ぷっぷ! ぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ》
「え? 俺が壊れてる? 誰か助けてあげて? いやいや、壊れてましぇーん。シェー!」
ポーズを決めた瞬間、冷たい風が全身を凍らせた。
「な、なんて恐ろしいデバフなんだ」
項垂れる俺を見て、仲間達は俺が正気に戻ったと喜んでくれた。
穴があったら入りたい。
なんだよシェーって。
「なんかさ、マジック氏ばかり特殊攻撃食らってる気がするんだけどさ」
「うん。そうだね」
「マジック君。心当たりはないの?」
心当たりと言われてもなぁ。
さっきダチョウだの醜い孔雀だの言ったぐらいしか……。
《チュンッチュチュン》
《ぷ? ぷっぷぷぷぅ》
「マジック氏、通訳頼む」
……俺はモンスター翻訳機じゃねえぞ。
えぇっと――
「ロックンピーコックはチュンチュンを目の敵にしている?」
《チュンチュンッチュチュッチュン》
《ぷぅぷぅっぷっぷぷぷぅ》
「元々ここはチュンチュンの縄張りだったが、ロックンピーコックの親鳥がここに奴を産み落とし、奴がここを乗っ取ろうとしている?」
チュンチュンの言葉をぷぅが通訳し、ぷぅの言葉を俺が通訳する。
その間もこっちは戦闘しながらだっていうね。
「あー、チュンチュン達を絶滅させて、ここを乗っ取ろうとしているから、チュンチュンに味方している俺が憎いらしい? そんな理由で俺ばっか特殊スキルのターゲットにされてるのかよ」
《ぷぅっぷぷ》
「それだけじゃない? 奴は容姿端麗な奴や派手な奴が憎い?」
「どっちもマジックさんに当てはまってますね」
「俺、派手か?」
少し前の装備は確かに派手だった。
だが今は上半身裸だぜ? マント羽織ってはいるが、そんなに派手じゃないだろう。
「マジック君。これはきっと言ってはいけ無い事なのだろうと思って聞かなかったが」
「あ? なんだよセシリア」
「君は何故裸なのだ? しかもマントで隠したりなんてして、まるで変質「あぁーっ。あぁーっ。聞こえませーん。そんな事より、さっさと倒すぞ!」
強敵を前に仁王立ちすると、ぴゅ〜っと風が吹いてマントが捲れる。
《ピッギャアァァァァッ》
「やっぱりそのスタイルがピーコックの逆鱗に触れてるんだよ、マジックさん」
「……変質者も憎いのかよ糞鳥! 燃やしてやる」
ファイア・ソードでモミジ焼き!
「デバフ効果もたいした事ないようだし、マジック氏のHPにだけ注意して攻撃に専念するか」
「それでいいような気がするよ」
そんな会話をしながらルーンとフラッシュが何事も無かったかのように攻撃を再開する。
そして飛んでくる怪光線ビーム。
「もちろん俺にか――」
叫ぶが声が出ない。
このデバフは……沈黙……。
「喋れるようになるまでマジック氏は殴ってればいいんじゃね?」
「もともとそういうスタイルですしね」
「うむ。問題ないな」
おいおい、何言ってんだこの三人。
スキルが使えない魔法使いなんて無力だろ!
あ、物理攻撃力アップの手袋に嵌め変えよう。
おおおおおぉぉぉぉぉぉっ!
杖でぽくっ。
更に右手で鷲掴み、左手の杖でぽくぽくぽく。
ぽくぽくぽくぽくぽく――
「ぽくぽくぽ……治った! うりゃあぁぁっ『サンダーフレアアァァッ』」
こうして仲間達からモミジアタックとデバフ怪光線の生贄にされながら戦う事数分――ロックンピーコックの巨体が倒れ、やがて光の粒子となって消えた。
不運を撒き散らすって、デバフを撒き散らす孔雀だったのかよ!
「これ、楽器ですかね?」
「どうみてもそうだろ。ギター以外の何に見えるんだ?」
「だな」
俺の言葉にフラッシュが頷く。
不運を撒き散らすロックンピーコックの巨体が消えた後、何故かギターがその場に残っていた。
普通ドロップアイテムってのは、プレイヤーのインベントリに直で入ってくるもんだが。
誰かのインベントリがいっぱいになっているんじゃないかと思ったが、全員空き容量はあるとのこと。
「じゃあ、これは何だろう?」
「ギターだな」
ここで同じ事を繰り返していても仕方が無い。
とりあえず拾っておくか。
ギターに手を伸ばし拾上げると――
《ギュインギュギュギュギュゥゥゥゥーン》
「マジック氏、ギターとか弾いた事あんの?」
いやいやいや、弾いてないですから。触っただけですし?
勝手に低音で音を奏でたが、それっきりうんともすんとも鳴らない。試しに弦に触ってみるが、音が鳴らない。
さっきのは何だったんだ?
「ん? このギター……」
しゃがむようにしてセシリアがギターの裏面を覗き込む。
何かあるのか? とひっくり返すとそこには、
「ドクロマークが付いてるな」
というセシリアの言葉と同時に、脳裏に浮かんだのは『呪』の文字。
ま、まさか……な。
はは、ははは。
はははははははは。
「手から離れねえぇぇぇぇっ!」
お読み頂きありがとうございます。
突っ込みなどあると作者が一人で笑います。




