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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション1.01【始まり】
97/268

97:マジ、モミジを食らう。

「ぶぶぶぶぶぶぶぶっ」

《ぶぶぶぶぶぶぶ!》

《チュンチュンチュンチュンチュン》


 ダチョウに追われた鳥たちが、一斉に俺に纏わりつく。

 前が見えないっ。

 いや寧ろ息が出来ない!!


「マジック君っ。こんな時にもふもふを堪能するとは。けしからんっ」

「もふもっぶ――とか――てねぇ――た――たちけ、て」

《ぶぶぶぶぶぶぶっ!》

《チュンチュンチュン》


 数十羽の、おそらく『チュンチュン』に押し倒され地面に転げる俺。

 ここぞとばかりに覆いかぶさってくるチュンチュン達。


 し、死ぬ。


《ぶぶぶぶ! ぶぶぶぅぶぶぅっ》

《チュン!?》


 ぷぅが、ダーリンが窒息するわよ! 顔からどきなさいっと言っているのが聞こえる。

 理解したのか、顔の上に居たチュンチュンがばささっと羽ばたいてどいてくれた。


 すぅーはぁー。空気が美味いぜ。

 生きてて良かった、俺。


 と思ったのも束の間――


「マジック君っ、危ない!!」


 セシリアの悲鳴にも似た声が耳に届くよりも先に、巨大モミジ――鶏足が迫ってくるのが見えた。

 でかいな。いい出汁が取れそうだ……


「そうじゃなくって、ぷぅ、飛べ!! お前らもだっ」


 でなきゃ俺が身動き取れないから、逃げられないだろうっ。


《ぷっ》

《チュンッ》


 ばささっと数十羽のチュンチュンとぷぅが飛び、ようやく身軽になって立ち上がろうとした時――

 どがっという音と共に吹っ飛んだ。

 もちろん、俺が。


「げふっ」


 ずざざざざーっっと転がって、激しく背中を打ちつける。

 痛い。

 痛覚は実際の十分の一程度を脳が感じているというシステムなんだが、これは今までで一番痛い気がするぞ。

 気がするだけじゃなく、実際に咽こむほどだ。


 げっ。視界が赤く点滅してるじゃんっ。瀕死っ、瀕死よぉー!


「って、HP残り1じゃねえか!」

「うわぁぁ、マジックさん! 『ヒール』」

「絆創膏『ヒール!』」


 慌てて絆創膏を自分の胸板に貼り付け、ポーションも一本明けた。

 ルーンのヒールと、二度目の絆創膏でHPは全快したものの、生きた心地がしないぞ。

 さすがダチョウ。足技が恐ろしいな。


《ぷっぷぷぅ、ぷぷぷぅ》

《チュンチュン》


 あたちを守る為だからって、無茶し過ぎよ?

 違うっ。お前らのせいで逃げ遅れたんだっ。


 既に戦闘態勢を整え終えたセシリアが、スキルでダチョウのヘイトを固定してくれている。

 ダメージヘイトを取らないように、少しだけ様子を見る。

 そういや大賢者は、魔力操作技能でヘイト調節が出来るみたいな事を言っていたな。

 魔法火力職なら、ヘイトリセットスキルなんかも欲しいところだ。今度作ってみよう。

 とはいうものの、パーティー戦の時にしか意味ないしなぁ。


 あ、セシリアが吹っ飛んだ。

 ヒールヒールっと。


「あ、ありがとうマジック君。くっ、さすがレベル26だな。なかなか強力だぞ」

「うへー。26だったかぁ。んじゃあそろそろ攻撃態勢に入りますかね」

《ぷ!》

《チュンチュン!》


 頑張ってダーリン、とぷぅが応援を始める。

 だが特にバフスキルが付与されるわけでもなく、ただ応援しているだけだ。

 早く進化して『成長期』とやらになってくれないかなぁ。

 隣で二十羽近いチュンチュンも同じように応援している。

 そしてこいつらのモンスター名が『チュンチュン』である事が、じぃっと見つめる事で判明した。

 頭上にモンスター名が出たからだ。


 チュンチュン。レベル25。


 何気に俺よりレベルが高いっていうね。


 ソフトボールサイズのぷぅと違い、こいつらはバレーボールサイズだ。

 そこそこデカい。

 それが二十羽近く俺の後ろでチュンチュン鳴きながら、一糸乱れず踊っている。


 可愛い奴等だ。


「マジック君、危ない!!」

「はい?」


 セシリアの悲痛な叫びを耳にして彼女の方に振り向くと、そこには巨大モミジ――鶏足が迫ってくるのが見えた。

 なにこのデジャブゥ。


 どごっという嫌な音と共に俺が吹っ飛び。

 ちょっ。また視界が赤点滅!

 やっぱりHP1になってるじゃないかっ。次何か来たら確実に死ぬぞ。


 慌てて絆創膏ヒールをすると、横からルーンのヒールが飛んでくる。

 ダチョウは?

 よし。セシリアがヘイトを取り直してくれたようだ。


 いや、だが待てよ。

 俺は攻撃をまだしてなかったし、そもそもなんで俺が攻撃されるんだ?


「ランダム攻撃か? 偶然マジック氏に連続でいったとか?」

「こんな早い時期からランダム攻撃が発生しますかね?」


 フラッシュの言葉にルーンが反論する。

 オンラインゲームに出てくるボス系モンスターは、HPが削られれば削られるほど、攻撃パターンが変わったりするもんだ。

 まだ戦闘が始まって間もないこのタイミングで、特殊な攻撃が来るっていうのは珍しい。

 VRが流通する前のMMO経験者な両親の話でもよく聞いていたが、残りHP七割、五割、三割ぐらいで攻撃パターンに何かが加わるというのが多い気がする。

 今奴のHPは……一割も削れてないぞ。


 そういう仕様なんだと諦めて警戒するしかないか。


《チュンチュン》

《チュチュチュッチュッチュ〜》


 なんかチュンチュンの大合唱が、高音低音と近い分けられててオーケストラじみてきたぞ。

 体の奥底から何かが湧き上がってくるような……ぷぅの応援より効果がありそうだ!


 チュンチュンと聞こえる鳴き声に混じって、どどどどどどという地鳴りも――はっ!


「またかっ!」


 慌てて横に逃げるが、地鳴りも追いかけてくる。

 ちょ、しつこいんですけど!?


 どごっ!


 再び吹っ飛んでHPが1になる俺。


「ひぃっ! こ、これ本当にランダムか!?」


 絆創膏、ヒール、ポーション。

 HPを全快する間、追撃は入らない。


「マジック君、すまない。でもおかしいな、どうしてヘイトが移ってしまうのか」

「マジック氏……確実に狙われている気がするぜ」

「なんでしょう? ピーコックの癇に障る何かがあるんですかね?」


 何かしたとは思えないんだが。

 強いて言えば、孔雀じゃなくてダチョウだろと思ったけど……思っただけでヘイト取られるの?


「でもマジック氏、よかったな」

「何がだよ」


 後ろを振り向くと、フラッシュが俺の後ろで応援するチュンチュンを指差した。

 ぷぅとは違ってつぶらな瞳が可愛い、茶色い鳥達だ。


「こいつらのお陰で、即死を免れてるんだと思うぜ」

「即死?」

「あぁ。『不運な死から救う』というバフ効果が掛かってるぜ」


 言われて視界の隅にピコンっと出たアイコンに気づく。

 小さいんだよな、バフアイコン。


 にしても待てよ。じゃああのモミジアタックは、即死攻撃なのか!?

 ちらりと足元で列を成して鳴くチュンチュンを見る。


《チュンチュン》

《チュチュチュッチュッチュ〜》


 な……なんて可愛い奴等なんだ!


「お前にもこんなバフがあればなぁ」

《ぷ?》

「いや、なんでもない。よぉし、俺はやるぜ!」


 ここまで一度も攻撃をしていない。頑張らないと。

 ダチョウは鳥だ。だが飛べない鳥だ。

 普通なら風属性なんだろうけど、飛べない鳥だからきっと地属性だろう。

 だから――


「燃えよ、炎の剣! 『ファイア』」


 掌から迸る炎が剣――に見立てた棒状に変化する。

 うん、早く形状変化のレベル上がらないかな。


「マジック君。それはどう見てもひのきの棒――」

「いつかファイアーソードになるんだよ! とうっ」


 ロックンピーコックの太ももにぶすりと突き刺す。

 じゅじゅっとくすぶるような火が上がり、直ぐに消えた。


 とり……皮……。

 食えるんじゃね?


《ウミャー。ウミャウミャ》

「おい、ウミャーが鳥足見ながら涎垂らしてるぞ」

「ウミャー。生はいけません!」


 じゃあ焼けば食っていいってのかよ。

 セシリアの言葉を理解しているのか、少し焦げた太ももをガン見して涎を垂らし始めた。

 さすがセシリアのペットだな。


 しかし、最前線で戦っているセシリアの足元で、ウミャーは器用にセシリアと、そしてロックンピーコックの足元をくるりくるりと動き回っている。

 そこにルーンや俺も割り込んできてるのに、誰ともぶつからない。

 凄いな、こいつ。回避率100%なんじゃないか?

 それに引き換えうちのぷぅは、ちょっと離れた所で応援してるし。

 まぁあのサイズで足元うろちょろされてもな、踏みつけて終わりだろう。


 ファイア・ソードとサンダーフレア。焦がすという目的で毬栗サンダーとトールハンマーも交えて攻撃し、CTが明けたカッチカチを常に施しておく。

 うーん。これなら防御系バフをもう少し作っておくんだったな。

 いや、ヒール系でもいいか。ヒールとはCTが異なる魔法が欲しい。

 HPのマックス量の少ない俺なら、小回復持続型でも間に合うだろうし。

 あとは地面設置型。もちろん俺の足元限定でしか展開できないが。


 そうこうする間にもモミジアタックは炸裂する。

 もちろん、俺限定……虐めかよ!


「あれ? マジックさん、今度はHPが2残ってますよ」

「何?」


 あ、本当だ。視界が赤く点滅しているのは違わないが、2残ってるな。やったー。


「って、1も2も変わらないんだよ!」

「もしかして完全即死じゃなく、確率なのかもな。2残ったのは即死失敗の意味かもしれない」

「じゃあ1しか残ってないのは?」

「チュンたちのバフのおかげ? ところでこのチュンたちって、モンスターなんだよな? なんでこっちの味方しているんだ?」


 フラッシュの問いにぷぅが答えているが、俺以外には通訳が必要っていうね。

 えーっと……


「ダーリンはあたちと結ばれているから、あたちの同族とは仲良しなの――誰がお前みたいなガキんちょと結ばれてるだって!?」

「「なるほどぉ」」

「納得するなそこの二人! あぁ、糞『雷神の鉄槌・トールハンマー!』」


 巨大放電ピコハン!! のハズなんだが、さすがに相手が五メートルにもなると普通のピコハンに見えるな。

 その放電ピコハンを食らって、ダチョウがピクピクしている。

 よっしゃ! 痺れてるぞっ。


「今だぁーっ。たたみかけろっ」

「『シュトルム!』」

「『鉄槌!!』」


 後ろから轟音と風を伴って矢が飛んでくる。

 ルーンはメイスを光らせ、唸り声を共に振り下ろしている。

 ルーンって……どっちかというと育ちのいいお坊ちゃんタイプだと思ったのにな。

 どうしてこうなった?


 負けじとサンダーフレアを入れようと近づいたとき、奴がむくっと立ち上がった。

 そして――


《ピヤアァァァァァァァッ》


 甲高い声で鳴いたかと思うと、ド派手な尾羽を広げ、そして光らせた。


「お、おい、お前! ダチョウじゃなかったのかよ!?」

《ピヤッ……ビヤアァァァッ!》


 どうやら怒らせてしまったようだ。

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