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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション1.01【始まり】
95/268

95:マジ、バグらせる。

 いったい何処から現れたんだあいつは?

 剣を抜き、今にもNPCに切りかかろうとする女。

 紅の髪を靡かせ、足元には猫を従えてやがる。

 あれ、ウミャーか?

 なんかでかくなってんな。


 唐突に登場したセシリアに、さすがのNPCも驚いているようだ。完全に固まって、シンキングタイムを余儀なくされている。


《ぷぷ。ぷぷぷぅぷ、ぷうぷぷぷ》


 今よ。あたちが飛んで降りるから、ダーリンはリターンであたちの所に来て?

 その手があったか!


 ぷぅが羽ばたきながらゆっくりと降りて行き、そして、ルーンの頭に着地。


 よしっ、今だ!


「『リターンオブテレポート』――からのぉ」


 このNPCどもが敵で、実はモンスターの扱いだったら……魔法が利くはず。


「『雷神の鉄槌・トールハンマー!』」


 ルーンの真横に瞬間移動した俺は、即座にトールハンマーで攻撃。

 さぁ、感電しろ!


 ……。

 …………。


 え?

 無反応?


 直撃食らった奴も、驚いているようだが無事だ。周辺の奴等もぴんぴんしている。

 じゃあ、敵じゃない?


 ざわつくNPCたち。


《ぷっぷぷうぷ?!》


 ルーンの頭から飛び移ってきたぷぅが、俺の眼前でホバリング。

 そして決めポーズ。シャキーン。


「鳥!」

【と、鳥じゃ!】

【奴ではないようだ。だがアレは……】


 吹き出し含めてどよめくNPC……ど、どういうこと?






 村の広場まで連れてこられた俺達とセシリア。


「久しぶりだな、マジック君!」

「あ、ああ。久しぶりだなセシリア」

「ロッククライミングに良さそうな岩山があったから、技能レベル上げをしていたのだ」

「はぁ」

「登ったら村が見えたので、降りてきたのだ」

「はぁ」

「そしたら、凶悪な現地人に襲われている人を見つけたので助けにきたのだ」


 でも今一緒に連行されてますよねあなた。


 広場に連れて来られた俺達は、適当に座れといわれ素直に従う。

 攻撃が当たらないんじゃ、どうしようもないしな。こいつらは敵じゃな……いはず。


「貴様達」


 NPCの一人が一歩、前に出る。

 四十代ぐらいの、どこにでもいるような中年男だ。この人にだけ声があるってことは、村長とかそういうポジションかな?


「貴様達。この場所をどうやって知った?」

「どうやって……えーっと、ぷぅが飛ばされて、助ける為に魔法でジャンプして――で、見つけた」

「ぐ、偶然なのか!? 貴様達、この大陸に住む民なのか?」


 この大陸に住む?

 うーん、どう答えたものか。まぁこの大陸で活動してるんだし、住んでいるって事になるのか。


「うん、まぁ、住んでる?」


 ちらっとルーン達に視線を送ると、彼らも一呼吸おいてから頷いた。

 それを見てざわつくNPC達。

 がやがやとした雑音はあるものの、ちゃんとしたセリフは吹き出しなんだよな。

 えーっと、『やっぱりだっぺ』『とうとう奴等は岩壁を超える方法を見つけただべか』とか言っている。

 村長ポジの人は普通の口調だが、その他は田舎者丸出しだな。


「もういい。いいのだ。先祖の宝などより、これから先の子らの事を考えようでは無いか」

【そうだっぺ】

【我らのような不自由な生活を、この先もずっと続けさせるのは酷っぺよ】

【ここから解放されるのであれば、お宝なんてもういらねえずら】


 お、お宝?

 俄然興味が沸いてきましたよ!


「とりあえず、話を聞かせてくれ」

「聞かせろだと? 知っているだろう。貴様等が我らをこの岩壁で囲まれた場所に閉じ込めたのだからっ」


 はい?

 うーん、どうも話が噛み合わないな。

 ルーン達を円陣を組んで、どう返答したものか話し合う。

 知っている振りで話を進めるか、知らない事を説明するか――


「うむ。もしかすると彼等の言うこの大陸に住む民というのは、船で移住してきた人達ではなく、最初からこの大陸に住んでいる人達の事かもしれないぞ」

「え? セシリア、そんな話、どこで聞いたんだよ」

「ドワーフの集落だ」


 えっへん――とドヤ顔のセシリア。

 公式サイトにもその手の情報は乗ってないが、先にこの大陸に渡ってきていた開拓民から聞けるようだ。

 ただセシリアの話には続きが合って――


「先住民は邪神崇拝者ばかりで、大変狂暴なのだとか」


 で、ここの村人がそうだと思い、剣を抜いて助けに来たという。

 いやだからあなた、一緒に捕まってるし。


 まぁセシリアの話が本当だとすると、さっきの質問の答えが既に間違っていたようだな。

 そこんところを訂正し、俺たちは西の大陸からやってきた冒険者だと説明する。

 すると、シンキングタイム無しで彼等の態度が変わった。


【やはり違ったっぺよ】

【どうりではいからな服を着ていると思っただ】

「では冒険者よ。お前達は我らを救う為にここに来たのだな?」

「いや、人の話聞けよ。たまたま偶然なんだって。こいつが風に流されて――」


 と、ぷぅを使って実演。

 あ、上空に飛ばしすぎたな。


《ぶっぶっぶぶぶぅ》

「あぁ、すまんすまん。今度は風が無くてよかったな」

《ぶっぶ》


 思いっきり突かれながら、偶然ここを見つけたんだと念を押して説明。


「そうか。偶然であったか……はぁぁぁぁぁぁ」


 ながーい溜息のあと、これまたながーい沈黙が続く。

 ……これはあれか?

 訳を聞くまで動かないってパターンか?

 業を煮やしたセシリアが立ち上がり、オーバーリアクションと共に声を張り上げる。


「何があったというのだ、村長よ!」

「聞いてくださるか冒険者よ!」


 あ、この人村長確定な訳ね。

 村長も立ち上がって彼女同様、オーバーリアクションにて応える。

 何このスポコンみたいな流れ。






「昔、我ら祖先がこの地の何処かに大量のお宝を隠したのだ」


 突然というか、恒例の昔語りだ。

 お宝か……くくく。


「だがある時嵐にあい、男達は帰らぬ人となった」

「じゃあ宝は?」


 フラッシュの質問に、村長が俯く。

 自分等の曾祖父達が、お宝を探してこの地にたどり着いたのが百年前。

 ようやく手掛かりを見つけたのに、元々この大陸に住む民にも知られて争奪戦に。


「手がかりはここ、まさに自然の要塞たるこの場所にある。故に我らの曽祖父達はこの地の民どもと長い間戦っておった」


 ここは防衛戦にはうってつけの場所だった。

 が、結果的に外へと通じる道を塞がれ、出るに出れなくなったのだという。

 それが六十年ほど前の話らしい。


「いや、でもあそこに洞窟があるじゃないか?」


 と俺が指し示す方向には、海と繋がった洞窟が見える。

 あ、大分潮が引いたみたいで、洞窟もくっきり見えてるな。あれなら船で渡れるんじゃ?


 だがNPC軍団はシンクロしているかのように首を振る。


「この海域には恐ろしいキュカンバーが生息しておる。船で漕ぎだそうものなら、あっという間に奴の胃袋行きだ」

「キュカンバー? あれって昨日のイベントで倒された?」

「『騒々しい海のキュカンバー』ですかね?」


 キュカンバー。名前だけ聞くときゅうりか九官鳥のモンスターだと思いそうな奴だったが、正体はナマコだ。

 あぁ、奴を倒して新たに進入可能になったエリアって、ここの事だったのか!


「なんとっ。奴を倒したのか!?」

「あ、いや、倒したっていうか……」

「まぁ倒したといえば倒したよなぁ?」

「ボクは固まってましたけどね」


 と苦笑いのルーン。

 倒したって事にしておこう。うん。

 そう伝えると、またもやざわつくNPC達。


【あの魔物を倒したのか!?】

【海からの出入りが可能になったというのかっ】

【だが潮が引くのは二日に一度、十分たらずだぞ】


 吹き出しセリフがあちこちから浮かぶ。

 二日に一度、十分しか通れないのか。となると船での脱出は難しいな。

 だが、海に通じる洞窟を通らなくても、他の通路ってのを使わなくても、どうにかなるんじゃないのか?

 実際俺たちはどうにかしてここまで来てるんだし。


「テレポ使えばさ、どこか必ず岩壁の上に出れる位置があるだろうし、出れるだろ?」

「ロッククライミングの技能でも出れるぞ。これなら運便りではなく、確実に出れる!」

「でも技能レベル低いと登れないんじゃないか?」

「む。そうだな。私は技能レベルが10あるが、何度か足を踏み外して危なかったぞ」


 いや、危ないならやめとけよ。

 が、六十年も閉じ込められていたんだ。技能レベルを上げるのに数日掛かっても構わないだろう。

 寧ろ天然のロッククライミング技能を上げれる環境なんだ。

 好きなだけ上げてくれってもんだ。


「マジック氏、正規ルートとは違う方向から攻めようとしているな」

「たぶん彼らは何かの依頼をしようとしているんだろうけど……」


 フラッシュとルーンが呆れ顔でこっちを見ている。

 単純に外に出たいって話だろ? いいじゃん、どんな方法でも。


 NPC達の反応を待ったが、随分長いこと動こうとしない。

 ……せ、正規ルートじゃないと、やっぱりダメなのか?


 数分後、不安になってきだした頃にようやく村長が口を開いた。


「外ニ通ジル通路ハ奴等ニヨッテ塞ガレ、コノ数十年、ココカラ一歩モ出ルコトナク生キテキタ」


 あわあわあわあわ。村長のセリフが棒読みになってるぞっ。

 しかも顔から表情も無くなってるし。


「外ニ通ジル道ハ、西側ニアル。ダガ、ソコニハ奴ガ……『不運ヲ撒キ散ラスロックンピーコック』ガ待チ構エテイルノデ、塞ガレタ道ノ開通作業モママナラヌノダ」

【奴を倒してくだされ】

【我らに自由を】

【せめて子供等には、外の世界を見せてやりたいっぺ】


 テキストのほうは無事なようだが、でも全員死んだ魚みたいな目になってるんですけど!


 俺たちを取り囲むNPCの輪が、少し、また少しと狭まってくる。


《クエスト【海賊の子孫を救え】が発生しました。受諾しますか?》


 というシステムメッセージが浮かぶ。

 ちょ、こいつら海賊の子孫かよ!

 ってことは、お宝って海賊の!?


「『不運ヲ撒キ散ラスロックンピーコック』ヲ倒シ、我ラヲ外ノ世界ヘト誘ッテクレ」

【ピーコックを倒してくだされ】

【お願いしますだ】

【お宝なんてもういらねぇべ】

【助けてくんろ】

【奴を倒してくだされ】

【我らに自由を】

【せめて子供等には、外の世界を見せてやりたいっぺ】


 じりじりと輪を狭めてくるNPC達。吹き出しの数もどんどん増えていく。


「マジック氏っ。は、早く承諾するんだっ」

「これ絶対バグってますよっ」

「マジック君。よく分からないが彼らが怖いのでピーコックを倒そう。そうしよう。ふえぇーん、ウミャーァ」

《ウウウゥゥ、ウミャーッ》


 主人の足元に隠れながらも、必死に威嚇するウミャー。

 うちのぷぅは……どこにも居ない。

 頭に手をやると、巣の中でぷるぷる震えてましたとさ。


 使えねぇ!


「『不運ヲ撒キ散ラスロックンピーコック』ヲ倒シ、我ラヲ外ノ世界ヘト誘ッテクレ」

【ピーコックを倒してくだされ】

【お願いしますだ】

【お宝なんてもういらねぇべ】

【助けてくんろ】

【奴を倒してくだされ】

【我らに自由を】

【せめて子供等には、外の世界を見せてやりたいっぺ】

【ピーコックを倒してくだされ】

【お願いしますだ】

【ピーコックを倒してくだされ】

【お願いしますだ】

【ピーコックを倒してくだされ】

【お願いしますだ】

【ピーコックを倒してくだされ】

【お願いしますだ】


 ひぃっ。視界が【ピーコックを倒してくだされ】【お願いしますだ】で埋め尽くされていくぅ。

 これどこのホラー映画ですか!?

*ピーコックの二つ名を

不運→不幸→不運と修正しました。


不運で合ってたのに「あれ?修正し忘れてた?」と別名にしてたよorz

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