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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション1.01【始まり】
87/268

87:マジ:ふんどし祭に参戦する。

 突然上がった悲鳴は、次第に数を増していく。声は海のほうから聞こえてくるな。

 そう思って海のほうに視線を向けると――

 あー、うん。あれが原因だな。


 プレイヤーよりも圧倒的な大きさを誇るナマコ。


「またナマコかよ!!」


 だが今回は正真正銘、海のナマコだ。

 見た目の大きさはモモコよりも遥かにデカい。


《おいマっちゃん。公式イベント開催中は、突発の方の発生トリガーをオフにしておけと言っただろう!?》

《うぉ! すんません、忘れてました!!》

《そんな事より班長、オープンチャンネルですよ今の!!》

《うわあぁぁぁっ、し、しまっ……えー、皆さん。ここで突撃突発イベントです! 皆で協力して『騒々しい海のキュカンバー』を倒しましょう!》


 なんか運営が焦ってるな。

 うん、想定外の出来事だったんだろう。

 あと、スタッフの何かしらの設定ミス、と。


 まぁ運営スタッフの誤爆アナウンスが入るよりも前に、既に何人ものプレイヤーが巨大ナマコに突撃している。

 そいつらがナマコのヘイトを取り――移動して――


「何故こっちに来る!?」


 ナマコ来たあぁぁっ!

 マズい、マズい、マズい!!


「やだ、気持ち悪いっ」

「え、え、今装備外してるのにっ」


 俺の周囲に居た客達も慌てて浮き足立つ。


 くっ。せっかくいい感じに客が来てたのに。

 俺の客を危険な目に会わせられるか!!


「皆さん、後ろに避難してください!!」

《ぷっぷぅ、ぷぷぷぷぷぅ!》


 ぷぅと一緒に周囲の客を屋台エリア後方に避難誘導する。


 そういやあのキュなんとかっていうナマコ、あの攻撃をするんだろうか。

 ちらりと振り返った先では、ヘイトを取っていた鎧姿の男達が固まっていた。

 うん、やっぱり使うわけね、あのどろどろ液。


 身動きの取れないタンカー達とは違う方角から、サンダー系の魔法が飛んでくる。

 ダメージヘイトでナマコのターゲットが別プレイヤーへと移った。

 ナマコが体の向きを変えた先に居たのは、さっきの王子様スタイルのエルフじゃん。

 あ、別の鎧プレイヤーが出て来てナマコのヘイトを取っていったぞ。

 で、何故こっちに来るし!?


「くっ、俺は客を守らなきゃならないんだっ。こうなったら!!」


 変身!! とうっ。

 半裸からの――


「ふ、ふんどし王子来たわぁぁっ」

「ちょ、なんでふんどし!?」

「放電マジ、覚醒!!」


 ……や、やべぇ。めちゃくちゃ注目の的になってんじゃん。


「み、皆さん、早く逃げてっ」


 と避難誘導しようとするんだが、何故か男達はナマコに突撃したがる。

 んで、ゲロられて固まる。

 くっ、こうなったら!


「『リターンオブテレポート!』――からのぉ、『サンダーフレア!』」


 ごおおおおぉぉぉっっと轟音を鳴らし、大きな火柱がナマコを捕らえる。


「今の内に、逃げるんだっ」


 振り向きながら屋台付近で立ち尽くすお客に声を掛ける。それと同時に頭上からどろどろの液体が落ちてきたが、ダメージは無いので完全スルー。

 しかし、何故誰も逃げようとしない。


「お、おい君」


 その時、固まっていた男性プレイヤーの一人が声を掛けてきた。

 自由にキャラメイクを出来るのに、随分と渋めな中年親父風のキャラメイクだな。


「君は何故動けるのかね? 君も我々同様にあの液体を被っているというのに」


 かちこちに固まって動けない軽装っぽい彼がそう言うと、その仲間らしい鎧姿の戦士が頷く。

 うん、その装備・・が悪いんだよな。


「このどろどろ液が装備に張り付いて、動けなくなってるんだよ。だから液体被っても関係の無い、こういう格好になればいいのさ」


 とドヤ顔で彼等にふんどし姿をアピールする。

 今ほどふんどし姿を誇らしいと思った事は無い。


 ふ、だがしかし、こんな恥ずかしい装備、持ってる奴なんて早々居るわけ無いよな。


「なるほど! 今こそ漢を見せる時!」

「ふんぬうぅぅぅぅぅぅっ、そう、ちゃく!」


 ……おい、嘘だろ。

 この二人、ふんどし持ってるよ。しかも二人とも筋骨逞しくて似合い過ぎてるんですけど?


「おい、ワンマン! ふんどしだっ。ふんどしで戦え!」

「なるほど、そういう事か!」

「俺はどうする?」

「マグナムは遠距離職だからな、まぁ着替えなくても問題ないだろうが、気を引き締めるという意味では矢張りふんどしだな」

「よしきた」

「はっはっは。皆でふんどしか」


 あぁ、あのぉ……他にもパーティーの仲間が居たんですね。そして全員ふんどし、と。

 なんで遠距離から攻撃できる弓使いまでふんどしなんだよ。ゲロ被る訳でもないだろ?

 しかも全員が無駄に濃いし。


 ふんどしの短剣使いが一人。ふんどしの戦士風が二人。ふんどしの弓使いが一人。ふんどしの鈍器――殴り神官風が一人。

 真っ白い歯を光らせ、爽やかな顔をしたふんどし男五人がナマコに襲い掛かる。


 えげつない……


「ノーリス君、さぁ君も!」


 短剣使いの男が振り返り、後ろでがくぶるしている法衣姿の少年に声を掛けていた。

 彼も仲間なのか?

 にしては随分とその、彼らとの共通点が見られない。

 なんせ一人だけも普通な体格だし、濃くない。


「ふえぇー……だって僕は固まっていませんし、このままでも――」

「はぁーっ! とうっ。漢ならふんどしだろう!」

「よ、っと。そうだぞノーリス君!」


 ダメだあいつら。仲間を精神的に殺そうとしてやがる。

 だが……

 俺はぷるぷるしているノーリス君という少年の下へと駆け寄り、彼の肩にぽんっと手を置いた。


「司会者も言っただろう。俺たちは全員で協力・・しなきゃならないんだ」


 さぁ、共に地獄に落ちようぜ。

 このふんどし地獄に。


「ふぇ、ふえぇー」


 ここにまた一人、ふんどしの犠牲者が増えた瞬間だった。






 ワッショイワッショイ! お祭ワッショイ!


 どうやら俺の脳も麻痺してきたようだ。

 気づけば辺りはふんどしだらけ。

 いや、よく見ると普通の海水パンツ姿のプレイヤーもいるが、圧倒的にふんどしが多い。

 そうだよな。一番出易いハズレアバターだったもんな。

 中には勇敢にも、ビキニ姿で戦う女の子プレイヤーの姿もあった。

 だが、ナマコがビジュアル的に気持ち悪いのか、殆どの女の子プレイヤーは後方支援か、応援をしているだけである。


 全長十メートルはあろうかという巨大ナマコに群がる、ふんどしやら水着姿のプレイヤー達。

 シュールだ。

 あまりにもシュール過ぎる。


 途中から俺は戦うのも忘れて、そのシュール過ぎる光景をただじっと見ていた。腹を抱えて。

 時々走って行っては、ヘイトを取っていそうな奴をタッチして『カッチカチ』を付与し、ダメージを食らってる奴の肩に絆創膏『ヒール』を貼っていく。

 尚、そちらも男プレイヤー限定だ。

 水着姿の女の子とか、触れたら即アカバンものだろ。


 何十人ものプレイヤー(ふんどしだったり水着だったり)にボコられ、遂にナマコの巨体が砂浜に横たわる。

 うん。後半はほとんど観戦者に徹したな。腹を抱えて。


 ナマコが光の藻屑となった時、突然ファンファーレが鳴り響く。


《エリアレアボスモンスター『騒々しい海のキュカンバー』が倒されました。この戦闘での貢献度上位十名には、ランダム装備ボックスが贈呈されます》

《『騒々しい海のキュカンバー』が倒された事によって、一部のエリアへの侵入が可能となりました》


 聞こえてくるアナウンスは、司会を務めていた運営スタッフの声ではない。

 どことなく、機械的な印象を受ける女性の声だ。


 しかしエリアレアボスモンスター?

 聞いた事無いけど、かなり珍しいボスなんだろうな。

 こいつが倒されていける場所が増えたらしいけど、そもそもそんな場所を俺は知らない――と。

 だが貢献度上位十名ってのは気になる。ランダム装備ボックスって、なにそれトキメク単語!!


《えーっと、皆さんご無事でしたかー?》


 あ、今度は司会の人の声だな。

 そのアナウンスに返事をするプレイヤー達。

 中には「死んだぞおい!」と怒り交じりの声も聞こえる。

 確かに、ふんどしも水着も持ち合わせていなかったプレイヤーが倒れて光の藻屑になるのは見たな。


《上位十名様には既にメッセージと一緒に装備ボックスが配布されております。是非ご確認ください》

《尚、今回の『騒々しい海のキュカンバー』討伐貢献度上位十名様は――》


 ご、ごくり。

 名前、呼ばれますように!

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