85:マジ、地雷を踏む。
合成剤の材料を命懸けで確保して晩飯ログアウト。
今夜のおかずは『豚のしょうが焼き』と『中華風春雨』。かき込みながら、夜は何をするか考える。
新エリアにでも行くかなぁ。
いや、ダンジョンもいいな。装備も整えなきゃいけないし、素材のドロップ狙って行ってみるか。
それに、ダンジョンといえばボスだろ?
運良く見つけられて、運良く装備をドロップしたら万々歳だ。
とりあえず防御力やHPの補強の為に、12装備のコートを今のズボンに合成しておかなきゃな。
まぁ……上半身裸族なのは変わらないけど。
『お帰りなさいませ、彗星マジック様』
「十一時半に連絡をくれ」
『畏まりました。本日二十一時より、港町クロイツ西海岸にてイベントが開催されます。是非ご参加くださいませ』
へぇ、公式イベントか。
せっかくだし行ってみようかな。
って事は遠出出来ないな。
ダンジョンは明日にして……あ、トリトンさんに合成屋の事を伝えておこう。
ログインして早速トリトンさんに会いに行く。
「あ!ピリカの勇者さまだ〜」
「おう。元気か?」
「うん。勇者さまに会えたから、今日は何時もより元気だよ」
くぅ、嬉しい事言ってくれるなぁ。
シンフォニアといい、ぷぅといい、ピリカの爪の垢でも飲ませたいぜ。
お父さんを呼んで欲しいとピリカに頼むと、すぐに呼びに行ってくれる。
程なくして出てきたトリトンさんに、合成屋がダークエルフを騙していた事、その件でダークエルフと商業組合が手を組んだ事などを説明した。
「えぇ、その話は耳にしております。やはり汚い手を使っていたのですね。まったく、何も変わらない人だ」
なんかいろいろ訳有りっぽいな。
それを聞いたら、またイベントにでも発展しそうだ。
今は何も聞かず、公式イベントまで時間を潰そう。
で、せっせと合成剤の材料集めをするわけで……。さらに調合を頼みにブリュンヒルデを訪ねる。
「沢山作ったですのに、もうなくなったですの!?」
「あぁ。ちょっとな」
かくかくしかじかで、ぷぅのせいで合成団子を配布しなきゃならなくなったと伝える。
すると彼女がシンキングタイムに突入した。
動きだしたブリュンヒルデは、
「じゃあ、ペットフードの合成依頼はお断りしておくですの」
「は?えっと、なんで」
「だって、その方がマジックさんの儲けに繋がりますの」
そんな事で気を使わなくたっていいのに。寧ろ俺の代わりにやってくれと思うんですが。
まぁ技能のレベル上げと思えばいいんだけど。
実際、ペットフードの合成で、技能レベルは12まであがっている。
一度に百回以上やったもんな。
けど何度もとなると、材料集めに追われてしまう。
合成剤も持参にして貰うかな。
「出来たですの。――考えてごとですの?」
「あぁ。他の戦闘技能も習得したいし、合成剤の材料集めばかりもしてられないなぁと思って」
取引要請で受け取った合成剤は百五十個。これだとピッピ友の会メンバー全員に十袋ずつぐらいか。
ぷぅの分も必要だし、セシリアにも分けてやらなきゃな。
やっぱ合成剤は持参してもらおう。
「戦闘技能ですか。何を学びたいですの?」
「水属性とか?他は――」
重力操作とか欲しいな。
隕石召喚!とか。
あ……
「なぁブリュンヒルデ。俺に召喚魔法、教えてくれないか?」
あるじゃん!
重力操作じゃなくても、隕石召喚使う方法が!
あとはブリュンヒルデが頷いてくれたら……。
フラグ用お使いクエ、ばっちこい!
大賢者で鍛えられたからな。何度でもやってやるぜ。
さぁ!
「いいですの」
「よっしゃ!お使い内容は――え?」
今、何と仰いましたか?
「召喚魔法、教えてあげるですの」
大賢者より優秀な講師見つけた!?
「まずはこの本を読むですの。全部しっかり読むですのよ」
……どこから出したこの本。人を殴り殺せそうなほど分厚いじゃないか。
大賢者は杖で額をこ突くだけで技能を伝授させていたが、ブリュンヒルデはそうはいかないようだ。
なんか普通に勉強させられそうな予感。
本を受け取り、ページを捲ろうとしたところでシステム音が鳴る。
『イベント開催までそちらの時間にして、後三十分です』
お。なら勉強は後にして……
「ちょっと用事があって、そっちに行かなきゃならないんだけど」
「はいですの。いつでも来てくださいの。その本はお渡ししておくですから、しっかり読むですのよ」
「お、おぅ。サンキュー」
借りれるのは助かる。
けどまさか、テストがあるとかいわないよな?
海岸に到着すると、突然アナウンスが鳴り響いた。
《まもなく港町クロイツ西海岸にて、『第一回ナンバーワン称号決定戦』が開催されます。露店商必見の、客寄せ効果抜群間違いなし!》
お、このイベントで勝つと称号が貰えるのか。
アナウンスの内容からして、生産系の人に良さそうだが。
俺には関係なさそうだな。
《最も人気のあった方に付与される称号となっております。客側としての参加もお待ちしております》
あ、なるほどね。
イベントを盛り上げるために、客参加のプレイヤーも必要なわけか。
オッケー。貢献しようじゃないか。
「あ、彗星君だ。え?なに、なんで半裸なん?」
聞き慣れた声に振り返ると、夢乃さんが居た。
しまった。合成でコートが消失したとは言いにくい。
「彗星君……」
「う……ゆ、夢乃さん、実はこれには――」
「彗星君も目覚めたんやね!!」
はい~?
い、いったい俺が何に目覚めたってんだ。いや、何に目覚めたと思っているんだこの人は!?
にっこにこ顔で「じゃあ次からは性能重視の装備作るけんね」と言う。
それ自体は嬉しいんだが、何を勘違いされているのかだけは不安で仕方が無い。
「おっす、マジ。っぷ。なんで裸族なんだよ」
「ようドドン。馬鹿には見えないだろうが、ちゃんとコートは着ているんだぞ」
「おおお! 見える。見るぞ俺には!!」
どんなのが見えてるんだよ。
この二人がイベント会場に居るってことは、やっぱ参加者側なのかな?
尋ねると、夢乃さんは頷き、ドドンは首を振った。
「マジ、お前さ、ナンバーワンホストの称号持ってただろ?」
「ああ。あのキラッキラな奴な」
「その称号、今でも持ってるん?」
夢乃さんに言われてステータスを確認すると……無くなってる!!
「ヒャッハー! あの恥ずかしい称号が消えて無くなったぜぇ~っ」
「その称号の争奪戦なんだよ、このイベント」
「女の子には『ナンバーワンスマイル』っていう称号が付与されるみたいなんよ。効果は、たぶん同じなんじゃないかな」
たぶんってことは、まだ確認されていない称号なんだろう。
なるほど、生産職にとっては客寄せ効果があるんだし、ありがたい……いや、あれが有り難いか?
なんかキラッキラして見世物になってるだけだと思うんだが。
「俺はさ、ドワーフだし、あの少女漫画みたいなキラキラはちょっと、なぁ?」
「あ、ああ。そうだな。なんかキモぃっていうか、ガチムチのホモ臭くなりそうだな」
「んだ……」
ガチムチドワーフが背中に薔薇背負ってキラキラしてる姿なんか……うぉえ。想像するもんじゃないな。
じゃあドドンは何をしに来たのか。
客側?
「いや、どさくさ紛れに自作宣伝」
「私の露店で共同出品するんよ。私はポーションと布装備とアクセサリーを並べるんだけど、やっぱり前衛系装備もあったほうが品揃え豊富に見えるけんね」
「あぁ、なるほど。そういやバイト機能もあったんだっけ。結局露店って店番は何人までやれるんだ?」
「え? 彗星君もお店やりたいの!?」
うん。どうやら俺は地雷を踏んだようだ。




