83:マジ、別ゲーをする?
「じゃあふん――王子様からペットフードを買えばいいのね」
《ぷ!》
卵をゲットしてひとしきり頬ずりを終えた人が、ぷぅにそう尋ねてくる。
いつからぷぅ語を理解するようになったんだ?
「放電さん、ペットフード売ってください!」
「俺も!」
「私も!」
「いやいや待てって……ぷぅ、どういう事なんだ?」
《ぷっぷぷ、ぷぷぷ、ぷぷぅ〜ぷぷ!》
何なに?
金策しなきゃならないんでしょ。だからピッピ達用の合成フードをあいつらに売りつけるのよ!
更にぷぅは付け加える。
美味しいフードを食べる事でピッピは喜ぶ。
美味しいフードを食べさせる事で、プレイヤーとピッピの好感度も上がる。
美味しいフードを売ることで、ダーリンの懐も潤う。
皆幸せじゃない!
――と。
こいつ、いつから商人になったんだ!!
しかしまぁ、俺の懐は無視しても他の二つは確かに良い事だ。そのついでに俺の懐も潤うんだし、悪くは無いよな。
「放電さん?」
「王子様?」
「あ、ああ。その、NPCが売ってるペットフードに、ちょっと手を加えるとこいつらが喜ぶ餌になるんだけどさ」
「手を加える?」
「そう。まぁ、裏技みたいな?」
合成技能で――とはさすがに言えない。
「なーんだ、合成技能か」
「王子様、あの技能持ってたんですね。さっすがダークエルフのプリンス!」
「え、え? なんで合成技能の事?」
「いやだって――」
ファクトに合成屋が居たし、メンテ開始直前にファクトの冒険者ギルド隣にダークエルフの合成屋がオープンしたから。
と、二人ほどそれを目にした人がいた。
更に――
「さっき港町のクロイスに行ってモンスターエッグ買い込みしに行ってたんだけど、中央噴水広場近くに新規オープンした合成屋があったよ」
「あ、コールにもありました。ダークエルフの人が接客してましたよ」
おいおい、あいつら商魂逞しいじゃないか!
恥ずかしいとか、どの口で言ってたんだか。
まぁ合成技能の存在がバレてるならいいや。
じゃあって事で、ぷぅ用のペットフードを見せる。
「森なんかに居るモンスターからドロップする木の実を合成してるんだ」
「木の実! なるほど、それで味つけてるのか」
「知り合いがペットを孵化させたんだけど、NPCから買うフードは美味しくなさそうな顔で食べるって言ってたわ」
「俺のフレもそう言ってた。なんか食わせるのが可哀相になるって」
「なるほど。合成か」
同じように肉類を合成すれば、猛獣系も喜んでいたのも告げると、合成によるペットフードの有り難味を十分理解してくれた。
「木の実集めもこいつの分だけならいいけど、全員の分となるとなぁ」
「それは自分達で集めますよ。どんな木の実がいいのかな」
「どうせならさ、いろんなのを集めて、どれが好みか調べるってのもよくない?」
「いいねそれ。じゃあ――」
彼等はあちこちのフィールドに散らばり、見つけた木の実系アイテムを集める事になった。
その木の実とペットフードを持って、二時間後に港町の噴水広場で待ち合わせする事に。
その間に合成剤を作って貰おう。
全員とフレ登録をし、一旦解散。
ダークエルフの集落、シュトナに飛んでブリュンヒルデを尋ねた。
「おーっす。さっそく店を構えたらしいな」
ブリュンヒルデの家の戸をノックし中から返事が来たので入ると、今までもんぺ姿だった彼女は真っ白いワンピース姿になっていた!!
褐色肌のダークエルフに白のワンピースは、眩し過ぎます。
「ど、どどど、ど、どうしたんだ、その服!?」
「作ったですの」
「え? 作った?」
「はいですの。今までは素材も全てドナルドに1エンで売ってたですが、もうそれも必要なくなったので自分達用に使ったですの!」
あぁ、なるほどね。
ドナルドの野郎も、いったいどこまでダークエルフから絞り取ってたんだ。
「でも、今では感謝してますの」
「感謝?」
「はいですの。ドナルドのおかげで、他種族とも仲良くなれたです」
何かにつけて、「罪深き私達」とネガティブ発言の多かった彼女がなぁ。
前向きになったもんだ。
そう思って彼女を見ると、何故か肩を震わせている。
「ふふ。もうすぐですの。もうすぐ……」
「もうすぐ?」
ブリュンヒルデの震えが治まり、彼女が顔を上げる。
「もうすぐ奴の店を潰せるですの」
……前言撤回。
すこぶる楽しそうに恐ろしい事を言うようになって、まさにダークエルフらしくなったな。
こ、これも成長というべきか?
「そういえば、マジックさんは何をしに?」
「あ、忘れた」
「うふふ。私に会いに来たですか?」
な、なんだって。
これは好感度イベント!?
ギャルゲーとかだとこんなとき、わざと違うと答えると好感度上がるんだよな。
「いや。合成材を作って貰おうと思って来ただけだよ」
「む。会いに来てくれたわけじゃないですか。ぷんぷん」
そう言うと材料を寄越せと手を出し、渡すと光の速さで合成材が出来上がった。
……イベント失敗?
いや、そもそも俺は何のゲームをしているんだ?
合成技能のレベルが15になった。
そろそろ装備の合成を試してみたい。
「なにを合成するですの?」
なんだかんだと俺の後に付いてくるブリュンヒルデ。可愛いな。
《ぷぷ、ぷっぷ!》
「え? 鼻の下が伸びてる? 気のせいだ」
肩の上のぷぅが鎖骨を突つく。
痛い。マジ痛い。
「何こそこそしてるですか」
「い、いや何も! あ、ほら、合成。合成な、武器とコートを合成したいんだ。コートのデザインがちょっと、ね」
「気にいらなかったですか」
「デザイン云々いうか、素肌の上にコートってのがな」
突つかれた鎖骨の辺りを擦りながら答えると、ブリュンヒルデは俺の合成技能のレベルを尋ねてきた。
15だと伝えると渋い顔……。
「もう少しレベルが欲しいですの。装備の等級は?」
「レアとハイクラス」
「それだとレベル20は欲しいですの」
マジか。合成材の素材も集めなきゃならないし、合成するアイテムも……。
そうこうしてると、キャラレベルの方が次の装備レベルになってしまう。
いや、レベル20になったんだ。素直に装備を変えればいいんじゃ!
「よければその……私が代わりに合成するですよ?」
「え?」
「よ、よければですよっ。自分でやるというこだわりがあるなら……」
イベントフラグはまだ立ったまま!?
ブリュンヒルデに合成を頼むとアッサリ成功。
「ブリュンヒルデ、合成レベル幾つなんだ?」
「50ですの」
神!?
「じゃ、調合は?」
「50ですの」
神!?
「そういあ、裁縫もあったよな」
「50ですの」
「ほ、他には?」
「召喚魔法と精霊魔法と闇属性魔法と水属性魔法と雷属性魔法と土属性魔法と火属性魔法と風属性魔法と弓術と、えーっと」
つまり、ほとんどの技能が50と。
「さすが三千九百歳超え……」
ぼそっと呟くと、えっへんとふんぞり返るブリュンヒルデ。
その後、年齢の事を思い出して肩を落とす。
一応、気にはしてんだな。年齢の事は言わないでおこう。
完成した合成装備は、防御力を備えた杖。
杖の性能はそのままだが、防御力は元のコートに比べると二割ほど劣る。HP補正なんかも一割減だ。
ま、別の上半身装備着れば、トータル的にはプラスだからな。
そっちも合成でパワーアップさせて、全身フル合成装備にすれば……ぐふふふ。
と、そんな事よりも、合成のためにコートを脱いでるもんだから、上半身裸で恥ずかしいってね。
「早速装備っと」
まず杖を装備して――と。
今は在り合わせで、レベル12のコートを着ておこ……あれ? そ、装備出来ない?
ステータス画面をあれこれ弄っても反応なし。インベントリからクリックドラックすると……なんか弾かれる。
「どうしたですの?」
「あ、いや。予備のコートが装備出来なくって」
システム画面と悪戦苦闘しているその奥で、ブリュンヒルデの首を傾げる姿が見える。
「装備の上から装備は出来ないですの」
「え?」
どういう事?




