68:マジ、形状変化の練習を開始する。
結論。
カッチカチバリアは、300ダメージを吸収すると割れた。
「ボクが平均してダメージ150ぐらい貰っていたから、二発目で割れて、オーバーした分はダメージとして貰ってるね」
「今の段階だと、CTが長い分ちと辛いぞなもし」
「レベル上げれば緊急回避として使えるスキルになると思うよ」
まぁレベル1だしな。この道中、使えるときには使ってスキルレベルを上げよう。
そして道中育てたいのはこのスキルだけじゃない。
形状変化!
変化させたい形にイメージしろと、それだけしか書かれていない。
この辺りのモンスターは動物タイプや地属性モンスターが多い。
火を使えば瞬殺してしまうので、ここはサンダーで練習だ。
もちろん作るのは……
「『サンダー!』からのぉ、トールハンマアァァァァ」
掌に浮かんだ放電する玉に意識を集中し、思い描くは巨大ハンマー!
つまりでっかい金槌!!
「うーん、うーん。金槌になぁれ、金槌になぁ〜れ」
ハンドパワーとばかりに左手を沿え、念を込める。
ジジ、ジ。と、次第に玉の形が変形しはじめた!!
お、おおおお。棒状の柄のような形になってきたぞっ。
「マ、マジックぅ。ちょっと殲滅手伝って」
お、おおおお。ハンマー部分っぽいのがっ。
「マジックどん、殲滅を――」
お、おおぉぅ……。なんだこれ?
大きさはそれこそ本物の金槌程度。
放電する柄の先にあるのはT字のものではなく、丸いトゲトゲした丸。
まるで毬栗だ。大きさ的にもピッタリ一致している。
「マジックぅ」
「マジックどんっ」
これ、どのくらいの時間持続するんだろうな。
よし、検証だ。
「うおりゃあぁぁっ! トール毬栗の威力、どやっ」
毬栗を振り回し、シースターとザグが三匹のコボルトと戯れる戦場へと走っていく。
振り上げたトール毬栗が振り下ろされる前――
ジジッ。と音を立てて消えた。
「のおおぉぉぉぉぉっ」
「うわぁあぁぁぁっ」
「もしいいぃぃぃ!?」
ふぅ。危うく死ぬところだった。
主にシースターが。
トール毬栗に集中しすぎて、二人がピンチだった事に気づいてなかったぜ。
危ない危ない。
何も攻撃魔法で形状変化の練習しなくてもいいんだよな。
ヒールは薄緑色の光る玉を、回復させたい相手に直接押し当てる要領で使っている。
この玉を……どんな形にするか。
怪我を治すんだし……
「絆創膏になぁれ、絆創膏になあぁれ!」
「またマジックが変な呪文唱えだした。なんだい、それ?」
「形状変化っていうパッシブスキルだ。魔法の形を変化させるんだよ」
「変化させると、威力が増すとかであるかなもし?」
「いや、そんな説明は一切ない。形変えるだけだ。絆創膏ぉ、絆創膏ぉぉぉ」
まるで呪いの呪文のように唱えてたら、光がぐにゅ〜っと楕円形になった。
よっしゃあ! 絆創膏になったどーっ。
これをシースターにぺたり。
貼り付けた途端に緑色の光を発して消えたが、回復量は何時もどおりだ。
次にカッチカチ。
体の周囲を光が包むようなエフェクトだ。これを……えーっと、相手に掛ける前に……
バリアだし、盾の形にするか。
オーソドックスな五角形を縦長にしたようなのをイメージしたが、なかなか上手くいかない。
なら丸い盾にするか。それなら簡単だろう。
「丸い盾ぇ、丸い盾ぇぇぇめぇぇぇ」
「なんか丸い盾に恨みでもあるの?」
「丸いぃぃぃぃぃ、出来た!!」
シースターの前に、光り輝く丸い盾が出来た。といっても、盾の形をした光の線が描かれているだけで、向こう側がスケスケだ。まぁその方が視界を遮らなくていいか。
大きさも団扇程度しかない。なんか心もとない大きさだな。
「見た目はいいねぇ」
「うむ。なかなかかっこいいぞなもし」
お、好感度は良さそうだ。
シースターがコボルトにボコられているようにも見えるが、ダメージエフェクトは出ていない。
大きさは団扇程度でもダメージはしっかり遮断しているようだ。
うん、これなかなか面白いぞ。
ただ同じ魔法でもその都度形を変えようとすると、その度にイメージするところから始めなきゃならないので時間が掛かる。
一度成功した形であれば、次にはすぐに出来た。
あと、持続時間は元のスキルにも依存するところがあるらしいな。
カッチカチは割れるまでその形を保っていたが、ヒールは離れた所から準備して、駆け寄る頃には消えてしまう。
なので、先に駆け寄ってからスキルを使わなきゃならない。
攻撃魔法もそうなるんだろう。
俺が形状変化で楽しんでいる間にシースターのレベルが上がり、俺との公平が可能に。
よし、こっからは火魔法でガンガン行くぜ!
ファイアをどんな形状にしようかなぁ。
ふひひひひひ。なんか楽しくなってきたぞぉ。
三十分ほど北上すると森が見えてきた。
「そういやザグの武器ってハンマーだが、それって武器の種類としては何になるんだ?」
ドワーフには斧が似合うが、ハンマーもなかなかだな。
「これは鍛冶を行うときに使う鉄の槌であるぞなもし」
「ちょ!? 道具を武器にしてるのか? いや攻撃力とかあるのかよ」
「あるぞなもし」
「あー、うん。金槌系って攻撃力があるんだ。短剣と同じぐらいかな」
それを武器に出来るってんなら、寧ろ短剣より強そうなんですけど。
「ただ槌の技能はなく、攻撃補正をあげる事はできないんだよ。だから金槌を持たなかったんだ」
「槌技能はないであるが、攻撃力を上げるパッシブスキルを作れば問題解決であるぞなもし」
「は? どうやってそんなスキル作るんだよ」
ザグは頭を指差し、
「想像力を働かせるぞなもし」
と言う。
スキルを作る前提技能は『鍛冶』。
槌を作るほどにその性質を知り、より上手く扱えるようになる。
そういうパッシブスキルを作ったのだとか。
「なので儂は槌をたくさん作っているぞなもし」
「へぇ。じゃあザグは槌職人になるんだ」
「いや、儂は料理人になりたいんだぞなもし」
「「は?」」
俺とシースターが同時に驚く。
じゃあなんでパッシブスキルを作ったのかと。
「食材を自力で仕入れるためには戦わねばならんぞなもし。だが武器技能を習得するのも面倒じゃったし、時間もなかった。だからスキルを作って補ってみたという訳だもし」
「へぇ、考えたな。ところでザグ」
「ん?」
白髪ドワーフだが、髪は短く髭もほどほどに切りそろえられていて、案外若々しい。尚ドワーフ基準で、だ。
そのザグが首を傾げてこっちを見る。
なんかひょうきんなおっさん風になってるな。
そのひょうきんなドワーフにどうしても尋ねたい事があった。
「そのもしもしなのは、どこの方言なんだ?」
ずっと語尾にもしもしが付いているザグ。
ばいだのちゃだのが付く夢乃さんやドドンは九州だって事だが、はたしてザグはどこなのか!
「ロールプレイぞなもし」
「もしは方言じゃないよね」
……。
「そんなオチかよぉっ!」




