67:マジ、支援職になる。
昼飯を終えログインし、次は四時半に連絡をしてくれとシンフォニアに伝えてゲームにイン!
そのまま噴水広場へと向うと、既にシースターが待っていた。
というか店を出していた。
「よっ」
「あ、おかえりー。待っててね。今店を閉めるから」
鍛冶技能も持ってると言ってたが、露店には杖や弓も置いてあった。
「あー、うん。技能だけでいえば、鍛冶と木工、彫金に精錬、あと調合を取ってたんだ」
ガッチガチの生産技能だな。
店じまいを終えると、まずは町を出て北にあるコールの町に行くことに。
「少しでも距離を縮めたいし、ギリギリの所までテレポで行くぜ」
「オッケー」
《ぷっぷー》
農村に行く途中で北上するルートに進むとコールの町がある。
なので分岐点の所まではテレポで移動できるってわけだ。
飛んで、そこから街道をひらすら北上。
ほとなくしてコールの町が見えた。
案外近かったな。
「空間移動の技能、習得してくるか?」
「ううん。いいよ。町への移動はテレポストーンがあるから」
「そ、そうか」
テレポストーンって、課金アイテムじゃなかったっすかね!?
なんてリアルブルジョアなんだ。
俺は俺で、少し町を見て周りたい気もするし、ちょっと観光をさせてもらう事に。
「じゃあさ、一つお願いがあるんだけどいいかな?」
「ん?」
「マジックのさ、杖を譲ってくれないかな」
「え?」
杖、というと、大賢者に貰ったノーマルの杖だ。
これを分解して素材を取り出し、手持ちの素材と合わせて新しい杖を作ってくれるという。
「木工技能が一番高くて、レベル20あるんだ。といっても、サービス開始後にガンガンやったから、これが一気に上がったんだけどさ」
「技能の経験値が変更されたっていうしな」
「うん。なんか不公平だよね。ボク、これまでの分の経験値も見直しをしてくれって要望だしたよ」
「やったやった。俺も出した」
なんか同じ事してる奴が他にもいて嬉しい。
なので何も気にせず、そのまま杖を彼に渡した。
ついでにさっき分解して貰った玉も使って貰おう。
それから別々に行動をして、杖が完成するまで俺は観光する事になった。
町の大きさはクロイスと同じぐらい。やっぱり案内板があるので、それを見て目新しい施設が無いか検索。
あ、冒険者ギルドあるのか。
そういえばコスタが、ゴミのポイ捨てするとペナルティがとか言ってたな。
なんか技能の習得に必要なポイントがなんちゃらと。
行ってみよう。
ギルドにはそこそこの人で賑わっていた。
クエスト用のパーティー募集から、固定フレンドの募集、人探しにアイテム情報の提供などを呼びかける人もいる。
ていうか、パーティー募集掲示板もあるのに、声張り上げてる連中の多いこと。
まぁその方が手っ取り早いんだろうけど。
そんな喧騒の中、NPC職員を探して見つけると、早速ペナルティやら技能について尋ねてみた。
『ペナルティについては様々なものがございます。主にこの世界の治安を乱すものであったり、衛生面に関わる内容でございます』
治安を乱す行為――喧嘩をしたり、暴れたり、物を壊したりといったものだそうで、程度が軽いものならこのペナルティで処理するんだとか。
暴れて大騒ぎしてNPCにちょっかいだしたりとか、大量の物を壊したりすれば自警団がやってきて、場合によってはログイン制限が課せられると。
『技能についてはお答えできません』
「どうしても?」
『技能についてはお答えできません』
「ヒントとか」
『技能についてはお答えできません』
これしか言わない。
ダメだこりゃ。
ポーンっとシステム音が鳴り、シースターから「完成した」という連絡が入る。
実質ここでの収穫はゼロに等しいな。
そう思って外に出たとき、気になる声が聞こえてきた。
「誰ぞわしをファクトまで連れて行ってはくれんかのもし」
もし?
どこの方言だ今度は。
つい気になって声の方を見ると、どうやら喋っているのは白髪のドワーフみたいだ。
大きなハンマーを背負い、道行く人に声を掛けて回っている。
「誰ぞわしを……生産技能しか持っておらぬわしをファクトに連れて行ってくれんかのもし」
どっかに似たようなのいたな。今パーティー組んでる奴とか彼とか。
そのせいか、余計に気になって仕方が無い。
誰か声掛けてやれよ。
誰か誘ってやれよ。
誰か――
誰もいない。
装備からしても、ガチガチの戦闘職構成のパーティーがほとんどだ。
えーっと、確かシステムメニュー開いた状態なら、視界に映るプレイヤーの名前が解るって言ってたな。
「システム」
メニューを開いた状態であのドワーフを見る。
出てない。あれ?
どこかにボタンでもあるのかと、手をわさわさしていると何故かドワーフがこっちに来た!?
「つ、連れて行ってくれるであるかもし?」
「え、いや、え?」
「今、手招きしたであるぞなもし?」
あぁ、わさわさしてたのがそう見られたのか。
うーん、仕方ない。これも何かの縁だ。
「実は同行者にもう一人生産職がいるんだ。一緒にいくか?」
「もちろんであるぞもし!」
こうしてドワーフの仲間が一人増えた。
「ちなみにさ、システムメニュー出した状態で、他人の名前見る方法って、知ってる?」
「知っておるぞなもし。メニューを出した状態で相手をタップするぞなもし。もちろん、直接触れるわけではない。見ている視界がタブレット画面のつもりでやればいいぞなもし」
「やってみる」
システムメニューを再度だし、見えているドワーフに手をかざす要領でタップ? すると――
【ザグ lv13】
あ、レベルまで解るのか。
「同行者のほうがレベル11なんだよ。俺と公平組めないんだけど、大丈夫か?」
「問題ないぞもし。そもそも儂は役立たずだなもし」
「じゃあ、待ち合わせしてるから、行こうぜ」
ザグを連れてシースターの所に戻ると、さすがに驚かれた。
事情を話すと、彼はお腹を抱えて笑いだす。
「マ、マジックって……良い人だよね。っぷふふ」
「良い人ぞなもし」
「な、なんでそうなるんだよ。やめろよ、良い人とか。恥ずかしい。もっと言ってくれ」
「っぷふふふふふ」
「良い人良い人良い人良い人良い人良い変態」
「おい最後なんか違ってねえか!」
《ぷぷっ。ぷぷぷぷぷっ》
そうよ! この人は変態なんかじゃないわよ! 変人なのよ!
そう言っている気が――
「おいぷぅ! 俺を今、変人だと言わなかったか!?」
《ぷ》
何故かしらんぷいするぷぅ。
おかしい。俺の脳内妄想だったはずなのに、何故かこいつの反応が的確すぎる。
「まぁまぁ。はい、これが新しい杖だよ。レアはさすがに素材が無くて無理だったけど、ハイクラスならなんとか成功したよ」
「おぉ、ありがたい!」
「玉はボクが持ってるのを使ったよ。道中のスキル構成みてたら、雷と火だけみたいだし、水属性をアップさせても意味なさそうだったしさ」
「実は水は持ってないんだ」
受け取った杖は『ウッドロッド+』と表示され、アイテムの文字色は緑。
攻撃力が+27になり、火属性魔法のダメージが+10%になっていた。
いいねいいね!
「本当はグローブ系武器があればいいんだろうけどねぇ。マジックのスタイルだと、そっちの方が有効性ありそう」
「グローブ? しかし今のところ、見た事はないぞなもし」
「そうなんだよね」
グローブ?
なんでグローブのほうが俺には合ってるって話になるのか。
まぁ生産者には生産者なりの、なにか違った考えがあるのかもな。
非公平パーティーを組み、コールの町を出て北を目指す。
実際シースターが、あとレベル1上がれば公平できるってのもあり、出来るだけ彼が止めを刺せる様にする。
「うーん。神聖魔法もあるんだし、支援系スキルも作っておけばよかったなぁ」
「えぇ、そんな……ボクの為にIMP使わせるのは申し訳ないよ」
「いやいや、自分にも使えるんだし、別に勿体無いとは思わないよ。そもそもヒールと自己バフ用にと思って取った技能だからさ」
「んむ。そうなると、回避向上系や、壁やシールドを作り出す系のスキルが役に立つであるなもし」
壁か。
火属性の壁は意味なかったが、確かにヒーラーが使う壁スキルは使えるかもしれない。
例えば一定ダメージを無効化してくれるシールドとか。
ソロの時にはモンスターとガチンコ勝負しなきゃならないし、パーティーの時だって前衛に掛ければ喜ばれるだろう。
火力に支援に、両方をこなせるマジック!
きっとパーティーからひっぱりだこになれるはず!!
「ちょっとスキル作ってみるわ」
「え!? ほ、本当に作るの??」
「今から作って育てれば、あとあとの狩りで楽になるぞなもし。そう考えれば支援系スキルは、早めに作った方が有利ぞなもし」
「あぁ、まぁそうだね」
護衛クエの時と違い、やっぱりモンスターはまばらにしか存在しない。
まぁ街道沿いだってのもあるけどな。
二人が一匹をぼこっている間に、俺は急いでスキルの作成を開始した。
媒体は『神聖魔法』。もちろん『防御系』だ。
範囲は単体でいいだろう。
うーん、スキル名かぁ。考えるの面倒くさいな。
これでいいや。ちょっとニュアンスが違うが、解りやすいしいいか。
で、システム補正が入ってこうなる――と。
◆◇◆◇
『カッチカチ:LV1』
属性:神聖魔法
効果:一定のダメージを無効化するバリア。
また六十秒を超えると自然消滅する。
吸収できるダメージ量はスキルレベルに依存。
消費MP:25
CT:90秒
◆◇◆◇
消費したIMPは10と少ない。MPも少なめだが、CTが長いな。六十秒上限とCTは自動補正。
これ、CTを短くしたら――試しにCT60にしたらIMP消費が30になり、上限時間が三十秒になっちまった。
うーん、途中でバリアが消えても、再発動まで時間かかるなぁ。
まぁいいか。スキルレベルが上がれば、吸収できるダメージ量も増えるし。
ただ実際にどのくらい吸収できるかは、システムの裁量になってんだよなぁ。
つまり、要検証!!
元の状態に戻して決定ボタンを押す。それから――
「シースター! 『カッチカチ』やぞ!!」
「へ?」
犬のシースターが白く光りだしました。




