61:マジ、俳優になる。
後発組のほうが有利になるっていうゲームも珍しいな。
だがやっぱり納得いかない。
同じ時間を掛けてレベル上げしたのは変わらないのなら、やっぱり同じようにIMPポイントが欲しい。
『これまでの行動によるデータは全て保存されておりますので、遡って技能経験値を修正することはまぁ可能ではございますが……』
「え? マジ!? じゃあやってくれよ!!」
『いえ、それはワタクシの一存ではできません。その辺りは幹部クラスの社員様による会議で検討しませんと』
「ならやってくれ!」
『いえ、ですから社員の……つまり人間による会議ですので』
シンフォニアは蚊帳の外だという。
じゃあどうすればいいのか。
『要望をお出しになりますか? 実は既に同様の要望は多数送られておりますので、数が増えれば会議にかけられやすいかと』
「要望! 出すっ。で、公式サイトからメール出せばいいのか?」
前にやってたVRMMOでも、要望は公式サイトのメールフォームからだった。
が、『IFO』ではもっと簡単に出来るらしい。
『ワタクシ達サポートAIスタッフに直接言って頂ければ、それをフォーマットしてお送りします』
「おお! 楽でいいな。じゃあ、オープンベータテスト中の技能経験値の見直し……でいいか?」
『見直しし、現在の仕様に準じたレベル調整の要望。でしょうか』
「おお、それで頼む」
『畏まりました。それでは一つ、ワタクシからもお願いをしてよろしいでしょうか?』
ん? こいつからお願い?
『実はですね……その、ある企画が持ち上がりまして』
「企画?」
シンフォニアが頷くと、昨夜のロビーハウス劇的大改造の話しを他のロビースタッフと共用した説明する。
そこから端を発し、話しは運営スタッフ――つまり人間の社員にまで届き、そこからわいわいと盛り上がって――
『ロビー劇的大改造コンテストを開こうという話しになりまして』
「……はい?」
『ですので、各プレイヤーとそのサポートAIスタッフとが協力し、ロビー内を改造しようと。もちろん応募形式ですので、希望される方のみの参加となります』
で、応募された中から最優秀賞だのなんだのを選出するんだと。
ロビー活性化にも一役買うだろうし、サービス開始直後なんであれこれイベントやって新規ユーザーの確保もしなきゃならないんだとか。
一瞬、運営会社の舞台裏事情が見えた気がする。
それで、その企画とお願いになんの関係が?
『はい! 実は劇的大改造の見本として、ここをプロモーションムービー風にご紹介させて頂きたいと、チーフが申されまして』
「こ、ここをか!?」
『はい! 改造中のもようもデータとして保存されております。それを使って動画の作成をしたいのですが、よろしいでしょうか?』
「え? じ、じゃあ、俺ってば全国デビューするのか?」
『お嫌でしたら、モザイクなり代役を立てますっ』
モザイクって……犯罪者じゃないんだし。
寧ろ俺的には……遂にデビュー! みたいでウェルカムなんだが。
それを伝えるとシンフォニアも大喜び。
『で、では……動画の最後に「ようこそ、イマジネーションファンタジアオンラインへ」というようなセリフと、出迎える仕草を入れたいので、その撮影も』
「オッケーオッケ。出迎えるねぇ……こんな感じ?」
両手を広げて見せるが、シンフォニアのイメージでは無いらしい。
眉を潜め首を左右に振られてしまう。
じゃあ――帽子を脱いで会釈するようなポー……鳥の巣があるから帽子は被れない――と。
ようこそ、ようこそね〜。
くっくくっく。
「あ、そうだ。『ようこそ』っていうぐらいだし、せっかくだからそこの扉の前で撮影しないか? で、扉を開いて、さぁどうぞ。みたいな」
そう言って俺はゲーム内に行くための扉の前に立ち、右手でドアノブを掴む。
客をエスコートするようなイメージで、シンフォニアを招くようなポーズで迎えた。
ほぉっと溜息を吐くような感じでシンフォアニアが俺を見つめる。
よしっ。これなかなかグゥだろ?
『それ、いいですね。じ、じゃあ、撮影本番、参ります』
「おう!」
『はい、お疲れ様でした』
「お……おう」
何度だ?
何度扉を開く動作を繰り返した?
服が乱れている。
羽根をもっとふさふさに。
髪を整えろ。
笑顔を絶やすな。
何度も何度もダメ出しをされ、ようやく撮影が今終わった。
僅か十五秒たらずだってのに、何十分撮影したんだよ!
『ご協力、ありがとうございます彗星マジック様。それではごゆるりとゲームをご堪能ください』
「あ……あぁ。昼の十二時にログアウトして飯食いたいんだけど、アラーム機能とかないか?」
『でしたらこちらでお知らせしますが、十二時丁度でよろしいですか?』
「出来れば三十分前になったら教えてくれ。そこからゲーム内一時間以内にログアウトするからさ」
『畏まりました』
ゲームをする前から精神的に疲れたな。
この疲れを遊んでリフレッシュするぜ!
あ、今日の分の宿題……。
ゆ、夕方だ。晩飯までの時間にちょこっとやればいいか。
「よし、じゃあ行って来る」
『はい。いってらっしゃいませ』




