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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。 作者:夢・風魔

バーション1.01【始まり】

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56:こんな時こそアイテムモールを!(運営の叫び


 開拓中の村だという場所に到着したのは、ゲーム内ではすっかり陽も暮れた頃だった。

「皆様、無事の到着、おめでとうございます」
「んむ。皆さん頑張りましたね」

 そう言って微笑む二人のNPC。
 一人はまるで悪魔の使いのように見えるし、もう一人は天使のようだ。
 もちろん前者がアイリスで、後者がファリスなのは言うまでもない。

「お師匠様、数々の技能を伝授して頂き、ありがとうございます」
「んむ。セシリア、君ならきっと立派な騎士になれる。人を思いやり、弱気を助け、いつの日か、巨大な悪と立ち向かうのだぞ」
「はい!」

 なんだかあそこだけ雰囲気がコンシューマーゲームのようになっているぞ。
 面白いから放っておこう。

「彗星マジックよ、ご苦労だったの」
「いえ大賢者様。これぐらいどうって事ありませんよ。ついでに他の技能も教えてくれると、疲れなんか吹っ飛ぶんですけどね」
「ついでに荷物を家に運ぶのを手伝ってくれんかの」
「……ついでですね。解りました」

 そのついでじゃねえ!
 っと心の中で叫んでおこう。

 ドドンと夢乃さんはアイリスとファリスに別れを告げに行っているようだ。なので俺一人で荷物を運ぶはめになる。
 荷馬車に乗った荷物は、ベッドやらタンスやら、大きな風呂敷包みやらだ。
 それをふんぬっと持ち上げて――

「マジックさん、手伝いま――ず、随分と力持ちですね」
「あ、トリトンさん。いやぁ、丸太運びを手伝ってたもんで、怪力技能も習得できちゃってるんですよ。それのお陰かな?」
「なに? お主、そんな技能までもっとるのか。ふーむ。乗牛といい、魔術師とは縁の無い技能だのぉ」

 それを言わないでくれ。
 他の技能は何があると問われ、手持ち技能を正直に話す。
 タンスを背負ってピリカに案内された家まで運ぶ間、大賢者は歩きながらのシンキングタイムに入った。これはシステム的なシンキングじゃなくって、キャラとしてのソレだろう。
 次の荷物を運び、そして更に次の荷物を運び……全ての荷物をほぼ俺一人で運び終える頃、ようやく大賢者が口を開いた。

「お主、近接戦闘を念頭において技能を選択しておるのか?」
「なんでですか?」
「格闘や敏捷といった技能を持っておるではないか。それに鷲掴みに怪力じゃ」

 前の二つは防御面と、敵の攻撃を華麗に躱す魔術師カッケーと思ったから。
 後ろの二つは意図的に習得した訳じゃない。
 そう話すと「やはり近接ではないか」と呆れた口調で言い放たれる。

 うんまぁ、正直、近接を念頭に入れてるよな。だってその距離じゃないと当たらないんだし、仕方ないだろ!

「実は俺、コントロールが極端に悪くって、遠くから的に何かを当てるってのが苦手なんですよ」
「当たらぬか?」
「当たりません」
「そうか……」

 大きな溜息を吐き捨てた大賢者は、やれやれと言いたそうな顔で俺を見つめるとこう言った。

「魔法操作、魔力操作という技能がある」
「操作?」
「そうじゃ。魔法操作は完成した魔法を操って、自由に動かしたり形を変える事が出来る技能じゃ。高威力の単体魔法でも、この技能があれば新しくスキルを作らずとも拡散タイプにする事もできる。まぁ範囲は狭く、こつを掴むまではなかなか難しいがの」
「でもなんか面白そうですね。もう一つのは?」
「魔力操作は、スキルレベル以下であれば、その威力を細かく変化させられる技能じゃ。魔法攻撃によるダメージヘイトの管理も出来る」

 ヘイト管理! いいねぇそれ。
 INT先行だとどうしても前衛からタゲを取ってしまうからな。
 今はまだモンスターのHPも低く、タゲを取っても次の一手で倒せたりするからなんとかなってるが。
 魔法の形を自由に変えれるってのもいいなぁ。

「これを習得すれば、少しは役に立つじゃろ。後衛・・らし――」
「教えてくれるんですか!? マジですか!?」
「う、うむ。まぁ礼として受け取るが良い」

 そう言って大賢者が杖で俺のデコを小突く。
 またこれか!
 ステータスを確認すると、確かに『魔法操作:LV1』『魔力操作:LV1』と書かれた技能が新しく加わっていた。スキルに『形状変化:LV1』というのが加わっているが、たぶん魔法操作技能のスキルだろう。ってことは魔力操作には初期スキルが無いのか。
 技能説明には――

 魔法操作が、【魔法を変幻自在に操る事が出来る。】
 魔力操作が、【スキルレベル以下であれば魔法の威力を細かく変化させられ、ダメージヘイトの調節も可能】

 とあった。
 変幻自在か。
 バリバリと放電する雷の魔法をハンマーみたな形に出来たりするのかな。
 トールハンマー! なんつって。
 いいねいいねぇ。ピコハンみたいにして、それで殴るような感じで攻撃できれば尚面白くね?

「ありがとうございます、大賢者様!」
「うむ。使い方次第では、こんな事もできるぞい」

 そう言って大賢者がむにゃむにゃと何かを唱えると、彼の右手からは小さな炎が、左手からは蒼白く光る火花が生まれた。
 左手は雷属性だな――って!?

「両手で別々の魔法を!?」
「技能レベルが上がれば、こうして同時に二つの属性魔法も作れる」
「す、すげ――」

 と大絶賛しようとしたとき、大賢者が生み出した炎が膨れ上がった。
 そして――

 ぼんっ!

 という轟音と共に暴発した炎は、新居に黒煙を齎すのであった。





 あわや大惨事になるかと思ったが、そこはさすがゲームだな。
 一瞬家の中がすすだらけになったものの、数秒後には綺麗に元通りに。
 火事にならなくてよかったぜ。

 音で駆けつけたセシリア、夢乃さん、ドドンの三人。さっきのパーティーの面々もやってきていた。
 なんでもない事を告げると、三人以外は解散。
 助っ人NPC二人はもう村を出発して、アイリスの当初の目的地であったなんとかって町に向ったらしい。

「凄い音やったけど、何もないならよかったばい」
「マジ聞いてくれ! 俺『ヒール』覚えたぜっ」
「は?」
「私も教えて貰った」
「私もばい」

 何故そうなった?

 聞けば三人は、アイリスに『神聖魔法』を教えて貰ったとか。
 ソロの時に役に立つから、と。
 くっ。俺のプチヒーラーとしての立場が!

「おお、俺だって新しい技能増えたんだからな!」
「おめ」
「おめでた」
「おめめ」
「そういやステータス見た? なんかIMPが随分増えてる気がするんやけど、皆はどう?」

 言われてステータスを再確認。
 技能も増えたし、今回は戦闘頻度も多かったからじゃねえか? だから技能レベルも上がって――


◆◇◆◇

【セット技能】
『雷属性魔法:LV15』|(9up) / 『神聖魔法:LV9』|(4up)
『格闘術:LV10』|(6up) / 『敏捷向上:LV7』|(4up)
『魔力向上:LV15』|(9up) / 『鷲掴み:LV14』|(8up)
『採取技能:LV1』 / 『乗牛技能:LV1』
『怪力:LV3』|(2up) / 『木工技能:LV4』|(3up)
『空間移動魔法:LV2』|(1up) / 『炎雷属性魔法:LV3』|(2up)
『近魔―命、大事に――:LV1』|(new) / 『火属性魔法:LV4』|(new)(3up)
『土属性魔法:LV2』|(new)(1up) / 『魔法操作:LV1』|(new)
『魔力操作:LV1』|(new)


IMP:74

◆◇◆◇


 おぉ、増えてる増えてる。
 クエスト開始時にレベル14で、雷技能はレベル7だった。
 キャラレベルが三つ上がる間に、技能レベルは8も上がったのか。うひょー。

 うひょー?

「な、なんか技能レベルの上がりかた、激しくね?」
「彗星君もやっぱりそう思う?」
「あ、お師匠に教わった技能が、全部4以上になってる!」

 俺も火属性がもう4だな。
 なんか技能レベル上がるの早くないか?
 技能覚えてから二時間ぐらいしか戦闘してないんだが。

「アプデ内容にバランス調節ってあったけど、もしかしてIMPの調節とか?」

 というドドンの言葉に、若干納得できる点はある。
 サービス前の状態だと、攻撃スキルを作ろうと思ってもIMP不足で範囲攻撃はまともに作れない。単体スキルだって、レベル11ぐらいまで上げてても一つか二つ作れるかどうかって感じだった。
 実際作ったのは技能複合型の移動スキル? であったが、それでも貯まったIMPの半分は使ってしまったし。
 今のIMPがあれば攻撃スキルを三つか四つ作れるだろう。範囲攻撃を加えても、少しお釣りがくるんじゃないかな。

「スキルを自由に作れると謳ってたんだ。このぐらいサクサクIMP貯まってくれなきゃ意味ないよな」
「そうやね。私もこれで裁縫スキルを……ふふふ、どんなスキルを作ろうかなぁ」

 さ、裁縫スキル?
 縫い物するのに、スキルとかあるのかよ。
 とりあえず煌々とした夢乃さんの顔を見る限り、ロクなスキルじゃなさそうだ。

 ドドンもセシリアも、今度は攻撃スキルを作るという。
 俺もやっぱり攻撃スキルだな。
 新しい技能のほうは、スキルを作るのには関係なさそうだ。それよりも既存スキルを使った際に、なんか効果がありそうなタイプだな。
 いろいろ検証してみたい。

「マジック君、ぷぅが元気ない」
「え?」

 セシリアの一言で皆の視線が俺の頭上に集まる。
 そういやこいつ、村に到着してから一言も鳴いてないな。

「彗星君、ぷぅちゃんの様子おかしいばい?」
「おかしい?」

 巣に手を伸ばして捕まえてみると、特に鳴く事もなく、掌の上でじっとしている。

「マジ、ぷぅに餌を食わせたか?」
「餌?」

 そんな物食わせて――あっ!
 ペットモンスターって、餌が必要だったんだっけか!?
 持ってねえぞ、そんなもの。
 餓死するのか?
 したらどうなる?

 鳥の群れに追われ、突かれてズタボロになる俺――が脳裏に浮かぶ。

「ど、どうしよう。餌買ってねえよ」
「村には――売ってないよな」
「アイテムモールに餌も売っていたぞ!」

 アイテムモール?
 課金じゃねえか!

「500AQポイントが配られてるはずばい。それを使えばモールでの買い物もできるけど……」
「そ・れ・だ!」

 アイテムモール、アイテムモール……なんでコミュニティーになるんだよ!
 画面を開くと、可視化されたウィンドウが現れ、何故か右上の吹き出しにシンフォニアが映っていた。

『いらっしゃいませ彗星マジック様。お買い物でございましょうか?』
「……お前は何でそこに居るんだ?」
『所謂お店番というやつでございます。お買い物でございますか?』
「……ペットフード……」

 畏まりましたと彼女が言うと、該当アイテムが二つ表示された。

『現在販売されておりますのは、こちらの『三ツ星ペットフード』と『五つ星ペットフード』でございます』

 三ツ星は150AQ。五つ星は200AQか。一つ五袋入りだと書いてある。
 当然ここは――

「安い方」
『……畏まりました』

 なんだその間は!
 あと外野、五月蝿いっ。
 どうやらアイテムモールで買い物している時の会話は、外部に駄々漏れのようだ。
 システム画面は他のプレイヤーには見えないし、他人から見れば独り言を言ってる妖しい奴じゃねえか。

『インベントリに三ツ星ペットフードを転送いたしました。変わりに150AQを差し引いております。またのご利用をお待ちしております』

 ぺこっとシンフォニアが頭を下げると、アイテムモール画面が閉じた。

「ぷぅ、これを食え!」

 インベントリには新しく紙袋のアイコンが加わっていた。一つの枠に三袋入っているようだ。
 星三つが描かれた紙袋を一つ取り出すと、中にはきび団子のようなものが一つだけ入っていた。
 ぷぅに見せるやいなや、奴の眼がギラリと光り、物凄い速さで団子をがっつく。
 食べ終わったぷぅは、満足そうに腹を膨らませ――

《ぷっぷぷぅ〜♪》

 と機嫌よさそうに一声鳴くと……

「寝た?」

 zzzというマークを頭上に浮かべて目を閉じてしまった。
 これ、寝たときのいびきマークだよな?

「寝る子は育つっていうやん」
「うむ。私もそろそろ寝るかな。明日は孵化器を買ってこの子を……うふふ。なんて名前にしようかなぁ」
「俺も」
「じゃあ私もー。清算は明日でいい? 今はどっちにしろ、インベントリに空きが無いから町に戻ってからやないと」
「俺、明日は午前中のログイン出来ないんだ」
「私は昼間、ログイン出来ない」

 じゃあ夜にってことで、パーティーもこの場で解散させ、夢乃さんが夜八時過ぎに全員にメッセージを送るという事になった。

 俺は……うん、寝るかな。
 技能の検証なんかは明日しよう。
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