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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション1.01【始まり】
54/268

54:マジ、死亡。

【戦闘不能状態になりました】

【最寄のセーブポイントに帰還しますか?】

【はい   いいえ】


 半漁人に押し倒され、尚且つ奴の攻撃をまともに食らった俺は、ほぼ即死状態!?

 え、視界が灰色なんですけど。

 死んだって、どうしよう。オープニングイベントん時みたいに復活しないのか?

 いや、するだろ。

 ってことはセーブポイントに戻れば安泰!?


【はい】をポチるとそこは……。


「トイレ休憩の村……だよな」


 戸数僅か十軒たらずの極小村。ほんの小一時間前ぐらいに見たあの村だ。


「お、おおぉう。どうしよう。まさかこの村がセーブポイントになってたとは」


 ここからダッシュでさっきの川まで……走っても三十分以上掛かるだろっ。どうすんだこの状況!

 視界に見える簡易パーティー欄。

 セシリアのHPがぐぅーっと減ると、また一気に回復している。自前の課金ライフポーションを飲んだんだろう。

 夢乃さんやドドンのHPは維持できてるが、MPが減ったり増えたりしている。二人とも、ポーション飲んで必死に頑張っているようだ。

 火力が減った三人パーティーで、ボス相手ってのは厳しいだろ!?


「あぁぁぁ、俺の馬鹿あぁぁっ」


 今すぐ飛んで行って合流しないと、ライニャーに皆が食われてしまうっ。

 今すぐ飛んで……飛んで!?


「俺死んで、戦闘状態解除されてるからテレポ使えるじゃん!」


 俺ってば冴えてるぅ。

 テレポは一度来た場所なら、どこでも飛んで行ける仕様だ。

 さっきまでの戦場が、俺にとって新エリア内では最も奥になる位置になる。

 テレポを唱え、表示されるマップの、ここから東の方角を見る。川も目印になっているので、それらしい場所はすぐに解った。

 拡大し、表示された橋の――奥側をタップする。


【未進入エリアです。設定しなおして下さい】


 なら橋の手前だ。

 タップした途端、視界がぐにゃりと歪む。次の瞬間には景色が一変し、五十メートル程はなれた場所で枯れ木の化け物が見えた。その直ぐ先にはライニャーの姿も。


「よっしゃー! 奴等の背後に出れたぜっ」


 慌てて皆の所へ駆けつけようと走り出したが、後ろから大賢者に呼び止められてしまう。


「大賢者様、今は忙しいのでまた後で」

「今じゃ! 今じゃから呼び止めたのじゃ。しかしまぁ、上手いこと戻ってこれたの」

「あぁ、それはテレポのお陰で」

「なに! なら儂のお陰じゃろう。素直に従うがいい」


 ぐっ……まさにその通りなので言い返せない。

 手招きする大賢者の下に走っていくと、行き成り杖で額をど突かれた。

 くっ。痛ぇじゃないか――はっ、もしやこれは!?


「だ、大賢者様っ」

「んむ。土属性の魔法を伝授してやったぞ。じゃがこれでもお主のパーティーは人数不足で苦戦するじゃろう」


 そこはどうにもならない所なので、手数でなんとか頑張るしかない。

 いや寧ろあんたが参戦してくれれば……ブツブツ。まぁ無理だろうな。

 ステータスを確認し、新たに『土属性魔法』が加わったのを見る。そしてスキルには『ロック』というのがあった。

 そういやクエスト中にレベルが上がって16になってるが、ステータスも振ってないな。

 とりあえず今は火力が少しでも欲しい。迷わずINTに全振り!


 ポーションの残量も確認する。

 ゲーム内で流通する通常ポーションはまだ結構あるな。課金はライフが残り九本。マジポは……無い。

 けど、ポーションは他にもある!


 INT10アップ。

 五分間だけ有効だというブーストポーションだ。

 他にもステータス+10各種、命中率、回避率10%アップ、防御率10%アップ、HP+500、MP+500なんてのもある。

 この際だ、全部飲んでしまえ!


 ぐびっと全部を飲み干すと、体の底から力が漲ってくるような……徹夜明けでエナジードリンクを飲んだ後のような興奮が沸きあがる。


「うおおぉぉぉぉっ、きたきたきたあぁーっ!」

「その調子でぶちかまして来るのじゃ!」

「はいっ、お師匠様っ」

「弟子はとらんっ」


 ダッシュで駆けて行き、ライニャーの背後からまずはファイアを全力で浴びせる。

 そのダメージは640!!

 おぉ、ダメージがワンランク上がったぞ。


《ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷ》


 なんか頭上から屁の三三七拍子が聞こえてくる。

 ぷぅの応援か。そういやペットって、戦闘には参加しないが、バフ効果があるみたいな事書いてたな!

 よぉし、更に俺様パワーアップ!

 だったら次は――


「『ロック!』」


 覚えたばかりのスキルを唱えると、足下からソフトボール大の石がふわっと浮かび上がった。

 そうか、これを――


「そうじゃ、それを――」

「掴んで――」

「念じて――」

「奴を――」

「奴に――」

「殴れっ!」

「放て! って、何故そうなるのじゃああぁぁぁっ!?」


 浮き上がった石をぐわしっと掴み、そのまま目の前のライニャーの背に思いっきり押し当てた!

 ゴキっという音と共に浮かび上がるダメージ数値は999!!

 激痛だったのか、ライニャーも背を仰け反らせて鳴いている。

 が、ヘイトは取っていないようだ。


「そうか、死んだから俺が蓄えたダメージヘイトもリセットされたのか。ありがたや〜。これなら最初からフルパワーで戦えるぜ!」


 ロックからサンダーフレア。多段ヒットが終わるとロックのCTは既に明けており、ここで再びロック。そこからファイアを撃つ。

 サンダーフレアのCTが明けるまで、ロックとファイア、CT明け待ちに一瞬座ってMPの自然回復量を調整。ダメージ量の少ないサンダーはMPの無駄使いと判断して切り捨てだ。


「マジック君! 戻ったのかっ」

「あぁ。待たせたな。いやぁ、テレポートがあって良かったぜ。お陰でここまで一瞬で来れたし」


 そう言うと、ライニャーの向こうからドドンが短い足でやってきた。


「なんでマジ死に戻ったんだよ!」

「いや、なんでって……死んだし」

「そのまま待ってればアイリスが起こしてくれたのに」

「え?」


 だってアイリス戦闘中――と思ったら、ウッドマンと戦闘していたメンバーの人がバタっと倒れた。

 そして駆けつけてくるアイリス。

 少し離れているのでなんて言ってるのか解らないが、うにゃうにゃと呪文を唱えると、倒れた奴がむくっと起き上がった。


「蘇生魔法……持ってたのかよ」

「持ってたんだよ」


 ……い、いや、無事に戻ってこれる手段あったんだし、問題ないない。

 それにその場で蘇生されてたら、即戦闘状態になっただろうし、そうなったら大賢者から土魔法も伝授されてなかったろうしな。

 それに、ブーストポーションを飲む余裕も無かっただろう。

 け、結果オーライさ。うん。


 ふ、ふぅ。オープニングイベントと同じノリだと勘違いしたが、テレポートがあってホント助かった。

 汚名返上するために、全力でぶっぱなすぜ、ウリャー!


 そこからの俺の快進撃は、自分で言うのもなんだが見事なものだった。

 死んだ事でダメージヘイトもリセットされていたもんだから、有効打中心に魔法をぶっぱしてもタゲが跳ねることもなく、安心して打ち続けられる。

 ライニャーのHPが二割を切ると、遠くで大きな水しぶきの上がる音が聞こえた。

 それと同時に光る俺。

 いったい何事!?

 え? レベルが上がってる? なんで??


「マ、マジ!? お前の頭、光ってるぞっ」

「あ、ああ。なんかレベル上がったみたいで」

「そうやなくて、彗星君の羽根……鳥の巣に刺さっとる羽根が光っとるばい!」

《ぷぷぅー♪》


 はいー?

 見えない俺にとっては何が何やら。


《ニャゴゴゴゴオォォォッ》

「くっ。そろそろマジック君に貰ったポーションも無くなるっ」

「うぉ。今は俺の頭の事とかどうでもいい。二人とも、全力でぶっぱだ!」

「おうっ」

「オッケー」


 ロックを唱えると、少し大きめの石が浮き上がってきた。

 それをぐわしっと掴み、体を捻って思いっきり奴の背中へと叩き付けるっ。

 うん。これじゃあまるで殴りマジだな。まぁダメージがINT依存なんだし、殴りじゃないさ。

 しかしなんかダメージがもうワンランクアップしてないか?

 1100ちょいになってたんだが。

 まぁいいか。これでたたみ掛けられる!


「ウッドマン討伐完了! 助太刀するぜ」

「よっしゃ、頼んます」


 これで鬼に金棒!

 ファイア、サンダーフレア、そしてロック!

 ライニャーのHPが一割を切った。更にたたみ掛け!

 数発お見舞いすると遂にはダメージヘイトを取ってしまい、奴がこちらに振り向いてしまった。


「うぉぉぉぉ、マズイマズイマズイ! さっさとクタバレ『ロック!!』」


 奴の眉間目掛けて石を叩き付けると、一瞬だがヒヨコが現れた。

 ピヨった!?


《ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷ》

《ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷ》


 再び屁の三三七拍子が始まる。


《ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷ》

《ぽっぽっぽ。ぽっぽっぽ。ぽっぽっぽっぽっぽっぽっぽ》

《ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷ》

《ぽっぽっぽ。ぽっぽっぽ。ぽっぽっぽっぽっぽっぽっぽ》


 ん?

 なんか違う音が混じってないか?


《ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷ》

《ぽっぽっぽ。ぽっぽっぽ。ぽっぽっぽっぽっぽっぽっぽ》


 絶対混じってる。なんか混じってるううぅぅっ。


 ばささっと背後の森から無数の鳥が羽ばたいた。

 ぎゃああぁぁぁっす。俺が死ぬううううぅぅぅぅぅっ!?


《ぽっぽっぽー》

《ぽっぽっぽー》

《ぽっぽっぽー》


 一斉に鳴き始める……鳩?

 いや、見た目は灰色のボールだ。ボールっぽい鳥だ。

 そいつらが一斉に鳴き始め、何故かライニャーの目がとろーんっとなりはじめる。


「ちょ、あっちのパーティーの人、寝てるし!」

「な、なんだって!?」


 主に寝ているのは前衛組。でもセシリアは寝ていない。どういう事?


「こ、この鳴き声、睡眠判定が入ってるわ」

「INT低いとほぼ全滅っぽい」


 と、立っている向こうのメンバーが言う。立っているのはヒーラーと、俺と同じ魔法職の人だ。

 でもこっちは俺以外、INT上げてないだろ? なんで?


《ぷぷぅ♪》

《ぽぽぅ♪》


 いつの間にやら俺の肩にボールが一個。じゃない、鳥モンスターが一羽止まっていた。

 見た目はピチョンそっくりの色違い。つまりこいつらは同じ種族なのか。

 ま、まさか……


「ピチョンの称号か!? 約束を守っている間、ピチョン系モンスターと友好的になれるとか書いてあった気がするっ」

「え? じゃあマジと同じパーティーの俺等にも、睡眠効果がこなかっただけってこと?」


 そう考えるのが妥当だろう。

 共闘はしているが、向こうのメンバーとはパーティーを組んでいないから、あの鳥モンスターから見ればただのプレイヤーって事になる。

 ターゲットはライニャーだったんだろうが、範囲攻撃だったようでプレイヤーも巻き込んだんだろう。

 頬ずりしている鳩モンスター。

 うん。羽根が気持ちいい。

 これは……ちょっと可愛いかもしれない。


 そう思った瞬間――


《ぶぅっ!》

《ぽっ、ぽぽーっ》


 巣からダイブしてきたらしいぷぅに足蹴りされ、鳩モンスターが飛び去ってしまった。

 なんてことしやがる!


「さて、ライニャーが眠っている間に止めを刺そうぜ」


 そう言いながらドドンが斧の柄をにぎにぎしながら近づく。

 ドドン。お前その斧、弓ですから!


 寝息を立てて眠るライニャーは、大きな猫みたいなものだ。

 そんなライニャーを前にして、やっぱりというか案の定というか、セシリアが苦しげな表情を見せた。


「うぅ、ライニャー……」

「セシリア。まだテイムしたいのか?」

「テイム? いや、私は召喚魔法を持っていないから」


 いや、そうじゃなくって。


「卵、まだ持ってるのか?」


 と尋ねると、彼女は首を左右に振る。

 一個しか買ってなかったのかよ!


「卵だったら、アイテムモールに封印率の高いのが売ってますけど?」


 という悪魔の囁きが、生き残った|(?)ヒーラーさんから齎された。

 直後、セシリアが光の速さでシステムメニューを操作しはじめる。

 まさか……まさかだよな?


「お、おいセシリア。相手はボスモンスターだぞ? いくら動物型だからって、封印出来る訳――」

「買った!! そして私は勝つ!!」


 ダメだこりゃ。人の話し全然聞いちゃいねえ。






 鳩ぽっぽが大合唱される戦場に立つセシリアは、その手に光輝く黄金の卵を握り締めている。

 結局、ボスの封印に関して起きているメンバー全員がOKサインを出した。

 まぁ面白そうだしな。

 出来なかったら笑うだけ。出来ても失敗したらやっぱり笑うだけ。

 成功したら……いやいや、無理だって絶対。ははっ。


 ごくり。


 睡魔に抵抗して起きているヒーラーさんと魔術師さん、そしてこちらのパーティーメンバー。あとファリスとアイリスの二人。

 全員が固唾を呑んで見守る中、遂にその時は来た!


「とりゃあぁぁぁぁっ!」


 セシリアの手から投げ放たれた黄金の卵は、ライニャーの後頭部にぶつかると――

 割れた!?


「わぁぁぁぁぁっ、500AQの卵がぁぁぁっ」


 うん、まぁそうだよな。失敗するよな。

 そう思った矢先、割れた卵から白煙が発生し、もくもくとライニャーを包んでいく。


 お、おい、まさか……


 数秒後、沈みゆく太陽を背に、煌々とした顔で仁王立ちするセシリアの姿があった。

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