54:マジ、死亡。
【戦闘不能状態になりました】
【最寄のセーブポイントに帰還しますか?】
【はい いいえ】
半漁人に押し倒され、尚且つ奴の攻撃をまともに食らった俺は、ほぼ即死状態!?
え、視界が灰色なんですけど。
死んだって、どうしよう。オープニングイベントん時みたいに復活しないのか?
いや、するだろ。
ってことはセーブポイントに戻れば安泰!?
【はい】をポチるとそこは……。
「トイレ休憩の村……だよな」
戸数僅か十軒たらずの極小村。ほんの小一時間前ぐらいに見たあの村だ。
「お、おおぉう。どうしよう。まさかこの村がセーブポイントになってたとは」
ここからダッシュでさっきの川まで……走っても三十分以上掛かるだろっ。どうすんだこの状況!
視界に見える簡易パーティー欄。
セシリアのHPがぐぅーっと減ると、また一気に回復している。自前の課金ライフポーションを飲んだんだろう。
夢乃さんやドドンのHPは維持できてるが、MPが減ったり増えたりしている。二人とも、ポーション飲んで必死に頑張っているようだ。
火力が減った三人パーティーで、ボス相手ってのは厳しいだろ!?
「あぁぁぁ、俺の馬鹿あぁぁっ」
今すぐ飛んで行って合流しないと、ライニャーに皆が食われてしまうっ。
今すぐ飛んで……飛んで!?
「俺死んで、戦闘状態解除されてるからテレポ使えるじゃん!」
俺ってば冴えてるぅ。
テレポは一度来た場所なら、どこでも飛んで行ける仕様だ。
さっきまでの戦場が、俺にとって新エリア内では最も奥になる位置になる。
テレポを唱え、表示されるマップの、ここから東の方角を見る。川も目印になっているので、それらしい場所はすぐに解った。
拡大し、表示された橋の――奥側をタップする。
【未進入エリアです。設定しなおして下さい】
なら橋の手前だ。
タップした途端、視界がぐにゃりと歪む。次の瞬間には景色が一変し、五十メートル程はなれた場所で枯れ木の化け物が見えた。その直ぐ先にはライニャーの姿も。
「よっしゃー! 奴等の背後に出れたぜっ」
慌てて皆の所へ駆けつけようと走り出したが、後ろから大賢者に呼び止められてしまう。
「大賢者様、今は忙しいのでまた後で」
「今じゃ! 今じゃから呼び止めたのじゃ。しかしまぁ、上手いこと戻ってこれたの」
「あぁ、それはテレポのお陰で」
「なに! なら儂のお陰じゃろう。素直に従うがいい」
ぐっ……まさにその通りなので言い返せない。
手招きする大賢者の下に走っていくと、行き成り杖で額をど突かれた。
くっ。痛ぇじゃないか――はっ、もしやこれは!?
「だ、大賢者様っ」
「んむ。土属性の魔法を伝授してやったぞ。じゃがこれでもお主のパーティーは人数不足で苦戦するじゃろう」
そこはどうにもならない所なので、手数でなんとか頑張るしかない。
いや寧ろあんたが参戦してくれれば……ブツブツ。まぁ無理だろうな。
ステータスを確認し、新たに『土属性魔法』が加わったのを見る。そしてスキルには『ロック』というのがあった。
そういやクエスト中にレベルが上がって16になってるが、ステータスも振ってないな。
とりあえず今は火力が少しでも欲しい。迷わずINTに全振り!
ポーションの残量も確認する。
ゲーム内で流通する通常ポーションはまだ結構あるな。課金はライフが残り九本。マジポは……無い。
けど、ポーションは他にもある!
INT10アップ。
五分間だけ有効だというブーストポーションだ。
他にもステータス+10各種、命中率、回避率10%アップ、防御率10%アップ、HP+500、MP+500なんてのもある。
この際だ、全部飲んでしまえ!
ぐびっと全部を飲み干すと、体の底から力が漲ってくるような……徹夜明けでエナジードリンクを飲んだ後のような興奮が沸きあがる。
「うおおぉぉぉぉっ、きたきたきたあぁーっ!」
「その調子でぶちかまして来るのじゃ!」
「はいっ、お師匠様っ」
「弟子はとらんっ」
ダッシュで駆けて行き、ライニャーの背後からまずはファイアを全力で浴びせる。
そのダメージは640!!
おぉ、ダメージがワンランク上がったぞ。
《ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷ》
なんか頭上から屁の三三七拍子が聞こえてくる。
ぷぅの応援か。そういやペットって、戦闘には参加しないが、バフ効果があるみたいな事書いてたな!
よぉし、更に俺様パワーアップ!
だったら次は――
「『ロック!』」
覚えたばかりのスキルを唱えると、足下からソフトボール大の石がふわっと浮かび上がった。
そうか、これを――
「そうじゃ、それを――」
「掴んで――」
「念じて――」
「奴を――」
「奴に――」
「殴れっ!」
「放て! って、何故そうなるのじゃああぁぁぁっ!?」
浮き上がった石をぐわしっと掴み、そのまま目の前のライニャーの背に思いっきり押し当てた!
ゴキっという音と共に浮かび上がるダメージ数値は999!!
激痛だったのか、ライニャーも背を仰け反らせて鳴いている。
が、ヘイトは取っていないようだ。
「そうか、死んだから俺が蓄えたダメージヘイトもリセットされたのか。ありがたや〜。これなら最初からフルパワーで戦えるぜ!」
ロックからサンダーフレア。多段ヒットが終わるとロックのCTは既に明けており、ここで再びロック。そこからファイアを撃つ。
サンダーフレアのCTが明けるまで、ロックとファイア、CT明け待ちに一瞬座ってMPの自然回復量を調整。ダメージ量の少ないサンダーはMPの無駄使いと判断して切り捨てだ。
「マジック君! 戻ったのかっ」
「あぁ。待たせたな。いやぁ、テレポートがあって良かったぜ。お陰でここまで一瞬で来れたし」
そう言うと、ライニャーの向こうからドドンが短い足でやってきた。
「なんでマジ死に戻ったんだよ!」
「いや、なんでって……死んだし」
「そのまま待ってればアイリスが起こしてくれたのに」
「え?」
だってアイリス戦闘中――と思ったら、ウッドマンと戦闘していたメンバーの人がバタっと倒れた。
そして駆けつけてくるアイリス。
少し離れているのでなんて言ってるのか解らないが、うにゃうにゃと呪文を唱えると、倒れた奴がむくっと起き上がった。
「蘇生魔法……持ってたのかよ」
「持ってたんだよ」
……い、いや、無事に戻ってこれる手段あったんだし、問題ないない。
それにその場で蘇生されてたら、即戦闘状態になっただろうし、そうなったら大賢者から土魔法も伝授されてなかったろうしな。
それに、ブーストポーションを飲む余裕も無かっただろう。
け、結果オーライさ。うん。
ふ、ふぅ。オープニングイベントと同じノリだと勘違いしたが、テレポートがあってホント助かった。
汚名返上するために、全力でぶっぱなすぜ、ウリャー!
そこからの俺の快進撃は、自分で言うのもなんだが見事なものだった。
死んだ事でダメージヘイトもリセットされていたもんだから、有効打中心に魔法をぶっぱしてもタゲが跳ねることもなく、安心して打ち続けられる。
ライニャーのHPが二割を切ると、遠くで大きな水しぶきの上がる音が聞こえた。
それと同時に光る俺。
いったい何事!?
え? レベルが上がってる? なんで??
「マ、マジ!? お前の頭、光ってるぞっ」
「あ、ああ。なんかレベル上がったみたいで」
「そうやなくて、彗星君の羽根……鳥の巣に刺さっとる羽根が光っとるばい!」
《ぷぷぅー♪》
はいー?
見えない俺にとっては何が何やら。
《ニャゴゴゴゴオォォォッ》
「くっ。そろそろマジック君に貰ったポーションも無くなるっ」
「うぉ。今は俺の頭の事とかどうでもいい。二人とも、全力でぶっぱだ!」
「おうっ」
「オッケー」
ロックを唱えると、少し大きめの石が浮き上がってきた。
それをぐわしっと掴み、体を捻って思いっきり奴の背中へと叩き付けるっ。
うん。これじゃあまるで殴りマジだな。まぁダメージがINT依存なんだし、殴りじゃないさ。
しかしなんかダメージがもうワンランクアップしてないか?
1100ちょいになってたんだが。
まぁいいか。これでたたみ掛けられる!
「ウッドマン討伐完了! 助太刀するぜ」
「よっしゃ、頼んます」
これで鬼に金棒!
ファイア、サンダーフレア、そしてロック!
ライニャーのHPが一割を切った。更にたたみ掛け!
数発お見舞いすると遂にはダメージヘイトを取ってしまい、奴がこちらに振り向いてしまった。
「うぉぉぉぉ、マズイマズイマズイ! さっさとクタバレ『ロック!!』」
奴の眉間目掛けて石を叩き付けると、一瞬だがヒヨコが現れた。
ピヨった!?
《ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷ》
《ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷ》
再び屁の三三七拍子が始まる。
《ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷ》
《ぽっぽっぽ。ぽっぽっぽ。ぽっぽっぽっぽっぽっぽっぽ》
《ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷ》
《ぽっぽっぽ。ぽっぽっぽ。ぽっぽっぽっぽっぽっぽっぽ》
ん?
なんか違う音が混じってないか?
《ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷ。ぷっぷっぷっぷっぷっぷっぷ》
《ぽっぽっぽ。ぽっぽっぽ。ぽっぽっぽっぽっぽっぽっぽ》
絶対混じってる。なんか混じってるううぅぅっ。
ばささっと背後の森から無数の鳥が羽ばたいた。
ぎゃああぁぁぁっす。俺が死ぬううううぅぅぅぅぅっ!?
《ぽっぽっぽー》
《ぽっぽっぽー》
《ぽっぽっぽー》
一斉に鳴き始める……鳩?
いや、見た目は灰色のボールだ。ボールっぽい鳥だ。
そいつらが一斉に鳴き始め、何故かライニャーの目がとろーんっとなりはじめる。
「ちょ、あっちのパーティーの人、寝てるし!」
「な、なんだって!?」
主に寝ているのは前衛組。でもセシリアは寝ていない。どういう事?
「こ、この鳴き声、睡眠判定が入ってるわ」
「INT低いとほぼ全滅っぽい」
と、立っている向こうのメンバーが言う。立っているのはヒーラーと、俺と同じ魔法職の人だ。
でもこっちは俺以外、INT上げてないだろ? なんで?
《ぷぷぅ♪》
《ぽぽぅ♪》
いつの間にやら俺の肩にボールが一個。じゃない、鳥モンスターが一羽止まっていた。
見た目はピチョンそっくりの色違い。つまりこいつらは同じ種族なのか。
ま、まさか……
「ピチョンの称号か!? 約束を守っている間、ピチョン系モンスターと友好的になれるとか書いてあった気がするっ」
「え? じゃあマジと同じパーティーの俺等にも、睡眠効果がこなかっただけってこと?」
そう考えるのが妥当だろう。
共闘はしているが、向こうのメンバーとはパーティーを組んでいないから、あの鳥モンスターから見ればただのプレイヤーって事になる。
ターゲットはライニャーだったんだろうが、範囲攻撃だったようでプレイヤーも巻き込んだんだろう。
頬ずりしている鳩モンスター。
うん。羽根が気持ちいい。
これは……ちょっと可愛いかもしれない。
そう思った瞬間――
《ぶぅっ!》
《ぽっ、ぽぽーっ》
巣からダイブしてきたらしいぷぅに足蹴りされ、鳩モンスターが飛び去ってしまった。
なんてことしやがる!
「さて、ライニャーが眠っている間に止めを刺そうぜ」
そう言いながらドドンが斧の柄をにぎにぎしながら近づく。
ドドン。お前その斧、弓ですから!
寝息を立てて眠るライニャーは、大きな猫みたいなものだ。
そんなライニャーを前にして、やっぱりというか案の定というか、セシリアが苦しげな表情を見せた。
「うぅ、ライニャー……」
「セシリア。まだテイムしたいのか?」
「テイム? いや、私は召喚魔法を持っていないから」
いや、そうじゃなくって。
「卵、まだ持ってるのか?」
と尋ねると、彼女は首を左右に振る。
一個しか買ってなかったのかよ!
「卵だったら、アイテムモールに封印率の高いのが売ってますけど?」
という悪魔の囁きが、生き残った|(?)ヒーラーさんから齎された。
直後、セシリアが光の速さでシステムメニューを操作しはじめる。
まさか……まさかだよな?
「お、おいセシリア。相手はボスモンスターだぞ? いくら動物型だからって、封印出来る訳――」
「買った!! そして私は勝つ!!」
ダメだこりゃ。人の話し全然聞いちゃいねえ。
鳩ぽっぽが大合唱される戦場に立つセシリアは、その手に光輝く黄金の卵を握り締めている。
結局、ボスの封印に関して起きているメンバー全員がOKサインを出した。
まぁ面白そうだしな。
出来なかったら笑うだけ。出来ても失敗したらやっぱり笑うだけ。
成功したら……いやいや、無理だって絶対。ははっ。
ごくり。
睡魔に抵抗して起きているヒーラーさんと魔術師さん、そしてこちらのパーティーメンバー。あとファリスとアイリスの二人。
全員が固唾を呑んで見守る中、遂にその時は来た!
「とりゃあぁぁぁぁっ!」
セシリアの手から投げ放たれた黄金の卵は、ライニャーの後頭部にぶつかると――
割れた!?
「わぁぁぁぁぁっ、500AQの卵がぁぁぁっ」
うん、まぁそうだよな。失敗するよな。
そう思った矢先、割れた卵から白煙が発生し、もくもくとライニャーを包んでいく。
お、おい、まさか……
数秒後、沈みゆく太陽を背に、煌々とした顔で仁王立ちするセシリアの姿があった。




