52:マジ、予定通り災難にあう。
正真正銘の強力な助っ人を得た俺たちは順調に道を進んで行った。
「皆さん、あの川を渡れば私達の引越し先も、もうすぐですよ」
トリトンさんがそう言って前方を指差す。
うん、確かに川があるな。
ついでに人影も見えた。
「他の護衛パーティーみたいだぞ」
ドドンの言う通り、近づいてみるとすぐにそれが開拓民の引越し護衛グループだというのが解った。
開拓民が十人ほどで、護衛してるプレイヤーの人数は六人のフルパーティーか。
なんで川の手前で止まってんだろう?
「あのぉ、俺らも護衛クエなんですけど、なんでここで止まってるんですか?」
「え? あ、ああ。あれ見てくれよ」
プレイヤーの一人に声を掛けると、彼は俺に道を譲ってくれ、前方を指差した。
川には橋が掛かっている。
が、その橋の真ん中あたりに大きな穴が……。
「人だけなら渡れなくもないんだけどさ、荷馬車がねぇ」
「目的地まですぐだっていうし、荷物を一人ずつ背負って渡ってみるかどうするかで話し合ってたところなんだ」
「なるほど」
その話し合いにはNPCも混ざっているようで、荷物持ったまま村まで移動するのは無理だとか、川の深さは腰ぐらいまでだからそっちを渡るかとか、他に手はあるのかとか、意見はまとまりそうも無い。
「ならば修繕するしかあるまい。のぉトリトンさんや」
「そうですね。木工技能持ちの方はいらっしゃらないのですか?」
とトリトンさんが声を掛けてくる。
先に到着していたパーティー、及びそのNPC連中にも木工技能持ちは居なかった。
木工かぁ。
も……
「あれ? 俺、木工持ってるじゃん」
「え? 彗星君いつの間に」
「ま、まぁ、話せば長いんだけど……」
大工のゲンさんに教えて貰った――とだけ伝えると、トリトンさんが手を叩いて喜んだ。
「では『修繕』を覚えているのでは!?」
「修繕? えーっと……あぁ、ありますね」
ステータスを確認して、スキルがある事を確かめた。
正直、一度も使った事ないんですけど。
「私も木工技能は持っておりますから、一緒にやりましょう!」
とトリトンさん、どこから出したのか解らない木槌とか持ってるんですけど?
修繕するには材料となる木材が必要だ。
幸い川の手前には小さな森があったので、木には困らない。
で、ここで何故か活躍するセシリア。
「農村で伐採技能も教わっていたのだ。こんな所で役に立てるとは思わなかった」
「セシリアよ。どんな些細な能力であろうと、それら全ては明日の力となるのだ! 手に入れられる力はなんでも手に入れるといい」
「はいっ。お師匠様!」
女子高のノリのような、スポ根のノリような……とにかくあの二人は独特の世界をかもし出している。
トリトンさんの案で、他に手の空いたメンバーも伐採に参加する事になった。
何故か斧は向こうの護衛されてるNPCがたくさん持っているっていうね。
これ、最初からこういう流れになる予定だったんじゃね?
そもそも川向こうの村に行くNPCは決まってた訳だし、トリトンさんがここを通るのも事前に決定していた事だ。もし木工技能持ちいなくても、トリトンさん一人が修繕、もしくは誰かに技能教えてやらせるとか。
伐採に関しても斧さえあれば、そのうち習得できるからっていうトリトンさんの話しだしな。
「ぉ、なんか手応えを感じた気がする」
「そ、その手応えがもう一度あると、技能を習得できる――と農村のおじさんは言っていた」
「俺も手応えキタコレ」
「なんか採取系もやってみると面白いね」
「えぇー、だからって生産やる人が増えると、私が困るっちゃ〜」
「あはは。そこまで気合入れてやるつもりないから安心して〜」
伐採グループは楽しそうだ。
時々森からモンスターも出てくるが、どっちのパーティーがとか関係なしに皆で一斉に攻撃するもんだから、ほぼ瞬殺状態だ。
いいなぁ……。
和気藹々と楽しそうな伐採グループを横目に、俺はトリトンさんから作業手順を聞いていた。
最初に、穴の空いた部分の丸太を外す。
これは案外簡単だった。なんせ下の支えになっている太い丸太に、細い丸太が乗っかっているだけだったから。
で、次は穴埋め用に伐採された木を、横四メートルの長さに合わせて切る。これは今掛かっている橋の丸太と同じ長さだ。
切った丸太の両サイドの皮を剥ぐ。
剥いだ所を今度は、下の支えになっている丸太と噛み合わせるための溝を掘る。
支えになっている丸太にも同様の溝が掘られているので、そこに溝と同じサイズの板をかませるんだと。
最後に穴のあった部分に丸太を運んで、支え側の丸太に板を先に嵌めて、修繕用の丸太をはめ込むと完了。
以上だ。
簡易作業台を出し、備え付けの鑿で皮を剥ぎ、剥いだ所に鑿を立てて木槌で叩く!
「おぅ……貫通した」
「じゃあもう一度やりなおしね」
トリトンさんのスパルタ教育が始まった。
レベル1しかない木工技能じゃ、皮剥ぎですら失敗する。失敗すると本体部分まで削れてボツになった。
「じゃんじゃん伐採するから、安心して失敗していいけんね」
「おぉ、伐採レベル2になったぜ!」
「俺も俺もー」
いいな、あいつら。
用意する丸太の本数は十本。
十分ぐらいしてやっと一本完成した。先が遠い……
と思っていたのもさっきの事。
一本目が完成すると、木工技能のレベルは2になり、皮剥ぎでの失敗がほぼ無くなった。
二本目が完成すると、木槌で溝を掘る作業も成功率五割にまでなっていた。
そして九本目が成功し、最後の一本に!
「これでフィニッシュだぜ!」
木槌を叩こうとしたその時――
バキバキバキィ――という、数本の木が一斉に倒れる音が背後で聞こえた。
「もう伐採はいいと思うぞー」
そう言いながら振り向くと、そこには巨大な木が立っていた。
えーっと……森なんだし、木が立ってるのは当たり前なんだが……。
いやでもあの木、さっきまで無かっただろ?
それになんと言っても――
《ぼああぁぁぁぁぁぁっ》
喋ったし! 口あるし!
寧ろ顔があるし!!
「うわっ。これボスモンスターじゃん!」
伐採組の誰かがそう叫んだ。
慌てて木の化け物をじっと見つめると、その頭上に名前が表示された。
◆◇◆◇◆◇◆◇
●怒りのウッドマン / LV:20
◆◇◆◇◆◇◆◇
名前の前に黒い丸?
いや、よく見ると髑髏マークだ。これがボスモンスターのマークなのか。
感心していると今度は背後で水しぶきの上がる音が。
ウッドマンに驚いたNPCが川に落ちたとか?
振り返って見ると、寧ろそっちの方が良かったとさえ思える光景があった。
デフォルメされたコミカルな外見の半魚人が立っていた。
「その川の水深で、どこにその巨体を隠してたんだよ!!」
なんて理不尽なんだ!
俺の突っ込みに半魚人は一瞬硬直し、それから
《ギョギョギョッ》
と叫びながら槍を突き出してきた。
が、その槍は俺に届く事は無かった。
「ふっ。貴様の相手は私達がしてやろう。行くぞ、アイリス殿」
「はい、ファリス様」
最強と最狂NPCは半魚人の相手をするという。
「そっちはあの二人用かもね。サハギンのレベル、40ばい」
「「ぶっ」」
という夢乃さんの言葉に、俺だけでなくもう一つのパーティーメンバーからも声が噴出す。
そ、そういう事なら半魚人――サハギンはNPCに任せよう。
なら俺達は十人でウッドマンを――
《ニ゛ァオオォォォ》
俺が伐採組の所に向うと、そこには何故か虎のような猫のようなモンスターが居た。




