47:GM降臨。
『ゲームマスターコール、承りました。データ解析開始。該当キャラクター『ゼウス』様の直近の行動を拝見させて頂きます』
うわぁ、なんか出てきたよ。
純白のメイド服に、同色の三角頭巾。その頭巾から見える髪は青く、緩やかにウェーブしたセミロングは見覚えありまくりだ。
声も聞き覚えありまくってるし。
「ゲ、ゲームマスター!?」
聖女を追いかけてきた男は、明らかに狼狽しているようす。
あんなんでも一応「まずい事」してる自覚はあるようだ。だからこそ、ゲームマスター? の登場に逃げ腰になってんだろうし。
「彗星君。これ、ゲームマスターなんかね?」
「え……そ、そうだと思うよ。俺、ゲームマスターコールしたから」
「あ、そうなんや。やるねぇ」
「いやいや、それほどでも」
シンフォニアの言葉を思い出してゲームマスターコールをしたが……まさかあいつが出てくるとは思ってもみなかったぞ!
絶対あの白服メイド、シンフォニアだろ。
そのゲームマスターもどきシンフォニアの頭上にはモニターが出現しており、英数字の羅列が物凄い速さで下から上に流れていっている。
ふと気づいて荷馬車に視線を向けると、大賢者もトリトンさんも、はしゃいでいたピリカも動かなくなっていた。
動かなくなっているのはセシリアにしがみ付いた聖女も同様だ。
「ふ、ふひ。い、今のうちだぉ」
「えぇい、寄るな変態め!」
おいおい、この状況で聖女に手を出そうっていうのか。
さっきまで狼狽してたくせに、真性ってほんと怖いな。
ゲームマスターもどきの解析が済むまで、聖女を守ってやらねえとな。
セシリアと変態の間に立ち、奴をきっと睨みつける。
「おい、大概にしとけよ。『サンダーフレア!』」
ゴォォォォォッ、バリバリバリィーっと激しい音を立て、三メートルほどの火柱が俺の目の前に現れる。
「ひ、ひいいぃぃぃっ!」
くっくっく。馬鹿め。フレンドリーファイアもPKも実装されてないんだ。どんなに敵対心を持ってたって、攻撃がヒットするわけねえだろ。
あわあわと逃げ腰の男の前に、今度は純白メイドが立ちはだかる。
『解析終了いたしました。強姦目的による行動は、規約違反対象となっております。オープンベータテスト時にも同様の内容で警告を受けていらっしゃいますね?』
おいおい、初犯じゃないのかよ。
警告食らって尚やるって、相当な根性だな。
『チーフゲームマスターによる確認も行われました。よって、キャラクター名『ゼウス』のユーザーアカウントを永久追放とし、同IPからの接続を一切遮断とさせて頂きます』
「「おおぉ!」」
「べ、別にプレイヤーを犯そうってんじゃないんだお! ちょっとぐらいい――」
反省する様子のない奴の遠吠えは途中でかき消された。というか、奴自身もかき消された。
YOU BAN!
『この度はご不快な思いをさせてしまい、真に申し訳ございません』
そう言ってゲームマスターモドキシンフォニアは深く頭を下げる。
うーん、お前に謝られてもなぁ。悪いのはあの変態男だし、そもそも不快な思いをしたのは俺たちじゃなく、今は動かない聖女だ。
「俺らは別に、特に何かされた訳じゃないし、お前が謝る必要なんて無いんじゃないか?」
「彗星君。ゲームマスター相手にお前はダメやん」
そう言って夢乃さんが俺を肘で突く。
いや、こいつはゲームマスターっていうか……
ちらっとシンフォニアの方を見てみるが、こんな奇天烈な格好をしたのが俺んところのロビースタッフだと知られる方が恥ずかしい。
ここはゲームマスターって事にしておこう。
「す、すみません。ついタメ口になって」
『いえ、お気遣い無く。しかし、皆様にご迷惑をお掛けしたのは事実ですので、謝罪するのは当然でして』
「いいえ! 悪いのはあの男です。女の敵だ! 許せない!」
やたら鼻息の荒いセシリアに、奴はもう二度とログインできねえし、新しくアカウントを取り直す事も出来ないんだぞと説明すると、目をきらっきらにして喜んだ。喜びながら、動かない聖女に向って「良かったね、良かったね」と頭を撫でたりしている。
そういや聖女や大賢者達はなんで動かないんだ?
「なぁ、他のNPCが止まってるのは、なんでなんだ? あ、です?」
『あ、それに関しましては、ワタクシ――ゲームマスターが彼らノンプレイヤーキャラクターの視界内にいる場合、停止するようプログラムされているからでございます』
「はぁ、そうなんだ」
システム的な作業が必要な場合、それら作業を彼等に見せると、彼等のAIがパニックを起す場合があるから――と補足された。
パニクったらどうなるのか、知りたいようでもあるし、知りたくないようでもある。
『彼等には、自警団がテレポートしてやってきて、彼を連行していった――という記憶を与えますので、皆様は話を合わせて頂けると助かります』
「解った――りました」
全員が頷くなり返事をするのを待ってから、ゲームマスターシンフォニアは再び頭を下げた。
『それでは皆様、何かありましたらどうぞお気軽にゲームマスターコールをなさってください。いつでも我々は駆けつけますので』
我々って事は、他にもゲームマスターのバイトをしているNPCがいるのだろうか。
もしかしてゲームマスターって、全員NPCとか?
『では、引き続き【Imagination Fantasia Online】をお楽しみください』
シンフォニアがスカートの裾を掴み、お辞儀をするような仕草をすると――
その体が白い光の粒子となり、白からピンクへ変色。
何故か粒子が再び結合して無数のハートに!?
「わぁ、可愛い」
セシリアがそう言うと、ハートの粒子が弾けて――消えた……。
「可愛いかったねぇ」
「うん、可愛いかったぁ〜」
女子二人はそう言うが、俺はなんとも言えない気分だ。
あいつ、いつの間に魔法少女になったんだ?
動き出した聖女達はゲームマスターシンフォニアの言った通り、すべては自警団が解決してくれたという事になっていた。
ただ、自警団に通報してくれた者もいるって事で、それが誰だという話しに。
まぁ隠す必要もないし、直ぐに名乗り出たわけだが。
「まぁ、ありがとうございます冒険者様」
そう言って聖女が駆け寄ってきて、俺の手をぎゅっと掴んで来た。
身長は百五十センチあるかないかぐらいの、小柄な聖女だが、その胸だけは――でかい。
で、聖女というぐらいだから、やっぱり清楚な感じだし、かなりの美少女だ。
手を握られて嬉しくない訳がない。
「鼻の下、伸びてるばい」
「伸びとる伸びとる」
「規約違反だな。今度は私がゲームマスターコールをしてやろう」
まてまて、人を勝手にBANするんじゃない!
「してアイリス嬢よ、何故こんな所に?」
「大賢者様、知ってる人なんですか?」
「聖女アイリス。故郷の大陸でも有名なお方ぞ。神の申し子とも言われ、若くして多くの神聖魔法を習得し、多くの偉業を成されたお方じゃ」
ふーん。公式サイトにそういう情報は無かった気がするな。
神の申し子と言われた方の聖女も、首を左右に振って大賢者を称え出す。
「大賢者様こそ、五十年前に現れた異形の魔王ザンドラークを倒された勇者様を支え、この世の全ての魔法技能を習得された唯一人のお方ではございませんか」
うへっ。
大賢者、実は大物だったのか!?
「大賢者様、凄い!」
とセシリアが言うと、満更でもない顔をしながら、
「ふん。遠い昔の話じゃ」
とか、渋く決めたりしてるし。
おいおい、大賢者に聖女って……この一行に護衛が必要なのか?
そんな事を思っていると、遠くから声が聞こえてきた。
「おーい、そこのパーティーの人達ぃ〜」
どうやら俺たちを呼んでいるようだ。
男が息を切らせながら走ってくると、ぜぇぜぇ言いながら尋ねてきた。
「あの、この辺で……ちょっと目が、逝った……アレな人、見かけませんでしたか?」
目が逝った……あいつの事かな?
「口癖が『だお』の奴か?」
「そうそう、その人で――あれ?」
「ん?」
やってきた男は俺を見て固まる。
こいつ、NPCだったのか?
いや待て。なんか見覚えある気がするぞ。
誰だっけ?
「あぁ! そ、その節は大変お世話になりました」
「お、おぉ。い、いやぁ、どういたしまして」
思い出せない、誰だ?




