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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション1.01【始まり】
46/268

46:マジ、きょぬうに助けを求められる。

 荷馬車が町を出ると、なんだか様子が一変した。

 町中にプレイヤーが大勢居たのに、フィールドに出るとその数は激減。

 いや、寧ろ俺らみたいに馬車だの荷馬車の護衛してるっぽいプレイヤー以外、まったく見当たらないんだもんな。


「なぁこれって、護衛クエスト専用マップとかか?」

「うーん、この辺りの風景には見覚えあるし、専用マップというよりは専用のMOフィールドかな?」

「護衛クエ受けてるプレイヤー専用だろうな。護衛する対象は違うが、クエ持ちは全員同じフィールドってのがちょっと変わっとるけど」

「私には何がなんだかサッパリだ」

「あぁ、ネトゲ初心者だったな。えーっとだな」


 ゲーム初心者だというセシリアには難しい話しかもしれない。

 MMOには大きく分けて二種類のエリア構造がある。

 一つは全員が同じエリアに存在できるMMOタイプ。

 もう一つはプレイヤーごとに同一エリアが生成されるMOタイプ。パーティーに入っていれば同じエリアに入場できるってのは定番だが、まさかパーティーが別々なのに、同じ系統のクエスト持ってるって事で同一エリアってのは初めて聞いた。


 説明はしたが、上手く伝わっているかかなり妖しい。

 首を傾げるセシリアを見ていたら、そう思えてきた。


 しばらく進むと分岐点に差し掛かり、NPC含めたクエスト集団が北と西に分かれていく。

 俺たちは――


「北じゃ」


 大賢者の言葉通り、荷馬車は北に進路を取る。

 大賢者とトリトンさんが御者台に座り、ピリカは荷馬車から顔を出して周りの景色を楽しんでいた。

 セシリアが荷馬車の前、馬の手綱を持って歩き、俺は御者台のすぐ横に。姉弟は荷馬車の左右に分かれて前進する。


 次の分岐点に差し掛かった時、遂にモンスターの襲撃が始まった。

 出てきたのはお馴染みになっているゴブリンだ。

 まぁイメージ的に、こういうクエストで最初に登場するのって、ゴブリンだよな。


《グゲギャッ》


 しかし行き成り五匹セットかよ。さすが護衛クエストだな。


「私が!」


 そう言ってセシリアが前に出る。彼女が前に出た事で、ゴブリンのターゲットは彼女一人に絞られた。

 一気に囲まれるセシリアだが、彼女の左手には盾が構えられていた。

 あれ? いままで盾とか装備してたっけ?

 いや、してないだろ。


 盾でゴブリンを殴る。剣で別のゴブリンを斬りつける。そして叫んだ。


「ぶわぁーかっ!」


 ……馬鹿?

 言われたゴブリンは物凄く怒っているようだ。人間の言葉が解るって、賢いなこいつら。


「やった! 成功だっ。皆、安心して攻撃してくれ」

「セシリア、いつのまにヘイトスキル作ったん?」

「ふっふっふ。ゲームにログインする前、ロビーで待ってる間に作ったのだ」


 ヘイトスキル!?

 敵対心を攻撃以外の方法で自分に向けるスキルか。

 へぇ、前衛らしくなってきたじゃないか。

 しかし……あれってもしかして、スキル名『ばか』なのか?

 後で聞いてみよう。

 しかしヘイトスキルがあるってんなら――


「なら暴れるぜ! 『リターンオブテレポート』」


 セシリアの横に空いた空間を意識し、見事そこへと瞬間移動を果たすと――


「『サンダーフレア!』」


 突き出した掌の先に、稲妻を纏った火柱が出現する。


「相変らずマジック君が一緒に燃えそうで、ハラハラする」

「俺が燃えるなら、直ぐ横にい――」


 ここで俺は強制的に元の位置へと戻された。


「す、直ぐ横にいるセシリアも燃えるんだぜ?」

「あははは。燃えなくてよかったな」


 振り向かず、ゴブリンを盾でどつきながらセシリアが言う。

 だんだんアマゾネス化してないか?

 どつかれたゴブリンの命は尽き、しとめ切れていないゴブリンにも矢が飛んできて止めを刺す。


 そういや……

 ふとドドンを見ると、何故か斧を左手に持ち見えない糸でも引っ張っているのか、弓を構えるのと同じポーズをしている。

 斧の使い方、間違ってませんか?


 と思ったら、まーさーかーの、斧から矢発射!?

 どういう事!?






 戦闘も終了して移動再開。

 というか、戦闘中も荷馬車はゆっくりだが、進んでいたっていうね。


「おいドドン。斧からなんで矢が発射されてんだよ」


 さっきの光景が目に焼きついて離れない。

 ドワーフといえば斧。斧といえば近接武器。

 それがどうだ。こいつは後ろから斧を縦に構え、あろう事か弓を射るのと同じポーズで、本当に矢を打ち出していたっていうね。

 そもそも矢はどこから現れた!?


「なんでって、これ武器アバターやし。見た目が斧でも、弓のグラフィックを書き換えてるだけやん」

「見た目斧の、実は弓……」

「そうそう」


 あぁ、そうだった。斧はほんまもんの斧じゃなくって、見た目を変更するだけのアバター装備だったんだ。

 じゃあ矢は?


「矢は元々、矢筒とか持ってるわけじゃなく、射る構えをするとこう――」


 と言ってドドンが斧を構える。

 柄を短く持って、まるでホームラン宣言するかのようなその姿勢。違和感しかない。

 そこに右手を添えると、すぅっと矢が出現する。


「装備画面でセットされた矢が、インベントリの中から自動で出て来るんだぜ」

「はぁ、そういう仕組みだったのか」

「実際に矢筒から取り出すゲームもあるけど、それやったら攻撃までのスパンが長くなるけん、殆どのVRMMOじゃその仕様は受けんよ」


 と夢乃さんが説明する。

 まぁリアルさを追求しすぎると、ゲーム性を損ねるし、場合によっては職業的不遇も出て来てしまうもんな。


 そんな感じで、斧から発射される矢に納得しながらも違和感半端無い彼の戦闘に笑いすら込み上げてきそうな戦闘は何度も続く。

 小一時間もすると、俺たちの周囲に他のクエスト集団の姿は無くなった。


「俺らだけになったなぁ」

「だねぇ」

「いえ、そうでもありませんよ」


 そう言ってトリトンさんは地面を指差す。

 なるほど、よく見ると馬車の轍が残ってるな。俺たちより先にここを通った集団がいるようだ。

 目的地は一緒なのかな?


「大賢者様、開拓民の移動先って、皆別々なのですか?」


 尋ねてみると、想定内の質問だったのかすぐに返事が帰ってきた。


「同じ移住先の者もおる。今回の移民団が移住する先は、全部で二十五箇所用意されておるでな」

「中にはその移住先すら一時的なもので、安全が確保されれば更に奥地へと向う者達もいますよ」


 安全が確保?

 それはいったいどういう――と口にしようとしたところで、女の悲鳴が前方から聞こえてきた。

 声は前方の上り坂の向こうから聞こえる。


「い、いやぁぁ。こっちに来ないでくださいっ」


 すぐに声の主の姿が現れ、悲鳴を上げながら金髪碧眼の少女が走ってきた。

 純白のワンピースに、薄水色の肩掛けマント。

 段々近づくにつれ、ワンピースだと思っていたのが法衣だってことに気づく。

 なんせ金色の糸で十字架が刺繍されてんだもん、あれは法衣だろう。

 あと背が低いんで子供だと思ってたが、やたら胸がでかい……。ぼよんぼよん弾んでるぞおい。


 その少女? は、こちらに駆け寄ってくると、


「た、助けて下さい」


 そう言ってセシリアの背後に周りこんだ。

 更に彼女の後ろから、もう一人走って来る人物が居る。


「せ、聖女たん。どうして逃げるんだお。俺と君は運命の赤い糸で結ばれてるお。だからこうして三度目の出会いがあったわけだし」

「い、いやっ。来ないでぇ」


 なんか変な男が出てきたぞ。

 見た目は普通にイケメンレベルなんだろうが、目が逝ってる分、残念なイケメンというよりはヤバイイケメンだ。

 男の方はプレイヤーだが、聖女と呼ばれてるこっちは――


「あれは聖女様では。ねぇ、お義父さん」

「うむ。聖女アイリス嬢じゃな」


 大賢者とトリトンさんが知ってるって事は、NPCか。

 随分嫌がっているようだが、なにがあったんだ?


「む〜、彼女は嫌がっているではないか!」

「五月蝿いぉ。お前もまぁ可愛いけど、聖女たんほどじゃないな。特におっぱいとか」

「おっ」


 言われてセシリアは急に胸を押さえて顔を真っ赤にさせる。

 おいおい、そういう事言うか普通?


「さぁ聖女たん。俺とあっちの方へ行こうず。そして……お、おっぱいを……」

「い、いやぁーっ」


 こいつ、真性の変態かよ。

 ゲームをなんだと思ってんだ!


「ちょっとあんた! せっかくのゲームを台無しにせんといてよね!」

「そうだそうだっ。これは十八禁ゲーじゃねえんだぞ」


 姉弟も舌戦を開始する。

 二人の攻撃に怯む様子もない男は、あっさりとこう言ってのけた。


「何言ってるんだお。VRなんだから、なんでもやれて当然じゃないか。それに相手はNPCだお。NPCなんだから犯したって何したって、犯罪にはならないんだお」


 あ、ダメだこいつ。

 完全に頭のネジぶっ飛んでるわ。


 ぶるぶる震えてセシリアにしがみついてる聖女。

 頭を抱えて呆れ返っている大賢者。

 何の事だかさっぱり理解してないようだが、それでも変な男が来た事に怯えるピリカと、そのピリカの耳を塞いでいるトリトンさん。


 確かにNPCだよ。

 NPCだけど、このゲーム内の世界をそれらしく見せる為に生きている存在なんだよ。

 生きてるんだから、何したっていい訳ないだろ。


 あぁ糞、腹が立つ。


――もしゲーム内で助けが必要なときには――


 ふと思い出した言葉で俺はすぐさま行動に移す。

 確か――システムメニューで――えーっと、これをこうして、ここに記入?

 んで、送信っと。


「へへ。そこのダークエルフは黙ってるお。俺に賛同してくれてるんだお」

「そ、そうなのかマジック君!?」


 不安そうな顔で振り向くセシリアに、俺は一言。


「もう大丈夫。すぐ解決するから」


 言い終えるとすぐ、俺の言葉を裏付けるように眩い光が現れた。


『ゲームマスターコール、承りました。データ解析開始。該当キャラクター『ゼウス』様の直近の行動を拝見させて頂きます』


 光の中から聞こえた声は……っておい、まさか?


 やがて光が収まると、そこに現れたのは――

 純白のメイド服。

 純白の三角巾。

 そしてオペラ座の怪人に出てくるような、真っ白な仮面を付けた人物。


 うわぁ、なんか出てきたよ。

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