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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。 作者:夢・風魔

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4:マジ、勇者。

《ぷるるぅん》

 女NPCめ。
 コスライムはノンアクティブだから大人しいモンスターだとか言ってやがったが、こいつらアクティブモンスターじゃねえかっ。

 海面からわらわらよじ登ってくるハワイアンコスライムが、次から次へと俺に向って攻撃を仕掛けてくる。
 幸い、口から海水を吐き出しているだけなのでたいして痛くもないが。
 これ、属性魔法扱いなんだろうか。
 INT極のお陰で、魔法防御は高い。海水鉄砲が魔法扱いなら、痛くないのも頷ける。
 とは言え――

「一発一発は、痛く、無いが、はぁはぁ……さすがに何十発もくると――おい、ちょっと、ま――」

 バレーボール大ほどのハワイアンコスライムが一列になって、船べりから一斉に海水鉄砲を発射。
 くっ。こいつら、遠距離コントロール上手いじゃないか。
 どうやったらこんな的確に遠距離から攻撃できるのか、教えて欲しいぐらいだ。

 あ、あれ? 青かったコスライムが赤く……いや、俺の視界全体が赤く点滅してるのか。
 まさか瀕死状態?
 って、残りHPが8になってる!?

「お前ら、がぼっ。俺がノーコンだからって、げぼっ。調子に乗ってんじゃね――」

 ばいんっと跳ねた一匹のハワイアンコスライムが視界に入ると、次の瞬間には何故か倒れていた。
 俺が。

【戦闘不能状態になりました。イベント中なため、強制的にセーブポイントへと転送いたします】

 世界がモノクロ動画のようになったかと思うと、赤いシステムメッセージが浮かび、そして視界が暗転。
 あ、死んだのか。
 で、強制的にセーブポイントに飛ばされる、と。
 コスライムどもめぇ。

「って、いくらなんでも多すぎだろっ!?」

 直ぐ横で俺の声を代弁してくれた男が居た。
 つまりこの人も死んだってことか。

 セーブポイントというからどこかと思えば、さっきの船上のままか。
 船の後方、右舷付近が復活地点らしい。俺の周囲には次々に死に戻りしてきたプレイヤーが現れている。
 ここにいると邪魔になるな。少し移動しよう。
 近くには救命ボートがあるな。もしもの時とかこれに乗せられるんだろうか。だったらこの近くで戦っていよう。復活地点からも近いし、死んでもすぐ復帰できる。

 壁を背にしてにじり寄ってくるハワイアンコスライムを待って、至近距離に来たら魔法を――

「頂きーっ!」

 よそ様に潰されてしまった。
 まぁいい。獲物はいくらでもいる。

 次――
 じっと待つ。
 俺の射程に入るコスライムを――

「大丈夫ですか? マジさん」
「……大丈夫。どうぞお構いなく」
「え、そんな……しょんぼりです」

 なにがしょんぼりなのか。しょんぼりしたいのはこっちだ。
 まぁこう乱戦だもんな。コスライムの一匹や二匹、他のプレイヤーに取られたって仕方が無い。こんな事でいちいち目くじらなんか立てやしないさ。

 次――

「突っ立ってるだけじゃダメだぜ初心者さん!」

 次――

「VR初めてか? ぶるぶる震えてるぞ色男」

 次――

「おいおい、まさか攻撃系技能をまったく取ってない生産職とか? まぁなら仕方ないか」

 次……

「あ、あの……テイムしても、いいですか?」

 ……。

 待つのは止めにしよう。
 そもそもこいつら移動速度が遅いし、俺の至近距離に到達するまでに他のプレイヤーに倒されるのは当たり前じゃないか。
 遅いなら――

「こっちから出向くまで」

 ばさっとマント(ローブともいう)をひるがえし、右手に魔力を溜め込むイメージをして走り出す。
 目標。
 前方のハワイアンコスライム!

「『サンダーッ』」
《ぶるぴーっ》

 甲板をのそのそと移動していたコスライムをボーリングの玉に見立て、鷲掴みして投げるっ。
 狙うは他のコスライム――出来れば群れてるあそこだ!

「おい、誰だコスライムの屍投げて寄こしたのは!?」

 まったく明後日な方向に飛んでいったが想定内だ。ガーターってやつだな。 
 知らぬ顔でこそこそとその場から離れて別の得物を探す。
 あいつら海水で濡れてるし、上手く行けば巻き込んで感電させられるんじゃないかと思ったが、一発に耐えれないんじゃ無理だな。
 仕方が無い。地道に一匹づつ片付けよう。

「くっ。このままじゃマズい。非戦闘員の乗客を救命ボートに乗せて避難させるんだ!」
「アイアイサーッ」

 NPCは勝手に動いてるようだ。
 ってか、今ボートに乗せろという支持が船長っぽいのから出たってのに、もう乗客が救命ボートに乗ってるってどういう事だよ。
 いろいろとシーンをはしょりすぎだろ。
 けどまぁ、読みは当ったか。

「近くにいる冒険者どもっ。ボートが無事に海面に着水するまで、しっかり守ってくれっ」

 あぁ、俺たちはまだ乗れないんだな。
 とりあえず乗客が全員避難できるまでボートを守ればいいんだな。これもイベントって事だろう。

 ハワイアンコスライムがゆっくりとボートに近づいてくる。数は多いが、なんせ移動速度が遅い。
 さっきのようにじっと待ってたら遠距離からの海水鉄砲で包囲されてしまうが、こっちから動いて先制攻撃すればなんとかなるだろう。

 手近なハワイアンコスライムを掴んではゼロ距離魔法をぶっぱし、すぐさま移動する。
 また掴んでは魔法をぶっぱし、また移動。
 一匹ずつしか倒せないのが歯痒い。
 IMP溜まったら範囲魔法も欲しいところだな。
 その為にもまずは、こいつらを蹴散らしてさっさとイベントをクリアさせるっ。

「『サンダー!』」

 何度目かの鷲掴みサンダーが炸裂したところで、俺の体がカッと光った――気がした。
 おっと、視界右下にレベルアップアイコンが表示されているな。
 じゃあステータスを――

《ぷるるぅーんっ》
「危ないっ、殴りマジ君!!」
「はい? ――がふっ」

 可視化アイコンに触れる直前、何者かの襲撃で俺は吹き飛んだ。

 教訓。
 戦闘中にシステム画面を開くのは危険です。

 気を取り直して起き上がると、さっきまで俺が居た場所では、女剣士がハワイアンコスライムと戦っていた。
 危ないとかいいつつ、突き飛ばすか。なんて危険人物なんだ。

 あれ、この女剣士――
 血を思わせるような紅の髪……さっきの人か。

「大丈夫か殴りマジ君?」
「あぁ。幸いフレンドリーファイアシステムの無いゲームだから、今のでダメージを受けるなんて事もなかった」
「フレンドリー? まぁともかく無事でよかった」

 フレンドリーファイア。
 故意か過失かは問題なく、自分の攻撃が敵味方問わず当たってしまうシステム。
 実装されていたら今の吹き飛ばしでセーブポイントに戻されていたかもしれないな。

 女は長剣を振るい、どうやら俺の背後に居たらしいハワイアンコスライムと戦っている。
 あれから俺を守ろうとして吹っ飛ばしたのか。どうせ吹っ飛ばすなら、モンスターの方をやれよ。

「それと、さっき光っていたようだから……その……」
「あぁ。レベルアップの光って他人にも見えるものなのか」
「そ、そうなのだ。だからその……お……おめ、ぶっ」

 おめぶ?
 何を言いたいのか知らないが、戦闘中に余所見をするもんじゃないぜ。
 顔面にハワイアンスライムのボディーアタックをモロに食らった女剣士は、顔を擦りながら俺のほうを見る。

「うぅ……殴りマジ君は大丈夫か?」
「いや、あんたのほうが大丈夫かよ。それに俺は殴りマジじゃないぞ」

 女剣士にボディーアタックをかましたハワイアンコスライムに手を伸ばし、ゼロ距離から魔法を唱える。
 掌から放たれたイカズチはハワイアンコスライムの体から放電され、そして奴の肉体を爆散させた。

「ほらな。俺はれっきとした――」
「雷属性を拳に纏わせて殴るのか。確かに属性の相性も乗って、強力なパンチになるなっ」
「いや、殴ってるんじゃなくて――」

 だめだこの人。完全に勘違いしてやがる。
 頭を抱えたその時、後ろの方で子供の悲鳴が上がった。

「きゃあぁーっ」

 プレイヤー……じゃないよな。
 振り返ると五、六歳の女の子が。その足元にはハワイアンコスライム。

「い、いかんっ。助けるぞ殴りマジ君っ」
「だから俺は――あぁ、もういいっ」

 駆け出した女剣士の後ろに俺も続く。

「くっ。ブルーコスライムが少女の体に――あのままじゃ私の攻撃を当てられない」
「ブルーコスライム?」

 ブルー……コスライム……。

「これの事か?」

 と、走り様、船べりからひっぺがしたハワイアンコスライムを女の眼前に差し出す。

「うわあぁっ。なななな、何故そんなものを掴んでいるのだっ」
「何故って、これが俺の戦闘スタイルだからさ。『サンダー』」

 爆散したハワイアン――ブルーコスライムが消える。
 グロテスクな映像効果はまったくないのは助かるな。あんまりスプラッタなのはやっててうんざりしそうだし。

 女の子の下に駆けつけた時、ブルーコスライムは彼女の右腕でぷるぷるしていた。
 まるでペットだ。

「うぇーん。うぇーん。怖いよぉ。お父さぁん。怖いよぉ」
「冒険者様っ。ピリカを、娘をお助けくださいっ」

 たいして大きくもないブルーコスライムなんだ、掴んでその辺に捨てればいいじゃないか。

「うぅ。私がブルーコスライムに攻撃すると、この子の腕も切り落としてしまいそうだ。どうしよう」
「どうしようって……掴んで(ピコン)――引っぺがして――こうだ。『サンダー』」

 至極当たり前の事だってのに、何をそんなに迷っているのか。
 さっきコスライムを掴んだ時に、何か音がしたな。一瞬視界に文字も出てきてたが、動いていたからすぐ消えてしまったし。
 だが今はまだ戦闘中だ。さっきみたいな目に合いたくないし、確認はイベントが終わってからだ。

「さ、もう大丈夫だぞ」

 と女の子に言うが、当の本人は硬直したまま俺をじっと見つめている。
 あ、口が僅かに動いた。
 動きはしたが何も言おうとしない。
 その時、女剣士が駆けつけてきて――

「殴りマジ君っ。女の子は無事なのか!?」

 と俺と女の子の間に割って入った。

「――……助けてくれてありがとう、……殴りマジのお兄ちゃん!」
「おい。今の間はなんなんだ。一瞬考えただろ? そもそも俺は殴りマジじゃないし。って人の話しを聞けよ」

 俺の言葉をガン無視し、父親らしき中年男のNPCへと駆け出していく。その男も頭をペコリと下げて、

「ありがとうございます、殴りマジ様」

 今度は間を空ける事無く、人の事を殴り扱いしやがった。
 どいつもこいつも殴り殴りと……俺はINT全振りの正真正銘、魔法火力職だ!

「ありがとう殴りマジのお兄ちゃん。お兄ちゃんはピリカにとって勇者様だよ」
「は? ゆう、しゃ……だと?」

 父親と二人でもう一度頭を下げた女の子は、そのまま救命ボートに乗り込んでこちらに手を振る。

「ばいばーい。ピリカの勇者様。ばいばーい」

 滑車を使って海面へと下ろされていくボートの上で、ピリカはずっと手を振っていた。

 勇者……か。
 まぁ、殴りと勘違いした事は水に流そう。
 だってこの程度で目くじら立てるなど、大人気ないもんな。うん。
『【フレンドリーファイア】について、ワタクシ、彗星マジック様専用受付ロビーサポートスタッフがご説明いたします。
密集して戦闘を行っているのに、何故味方に攻撃が当たらないのか。
VRMMOが主流になるにつれ、そのような疑問がプレイヤーの間で囁かれるようになりました。
その疑問を受け、新作VRMMOでは敵味方区別なく攻撃が当たるシステム【フレンドリーファイア】が実装されるようになったのです。
剣を振れば、届く範囲にいる敵味方を容赦なく斬りつけ、空から隕石が降り注ぐ魔法【メテオ】が唱えられると、味方もろとも焼き尽くし、時には【盗みスキル】で味方の所持金を――
それがフレンドリーファイアです!
楽しそうですね。わくわくしますね。
しかし残念ながら、【Imagination Fantasia Online】ではフレンドリーファイアはシステムとして採用されておりません。
何故なら、フレンドリーファイア採用環境で社内テスト中に、社員同士での殴りあいの喧嘩がはじまってしまたからでございます。
一人は全治一ヶ月の怪我を負い、救急車で運ばれる際には「フレンドリーファイアは……死を招く諸刃の剣だ」と言い残したとか何とか。
皆様、刺激が足りないかもしれませんが、我慢してお楽しみください』
+注意+
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