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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション0.00【オープンベータテスト】
35/268

35:マジ、キャンプファイアーを思い出す。

「え? 開拓民の引越し護衛クエストを受けた!?」


 ござを敷いただけの貧相な露店に居たのはエルフの夢乃さんだった。

 挨拶でもと思って顔を出したが、女の子を連れて何しているのだと、方言交じりに、しかもニヤニヤとやらしい目で見るので事情を説明。

 すると、予想外に驚いた夢乃さん。


「あんな倍率の高いクエスト受けれたとか、凄いやん!」

「え? 倍率?」


 セシリアと顔を見合わせ、なんの事だという顔を夢乃さんに向ける。


「あ、れ? ギルドで告知されとるクエストの事やないん?」

「いや、俺たちは大賢者に……その開拓民に直接依頼されたんだけど」

「正確にはマジック君がだね。私はたまたま運よく一緒にいたから、加われたんだ」

「夢乃さん、倍率って何の事なんです?」

「ギルドから出てきたみたいやったし、てっきりギルドからクエストを受けたんやと思っとったんやけど……そうか、違うんか」


 夢乃さんは店じまいをしつつ、小声で俺たちに話してくれた。


「開拓民の護衛クエストが、つい三十分ぐらい前にギルドに張り出されたんよ。百パーティー限定でね」

「百!?」


 不思議だったのが、クエスト依頼が掲示板に張り出されても、すぐには受諾できず、なんと応募形式になっていたんだとか。

 そしてつい先ほど、その抽選が終わったところだと。

 そんな事になっていたとは、知らなかったプレイヤーが多いんじゃね?


「偶然ギルドに来てた人しか知りえない情報やもんね。まぁすぐに掲示板とかに拡散されて、凄い数の人が集まったんやけど」

「掲示板?」

「うん。8ちゃんねるとかね」


 8ちゃんねる。あの匿名巨大掲示板か。

 それでも不公平感はあるよな。


「でもマジック君。ゲームとはいえ、ファンタジーな世界での出来事だと想定すれば、特別なクエストがこれから用意されますよなんてアナウンスは掛からないのだ。偶然そこに居合わせた者だけにチャンスが巡ってくるのは、当たり前なのではないかな?」

「うーん、まぁそう言われればな。俺だって大賢者と知り合えたから、倍率ドン無視して――」

「あー、あー、彗星君そこまで。こっちこっち」


 急に俺の言葉を遮って夢乃さんが路地裏へと誘う。

 どうも他人に聞かせたくない内容だったっぽいな。

 人通りもまったくない薄暗い路地で、俺たちは壁を向いて座り込んで話の続きを始めた。

 なんか昔のヤンキーみたいだなと思ったのは内緒だ。


「大賢者って、昨日の大賢者なん?」


 こくりと頷く。ついでに、オープニングイベントで助けたNPCの女の子の祖父が、あの大賢者だったという事も。


「なるほどぉ。勇者の称号持っとるんやね。その子のおじいちゃんが大賢者かぁ」

「たぶんその関係もあるんじゃないかと。もしかしたら俺以外にも、勇者持ちなら護衛クエスト発生してるのかも」

「うーん、どうやろ。称号だけじゃダメやと思うよ。私の知り合いに称号持ち一人おるけど、護衛フラグ立ってないし、抽選漏れしてさっき愚痴ってったとこなんよ」


 船で助けたイベントだけじゃフラグ確定ではなかったのか。

 まぁ俺の場合、その後も何かと関わってるもんな。

 けどなんで護衛クエストの事を人前で話題にしないほうがいいのか。


「そりゃあレアクエストばい。報酬に何が用意されてるかもまだ明らかにされとらんとよ。しかも、クエスト開始は夜の正式サービススタート後。それだけでもなんか楽しみやん」

「それとどう関係が……」

「やたらパーティーに入れてくれって、しつこい連中もおるけんね。さっきもギルドの外で揉めてたパーティーおったんよ」


 当選者はソロプレイヤーで、その場で残り五人を募集した。

 名乗りを上げたのは、それこそ十倍以上の数。

 俺だ私だと揉めに揉め、ついにはギルドスタッフのNPCが仲裁に入る始末だったとか。

 うわぁー、だな。


「せやから、その話しはオープンでせんほうがいいよ」

「情報、ありがとう。夢乃さんは護衛クエ、応募しなかったのか?」

「応募しようかと思ったけど、私生産組やし。護衛クエやったら戦闘メインやん? レベルも低いけん、遠慮したんばい」

「でもDEXあるし、弓使いだから十分戦えるだろ」

「まぁそうなんやけど……」


 話しを聞く限り、護衛クエストはパーティー推奨なのかもしれない。大賢者だって、レベルを12まで上げて来いと言っていたし、確実にその辺りのモンスターが出現する地域に行くんだろう。

 なんか冷静になって考えると、俺とセシリアの二人ってのは辛い気がしてきた。

 遠距離自慢の弓使いが居てくれるのは心強い。レベルは一緒に上げればいいじゃん。


「だからさ、よかったら護衛パーティー、入らないか? いいよな、セシリア」

「うん。私は反対しないし、寧ろ君以外の人ともパーティーを組めて嬉しい!」


 俺だと嬉しくないと言っているようにも聞こえるが。

 あぁそうだ、この際だ。


「抽選漏れした、そのかわいそうな知り合いってのにも声掛けていいよ」

「え? いいと? そ、そいつもね、弓使いなんよ。じ、実は――」






「姉貴がお世話になっとります!」


 夢乃さんを姉貴と呼ぶ……ドワーフ?


「ママママ、マジック君! こ、この世界ではエルフとドワーフが姉弟になるのか!?」

「いや落ち着けセシリア。リアルで姉弟ってことだろ。そこでゲーム内の種族をリアル変換するなって」


 とはいえ俺もちょっとビビった。

 夢乃さんが知り合いだと言った人物を呼び出してもらい、クエストの件を話そうとしたのだが。

 開口一番で姉貴が〜のセリフだ。

 しかもやって来たのは樽のような体型をした、身長百二十センチぐらいの髭もじゃドワーフだ。

 見た目的な年齢はドワーフってことで判断に苦しむが、どうみても若くない渋めのおっさん顔だ。

 そしてどう見ても若いエルフの夢乃さんに向って「姉貴」だもんなぁ。


「かくかくしかじかなんよ、ドドン」

「え!? ちょ、俺もNPC助けたのに、フラグとか全然なかったし!」

「えーっと、ドドン、さん?」

「あ、ドドンでいいよ。俺もマジって呼ぶけど、いい?」

「あぁ、どうぞ。ドドン、船イベントのあと、その助けたNPCの所に行ったか?」


 俺の問いにドドンは髭を揺らしながら首を横に振る。

 まぁそうだよな。会いにいったりして、そこで親密になる必要はあったんだろうな。


「そそそそ、それで、お、俺も参加しちゃったりしていいと?」

「あぁ。人数少ない方がなんか不安だし。少しでも戦力欲しいからね」

「マジック君! それは私が頼りないという事なのかっ」

「いやそういうんじゃなくって。二人より四人いたほうが楽そうだろ?」

「――うん。楽そう」


 お前はNPCかと思える間。この子、実は天然か?


 何はともあれパーティーが出来た。

 夢乃さんはレベル7、弟のドドンも同じく7。

 大賢者指定のレベル12まで、五つ上げなきゃならない。

 まぁ序盤も序盤だ。ちょっと頑張れば余裕だろう。


「よぉし、そうと決まったらレベル上げに行くぞ!」

「よぉし、そうと決まったらセシリアちゃんの武器作るけん、ちょっと待っとってね!」


 俺とドドンの声がはもる。ドドンのほうはそのままどっかに走っていったが、俺が突き上げたこぶしはどうすればいいのだろうか。


「ごめーん。ドドンは鍛冶専門の生産と戦闘のハイブリット組なんよ」


 あぁ、そういう事ね。

 こうしてどこの方言だか未だ解らない喋り方をする人が二人に増えたのだった。






 ドドンと再び合流して、既に狩場のチョイスも終わっていた俺たちは、目的地である『キュロスの森』にやってきた。

 やってきて早々――


「綿毛発見!」

「うおおぉぉ、鉱石あったぁーっ」


 と、生産組姉弟がハイテンションで採取を行い始める。

 弟なんかツルハシ片手に岩を砕き始めるし、どうしたものか。


「私も『採掘』の技能を持っているぞ! この剣のお礼に石集めを手伝おうっ」

「え? マジっすか? あ、そうだ。セシリアちゃんって剣士だよね? それやったら、こうツルハシを――」


 セシリアまで岩砕きをはじめる気かよ!

 ドドンの手ほどきで、何やらおかしなツルハシの持ち方をはじめるセシリア。

 普通、採掘といったらツルハシを振り上げてー振り下ろすだろ。なのに正面で構えて、刃ではなく、刃からでた柄の先端で岩を突いてるじゃないか。

 あれ? このツルハシ、柄の先端部分にも小さい刃が付いてるんだな。


「この振り方やってると、低確率なんやけど『突き』っていう技能を修得できるんよ」

「え? 本当か! 初期技能では『斬撃』を取ったけど、『突き』も欲しかったのだ」

「おぉ。まぁかなり確率は低いんやけどね」


 おいおい、ツルハシ使って戦闘技能を修得するのかよ。

 マジか?

 まぁ確率は低いっていうし、そう簡単に修得出来る訳――


「ふえぇ!?」

「ど、どうした!?」

「どうしたんセシリアちゃん」

「どうしたと、セシリア」


 ツルハシを握ったまま硬直しているセシリア。シンキングタイムか?

 いや、まさか……まさかな。はは。


「『突き』技能でたあぁ〜っ」


 嘘ん!

 そんな簡単に修得できるものなのか?

 よ、よぉし、俺も『火属性魔法』を修得するぞっ。


 原理は解ってるんだ。

 大賢者が説教のふりして教えてくれた言葉――体内から湧きあがる力を熱く燃え滾らせ、掌から光を放つイメージを思い浮かべる――これを実行すればいい。


 近くにいたモンスター『ウッド』に狙いを定めるべく、至近距離まで近づく。

 ノンアクティブでよかったぜ。

 さて。


 力を熱く燃え滾らせ……火をイメージ。火をイメージ……。

 掌から光を放つ……光……雷も似たような感じだよな。バリバリって放電はしてるが、光ってるし。『ライト』も光ってるけど、あれはまだ光そのものだしな。エフェクト的には雷のほうが断然かっこいい。

 雷も熱持ってるし光るし、火と共通点あるじゃん。


 いやいやいや、また変な風に考えてたらおかしな事になりかねない。

 ここは落ち着いて火をイメージして……


 切り株姿のモンスター『ウッド』を目の前にして、燃え盛るこいつをイメージする。

 も〜えろよ燃えろぉよ〜、切り株燃えろ〜。バチっと放電しながら、天まで届けぇ〜。


「だぁーっ! ちっがーうっ!!」


 脳裏に浮かんだ替え歌を消すべくもがいていると、その手がウッドに当たってしまった。

 同時に ピコンとシステム音が鳴った。戦闘中だからか、メッセージは出てこない。


「おおぉぉっ。マジってやっぱ本当に殴りマジだったんだ」

「いや、これはちが――げふっ」


 ウッドによる怒りの鉄槌で、俺のHPは四割も削られた。

 味方の援護で死なずには済んだが、やっぱりゼロ距離からの魔法ってのは命懸けになるな。

 INTを上げた後は生存率を上げる為のステ振りを考えないと。


 システム音が技能修得だとすると――



◆◇◆◇


【セット技能】

『雷属性魔法:LV6』 / 『神聖魔法:LV5』|(

『格闘術:LV4』 / 『敏捷向上:LV3』

『魔力向上:LV6』| / 『鷲掴み:LV6』|

『採取技能:LV1』| / 『乗牛技能:LV1』

『怪力:LV1』|(new) / 『木工技能:LV1』|(new)

『空間移動魔法:LV1』|(new) / 『炎雷属性魔法:LV1』|(new)


◆◇◆◇



 ほのお、かみなり、属性、だと?

 なんぞそれ?

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