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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション0.00【オープンベータテスト】
33/268

33:マジ、牛を連れ帰るハズが……

「え? 馬を貸してくれる?」


 トムさんに牛レンタルの件を話すと、思いもよらず馬が借りれる事になった。

 なんでも小屋に居た母馬たちが出産して、仔馬が増えたんだとかなんとか。

 随分長い時間シンキングタイムを使ったトムさんの、無理矢理すぎる回答がこうだ。


 仔馬……ね。

 牧場を楽しそうに闊歩している馬たちは、どれも大人に見えるんだけどな。


 馬が過剰になったのもあって、牛ではなく馬を借りれる事になった訳だ。こちらとしては嬉しいので、これ以上突っ込むのは止めておこう。


「じゃあ、お言葉に甘えて馬を一頭お借りします。で、返すときってどうすればいいんですかね?」

「――そっだらこと気にする事なかかね。おらんところの馬っこさ、ちゃーんと自分で帰ってくるけん」


 あぁ、マサオさんところの馬と同じパターンか。この世界の馬はどれも賢いな。

 トムさんの娘さんが手綱を引いてきた馬は、白色に茶色のブチ模様のある、見るからに『荷を引く馬です!』というような感じだ。サラブレットみたいに引き締まった体ではない。


「うちの牧場で一番体力のある子なのよ。優しくしてあげてね。この子、女の子だから」


 と、こちらはまったく訛りのない口調の娘さん。親子でこの差って、おかしいだろ。

 それに女の子だから優しくしてねって……馬にどうしろというんだ。


「じゃ、じゃあ借りていきますね」


 そう言って手綱を受け取り、皆の邪魔にならないよう少し移動。そこでテレポートを使う。

 えーっと、馬に跨ってテレポートを使えば、馬も一緒に瞬間移動できるんだったな。

 鐙に足を掛け跨ろうとすると――


《ヒヒィーン》


 一声嘶いた馬は、思いっきり後ろ足で立ち上がって……落とされた。

 おおぅ、乗馬技能持ってないからこうなるのか!

 しまった。これ技能教えてもらわなきゃテレポートも出来ないぞ。

 やっぱり乗馬技能、修得しとくか。


 そう思ってトムさん一家の方を見ると、既に冒険者の列が出来上がっていた……。

 早すぎだろ、おい。

 ざっと見ただけでも五十人ぐらい並んでんぞ。

 ゴブリン退治はどうしたんだよ。

 あ? 入会手続きで並んでる? そうですか。俺はゴブリン退治スルーできるから直ぐだよな。でも列には並ばなきゃいけない、と。


「あぁあぁーっ! 早く港町に戻りたいのにぃーっ」

「私も港町に行ってみたい。よかったら一緒に連れて行ってくれないか?」


 なんで俺が!


「って、セシリアか!?」

「そうっ、私だ。また会ったねマジック君」


 両手を腰に充てた赤毛エルフがそこに居た。

 何故かドヤ顔で仁王立ちしてるし。


 ん? 今彼女、「行ってみたい」と言ったよな。まさか行った事がないのか?


「港町にまだ行ってないのか?」

「そうなのだマジック君。船から飛び降りた君を助けようと飛び込んだのだけれど、海に落ちた瞬間に何故か海岸に居て」

「あぁ、それ俺もだ。というか俺は浮上しようとしたところに、あんたが落下してきてて海底に沈められたかと思ったけどね」

「え、ええぇーっ! わ、私は別に君を溺れさせようと思って飛び込んだんじゃないから。本当だから、嘘じゃないからぁー」

「いやまぁ解ってるって。それで、海岸に居たってのは、どの辺りの?」

「ふぅぅ……本当に信じてくれたの? えっとだね、真っ直ぐ南に行った海岸かな。その海岸には海の家みたいなのがあってね――」


 海の家では物売りの商人が居て、ドロップ品の買取からポーションとレベル5装備を売っていたらしい。なので海岸でレベル上げをして、アイテムを売り、レベル5武器を買ってから農村へとやって来たと。

 村の情報も海の家に住んでいたNPCから聞いたんだとか。

 いや、そこは港町の情報を――え? 聞いた?

 じゃあなんで港町に行かなかったんだよっ。


「いや、距離的にはこっちのほうが近かったから」

「あぁ……うん、そうなんだ」


 最初の町ならぬ、最初の村がここだと思ったようだ。

 で、農村到着後はずぅーっとこの近辺で狩りをしていたと。


「そ、それでマジック君。その、町まで連れて行って貰えないかな。この村で出来そうな事は一通りやり尽くしたと思うし、新天地に赴きたいのだ」


 この村で出来そうな、だと?

 もしやセシリアは――


「……乗馬技能、持ってるか?」






「白馬に跨った神速の女騎士! かっこいいだろ?」


 ブチ模様の牝馬に跨ったセシリアは、剣を引き抜いて華麗にポーズを決める。


「いや、それブチ模様だから。それにあんた、騎士じゃないだろう」

「むぅ〜。いいではないか、気分を味わったってぇ」


 なんでもAGI騎士を目指しているんだとか言うが、そもそも職業概念が無いからなぁ。プレイスタイルで自称するしかない。


「ではマジック君。私の後ろに乗りたまえ」

「乗りたまえって……」

「私は乗馬レベルが5あるから、二人乗りも可能なの」


 マジですか……。よっぽど村でする事無かったんだろ。

 彼女の差し出した手を掴み、引っ張られる形で飛び乗る。男が女の後ろに乗せてもらうとか、なんか情けねぇ。


 ふと、乗馬クラブ入会手続きをしている冒険者一向と目が合う。

 髄分と睨まれたもんだな……女の後ろに乗せられるのが、そんなに妬ましいのか。

 こっちは恥ずかしいぐらいだってのに。


「マジック君、どっちに行けばいい?」

「はぁ……」

「マジック君?」

「は、あっ。え、えっとだな、実はテレポートの魔法があるんだ」


 まずは牧場から少し離れる。看板に頭をぶつけるとか、嫌だからな。

 確実に頭上の障害物が周囲にすらない位置まで移動してもらうと、そこでテレポートを唱える。

 だがここで思わぬアクシデントが発生した。


 システムメッセージが現れ、俺が跨っている馬の操縦者がパーティーメンバーじゃないから馬はテレポート不可だという内容だ。

 そういやセシリアも同時にテレポート出来るか、考えてなかったな。

 メッセージではパーティーメンバーに関して言ってるようだし、組んでみるか。


「パーティー組んでなかったから、不発に終わったよ。要請出すから承諾しといてくれ」

「解った。私も転送されるのか?」

「いや、それがその……仕様はまだよく解らないんだ」

「ふーん。スキルの説明にも載ってないのか」


 盲点でした!

 書いてるかもしれないな、確認してみよう。



◆◇◆◇


『テレポート』

 属性:空間

 効果:一度訪れた事のある場所に、任意移動する事が可能。

    ただし建物の内部へのテレポートや、内部からのテレポートは不可能である。

    また、パーティーを組んだ状態で使用すれば、メンバー全員を同じ地点へテレポート可能。

 消費MP:10


◆◇◆◇



「あったあった。パーティー組めば全員同じ場所にテレポートさせられるんだとさ」

「おぉ、それはよかった」

「じゃあ、行くぞ」

「はいっ、どうぞ!」

「『テレポート!』」


 気合を入れて魔法を唱えるが、その後、視界に現れた地図から目的地を選んでポチっと押す、地味ぃな工程が待っていた。






 目的地選びで気づいた事がある。

 地図が現れたとき、目的地部分を指でズームさせると、より細かい地点で表示されるのが解った。

 お陰でピンポイントでピリカの家近くにテレポートする事が出来た。

 そのまま馬でかっぽかっぽ移動し、ピリカ家の戸をノックする。

 すぐに元気のいい足音が聞こえ、そして――


「わーい、ピリカの勇者様お帰りなさ――」


 バンっと戸を開いて出てきたピリカは、目前の馬を目にして固まってしまった。

 これはシンキングタイムなのか?

 やがて瞬きを一つすると、


「わーい、ピリカの勇者様が馬みたいな牛を連れてきてくれたー」


 と言って馬の腹を撫でるのであった。

 考えた結論がそれかよ!

 馬みたいな牛じゃなくって、どう見ても馬だろ!

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