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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション0.00【オープンベータテスト】
31/268

31:マジ、実装の瞬間を目撃する。

【なんるほど、材木屋さんから木材を買うより、わしのところから直接仕入れたほうが安上がりになるべか】


 ついでに材木屋が丸太を加工するのを待つ必要もない。加工は直接大工がやればいい訳だしな。

 それをマサオさんに説明すると、お馴染みのシンキングタイムの後に納得して丸太を分けてくれる事になった。


「丸太を積み込む手伝いをするからさ、少しでも早く終わらせて欲しいんだ」

【解っただ。それじゃああっちの丸太を積み込んで欲しいずら】

「オッケー」


 しかしだな、相変らずマサオさんの方言に統一性が無いな。あと声優も付いてないし。

 これ、傍から見ると、俺一人で喋ってるようにしか見えないよな。


 カコーン、カコーンと、木を叩く音が響き渡る。

 さすがにファンタジー世界にチェーンソーは無いよな。無いけど、数回カコーンという音が鳴ったところで、大きな木が倒れてしまう。お陰で俺も大忙しだ。


【冒険者さん、ほんれ、こっちの丸太も運んでけろ】

「おう! マサオさんにも声が付くといいのにな。他の声優の声のトーンとかをちょっと弄って使いまわしでもいいからさ」


 カコーン、カコー……ん?

 音が止まった?

 丸太を肩に担いだまま振り向くと、斧を振り上げた状態で硬直しているマサオさんがいた。

 まさか……声が付くとか!?


 キンコーンという、何時ものシステム音と別の音がなり、


『ご提案として受け取らせて頂きます』


 という、あの受付ロビーの女NPCの声!?

 え? え? どこにいる?

 周りを見渡しても、マサオさんと馬以外に生物の姿は見えない。

 なんだ、声だけか……。

 そして動き出すマサオさん。

 ……急に出てくるんじゃないよ、あの女は。さすがにちょっとビックリしたぞ。


 何事も無かったかのようにマサオさんは伐採に精を出す。

 俺は伐採された木を、荷馬車まで運ぶのに精を出す。

 実際にこんな大きな丸太を肩に背負うとか、絶対できないもんな。出来ない事が出来るって、ちょっと楽しい。

 足取りも軽やかに、ちょっとスキップしながら丸太を運んだりしてみた。


【冒険者さん、随分余裕そうだぎゃ。コスタの紹介状にもあっただに、お前さんは働き者で、力持ちだど。細っこい体だってのに、実は怪力の持ち主だがや】


 ピコンっと、今度は聞き慣れたシステム音が鳴った。

 視界に現れたのは【『怪力』技能を修得しました】というものだった。

 技能! 新しい技能か!

 怪力ってことは、STRに関係してくるのか?


 既に丸太でいっぱいになった荷馬車。

 今度はこれを町まで運ぶ仕事が待っている。技能の確認は移動しながらやろう。


「マサオさん、じゃあ荷馬車を造船所に運ぶよ」

「んだな。よろしく頼むべ」

「あぁ。それじゃあ――あ?」


 一歩歩き出してふと気づく。


「マ、マサオさんに声がぁーっ!?」


 何のことかサッパリという顔で、マサオさんは首を傾げながら俺を見送った。


 なんか対応、早くね?

 しかも無駄に渋い声なんですけど。






「コスタにも声が付くといいな!」

【――冒険者さん、またゴミ集めを手伝いに来てくれたのかい?】


 そういう訳じゃないんだが、まぁ言われてしまったのなら仕方が無い。少し手伝っておいてやろう。

 そういやあの『怪力』技能って、コスタの手紙がフラグになっていたんだろうか?


「コスタがマサオさんに渡した手紙に、俺が力持ちだって書いたのか?」

【――あぁ、書いたね。冒険者さんは重い流木もせっせと運んでくれていたし、きっとそうなんだろうと思って紹介状に書いておいたよ】

「やっぱフラグだったんだろうな」

【フラグ?】


 一緒にその辺の流木を拾いながら会話する。NPCだからなのか、返事に若干のタイムラグと、シンキングタイムが混ざっているが。それでも、自然な会話が出来てるって凄いよな。


「『怪力』技能を修得したんだ」

【おぉ、それは凄いね! 冒険者さんは力持ちだし、だから修得できたんだよ!】


 技能ってもしかして、同じ動作の繰り返りで修得するのか?

 だったら結構簡単そうじゃね?


 三十分ほどコスタの仕事を手伝い、やっぱりポーション類を無駄にゲット。もう少し良い物拾えないものか。レアアイテムとかレアアイテムとか……。


「せめて船の修繕に使えそうな木材でもあればなぁ。ここの流木も再利用できないかな」

【木材? 木材が欲しいのかい、冒険者さんは】

「あぁ。いろいろあって、今は船の修繕に使う木材を用意する為に、丸太を運んでいたところだったんだ」

【それは――】


 ここでコスタの動きが止まり、シンキングタイムが始まった。

 このシンキングタイム中って、何を考えているんだろうな。


【それを早く言ってくれればよかったのに】


 コスタが動き出す。

 彼が集めた流木に手を突っ込むと、次の瞬間には大きな一枚板を取り出していた。


【ここに流れ着くのは、壊れた船から出た木材だよ。乾かせばそのまま使えるんじゃないかな?】

「おぉ! なるほどっ。元々船で使ってたものだし、再利用出来て当たり前か。じゃあこれ貰っていっていいか?」

「もちろんさ。こっちはゴミが掃けてありがたいぐらいだからね」

「うわっ! コスタに声が……しかも無駄にイケメンボイス……」

「え? イケメン? そ、そうかなぁ。ははは」


 こうしてNPCに声が実装されていくのか。他に音声無しの奴いないかな。


 コスタが掘り出した板――木材を受け取ろうと触れると、光の粒子になって腕時計へと吸い込まれてしまった。

 これ、アイテム扱いなのか。



◆◇◆◇


 名称:流れ着いた船の木材

 備考:少し濡れているが、乾かせば使えそうだ。


◆◇◆◇



 そのまんまじゃね?

 でもお陰で助かった。荷馬車は丸太でいっぱいだし、これならいくらでも持ちかえれるぞ。

 コスタが集めたゴミの山から木材をどんどん抜き出していき、それをどんどんインベントリに入れていく俺。


「船の修繕はまだ暫く続くだろうし、流れ着いた木材は全部造船所に渡せばいいんじゃないか? 少しぐらいお金貰ってもいいぐらいだろう。寧ろ冒険者に拾わせて、その金を報酬にってクエストがあっても良いと思うし」

「クエスト? あぁ、依頼を出すってことだね。そうだね、造船所の親方、ゲンさんと相談してみるよ」

「あぁ、そうしろよ。あそこの親方ってゲンさんっていうのか」

「そうなんだよ。ゲンさんとケンさんで、よく間違われるらしいんだ」


 そうかそうか、名前に濁点が付いてるか付いてないかの違いだけど、間違われやすいのか。

 ……間違われやすい?


「あぁーっ! 俺間違えたかもおぉーっ」

「あはははは。造船所に戻って確認しなくちゃね」

「じゃあ俺、町に戻るわ」


 大量の木材をゲットまでして、実は人違いでしたとかだったら散々だぞ。

 あの造船所の脇に置かれてた荷車が、実は大賢者が依頼していた分とかだったら……ほんと、タダ働きだぜ。






 造船所に到着すると、ケンさんが荷車いっぱいの丸太に歓喜した。ついでにこれもと、アイテム扱いの木材を取り出すと、これまた歓喜して大声を上げた。


「親方! この冒険者が木材を仕入れてきやしたぜっ」

「なに? 本当か!?」


 呼ばれて出てきたのは、筋骨逞しい四十代ぐらいのおじさんだ。角刈りの頭には捻り鉢巻が巻かれている。

 この人がゲンさん……で、あっちはケンさん……。


「あ、あの……」


 大賢者から荷車を依頼されたのはゲンさんですか?

 そう尋ねるよりも前にケンさんが、


「あぁあぁ、大賢者ってのの荷車の件だよな。あんたには借りが出来ちまったしな、大急ぎで用意してやらぁ」


 と、ドヤ顔で言ってきた。それを聞いた親方の表情がピクリと動く。


「大賢者から頼まれた荷車の事か?」

「へぇ、親方。俺も二つほど頼まれてはおりやしたが、それが大賢者からのものかどうかは……」


 もうここまできたら嫌な予感しかしない。これはもう確定だろう。


「大賢者様から依頼された荷車なら、俺がもう造って――ほれ、そこに置いてあるのがそうだが?」

「あれ? 親方が依頼を受けてたんですかい。あぁ、そりゃあ、アレですな」

「アレだな」


 ケンさんゲンさんが揃って俺を見る。

 見ないでくれ。見ないでくださいお願いします。


「「人違いしたんだな」」

「すみません。本当にすみませんっ」


 恥ずかしい。人違いだなんて恥ずかしいっ。

 丸太拾いもゴミ集めも、全部無駄な努力だったんじゃないか。


 あ、いや。技能を修得できたし、無駄って程でもないか。

 そうそう、技能だ。

 現実逃避する為に技能の確認をしておこう。



◆◇◆◇◆◇◆◇


『怪力』

 STR値とは関係なく、自身のウエイトに合わせた物を持ち上げたり運ぶ事ができるようになる。

 レベルが上がる事で、持ち上げ&運べる物のサイズ、重さも上がっていく。

 また『鷲掴み』『金剛』『鉄拳』技能との組み合わせによって、効果をアップさせる事ができる。


◆◇◆◇◆◇◆◇



 なんか見たまんまの技能だが、手持ちの『鷲掴み』効果がアップするのは嬉しいな。

 まぁ今のところ、あれのダメージが技能レベルの二倍がダメージだったから……12か。今は雀の涙程度だが、このダメージがどのくらいアップするのか楽しみだ。


「おい、冒険者の兄ちゃん。荷車、持って行くのか、行かないのか?」

「はっ。も、持って行きます」

「お金はもう貰ってある。あんたには世話になったし、なんかお礼がしたいんだがな」


 木材の事だろうか。

 お礼に船を渡されても困るし、正直いらないな。


「冒険者なら、技能とか欲しいだろ」

「技能!? な、何か教えてくれるんですかっ」


 欲しい。喉から手が出るほど欲しい。

 でも間違っても船の修繕技能とかはいらないから。うん。


「俺らは大工だ。教えられるのは木工と、あと仕事柄必要な『怪力』だが。あんたが木製武器を使用しているってんなら、少しは役に立つだろう」

「『怪力』はついさっき修得したんで必要ない。木製ってことは杖とかでも?」


 そう言って、普段は腰に刺している小さな杖をゲンさんに見せた。

 彼は満足そうに頷き、武具には耐久度があるのだと説明しはじめる。そういえばアイテム説明にあったな。


「使えば使うほど、装備はモロくなっていき、やがて壊れるのさ。壊れないよう手入れをしたり、また壊れたのを修理する事も出来る。ただそれには技能が必要なのさ」

「じゃあ木工技能があれば、この杖の手入れや修理も出来るって事か」

「まぁそういう事だ。人様に依頼するのも手だが、自分で出来ればコストも安く済むだろう」


 確かに。レベルがあがれば杖を自作だって出来るだろうしな。

 うん、それはいいかもしれない。IMPも増えるし、一石二鳥だな。


「じゃあ、お願いします」

「おう、任せとけ!」

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