30:マジ、人の話を聞かない子。
ログインしたら、ゲーム内は真夜中だった。
この時間じゃさすがに大賢者の所には行けないな。どこかで時間を潰そう。
あぁそうだ。昨日の対ゴブリン戦でレベル上がってたんだった。まぁINTに全部振るけど。
乗牛技能の詳細も確認しておきたいし、ついでだ、今度こそスキルの作成をしよう!
◆◇◆◇
名前:彗星マジック / 種族:ダークエルフ
レベル:9 /
Ht:177 / Wt:66
HP:1100(1100) / MP:2220(2220)
STR:1
VIT:1+2
DEX:1
AGI:1+3
INT:71+7
LUK:1
SP:0
【セット技能】
『雷属性魔法:LV6』 / 『神聖魔法:LV5』|(1up)
『格闘術:LV4』 / 『敏捷向上:LV3』
『魔力向上:LV6』| / 『鷲掴み:LV6』|(1up)
『採取技能:LV1』| / 『乗牛技能:LV1』(new)
【獲得スキル】
『サンダー:LV3』|(1up) / 『ヒール:LV2』|(1up) / 『ライト:LV2』|(1up)
IMP:31
【称号】
『少女の勇者』 / 『綺麗好き』 / 『ピチョンとの約束』
【装備】
『黒楼羽根のロングコート(レア)』|(HP+300) / 『黒楼のズボン』|(HP+150)
『海獣のブーツ(レア)』|(HP+150) / 『黒楼羽根の手袋(レア)』|(HP+100)
『海獣の杖(レア)』|(MP+100)
『ピチョンの飾り羽根付きピチョンの巣|(卵IN)(レア)』
◆◇◆◇
装備もレベル相応の物になったし、ここからが本番って感じだな。
えーっと、新しい技能は……まぁ読んだまんまな技能な訳だが。
一応レベルもあるんだな。レベルが上がると――
《技能レベルが上がる事で、牛をより巧みに操れるだけじゃなく、周囲の牛も同時に従わせる事ができる》
牛飼いにでもなれと?
この技能はとりあえず置いておこう。
IMPが31ポイント溜まってるし、何かスキルの一つや二つや三つぐらい作れないかな。
攻撃系はもちろんだが、INT補正や防御補正の入るバフスキルなんかも欲しい。その為に神聖魔法を取ったのだから。
スキル作成画面を開き、新しく作るスキルの媒体となる技能を選択。
まずは攻撃スキルという事で『雷属性魔法』だ。
効果範囲は……『1:対象単体』『2:小範囲』『3:大範囲』となれば、『3:大範囲』だな。
【必要なIMPが足りません】
え? どういう事?
もう一度タップする。
【必要なIMPが足りません】
……広範囲スキルを作る為には、IMPが足りないって事なのか?
じゃあ『2:小範囲』で。
チュートリアルでは四つの範囲選択があったのに、何故か二つしか無い。小範囲でも項目によってIMPの必要量が違うのか。
というか、この分だと選択可能なこの二つも、手持ちのIMPほぼ全部使ってしまうんじゃ……。
試しにやってみるか。最後の決定を押さなきゃいいだけだし。
『1:自身を中心に半径一メートル円内』
『2:対象までの直線上』
選ぶのはもちろん『1』だ。
どう考えても『2』は、遠距離から使わなきゃ意味のない効果だし、そもそも対象に攻撃が当たる気がしない。
えーっと、この時点で消費IMPは……ふひひ……『30』ですやんっ。
却下――
じゃあ最初に戻って『1:対象単体』で行くか。
こっちは範囲選択が無いのでこの時点で消費IMPが解るな。えーっと、『5』……最初はこつこつ単体攻撃を充実させろって事なんだろうか。
でも雷魔法の単体攻撃って、他に何か思いつくかといえばつかない。
雷攻撃は雷攻撃でしかないだろ?
じゃあ技能合体スキルはどうか。
媒体を選ぶところに戻って、試しに『雷属性魔法』と『神聖魔法』を選択する。
範囲は単体にしておこう。
【必要なIMPが足りません】
はい却下。
うーん、思ったほどスキルの作成って簡単じゃないな。
そもそもIMPが足りなさ過ぎる。
レベルが上がって1付与。技能レベルでも付与。
これ、スキルに関係無さそうな、それでいて戦闘や行動で上がりやすい技能を多く修得して、がんがんレベル上げしてポイント溜めろってことなのか。
今のところだと『格闘術』『敏捷向上』『鷲掴み』『魔力向上』このあたりだよな。
技能レベル上げつつ、新しい技能の模索もしつつ……
早く『火属性魔法』を修得しよう。火と雷の合体スキルなら、なんかかっこよさ気だし。
あれこれ試行錯誤している間に、空はうっすらと明るくなってきた。
よし、大賢者の所に行くか!
なんか忘れてる気がするけど、そのうち思い出すだろう。
「手紙の返事はどうしたんじゃ?」
ピリカの家を訪ねて、大賢者の開口一番のセリフで思い出す。
そうだった。
馬を借りたいという内容の手紙を持たされてたんだった。
「そ、その……馬が忙しいようで借りれなかったんだ……け、けど代わりに牛ならっ。お、俺、乗牛技能も取ったから、ちゃんと扱えますよっ」
大賢者はもとより、近くにいたトリトンさん、そして俺の傍らで「わーいわーい、勇者様だー」と喜んでいたピリカの三人が同時に硬直する。
考え中か。
……。
長いな。
あ、大賢者が動いた。
「じょうぎゅう? 牛に乗る技能なのか?」
「は、はい。そうです」
「何故牛なんじゃ?」
「いや、その……」
かくかくしかじかと、ゴブリンから牛を守る為に速く走らせようと背に跨ってあれこれやってたら、修得できたと説明する。
ただし、技能を生かすことはできなかった。
「……お主、ちとズレとりはせんか?」
「いいえ、至極真面目です」
「……そうか。ま、まぁ、借りれぬものは仕方ない。荷を運んでくれるのであれば、馬でも牛でもなんでも構わん」
荷物を運ぶ?
大きな買い物でもするんだろうか。この家、殺風景だしな。
「次は荷車じゃ。船大工のゲンさんに頼んでおるから、受け取りに行ってくれぬか?」
次のお使いクエストきた!
これ、隠しクエストシリーズなんだろうな。クエスト一覧にも出てこないし。
くっくく。きっとレアクエストなんだぜ。魔法技能フラグ付きという、激レア扱いなんだきっと!
「お任せ下さい!」
「昼過ぎまでわしもトリトンも、孫娘のピリカも留守にしておるでな、それ以降に持ってきてくれると助かるわい」
「畏まりましたっ」
敬礼をして急いで船大工を探しに行く。
『船』大工っていうぐらいだし、船着場に行けば情報が聞けるかな。
船着場へとやってくると、相変らず何艘かの船が停泊し、船乗りNPCたちが一生懸命荷物の積み下ろしを行っていた。中には今到着したばかりの開拓民の船もあったりする。
ほう、船でちゃんと入港してるプレイヤーもいるんだな。
カモメの声を聞きながら、暇そうにしている船乗りに声を掛けてみる。
「すみません。船大工の……あれ、名前なんだっけか……とにかく船大工に心当たりありませんか?」
「船大工? ――」
しばし考え中な船乗りNPC。すぐに動き出して、何人かの名前を口にした。
その中に聞き覚えのある名前があり、彼の所在を尋ねた。
「ケンさんかい? ケンさんなら向こうにある造船所にいるよ」
「ありがとう。行ってみるよ」
軽く会釈して教えて貰った造船所へと向う。
造船所なんてリアルでも見た事ないけど、思いのほか小さかった。これなら学校の体育館のほうがよっぽど大きいな。というか、それの半分ぐらいのサイズの建物だな。
扉は無く、海側の壁の一部が無い――そんな造りなので、そのままずかずかと入ってみた。
「ごめんくださーい」
とりあえず声だけは掛けておくか。
中には半壊している船が一艘あって、何人かのNPCが必死に修復しているようだ。この中に船大工のケンさんってのもいるんだろう。
お、隅のほうに荷車が何台かあるじゃん。
「すみませーん。船大工のケンさんはこちらにいらっしゃいますかー?」
大きな声で呼びかけると、働いていたNPCが一斉にこっちに振り向いて――こっち見んなっ!
完璧なタイミングで一斉に見られたら、怖いっての。
で、シンキングタイムが終わり、NPCが一人、修復していた船から降りてくる。
「探しているのはケンか?それともゲ――」
「ケンさんです。ご存知ですか?」
金の斧、銀の斧じゃないんだから、普通のケンでいいよ。
「ケンなら俺だ。今忙しいんだ、何か用があるならさっさと済ませてくれ」
「す、すいません。えっと、大賢者様から頼まれて、荷車を受け取りにきたんですけど……」
「大賢者? 荷車?」
そしてケンさん一人によるシンキングタイムが始まる。
BGMでもあれば気が紛れるんだがな。今はBGM変わりに、トンテントンテンという木槌の音が鳴っているが。
「大賢者かどうかは知らないが、荷車はいくつか依頼があったな」
「いくつかのうちの一つだと思います。受け取りたいんですが?」
「いやぁ、悪いね。船の修繕が忙しくて、それところじゃないんだよ。しかも船の修繕で木材を大量に使っているから、そっちも品薄らしくてなぁ」
だから荷車はまだ作ってない、と。
じゃああそこにあった荷車はなんなんだ?
「あぁ、あれは他の奴が依頼されて作った荷車さ。もう金も受け取ってあるやつだから、あれは譲れねぇ」
「そんな……夕方までになんとかならないのか?」
「そう言われてもなぁ。余分な木材もないし、材木屋から買ってくるにしても値段が上がってるもんだから、前払いするにもきついんだよなぁ」
なんて世知辛い世の中ならぬ、ゲームの中だよ。
材木屋か。手をすりすりしてたオなんとかってNPCだったよな。確かに金にがめつそうな印象はあった。
うーん、なんとかしないとなぁ。
ふと造船所を見渡すと、大きな板を小さく切り出しす作業をしている大工もいる。
じゃあ――
「丸太を自分達で一枚板にしたりとか、出来るんじゃないのか?」
と、切り出す作業をしている大工を指差しながら言ってみる。
ケンさんはしばし動かなくなった後『出来るな』と答えた。
だったら、こうすればいいんじゃね?
「マサオさんっ。丸太を分けてくれないか?」
森で木こりのマサオさんと再会し、開口一番でそう言うと、彼は暫く硬直して考え中モードになった。
丸太から板を作れるっていうんなら、材木屋を通さずに丸太を手に入れればいいんだよ。
問屋から買うより、メーカーから直接仕入れたほうが安上がりだろ?




