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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション0.00【オープンベータテスト】
29/268

29:マジとロビースタッフの共同制作。

 朝六時。

 時計のアラームで目が覚めた。

 久々のVRで昨晩は興奮していたけれど、案外すぐに眠れたな。


 ベッドから起き上がり、一階に降りて顔を洗って歯を磨いて――


「よし、支度は全て済んだ。朝ログイン!」


 三十分程度で朝飯まで済ませると、あとは部屋に戻ってログイン準備だ。

 もちろん、便所も済ませてある。






『おはようございます、彗星マジック様』

「あぁ、おはよう」

『ふふ……』


 ぐ……つい条件反射で挨拶をしてしまった。

 い、いや。相手がNPCだからって挨拶を返してはならないなんて事もないんだし、そもそも挨拶されたら返すのが礼儀だよな。うん。


 しかし、酒場で「おはよう」というのも、なんかだらしない大人の日常みたいでアレだな。

 ここの背景は彼女が自由に変えれるようだし、思いきってリフォームを頼むか。


「なぁ、ここの背景を酒場以外にしないか? 俺、未成年だし、なんか馴染めないんだよな」

『まぁ、気が付きませんで、申し訳ありません。ではどのような内装にいたしましょうか?』

「うーん、そうだなぁ」


 逆に質問されると困るんだよな。


「ファンタジーっぽい建物がいいな。床も壁も木製で、大きな本棚があったりとか。あー、あと、これからゲームの世界にダイブするぞ的な、なんかそういうのあったら面白そうだな」

『なるほど、演出でございますね。ではこういうのは如何でしょうか?』


 女NPCが手を一振りすると、酒場のバーが一変して図書館のようになった。それも古い図書館だ。

 見渡す限り本棚、本棚、本棚、本棚。

 左右に本棚が建ち並ぶ細い通路はどこまでも続いている……。


「いや、これさすがに多すぎだろ。この通路、何メートル続いてるんだよ」

『はい。五百メートルほどにしてみました。その先に扉がありまして――』

「どんだけ広いログインロビーなんだよ! もっとこじんまりしたのでいいんだよ。本棚も一つで十分だ。それにテーブルと椅子、古めかしい暖炉とランタン。こんな感じで頼む」

『そうやって最初から具体的に言っていただければ、直ぐに出来ましたのに』


 ぐっ……しれっと俺のせいにしやがったなこいつ。

 昨日のゲーム終了直前に見せた笑顔のせいで、NPC変更は止めてやろうとか思ったけど、やっぱり――


 そんな事を考えていると、再び景色が一変する。

 俺の部屋より少し広いぐらいの、八帖か十帖ぐらいだろうか。壁も床も天上も全てが板張りで、床には薄い青の絨毯が敷かれ、壁には天井まで届く本棚が一つ備えつけられてある。本棚には大小さまざまな本がびっしり並んでいて、背にも作品タイトルであろう文字が刻まれてあった。尚、俺には読めない幾何学文字だ。

 天井に電気はなく、壁にランタンが飾られてある。別の壁には暖炉もあって、くべられた薪に火が付いていた。


「暖炉が欲しいって言ってなんだが、今はさ、夏だし。火はいらないよ」

『注文の多い方ですね』


 彼女がさっと手を振ると、火は一瞬にして消え、新品の薪に取り替えられた。

 サラっと愚痴られたがまぁいい。イメージした物とばっちりだしな。


 ただ一つ気になるとしたら、窓が無い事。


「窓欲しいな」

『はい』


 窓が出来た。

 出来たが……


「おい、窓の外が亜空間になってるぞ」

『電子空間ですね。ある意味間違っておりません』

「いや、なんか背景も作ってくれよ……」

『ご注文は?』


 ウエイトレスかよ。

 えーっと……それじゃあ……






「こんなもんでどうだ!」

『作ったのはワタクシでございます。こんなもので如何なものでしょうか?』


 ……アイデアは全部俺じゃないか!


 森に囲まれた小さな丸太小屋。そこが俺の、ゲームにログインするためのスタート地点だ。

 まずログインしたら小屋の前に現れ、俺は小屋の中に入ってNPCの案内でゲーム内に――


「演出はどうするんだ?」

『はい。こちらの――』


 そう言って彼女は部屋の奥にある扉におれを案内した。

 小屋としてのただのオブジェ的な意味での扉だと思ったが――


『この扉を開きますと、前回ログアウトした場所へと続きます。開けてみて下さい』


 言われて扉を開くと、その向こうにどこかの路地が見えた。

 ログアウトした場所の風景とかあんまり覚えてないけど、町中でログアウトしたのは確かだ。


『向こうからこちらは見えないようになっておりますし、彗星マジック様以外は通れませんのでご安心ください。例え裸踊りを披露されても、誰にも迷惑をお掛けする事もございませんよ』

「例えがおかしいだろ。それにここにはお前がいるんだし、俺が全裸とかになったら困るだろ?」

『いえ、寧ろ――なんでもございません』


 言わんとしていたことが手に取るように解る。しかも嬉しくない。

 せめて表情があって、冗談だと解るようだといいんだけどな。

 今だって、一貫して真顔で言うもんだから、冗談なのか本気なのか解ったもんじゃないし。


「はぁ……まぁいいや。ロビー制作で結構時間掛かったし、そろそろログインするわ」

『十五分五十一秒かかりましたね。ログイン前にお一つ』

「なんだ?」


 執務室というか書斎というか、そういうのをイメージした室内には古めかしい机と椅子、あとは壁際にソファーが一つ置かれている。

 彼女が椅子に座ると、可視化された大きなウィンドウが現れた。


『予定通り、本日十五時にオープンベータテストは終了させて頂きます。そして同日二十時より正式サービス開始となりますので、その間はメンテナンス時間となり、ログインが出来なくなります。予めご了承ください』

「あ、そういえば公式サイトに日程あったな」

『はい。継続してプレイをなさる場合には、プレイ料金を支払って頂く事となりますが、本日より十日間は正式サービス開始感謝期間として無料でお楽しみ頂けます。その後の継続プレイ時には、課金が必要となりますのでご注意ください』

「解った。十日間遊んで面白かったら課金するよ」


 まだ序盤も序盤。

 どう転ぶか解らない状態でもあるしな、無料期間があるならもう少し様子をみよう。


『それでは、いってらっしゃいま――、あ、お送りは致しませんので、彗星マジック様のお好きなタイミングで扉からご出発ください』

「そうだったな。自分の足でゲーム内に行けるんだった』


 扉の向こうはゲーム――異世界。そんな演出だ。

 うん、これはなかなかいいと思う。


「じゃあ、行ってくるよ」

『はい、行ってらっしゃいませ彗星マジック様』


 ぺこりと綺麗に斜め四十五度のお辞儀を見せるNPC……NPCって呼ぶのもなんか違和感があるな。

 扉に一歩踏み込もうとしたところで俺は留まった。


「なぁ」

『はい?』


 きょとんとした顔――ではない真顔で首を傾げ、こちらをじっと見つめてくる彼女。


「名前、ないのか?」

『ございません。識別コードでしたらございますが』


 番号かなんかだろ? それで呼ぶのもなぁ……。


「名前、なんか考えといてくれよ。呼ぶときに困るだろ」

『はぁ……では、彗星マジック様がお考えになってくださいませんか?』


 何故そうなる。考えてくれって言ったのに、そこでなんで俺になるんだ。


『ワタクシといたしましては、響きのよい清涼感のある、且つ知的で美しい印象を与える名前を希望いたします』

「具体的なのか抽象的なのか解らない要望だな。というかそこまで希望があるならお前が――」


 お前が自分で考えろよと言いたいが、じぃーっと見つめられたら嫌とは言いづらい。


『名前、何か思いつきますでしょうか?』

「い、いや、待ってくれ。そうすぐに思いつくものでもないし……はっ、そうだ! ゲームしながらリラックスすれば、何か思いつくかもしれない」

『左様でございますか。それでは今すぐ、行ってらっしゃいませ』

「あ、ああ。行ってくる」


 こうして俺は逃げるようにしてゲーム内に出発するのだった。

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