263:マジ、好きぃーっ!
オブジェ最強。
それは完全に証明された。
直線の即死川に限らず、タコ男中心の範囲即死もまた樽で回避可能だった。
「この即死ってさ、原理としては直線のと同じなんだな」
「そうねん。直線は石像から流れてくる死の川だけど、範囲は本体が吐き出すタコ墨だからねん」
「これってタコ墨だったんっすか」
タコ男と石像の間に、樽を十個並べて置いてある。
更に後衛三人組の前に、樽を四つ並べ、三人は樽越しに攻撃をする。
前衛の俺たちは、石像、樽、俺たち、タコ男という並びになるように立ち位置をキープ。
シルフやぷぅの合図があれば、直ぐに樽へと密着して即死を回避。
尚、タコ男中心の即死に関しては、離れるか樽の上に飛び乗るかで回避するという作戦だ。
ただ、後衛三人に関してはほとんど動く必要が無い。
彼らの前方に置いた樽が、石像から流れる即死川も、タコ男が吐き出す即死墨も防いでくれる仕組みだ。
しかも、川が流れる間もこの三人は戦闘を持続できるという。
尚、俺は樽の上に乗ると攻撃が届かないので傍観するしかない。
まぁMP回復に専念しているから、無駄って訳でもないさ。うん。
タコ男のHPが30%を切り、れいの倉庫内空間を三分割したどこかに即死川が流れてくる……事になっても、樽に乗れば関係ない。
常に同じ戦闘区域で戦って、シルフやぷぅの合図で樽に乗る。
俺、あとセシリアはぼぉっと死の川が流れるのを見守り、他の仲間は戦闘を続ける。
たまにフナムシも大量に流れていくが、ほんと、こいつら何しに出て来てるんだろうな。
「なぁ、フナムシの存在意義ってなんだ?」
「流されるためだと思うぞ、マジック君」
「お前もそう思うか」
死の川が流れる間、やることが無く膝を抱えて見てるだけ〜な俺たち二人。
「アタシが前に組んだパーティーだと、フナムシの群れに弓使いが攻撃を当てちゃって。しかも即死攻撃の範囲外に居たメンバーだったからフナムシも死なず、その後は地獄絵図になったわよん」
「狙いは後衛潰しだったのか」
「そうねん」
そりゃあ確かにたまに、後衛三人の攻撃がフナムシに当たって、そっちに流れる事はあったが……めふぃすとの悲鳴にも似た攻撃が炸裂してたもんな。
タイミングよく、攻撃にストップをかけたりも。
めふぃすと、出来る漢。
そして遂にタコ男のHPは残り数%に。
1%か? 2%か? もうその程度しか残っていない。
あとは畳みかけるか。
〔ひゅるっ〕
〔ぷぷ!〕
っち。しぶといタコめ。さっさと茹で上がれってんだ。
ヒョイっと樽に飛び乗った瞬間、横からグラグラという嫌ぁな音。
横目で見たのは、筋肉あんまんが樽から落ちた姿。
「おいっ、あんまん!」
「わぁぁっ、しまったっ――」
あ……チンダ。
あんまん、川に流される。流れては無いけど。
「やだん。タンカーくんは死んだって事は、次にヘイトが高いのって……」
「誰かしらねぇ〜」
「「じぃー」」
おい!
お前らなんで俺を見るんだよ!
めふぃすとだってじゃんじゃん攻撃してるだろっ。
シースターだって……まぁ攻撃スキルが一つだし、こいつじゃあないな。
あ、サブタンクのセシリア先生が居るじゃないか。
セシリアだってヘイトスキル持ってるんだ。当然あんまんの次に――。
「セシリア、ヘイトスキル使ったか?」
首を左右に振る彼女。
え、えぇっと。
ヒ、ヒーラーだってヘイト稼ぐだろ!
紅茶さんかもしれないじゃんっ。
「「じぃー」」
「……俺確定なのか!? いや、違うかもしれないじゃん!」
反論しつつ、俺は無意識に『カッチカチ』を使う。
もちろん俺に対して。
川の流れが止まった瞬間、タコ男の顔は――。
「あぁぁっこっち見んなっ」
「ほぉら、あんたじゃない」
「マジック、頑張ってね」
「うぅ、すまないマジック君」
ぐ……こうなったら仕方がない。
俺だって以前やってたVRでは前衛職だったんだ!
あ、今もか。
違う違う。物理攻撃職で、いざとなったらタンク役をやったりもしたんだ!
一回だけな。
その時もメインタンクが死んで、仕方なしだったが……分かっている。
どうすればいいか俺には分かる!
「あんまんを蘇生しやすいように、ボスを動かすっ。紅茶さん、あとはよろ」
「任せて」
「あんまんが起きるまで誰も手を出すなっ。特にめふぃすと。俺とのダメージヘイト差が紙一重だったが、タゲが移るからな」
「アタシはか弱いんだから、タゲなんて来られたら困るわよん」
俺だってか弱い魔法使いなんですけど?
「セシリアは全力で攻撃していいぞ。お前にタゲが移ってもタンクできるだろうし」
「う、うん。頑張る!」
全員でフルボッコして倒すっていう手もある。
だが俺は知っている。
「死んだままボス倒したら、ドロップ貰えねえんだからなぁぁぁっ」
「泣きながら言うって、最初のボスの時がよっぽどだったんだなマジック」
「当たり前じゃあぁぁぁっ」
タコ男を誘導させ、奴の足があんまんの死体に届かない距離まで移動すると紅茶さんが蘇生スキルを使った。
すぐに起き上がったあんまんは、何故か涙を浮かべながらタコ男を挑発しまくる。
「マジさん、マジ好きいいいいぃぃぃぃっ」
「もういっぺん死ねええぇぇぇっ!」
タコ男を巻き込み、俺の魔法が火花を散らすのだった。




