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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション0.00【オープンベータテスト】
25/268

25:マジ、ロデオライダーになる!

「ふ、ふぅーん。クエストだったのか」


 何故か明後日の方角に視線を泳がせた彼女が言う。心なしか顔も赤い。


「あ、あぁ」

「で、では私も手伝おう。一人では何かと大変だろうし」


 まぁそれは有り難いんだが、せっかくの勇者タイムが何もしないまま終わってしまったのがなぁ……。

 しかし……


「助けて貰ってなんだが、いきなり他人と交戦中のモンスターを倒すのはアレだと思うぞ」

「アレ? アレとは?」


 ようやくこっちを向いたな。顔が赤いのは熱でもあるのだろうか。

 ん? こいつ、もしかして……。


「VR初めてか?」

「そうだが。アレとは?」

「やっぱりか……えーっとな」


 他人と交戦中のモンスターを倒す。それは横殴り行為とされ、MMO時代からのノーマナー行為の一つとして有名だ。

 理由は簡単。

 モンスターを倒しえて得られる経験値が、勝手に飛び出してきた奴にも送られるから。

 アイテムも然りだ。

 ピンチに見えてそうじゃない場合もあるから、助けが必要かどうかは声を掛けて確認したほうがいい。

 そう伝えると、少し考えてから――


「そ、そうか。それであの人達は怒った顔していたのか」


 おいおいおい、いったいどんだけ横殴りしてきたんだよ。


「ふわぁーっ。どうしようっ」


 急に両手で顔を覆い、その場にわっとしゃがみこむ危険人物。


「ど、どうした!?」

「彼等に謝らねばっ」

「……全員の顔、覚えてんのか?」


 ちらっと俺の顔を見上げ、暫く考えてから首を横に振りだす。

 こいつ、実はNPCなんじゃなかろうか。


「どうしよう」

「いや、どうしようと言われても……今度から気をつけろとしか」

「うぅ……ではそうする」


 そうしてください。

 再びそっぽを向いた彼女だが、チラり、チラりとこっちに緯線を向け、向けては顔を真っ赤にしてそっぽを向くを繰り返している。


「何してるんだ?」

「な、何って……」

「いや、一人で顔真っ赤にしたり向こう見たり、チラ見してきたり」

「いや、だって……」


 そう言ってこちらに視線を向けると、やっぱり顔を真っ赤にさせるし。

 視線……はっ!?


「スケベっ」


 そう言って俺は自分の胸元を隠す仕草をする。すると、彼女の顔はさらに赤くなった。

 やっぱりかっ。やっぱり胸板なのか!


「わわ、私は別にっ、スケベでも変態でもないからなっ。き、君がそんな卑猥な衣装を着ているのが悪いのだろうっ」

「まぁ否定はしないが、卑猥ってのはちょっと……。でもあんまり恥ずかしがられると、こっちまで恥ずかくなるから」

「わ、解った。慣れるよう、善処する」


 うん、ありがとう。

 でもな、だからって俺の胸元を凝視しなくていいから……。

 

 暫く無言の時間が流れる。その間、じっと俺を、特に胸元を見つめている女剣士。

 埒があかない……。


「胸、見るのやめろよ」

「うん。解った」


 素直に返事した彼女は、次に俺の頭をじっと見始めた。

 今度は頭か……あぁ、鳥の巣か。うんまぁ、これは気になるよな。俺だって鳥の巣を頭に乗せてる奴いたら、じっと見ちまうわ。


「これ、気になるか?」


 巣を指差して尋ねると、大きくこくこく頷く彼女。


「話せば長くなるんで掻い摘んで説明するとな……」


 女剣士はごくりと唾を飲み込み俺の言葉に耳を傾ける。その瞳に邪気はなく、なんとなく眩しい。そんな彼女が俺を海の底に沈めたんだから、笑っちゃうよな。

 俺の次の言葉を待つ彼女に、俺は短くこう説明してやる。


「呪いが掛かった鳥の巣だ」


 ――と。


「の、呪い!? 教会でお金を支払えば、解除して貰えるんじゃ」

「いやいや、それどこのRPGだよ」

「そ、そうか。でもやっぱり、呪いというには外せない、とか?」


 うむ。外せない。

 頷いて応えると、彼女は心底同情した目で俺を見た。

 やめてくれ。同情するなら――


「あぁ、そういや手伝ってくれるんだったな。じゃあパーティー組もうぜ」

「パ、パパ、パーティー!?」

「何をそんなに慌てているんだ」

「パ……だって私、パーティーなんて始めてだから、その……」


 何故そこでもじもじする?


「まさかと思うが、パーティーってのは社交パーティーの『パーティー』じゃないからな」

「それぐらい私にだって解るさっ。もうっ」


 顔を真っ赤にしてぷぅっと頬を膨らませるその姿は、硬派な口調と随分ギャップがあるな。

 彼女をパーティーに誘うと、ここで初めて相手の名前が解った。


「セシリアさんか。よろしくな」

「こちらこそ、よろしくお願いします。ちなみに私の事は呼び捨てで構わないから」

「解ったよ。じゃあ、セシリア、よろしく」


 異性相手に握手を求めるのはさすがに恥ずかしいので、お辞儀で挨拶をする。

 セシリアもにっこりと微笑んでそれに応えてくれた。


「よろしく、マジック君」

「って、俺には呼び捨てにしろと言っておきながら、自分は君付けかよ!」

「だって男の人を呼び捨てにするなんて、恥ずかしいじゃないかっ」

「男が女を呼び捨てにするのはいいのかよ」

「クラスの男子は女子を呼び捨てにしてるし、普通なのでは?」

「……確かに」






 三頭を森の外まで無事誘導し終え、村に向うのを見届けてから再び森へ。

 残り六頭。


 再びべーべー言いながら森へと入り、三頭を発見。


「マジック君。その『べーべー』というのは?」

「牛を呼び寄せる魔法の言葉だ」

「そ、そうなのか!? わ、私も言ってもいいだろうか?」

「え?」


 セシリアを振り返ると、やたらキラキラした目でこっちを見ていた。

 俺が頷くと、嬉しそうにべーべー言い始める。

 何がそんなに嬉しいのだろう。


 だがその甲斐あってか、森を出ようと進んでいるとなんと二頭の牛が合流!

 これで残り一頭だ。

 しかし森を出るまでにその一頭を発見することは出来なかった。


「あと一頭だぞマジック君っ」

「あぁ。セシリアに手伝って貰って、ゴブリンとの戦闘も楽になったし、ほんと助かったよ」

「そ、そんな……。勇者殿・・・にお礼を言われるなんて」


 なんか一気に目が死んでるんですけど。

 そんなに称号欲しかったのか。あの時パーティー組んでてやれればなぁ。


 二人でべーべー言いながら森を練り歩くが、最後の一頭はなかなか見つからない。

 これまでの三回は、十五分未満で見つかったのにな。そろそろ三十分コースだぞ。

 なんせ牛の移動速度は遅く、行きに三十分掛かったら帰りは戦闘がある分、もっと時間が掛かってしまう。


「あっ。マジック君!」


 嬉々としたセシリアの声に我に返ると、彼女が指差す先に一頭の牛が居た。


《ぶもぉー》

「探したぞっ。まったく、こんな奥まで迷子になりやがって」

「本当だぞ。さ、帰ろう。皆待ってるし」


 皆って、さっきの牛たちの事なんだろうか。

 やれやれという気持ちで牛の誘導を開始すると、さっそく出てくるゴブリンども。

 こいつら、牛の誘導タイムから襲ってくる仕様っぽいな。森を歩いている間はモンスターに遭遇してないし。


「来たぞマジック君」

「じゃあ頼むよ」

「うん! 任せたまえっ」


 出てきたゴブリンは三体。うち二体を彼女が剣で素早く攻撃し、ダメージヘイトを奪う。残り一体を俺が引き受けるという戦法だ。

 ただ攻撃力という点では俺のほうが圧倒的に高いので、さっさと倒して彼女の援護に向わなければならない。


「待たせたなっ。『サンダーッ』」

「気にするな。私はノーダメージだから」


 そうなのだ。

 彼女、AGI極でステ上げしているとの事で、回避率がかなり高い。技能もそれ系を集中的に取ったんだとか。

 だがその代わり、STRも1という事で攻撃力は雀の涙程度。

 再会時は既に瀕死だったゴブリンに切りかかったから、一撃で仕留められたに過ぎないし。


 無事に三匹のゴブリンを倒すと、俺の体が発光してレベルアップを告げた。

 

「おめでただな、マジック君!」

「あぁ、ありがと――待てっ、今なんて言った!?」

「ふぇ? お、おめでただが」


 お、おめでた……

 ご懐妊かよ!?


「俺は妊婦じゃないぞっ」

「あはは。そんなの見れば解るじゃないか〜。もう変な事言わないでよぉ」


 変なのはあんただ。


 そんな馬鹿話をしている間にも、ゴブリンは襲撃してくる。

 出口までの距離が長い分、襲撃回数も多くなるだろうな。


「くぅー。もう少しこの牛が早く歩いてくれれば。寧ろ走ってくれよ」

「木の枝で叩いてみる?」

「あぁ、それなら――」


 ゴブリンを蹴散らした後、持っている海獣の杖で牛のお尻を叩いてみた。


《もぉー》

「牛だけに、もーっと抗議しております」

「ぷははっ。マジック君って、面白いな」


 面白い……そんな事言われたの初めてだな。


 杖で牛を走らせる作戦は失敗した。というかもーと言う以外、特に反応も無い。

 なんとかして走らせたいっ。

 つえがダメなら、ロデオのように上から乗って驚かしてでも走らせるか!?


 ゴブリンの襲撃の合間に牛に跨ってみる。

 うん、ゴツゴツしているな。予想通りだ。

 そして予想通り落ちた。


「大丈夫か、マジック君! HPが減っているけれど……」

「あぁ……落下ダメージらしい。無駄なもの実装しているな。『ヒール』」


 だが諦めない!

 少しでも早く移動するためにっ。


《もぉー》

「大人しくしろっ」


 ――ずどんっ。


 落ちた。


「まだまだーっ」

《んもぉー》

「がふっ。ま、まだだっ」

《んももぉぉーっ》

「げふっ。あ、諦めろ。俺は諦めないから、お前が諦めろっ」

「マジック君、何をしているんだい?」

《もおおぉぉぉぉっ》

「がふっ。じょ、乗馬みたく、こいつの背に乗って走らせようかと思っ――げふっ」


 ちょっとここいらでヒールしておこう。

 さらにゴブリンの襲撃があり、撃退するとセシリアのレベルが上がった。俺より一つ低い8だ。


「セシリア、おめでとう」

「ありがとうっ。マジック君もよく解らないけど頑張るのだ」

「あぁ、頑張るよ。こいつの背に乗って――」


 ぽんっと牛の背を叩き、足を蹴って跨る――跨がれた!

 そのままいつ落とされても受身を取れるよう構えていたが、牛は俺を振り落とそうとしない。

 代わりに電子音が聞こえ、メッセージが浮かぶ。


【『乗牛技能』を修得しました】


 ……乗牛……技能?

 つまりこれで、牛を操作できるようになると!?


「やった。やったぞセシリア!」

「あぁ、やったぞマジック君! 森の出口だっ」


 森の出口はもう目と鼻の先でした。

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