212:マジ、潰れる。
『問題です』
目の前の台座にはスフィンクス像が。
見るのはこれで十回目だ。
そして問題を出されるのも十回目だ。
動く床をクリアし精神的な疲労を回復させ歩き出すと、直ぐにこのスフィンクス像に遭遇。
台座の後ろの壁には『○』と書かれた赤い紙と、『×』と書かれた青い紙が貼られていた。
どこのクイズ番組だよと突っ込んでいると、スフィンクスが目を見開き、
『なぞなぞターイム!』
とか叫びだしたもんだ。
クイズの答えは二択形式。
○か×。正しいと思うほうへ走れということなんだが……
『空の上にあるのに、いつも座っているものはなぁ〜んだ? ○ギョウザ。 ×せいざ。さぁどっち?』
……二択がそもそも答えになっているというね。
俺たちは迷う事無く『×』へと駆け込む。
紙をべりっと突き破り、マットが敷き詰められた所をそのまま走り抜ける。
隣の『○』のほうには何も無い。
クイズ番組だとここに小麦粉プールや熱湯プールがあるもんだ。
だがこのゲームではそれが無い。
そもそも床が無いのだ。
不正解なら奈落の底に突き落とされるのだろうが、間違いようがないほどに簡単すぎるのだ。
しかもニ択にしているから、問題を聞いただけでは分からないものも、○×の選択肢が出た瞬間に誰でも分かってしまうという。
「誰だよ、あの問題を考えたやつ」
「あれって小学生低学年レベルですよね」
「スフィンクス、泣いてるように聞こえるのだが」
セシリアが振り返り、敗れた紙の奥を見つめる。
あぁ、聞こえているさ。
スフィンクスのすすり泣く声が。
同情はするよ。
あいつは何も悪くない。
悪いのはあいつに問題をインプットした馬鹿な開発だ。
「お陰で楽に突破出来たぜヒャッホー」
「動く床が難関だっただけに、拍子抜けですねぇ」
「小さい子にも分かる問題を出してくれるとは、ここの開発は親切だな」
セシリアの言葉で残りの俺たち三人は「え?」となる。
彼女の満面の笑みは、本気でそう思っていることが伺えた。
さすがぽんこつ娘だぜ。
その後も道幅いっぱいの大岩――ただし平坦な道――や、坂道を転がり落ちてくる小石――じっとしていればどうってことない――トラップの仕掛けられたワイヤー――太くて見え易いです――などなど、様々な仕掛けが俺たちを襲う。
「なんだろうな……ここのダンジョン設計した奴の頭の中を覗いてみたい」
「欠陥だらけだな」
「最初の落とし穴にしても、微妙でしたしね。それを考えると橋が動く床はまともに思えます」
「アトラクションだと思えば楽しめるよね」
「「え?」」
これまたぽんこつ娘の発言に、俺たち三人は首を傾げてしまう。
幾多のどうでもいい罠を潜り抜け辿り着いた先には――
「何故か俺らより先に到着してるパーティーが居るんだが」
「マジ氏、あっちにも道があるみたいだぜ」
フラッシュが正面やや右を指差すと、奥へと続く道があった。
人影も見えるが、奥へと向っているのではなく、こちらへと向って来ているのが分かる。
「そういえば待ち合わせ場所からもう一つのルートがありましたよね。それじゃないですか?」
ルーンの言葉に思い出す。
ネオン街にはもう一つの道が合った事を。
俺たちが今通って来たルートを振り返る。
後続者の気配はまったくない。
もう一つのルートを見る。
人影が見える。しかも複数。
「みんな、あっちがゴールらしいぞ」
セシリアがいう「あっち」に視線を向けると、『ゴール』と書かれた垂れ幕があった。
……ここの開発はやっぱり馬鹿だろう。
向こうのパーティーが来る前に先にゴールしておくか。
他の三人も同じ気持ちだったらしく、揃って歩き出すと段々と速足になり、そして駆け出した。
垂れ幕の下までやってくると、そこが部屋の入口だというのが分かる。
特に扉があるわけじゃないが、アーチ型の入口の奥には、かなりの広さがある空間が広がっていた。
通路そのものはまだまだ奥へと続いているが、『ゴール』と書かれているのだからここがボス部屋だよな?
い、いや。今までの事を考えると、この垂れ幕も嫌がらせだったりして?
「あ、次どうぞ〜」
疑心暗鬼になっていると、中から軽い調子の声が。
相手は女性プレイヤーだった。
メンバー全員が女という、華やかなパーティーだなぁ。
「あの、次というのは?」
尋ねた俺を見て、突然彼女たちがざわつき始める。
な、なんかマズい事でも言ったか?
「お、王子様じゃん」
「そうそう、絶対ふんどし王子様よ」
「あ、あの、ふんどし王子様ですよね〜?」
……俺の名前はふんどし王子じゃないんだが。
返事に困っていると、隣のフラッシュが「そうだぜ」と勝手に返事をしやがった。
おい、待て。改名すんなっ。
「キャ〜。やっぱりぃ」
「こんな所で会えるなんて、光栄ですっ」
「SSより本物のほうがかっこいいぃ」
キャッキャキャッキャと騒ぐ彼女たち。女の子は賑やかだな……。
しかし、なんで俺の事をふんどし王子と呼ぶ奴が多いんだろうか。そんなにふんどしはいてるか?
「あ、この中の事ですよね? 私たちも来た時なんだろうって思ったんですけど、中には階層ボスが出るんですよ」
「マジですか?」
「マジです! あ、でも時間湧きっぽいんで、少し中で待ってないといけないかもしれません」
「オッケーオッケー。野郎ども、中に……あれ?」
振り返ると、そこには誰も居なかった。
「もう皆さん、中に入ってますよ?」
言われて中を見ると、三人とも準備万端である。
「ま、待ってぇ〜。置いてかないでくれよぉ」
くすくすと笑う彼女らの声を背中に感じながらも、俺は慌てて仲間たちと合流する。
その仲間たちもくすくすと笑っていやがった。
「置いていくとかひでーしっ」
「マジックさん、女の子に囲まれて嬉しそうだったから邪魔しちゃ悪いかなぁと思って」
「そうそう。俺らの優しさじゃん」
「わ、私はいいと思うぞっ」
「何がだよ」
突然そう言うセシリアに問うと、何故かもじもじしはじめる。
何が良いっていうんだ?
「ふ……」
「ふ?」
顔を覆い、そして彼女は声を上げた。
「ふんどし王子!」
……何故そこでふんどし!?
それはあれか?
俺にふんどし姿になれという、そういう事なのか?
セシリア、お前って……ぽんこつだけじゃなく、変態だったのか!?
愕然とする俺の背後で風が吹く。
「うげっ、マジ氏!」
「マジックさん、後ろっ?」
「え?」
後ろ、なんて言われたら振り返りたくなるのが人間ってもんだよな。
そして本能の赴くまま、俺は振り返る。
そこで見たのは、さっきまでは無かった毛の壁。
見上げるとそれが丸々と太った蝙蝠だってのが――
「ぎゃあぁぁっす!」
「マジック君危な――遅かったぁ」
その体形でどうやって立っているんだと思われた蝙蝠は、案の定、前のめりに倒れこんだ。
そう。
俺に向かって。




