203:ウミャー、うみゃみゃみゃぁ。
ファクトでログインしたものの、とりあえずこれと言って何も変化は無い。
そういやアップデートの内容聞き忘れてたな。まぁいいか。誰かに聞こう。
フレンド画面で誰がログインしているか確認する。
うん。素晴らしく皆勤賞ものだ。
ファクトに居るのは……セシリアとルーン、フラッシュ。それにシースターか。ドワーフどもはもう鉱山の中かよ。どうなってんだ。
「俺もさっさと狩りに行こう。新スキルの試し撃ちしたいし」
「じゃあボクたちもご一緒していいですか?」
「久々にマジック氏と組めるぜ」
「おお、いいね……おわっ!?」
い、いつの間に!?
気づいたらルーンとフラッシュの二人が目の前に居た。
システム画面を見てたから気づかなかったのか。
だが丁度いい。
「なぁ、今日のアップデート情報、教えてくれないか?」
「そこからですか……」
苦笑いのルーンの横でフラッシュが咳払いを一つ、そしてドヤ顔で解説を始める。
「ロビーの大改造のアレが、メンテ終了と同時に応募も締め切られたぜ。発表は再来週」
「どうでもいい。それアップデートじゃないだろ」
「ぐっ……あ、あとはな、一部エリアが解放されたって」
「どこの?」
「ぐっ……」
言葉を詰まらせるフラッシュの横で、ルーンがくすくすと笑っている。そのルーンが「未発表なんですよ」と補足した。
どこが解放されたか、自分たちで確かめろってことか。
ここで俺はふと思い出す。
――絶対俺たちの村に遊びに来てくれよな。
そう言ったディオの言葉を。
もしかして、ディオの村周辺が解放されたとか?
「あと、西海岸のほうでも何かイベントが発生するみたいな予告はあったぜ」
「ほぉ。海岸かぁ」
海岸だと水属性モンスターの巣窟だな。新スキルとの相性は最悪だ。
「砂漠に行こうぜ」
「なんでそうなるんだよマジック氏!」
「だって新スキルが水属性なんだよ!」
「「なるほど」」
納得してくれたようでよかった。
「それなら私と一緒に遺跡ダンジョンへ行かないか?」
突然降って湧いて出た、聞き覚えのある女の声に振り向くと、
〔ウミャーウミャー〕
〔ぷっぷっ! ぶぶぶっ〕
「マジックさんっ、ぷぅちゃんが食べられそうですよっ」
「おぉ、ウミャー大きくなってるなぁ。やっぱ虎は可愛いなぁ」
小型犬サイズのウミャーが俺によじ登ってきた。
こいつ……合成ペットフードを狙って来てるだろ!
「遺跡ダンジョン、行かないか?」
にっこり微笑むセシリアは、ウミャーを制するそぶりも見せず、俺たち三人に手を差し伸べていた。
「ほぉ。じゃあ遺跡ダンジョンも拡張されたのか。行ったこと無いけど」
「うむ。うちの執事さんが教えてくれたのだ」
「公式サイトには、一部ダンジョンの構造が変更されましたとしか書かれていませんでしたね」
「てっきり海賊ダンジョンかと思ったけど、遺跡のほうだったか。あっちは不人気だったもんなぁ」
そうなのか。そもそも遺跡ダンジョンに行った事がなかったから知らなんだ。
その遺跡ダンジョンに向って、俺たちは移動をしている。
ダークエルフの集落がある森の入り口までテレポで移動し、そこから徒歩だ。
十数分ほど歩くと、遺跡ダンジョンへと到着した。
外観はギリシャだのローマだので見られるような、壊れかけた神殿。大きさは一軒家程度。石柱が四本あり、屋根のようなものは無い。
遺跡周辺は開けており、ここに大勢の冒険者がたむろっていた。当然のように露店なんかも出ている。生産組は商魂逞しいなぁ。
ぞろぞろと列を成してプレイヤーが動いているが、俺たちもその列の最後尾に並ぶ。
この分だと中は大混雑だな。
「こんなに人がいっぱいいて、まともに狩りが出来るのか?」
尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。
「大丈夫だぞマジック君。ここのダンジョンは、えむおーと言ってだな、一定人数が入ると、新しいえむおーが形勢されるという場所なのだ」
「MO、だと? セシリアっ、お前、なんでそんな難しい単語を知ってるんだよ!?」
「ふっふっふ。私は日々進化しているのだよ」
ぽ、ぽんこつ娘が進化だと!? もうぽんこつとは言えないのかっ。
「どう聞いても棒読みだったろ。どうせ執事か誰かに教えて貰ったことを、そのまま暗記してるだけじゃね?」
「ふえっ!」
フラッシュのつっこみに後ずさるセシリア。
なるほど。まんま覚えた事を俺に言っただけか。安心したぜ、セシリアがぽんこつなままで。
しかしさっきの説明だと、パーティー単位じゃなくって人数制限つきのダンジョンってだけなのか。
「確か百人ぐらい入れるって話ですよ。正確な検証がされた訳じゃないので、正しいかどうか分かりませんが」
「へぇ」
「まぁパーティーが分断されることはないって事だから、安心して入ればいいさ」
なるほど。百人なら混雑はしないか。
安心して進むと遺跡の中央に下へと続く階段があり、前の人たちに続いて下りていく。
何段か降りたところで違和感を感じたが、たぶん専用フィールドに出たんだろう。
「三階までは今までもあった階だから、拡張されてるならその下の階層だな」
「ボクたち、三階までは行ったことあるので案内しますよ」
頼もしいなこの二人は。
情報源のセシリアに至っては「一階なら来た事がある!」と言っているものの、じゃあ案内をと言えば「ふえぇっ」と声を上げて後ずさる始末だ。道、絶対覚えてないんだろ。人のセリフは暗記できても、道は覚えられないってか。
道中の敵は格下だらけで、三階のモンスターでもレベル25という。
フィールドとたいして変わらないじゃないか。しかもボスすら居ないという。
そりゃあ不人気にもなるわ。
「拡張された階にはボス居るといいな」
「居なかったらまたただの穴倉ダンジョンだよな」
「そうですね。わざわざ拡張するぐらいですし、居るでしょ」
という男三人の会話に、紅一点(ワロ)のセシリアがドヤ顔で頷く。
「執事さんが教えてくれたぞ。各階層に中ボスが配置され、最下層の地下十階にはボスが登場する、と」
「中ボス!?」
「地下十階!? 拡張気合入れすぎじゃね?」
「楽しみですけど、十階まで降りるの大変そうですね……」
確かにルーンの言う通りだな。中ボスと聞いてときめいたが、下りるのにどのくらい時間がかかるのか。
初挑戦だと道も分からないわけだし、迷子になりながら次の階層に向う階段を見つけ、次の階層でも同じように……十階まで辿り着くだけでも数時間は掛かるぞ。
いや、数時間で行けるのか?
「一度下りた階層は、エレベーターが使えるとも執事さんが言っていた」
は?
ここでもエレベーターかよ!
っていうか、セシリアのところの執事は優秀だな。
地下三階で次の階層に下りるため、階段がどこかに新設されているはずだ。その場所は差すかに執事さんも教えてはくれなかったようだ。というよりセシリアが尋ねなかっただけとか。
だが他にも情報はあった。
「地下四階は飛行系モンスターが八割らしい。理由はダンジョンの構造にあると言っていた」
「ほほぉ。風属性魔法が効くかな?」
「飛行系なら弓の攻撃も有効だぜ。弓は飛行系モンスターに追加ダメージがデフォで付いてるからさ」
マジか。羨ましい。
だが風が有効だった場合、確実に俺も活躍できる。
そう。
『ディスク・グラインダー』の出番だ!!
そして地下五階は――
「地属性モンスターの生息区域――だそうだ」
「棒読みだな。覚えたのか?」
こくこくとドヤ顔で頷くぽんこつ娘。
記憶力はいいようだ。
なのに道は覚えられない、と。
地下六階は火山地帯だと彼女は言う。
地下なのに火山とはこれいかに?
七階は雷雲が轟きまくる階層で……八階は氷河期真っ只中……九階は――
「岩が宙に浮いていて、そこを登っていくんだって。楽しそう」
ふふっと笑みを漏らすセシリアは、ほんの少し女っぽかった。
女っ気が薄いからなぁ、こいつは。
しかしなんだ。俺たちはダンジョンに来ているはずなのに、彼女の話を聞いていると混乱しそうだ。
どう聞いても後半はダンジョンものじゃないだろ!
「一度足を踏み入れれば、次からはエレベーターが使えるってんなら……」
「まぁ今日は行ける所までいきましょうや、マジック氏」
「そうだな。俺的には火山エリアまでは行っておきたい。水のレベルを上げたいからな」
「水付与か。それでパンチ力あげるんだよな?」
パンチ力? 何言ってんだこいつ。
「あ、見てください」
ルーンが前方を指差すと、やたら派手な光を発する何かがあった。
その何かの周辺に大勢のプレイヤーが集まっている。
俺たちも近づいてみると――
【ようこそ遺跡ダンジョンへ。ここは拡張エリアの入り口です】
と、ネオンで派手に飾られた看板があった。
ここの開発は――
たぶん、アホだ。