200:マジ、ボクっ娘をゲットする。
サラマンダーとの契約は無事に出来たようだ。
あとは『闇属性魔法』の技能習得だけなんだが、また本を渡されてこれ読め的なものになるんだろうか。
ロビーで読むことも出来るし、プレイ制限時間の節約にはなるけど……。
「マジックさんの頼みなら、お任せですの! えいっ」
そう言ってブリュンヒルデが突進してきた!?
突然の事で回避が間に合わなかった俺は、彼女の頭突きを顎に食らってしまう。
痛い。さっきの根性焼きの非じゃないぐらい痛い。
「な、何をふふんらブリュンヒウエ」
痛みで舌が回らないじゃないかっ。
「はいですの。これで『闇属性魔法』を習得したですのよ」
「は、はんらって!?」
慌ててステータスを確認すると、確かに『闇属性魔法:LV1』というのが追加されている!
っく。大賢者は杖で殴ってきたが、ブリュンヒルデは頭突きかよ!
揃いも揃って、もっとマシな伝授の仕方はねえのかよ。
まぁ痛い思いをした甲斐もあって、無事に『闇属性魔法』も習得できた。
次は風の精霊を見つけに行く番だな。
「サンキュー、ブリュンヒルデ。じゃあ次の精霊をゲットしに行ってくるよ」
「え? もう行くですか?」
「あ、ああ……」
途端に寂しそうな顔をする彼女。そんな後ろ髪引かれる様な顔すんなよぉ。
「ぷぅ……この前だって、マジックさんを助ける為に行ったですのに、何も言わずにどこか言ってしまうんですのぉ」
この前……あぁ、襲撃イベントの時か。
そういや暴れまくってるブリュンヒルデを放置して開拓村に行ったっけか。それでさっき怒っていたのか。納得。
「まぁあの時は悪かったよ。開拓村の方角から火の手が上がるのが見えたもんだからさ」
そう言うとやっぱりというか、ブリュンヒルデのシンキングタイムが始まった。
割とすぐ動き出した彼女は、驚くと同時に顔を青ざめて詰め寄る。
「む、村は大丈夫だったですの!? 大賢者様やお孫ちゃんは?」
「あぁ、大丈夫。ちょっと民家に穴が空いたりもしたが、さっき行った時にはもう元通りだったぜ」
「そうですの。良かったですのぉ。……でも!」
胸を撫で下ろしたかと思ったら、また詰め寄ってくる。
こ、今度はなんですか!?
「村が襲われていたっていうなら、尚の事私も連れて行って欲しかったですの!」
「い、いや。だから悪かったって」
寧ろあんたを連れて行ったら、確実にディオが殺されてますやん。連れて行かなくて正解だと思う。思うが、それを口には出来ない俺チキン。
ぷぅっとさっきみたいに頬を膨らませていたブリュンヒルデ。仕方ないな……奥の手だ。
頬を
突く!
「ぶぅっ――な、何をするですの! も、もうっ」
「よしよし、やっと笑ってくれたな。じゃあ、俺行くわ」
シュタっと手を上げて彼女に挨拶すると、また頬を膨らませて、それでも手を上げて応えてくれた。
次なる目的地はピッピの居る平原だ。ただし、この時間じゃあもう居ないか……。
ピッピ平原に到着したが、明け方とはもう言えないこの時間。居るわけが無い。
しまったな。ブリュンヒルデの所に行く前に、こっちに来るべきだった。そうすればピッピに会えたかもしれないのに。
まぁ仕方が無い。シースターのおみやげ羽根はまた今度にして、風の精霊シルフを探そう。
「しかし、どうやって探したものか」
〔ぷぅ〜〕
「お前は飛べるからいいよな……あ、ぷぅ。お前、空からシルフを探してくれないか?」
〔ぷっ〕
いつもは従順なぷぅが、珍しく首を横に振る。
〔ぷっぷぷ、ぷぷぅぷ〕
「……そうか。未契約状態の精霊は、お前にも見えないのか……」
そりゃあ仕方が無い。
なら自力で探すしかないか。
精霊はその属性要素のある場所に生息している――と本で読んだ。
土の精霊ならむき出しの土のある場所に。水の精霊なら水のある場所に。火の精霊なら火のある場所に。
なら風の精霊は――
「風の吹く場所――なのになんでこの平原は無風なんだよ!!」
〔ぷ? ぷっぷぷぷ?〕
「おう。俺は今、猛烈に風が欲しい!」
〔ぷぷぅ〜♪〕
任せて♪ と言ってホバリングを開始するぷぅ。いつもより羽ばたく速度も速い。
もしかしてそれで風を起そうっていうのか?
無理じゃね?
〔ぷぷぷぷぷぷぷぅぅぅっ〕
なんか顔真っ赤にして必死だぞおいっ。
〔ぷっぷぷぷぷぷぅ〕
〔ぴっぴぴぴぴぴぃ〕
なんか増えた!?
え、ピッピ? 明け方はとうに過ぎてるのに……。
いや、ちょっと待て――
〔〔〔ぴっぴぴぴぴぴぃ〕〕〕
何十羽出てきてんだよ!
ぷぅプラス何十羽のピッピが、完全シンクロして羽ばたく。
なんだこの光景は。
しかもあんなに必死で羽ばたいてるのに、俺に届く風はそよ風程度でしかない。
いや、あの小さな翼なんだ、この程度の風でも当然といえば当然か。
異様な光景をぼぉっと見つめていると、すぐ目の前で同じようにぼぉっと見つめる半透明な存在が。
キ、キタコレ!
「シ、シルフさんですか?」
〔ヒュルん?〕
くるっと振り向いたシルフは、以前ダークエルフの集落がある森で見たそれより小柄だった。ボディラインにも、大人の女性らしいアレが無い。が、女だ。もとい、女の子だ。
〔ヒュルル〕
必死に羽ばたくぷぅたちを指差し、何かしきりに訴えかけているようだ。
大きな目を見開き、どうも興奮しているように見える。
〔ヒュルルん〕
「あー……契約しないと言葉が分からないんだよな……とりあえず、あれはぷぅとピッピの群れだ。ぷぅってのは頭に派手な羽根が生えてる奴な。俺の相棒なんだ」
〔ヒュル!〕
どうもぷぅたちを気に入ったようだな。手を広げ、一緒になって上下に動かしている。
でもシルフさん。君、羽ばたかなくても飛んでますから。
精霊込みになった異様な光景は続いている。
……終わらないのかなぁ。
……そろそろ契約させて欲しいんだけどなぁ。
……見てるだけなのも飽きてきたなぁ。
……。
「あぁっくそ! 楽しそうじゃねえかぁぁっ」
〔ヒュルルぅん〕
〔ぷぅ〜〕
〔〔〔ピッピィ〕〕〕
ついに俺も羽ばたく!
飛べないけどいいんだ。
だって俺一人、仲間はずれにされてるようで寂しかったんだよぉ。
〔ヒュルんヒュルルん〕
「お? 俺の羽ばたきもナイスだって?」
〔ヒュルん! ヒュルルルんヒュルル〕
「ボクも負けない! ふはははは。俺だって負けるもんか! そぉれ、バサバサバサァ」
両手を広げ、大きく羽ばたくと――視線の先では見てはいけないものでも見てしまったというような、そんな顔をしたプレイヤーが立っていた。
「に……逃げろぉ〜。バサバサバサバサ」
〔ヒュルル〜ン〕
〔ぷっぷぅ〜〕
〔ピッピィ〕
かなりの距離を逃げ、人目の無い場所でようやく息を整える。
振り向くとピッピの姿は無かった。
「ぷぅ、ピッピたちは?」
〔ぷぅ〜〕
帰ったわよ、と言う。なるほど。
シルフはぷぅの頭の上にいる。よっぽど気に入ったんだろうな。
「シルフ、契約成立でいいのかな?」
〔ヒュルルん。ヒュルル〜、ヒュルっるルルん!〕
うん。君は面白いから、ボク、友達になってあげるよ! だと。
〔ヒュッヒュルルる〜〕
「ピンチの時はボクが助けてあげるよ? そりゃあ頼もしいなぁ」
シルフの言葉を聞きながら、こいつがボクっ娘である事を確証した。
精霊って……予想以上に個性豊かすぎやしませんかね?
月曜日と火曜日は精霊のレベル上げに励んだ。もちろん風と水属性の技能上げにもだ。
その甲斐あって、精霊のレベルはそれぞれ7になり、技能も10まで育った。ちなみに火属性のほうは30になった。
なんだかんだと使い勝手がいいのは火属性なんだよな。
精霊のスキルはまだ未作成で、どんなスキルにしようか悩み中。
ぽっちゃりサラマンダーと話しをして知ったんだが、精霊レベルが5になると、精霊スキルを召喚主も使えるようになるんだとか。
だからちゃぶ台返しを俺が使えたんだな。
っとなると、ウンディーネの水付与を俺が使うと――どうなるかは未検証なので、次のログインしたら誰かを生贄にしたいと思っている。
が、正直ウンディーネが居るんだし、付与はちゃんと働いた場合には不要だよな……。
そんな訳で、精霊のスキル作成も慎重にならなきゃいけない。
サラマンダーはやっぱ攻撃系が映えるだろうし、風は攻守どちらでもいけそうだ。
どんなスキルにするか……
水曜、今日のメンテナンス中に考えよう。
「ってことで、ログアウトするぜ」
『はい。メンテナンスの件なのですが……』
「え、まさかメンテ中止!?」
メンテナンス直前のログインロビーでシンフォニアの口から衝撃的な事実が――
『そんな訳ございません』
「あ、やっぱり? じゃあ、なんだ」
こほんっと咳払いをした彼女は、突然お祈りポーズのように手を組み、眉間にしわを寄せて膝をついた。
な、何が始まるんだ?
『メンテナンス開始時刻は予定通り、午前十時、まもなくです』
「お、おぅ」
『終了時刻は予定を大幅にずれ、午後十九時となっております』
「な、なんだってーっ!?」
通常は十五時になっている。四時間も延長するのかよ。
しかも晩飯の微妙な時間じゃねえかっ。
「なんでそんな延期するんだよ!」
『予想外の展開による、その場しのぎのアップデートが行われるからでございます』
予想外な展開? その場しのぎ?
なんのことだ。
「まぁいいや。じゃあロビーで――」
『ロビーの解放も十八時五十分からでございます』
「な、なんだってーっ!?」
『AAをご用意いたしましょうか?』
「いや、しなくていい」
用意って、どこにどう用意するつもりなんだ!
『実はロビー解放に関しましては、とあるサポートスタッフによる提案でして』
「提案?」
『はい。そのスタッフが担当するプレイヤーも、彗星マジック様と同じく学生様でいらっしゃいまして』
「はぁ――」
なんでもプレイ時間は常に上限ピッタリに、ロビーでの滞在可能時間もふるに使っていたらしい。
で、スタッフがそのプレイヤーに尋ねたと。
こんなに長い時間ログインしているが、現実での日常生活に支障はないのか――と。
いくら夏休みとはいえ、宿題ぐらいはあるだろうとも。
そしてプレイヤーは答えた。
「宿題? そんなのやる時間なんて無いよ」
――と。
『ですので、せめてメンテの間ぐらいは現実でのやるべき事をやっていただく為に、メンテ終了直前をロビー解放時間とさせて頂きました』
どこのどいつだその馬鹿は!
そいつのせいでロビーでの作業が出来なくなったじゃないかぁぁっ。
『彗星マジック様はまさか、その方と同じなんてこと……ありませんよね?』
「は? 同じって、何がだよ」
『しゅ・く・だ・い。しておりますよね?』
……。
「してますよ」
彼女の視線から逃げるように、窓から見える外の景色を見つめる。
あぁ、今日もコスライムどもは楽しそうだ。
いいよなぁ、あいつらは。
毎日日曜日みたいなもんで、そのうえ宿題だってないんだ。
『していませんね』
「していますよ」
『嘘つきはいけませんね。十九時までみっちり宿題をなさってください』
俺もコスライムになりたい。
ぷるぷる。
200話達成!?
そして章完結です。
先週だったか、間違って新章を立ち上げていたりしましたが
誰か見たかな?
見られたかな?
こ、今度こそこのエピソードは終わりなんです!