199:マジ、ツンデレゲット。
一度ログアウトして、冷凍庫にあったアイスを食う。
やっぱ夏はアイスだよな。
朝からガッツリ遊ぶと、また夜にログインできないなんて事態になるし、昼飯までは控えるか。
この時間に出来る事をやろう。
例えば――
「ウィキで狩場やドロップ、楽に習得できる技能情報を調べよう」
パソコン前に座り、マウスを握ってポチポチっと――うぅん、見たくない物を見てしまった。
デスクの脇に置いてあったタブレット。
夏休みの宿題データが入っている、呪いのアイテムだ。
……。
見なかった事にしよう。
さぁって、情報情報っと。
相変らずドロップ情報はあまり更新されてないな。
お、技能情報があるぞ。
『鷹の目』、遠くでも意識を集中することで見えるようになる技能。NPCとの会話で習得可能だが、やたらと時間が掛かる。噂では数十分で習得できる裏技があるとかないとか。他の技能と組み合わせる場合、『発見』や『夜目』との相性がいいようだ。――か。
「『発見』効果の範囲が広がったりしそうな技能だな。鷹か――ん?」
会話で習得可能だが、やたら時間がかかるってどこかで聞いたような? しかも裏技あり……。
「あ、これ。ザグに教えて貰った、星座を探して見ろってやつか!」
教えて貰ったまま放置してたな。忘れずに習得しておこう。
えぇっと、他の技能情報は――
ふんどしでNPCの女の子をナンパしまくってたら『変質者』の技能をゲット……誰がそんな技能取るかよ!
初期スキルはなく、どんな効果のスキルを作成できるのかも謎。ただふんどし着用してナンパを繰り返すと技能レベルがあがるので、IMPを増やすという意味ではいいかもしれない――だと。
そんな事してまでIMP増やしたいか?
頭の片隅には置いておこう。
『夜目』も同様にNPCとの会話で習得条件が解放されるようだ。ただしこちらも時間が掛かるとのこと。ザグとかが裏技知ってたりしないかな。今度聞いてみよう。
他に俺と相性の良さそうな技能は――魔法系技能がまったく無いなぁ。いや、属性魔法の項目はあるんだが、大賢者に教えて貰った技能ばかりなので役に立たない。しかも魔法塾とかに入塾して、金を払って教えてもらうものらしい。
一つの属性につき、授業を七回受けて習得という、なんとも面倒くさい内容だ。しかもゲーム内日によって、開講属性がまちまちだとか。
俺なんか、杖で頭をポクっと叩かれてお終いだったからな。楽なもんだぜ。
属性魔法以外は初期技能にもある『魔力向上』や『召喚魔法』。そこからの派生である『精霊魔法』やその他なんかはある。
だが『魔法操作』や『魔力操作』ましては『重力操作』といった情報は無いな。
くくく。俺だけが知っている技能情報!
書き込んじゃおうかなぁ〜。
いやそんな事を大量のプレイヤーが大賢者んところに押し寄せてきて、年寄りがパンクしてしまう。
お年よりは労わってやらなきゃな。たまに例外もあるが……。
あと目に付いたのは『剛力』という技能。
パンチ力を向上させるパッシブスキルが初期であるらしく、『鷲掴み』のダメージアップも出来るという。
これを見る限り、案外『鷲掴み』技能持ってる人がいるんだなぁ。
その『鷲掴み』技能のコメントには「武器を装備していたらわざわざ外すか、落としておくかしないと掴めないので糞技能」と書かれている。
更に「普通に武器で殴ってたほうが強いからハズレ技能」「掴んだ敵を武器で攻撃するときは、豆腐を切るようなイメージで」「敵が大きいとつかみにくい」などなど、ネガティブなコメントが多い。
物理前衛なら掴んでどうこうより、あっさり武器で攻撃したほうが確かに早いだろうな。
俺の場合、掴んでそのまま魔法を食らわせてるから効果があるんだが。
他のコメントを見る限り、魔法職で『鷲掴み』してるのは居ないようだ。
「遠距離職だからな。まぁそうだろう」
俺は近距離魔法職だからありなんだ。
他に目ぼしい情報――お、精霊項目があるぞ。
火の精霊サラマンダーは、自然の多い村なんかの松明でよく見られる――か。町だと人が多いからなのか、発見情報が少ない。
風の精霊は草原に行くと高確率で見れる。
ほほぉ、草原か。
ピッピの羽回収ついでに行ってみるか。
自然の多い村――開拓村だよな。
いや――
「ダークエルフの集落がまさに森の中じゃん。ついでに闇属性の魔法についても聞かなきゃな」
ふと思い出した闇属性の事。
えぇっと、やるべきことと優先順位は――
ダークエルフの集落で火の精霊ゲット。ついでに『闇属性魔法』の習得。
草原で風の精霊ゲット。ついでにピッピの抜け羽根もゲット。
『鷹の目』技能の習得。
『剛力』技能の習得。
――かな。
「という訳で、火の精霊と契約する為に探しに来たんだ。ついでに『闇属性魔法』の習得もしたくてさ」
ブリュンヒルデを訪ねて事情を説明する。
昼飯を食ってからログインしたんだが、タイミングが悪く、ゲーム内は朝になっていたので松明が無い。言えば火を焚いてくれるかなと期待して来たんだが……。
「ブリュンヒルデ……怒ってる?」
ぷぅっと頬を膨らませたブリュンヒルデは、チラッチラ俺を見ながらも目が合うとぷいっとそっぽを向いている。
何故怒っているんだ。俺には理解できない。
「ブリュンヒルデ、何かあったのか?」
返事が無い。ただのしかば……じゃあないよな。生きてるんだし。
うぅん……とりあえず見事な頬だから突いてみるか。
人差し指を立て、ぷぅっと膨らんだ頬を推してみる。
「ぶぅっ――なっ、何をするですの!?」
「いや、あんまり綺麗だったからさ(頬の膨らみが)、突きたくなって」
「はわっ……き、綺麗?」
「おう」
両手を頬に添えると、体を左右に振って嬉しそうに身じろぎをしだす。膨らませた頬を褒められて、そんなに嬉しいのか?
NPCってのは変な奴が多いな。まぁ機嫌を良くしてくれたのならそれでもいいや。
改めて火の精霊と契約できる環境にして貰えないか頼んでみる。
「いいですの。直ぐに用意するですから、待ってて欲しいですの」
「あぁ、慌てなくていいからな。こっちが頼んでるんだし」
「ふふふ。綺麗……ふふふ」
よっぽど嬉しいんだろうな。鼻歌交じりに綺麗きれいと呟きながら奥に行ったよ。
彼女はすぐに戻ってくると、その手には大きめの蝋燭が握られていた。蝋燭というよりキャンドルか? よく見ると、ハートの形をしたピンク色だぞ。あんなのに精霊が出てくるのか?
彼女はハートキャンドルをテーブルの上に置くと椅子に着くと、俺にも向かい側の椅子に座るよう勧める。
進められるがまま腰を下ろすと、
「このキャンドルの火をじぃっと見て欲しいですの」
「じぃーっとか……じぃー」
「もっと顔を近づけるですの」
「もっとか……じぃー」
そして何故かブリュンヒルデもキャンドルに顔を近づける。故に二人の顔の距離も縮まった。
な、なんだろうな……ハート型のキャンドルを挟んで距離が縮まるって。なんかドキドキする……かも?
〔ぼぼっ〕
ふぁっ!?
見つめていたキャンドルの火が膨れ上がり、トカゲが出てきた!?
い、いや、これはなんというか……予想以上にぽっちゃり?
体全体が炎で出来ており、赤オレンジ色に輝くぽっちゃりトカゲ。長い尾っぽの先には、ミニチュアサイズの焚き火のような火が灯っている。
トカゲ……とはいえ、その大きさは猫ぐらいのサイズがある。ぽっちゃりなので、やっぱトカゲというより爬虫類の顔をした猫――みたいだが、リアルに想像したらきもかった。
「火トカゲ、見えたですの?」
「あぁ。思ったより大きくて驚いてるよ」
「ふふ。あとは火トカゲさんに気に入られるだけですのね。気に入られなければ、契約は成立しないですのよ」
「オッケー。大丈夫! さぁ火トカゲよっ。俺と熱い青春を謳歌しようぜ!」
ガタっと立ち上がり、火トカゲに向って手を差し伸べる。
その手に火トカゲは、ぼぉっと火を吐きかけた。
くっ。こ、これは試練だな! 熱さに耐えろという、火トカゲからの試練なんだな!
「ふ、ふふふ。熱くなぁ〜い」
〔ぼっぼ!?〕
未契約状態なので火トカゲの言葉は分からない。だが、きっと今、俺の根性に感動しているはずだ!
カモーン、根性焼き!
〔ぼっぼぼっぼぼぼぼぼぼっ〕
「っく。連続攻撃かっ。だが負けーん!」
〔ぼぼぼぼぼぼぼっ〕
「ぐっ……」
ダメージは無い。だが熱い。
差し出した俺の右手は既にあちこち火傷のあとが出来上がっている。
ぼぉっと火の息を吐きかけられるたび、ジリっとした痛みと熱が伝わってくる。
VRでの痛覚は、リアルのそれより遥かにぬるいとはいえ……
「熱いものは熱いんじゃボケがあぁぁあぁぁっ!」
〔ぼふっ〕
「あ……」
思わず殴ってしまった……。
あぁ……火の精霊との契約、これでおしゃかになったあぁっ。
〔ぼっぼ、ぼぼぼぼぼぼーぼぼっ〕
何?
イフリート様にも殴られた事ねえんだぞ――?
〔ぼっぼぼぼ。ぼぼぼぉぼぼ!〕
テメェの事なんか大嫌いだ。焼きいれるぞゴルァ――?
なんか火トカゲの言葉が分かるようになったんですけど?
「ふふふ。火トカゲ――サラマンダーちゃんは、マジックさんの事を気に入ったようですの」
「そ、そうなのか?」
「はいですの。試しにサラマンダーちゃんを触ってみてくださいですの。サラマンダーちゃんは火の温度も自在に操れるですから、触っても平気ですのよ」
と精霊使いの大先輩であるブリュンヒルデが言うので、サラマンダーに手を伸ばしてみる。
しかしこいつ、ぽっちゃりトカゲのくせに、器用に後ろ足だけで立ち上がってやがるな。そして立ち上がると、尚一層、腹のぽっこりが目立つ。しかも腕を組んで仁王立ちだ。
伸ばした手は自然と奴の腹に向う。
触れた――
「あっ痛! 普通に熱いんですけどっ」
〔ぼっぼぼぼぼっ〕
「あ? 俺様に気安く触ってんじゃねえぞだと?」
「うふふ。仲良しさんですの」
どう見たらそう受け取れるんだ?
目付きの悪いサラマンダーは、やや腰を落として上目使いで睨んでくる。
どう見ても威嚇しております!
なんで契約できたんだよっ。
まるで不良少年かよという目付きで睨んでくるサラマンダーだが、何故か腰から下をもじもじさせはじめた。
精霊でも便所に行きたくなるものだろうか……。
〔ぼっぼぼぼぉぼ、ぼぼぼぼぼっぼぼぼぉ〕
「どうしても触りたいっていうなら、少しぐらい触らせてやってもいいんだ……ぜ……だと?」
「うふふ。仲良しさんですの」
これなんてツンデレ精霊ですか!?
次話の200話にて今章の完結です。