197:マジ、先住民の英雄になる。
サンダー・ビー。雷属性って事で、ノームを召喚して二人でボコる事にした。
すると呆気なく倒せるように。
「よし、暫くここで風属性を鍛えるか」
〔の!〕
「ぷぅ、お前も適当に応援しててくれ。結構数が居るから、なるべく光速殲滅してないとヤバいかもしれん」
〔ぷぷぅ!〕
そうこうする間にもサンダー・ビーがブブブブ飛んで来る。他にもドリームバタフライという蝶のモンスターが優雅にやってきた。
〔ピュルルルル〕
「あ? なんかピンク色の粉が降ってきたぞ」
〔のっ……zzz〕
「おい、ノームさんや!?」
ピンクの粉を浴びたノームが、寝た!?
まさかドリームって、夢の事か? じゃあ、スリープの魔法かよっ。
スリープといえば、コンシューマーゲームでもあるが、眠っている奴を殴れば――拳骨でノームの頭頂部をゴスってみる。
〔ののぉ!?〕
「そうか、痛いか。目が覚めてよかったな」
〔の?〕
状況が把握できていないノームを他所に、今度は蝶に拳を向ける。
手を開いて――ストローのように伸ばした口を右手で鷲掴みし――ゼロ距離からのぉ、
「『エアカッター!』」
〔ビュルルルルッ〕
「ついでに『ロック!』」
ふわりと浮かんだソフトボール大の岩を左手で掴み、蝶の顔面をぶん殴る。
うん。『エアカッター』に比べると、ダメージは少し劣るな。
が、次のノームの一撃で蝶はご臨終。いやぁ、楽勝だね!
ぷぅのサンバ効果も乗って、二つの魔法をほぼ休み無く連発できる。ただしMPの消費が半端無い。
ノームに頑張ってもらっている間に座って回復に努め、全快すればまた派手に戦う。
INTが高いお陰でMPはわりとすぐ回復するから、回転自体は早い。でもやっぱMP回復スキルが欲しいな。
暫くここで戦闘しまくっていたら、いつの間にか『風属性魔法』の技能はレベル6になっていた。『エアカッター』もレベル5。一確はまだ無理だが、順調に上がっていってるぞ。
よし、どうせなら風の範囲スキルを作成しよう!
花畑から少し移動し、モンスターの少ない場所でシステム画面を開く。その間、ノームが俺を守ってくれているので安心だ。
前提技能はもちろん『風属性魔法』。
範囲は……中程度にしてみるか。えぇっと――離れた位置のモンスターを狙う、だと絶対当てられない。自信がある。
地面指定……至近距離で敵と戦っているんだ。正直、離れた場所を意識してみて、範囲を指定するとか面倒くさそうで嫌だ。
だから、俺中心に竜巻発生でいいんじゃね!
『焔のマント』の風バージョンだっ。
その名も――
「えぇっと……工具でかっこよかったのは……『ディスク・グラインダー!』 おぉ、これいいじゃんっ」
ディスク――丸い。
グラインダー――削る?
渦を巻く竜巻が、風の力で敵を削っていくっ。
……。
想像したらかなりグロかった……。
「『暴風竜! ディスク・グラインダーッ』」
文字数増やせというシステムの文句によって、漢字を追加して超カッコいいスキル名になった。
俺を中心に、天に向って渦巻く風。そんな竜巻に突っ込んでくる虫どもが、次から次へと吹っ飛んでいく。
竜巻は風の壁。突進すれば風属性ダメージを食らい、ついでにノックバックする。といっても、飛んでる奴等なので、ノックバックではなく純粋に吹っ飛んでいくだけだ。
そしてモンスターは馬鹿である。
ダメージを食らって吹っ飛ばされても、また竜巻に向って突進。竜巻の持続時間は十秒足らずだが、少なくとも二回、吹っ飛ばされてからの立ち直りの早い奴は三回、ダメージを食らう。
スキルレベルが1なので三回攻撃でも倒しきれないが、この時点で瀕死だ。鷲掴みダメージでも止めを刺せる。
これで大群に襲われてもへっちゃらだぜ!
ただし――
消費MP250
CT50
ぷぅのサンバと武器性能でCTは十三秒まで縮まるが、MPがちょっときつい。
面白がってCT毎に使ってたら、数分でMP枯渇したぜフオオォォォォ!
〔ブブブブブブブブッ〕
〔ビュルルルルンッ〕
「いや、待って。痛い、痛いからぁっ」
MPの無くなった魔法使いは、ただの人です。虐めないでください。
とかボケてる場合じゃない。急いでポーションを――
インベントリからポーションを取り出そうと、左腕の時計に視線を落としたとき――
〔ブッ〕
〔ビュルッ〕
ザシュザシュっという音が聞こえ、地面にバタバタと昆虫どもが落ちてきた。
何事!?
面を上げた俺の視界に、鉤爪状の武器を装備した――
「ディオ!?」
が立っていた。
「大丈夫か、マジック? ベヒモスを倒したほどの男が、こんな雑魚にやられるなんてな」
「い、いや、あれは――」
白い歯を見せ、爽やかに笑うディオ。
ふぅ、助かったぜ。
しかしディオの奴、ベヒモスを倒したと思い込んでるようだな。
あれは単に召喚時間が限界に達したタイミングだったわけで、倒したわけじゃ――
「マジック!」
「は、はい?」
説明しようと口を開きかけたとき、ディオが俺の両手をガシっと握った。その顔は羨望の眼差しとでもいうんでしょうかね?
「マジック、お前は英雄だ!」
「はい?」
「お前は俺たちの村の英雄だ。あの時、お前が大賢者を倒してくれなかったら、今頃きっと……」
……俺、いつのまに大賢者を倒した事になってんだ?
何度もディオは、英雄だ、命の恩人だと言っては腕をぶんぶん振り回す。
こいつ……STR高いだろっ! 地味に痛いぞっ。
「マジック。今度村に来てくれ。お前にお礼を言いたいという仲間が大勢いるんだ」
「大勢って、開拓村に何人来てたんだよ。っていうか、襲撃計画にあったのか?」
「十人ほどで襲撃した。計画には無かったが、どうしても食い物が必要だったんだ……」
そう言ってディオは暗い顔をする。よっぽど食い物が無いのか……。
村長から貰ったペットフード用の食材が少し手元に残ってるな。
「ディオ。これをやるから、あの村にはもう手を出すな」
インベントリから取り出した野菜や肉を見て、「ナニコレ?」的な目で見るディオ。
食材と俺を交互に見つめ、そして食材を指差す。
「こ、こんな凄いもの、どうやって手に入れたんだ!?」
「いや、村長に――」
「そうか! マジック、お前はあの村を支配下に治めたんだなっ」
……どうしてそうなる?
「やっぱりマジックは……この地で暮らす俺たち先住民の英雄だ!!」
いろいろ酷い誤解のされようだが……どうすんだこれ?
更新&書籍作業も忘れて熟睡しておりました。
さぁ、今から作業するぞぉ。