196:マジ、文房具を手に入れる。
さくっと開拓村へとテレポすれば、先住民によってちょっぴり破壊された建物も元通りになっていた。
さすがゲームだな。
まぁリアル一晩の間に、こっちは二日ぐらい経過してるだろうしな。
寧ろ不思議なのは、ベヒモスがどしどし歩いてたのに、一軒も破壊されて無い事だ。マップ破壊兵器なのにな。
「大賢者様〜。ちょっとお伺いしたい事があるんですけどぉ」
そう言って家の戸をノックすると、三人は丁度飯の最中だった。朝飯かな? いや、太陽は上のほうだし、昼か。
戸を開けたときには最中だった飯も、声を掛けて数秒後には終了。
一日十二時間で進むゲーム内の時間だと、飯の時間も短縮されているらしい。
「何を聞きたいんじゃ」
「えぇ、この前教えて貰った魔法技能なんですけど――」
うん? いつもなら「孫はやらんぞー」とか叫びだすのに、対応がなんか……素直になった?
やっぱりか。
やっぱりベヒモス討伐が効いてるのか!
それなら話は早い。
風属性を苦手とする属性が何なのか。風、水の属性魔法の技能を効率よく上げられる狩場に心当たりが無いか尋ねてみる。
家の中に招かれると、テーブスにお茶が用意され椅子まで勧めてくれる。
だ、大賢者がデレた!?
いや、もしかしてベヒモスを素手で倒した俺に怯えているのかもしれない。
そうだよな。普通はベヒモスを素手で倒したりとか、絶対無理だよな。うんうん。分かるよ、分かるとも。
だが大賢者よ――
「ベヒモスを素手で倒したからといって、何も貴方も倒そうってんじゃないんだ。そんなに怯えなくてもいいんですよ」
今の俺、超絶カッコイイ!
「は? 何を言うておるんじゃ?」
「いやいや、昨夜――いや、先日、ベヒモスをこう素手でワンパンした――」
拳を握り、シャドウボクシングのようにシュシュっと繰り出す。
隣でピリカが首を傾げて見ている。その後ろでトリトンさんがにこやかな顔をして見ている。正面に座る大賢者は、変な顔で見ている。
俺、何か変か?
「何を言うかと思えば……丁度タイミングよく、召喚可能時間が終わっただけじゃい。お前さんのなまくらなその腕で、殴って倒れるような精霊なんどおらんわ」
「ははは。マジックさんのその筋力じゃあ、ノームと殴り合っても負けますよ」
……い、いや。知ってたさ。うん、召喚時間だよな。うん。
はは、はははははは。
「勘違いにもほどがあるのぉ。頭の中がそれだけおめでたいという事じゃ」
「ふぐっ。き、傷に塩を塗りこまないでくれ」
「ふぉっふぉっふぉ。まぁよい。さっきの質問じゃが、風属性はちと特殊でな――」
火・水・雷・土、そして風。他にも氷だの聖だの闇だのがあるが、これまた特殊属性に含まれる。
火は水に弱く、水は雷に弱く、雷は土に弱く、土は火に弱い。
では風はどうか。
特に弱い強いという属性はないらしい。
「風属性は、属性との相性よりも種族相性のほうが重要じゃ」
「種族?」
こくりと頷く大賢者。
ちなみに火属性はアンデットに強い――というようなのが、種族相性というものだ。俺もそれは知っている。
「風属性は鳥類に強い」
「まぁなんとなくそう思いましたが、でも鳥類って風属性ですよね? 土魔法に弱くないですか?」
「うむ。じゃが風属性の魔法には、更に弱いのじゃ」
「はぁ……」
「他にも植物系にも有効なときもある」
ときもある――というのは、効果が薄いモンスターもいるという事らしい。
切り株系の、どっしりとしたモンスターには魔法攻撃力100%のダメージが通り、葉っぱのようなひらひらした外観のモンスターには120%のダメージが通ると。
ほほぉ。
じゃあ鳥類の場合で見ると、土属性魔法だと120%ダメージが。風属性魔法だと130%になると。
ただし、飛んでない鳥類には100%のダメージしか出ない、と。
植物系モンスターは土属性が多いが、動物型にも土属性はいる。たいていは表皮が硬いモンスターだったりするが、こういう奴等には60%ぐらいしかダメージが通らないと大賢者は話す。
「つまり風が苦手そうな外見の奴にはダメージがよく出て、硬そうな奴には出ないってことですか」
「まぁそういう事じゃな。それを見極めるのに苦労するから、育ち難い魔法ではあるの」
うひぃー。重力操作習得の壁が高くなった気分だぜ。
でも鳥類かぁ……ぷぅ系の鳥類とは戦えないし……あれ、なんか首を絞めるようなペットをゲットしちまったような?
「あ、そうそう。風といえば、昆虫種族の飛行タイプにも有効ですよ」
「え、マジっすかトリトンさん!」
にっこり微笑むトリトンさんは、この辺りなら東の山脈にある森に多く生息していると教えてくれる。
その森には火属性の動物型モンスターもいるので、風と水、両方の技能を育てやすいだろうとも。
もしかして鉱山を少し下りたあの森かな? 確かに蛾がいっぱいいたし、ボーンラビットは火属性だった。ついでに俺を一発KOしやがった、巨大蛾も。
よぉし、こうなりゃリベンジだ!
テレポがあるって、便利でいいよなぁ。リアルで一つだけスキルを使えるようにしてくれるってんなら、断然テレポだぜ。
そのぐらい使い勝手が良い。
森の中に直接テレポすると、木に引っかかる危険性があるので巨大花畑に飛んだ。
着地したのは花の上……俺が乗っても耐えてるとは……根性のあるやつだ。
「さて、下りるか」
〔ブブブブブ〕
頑丈な花びらの縁に足を掛けると、ブブブブと音を発しながら蜂が飛んできた。
その大きさ、一メートルほど……。
ミツバチっぽい外見とはいえ、このサイズはやっぱ恐怖だよな。
だがしかし――
「お前も風属性に弱いんだろ! 飛んで火に入る夏の蜂!! ほぅりゃっ『エアカッター!!』」
〔ブッブブブブ〕
何故かバケツを持ったミツバチ。魔法を回避しようと動いたとき、バケツの中身が零れた。
中身は――黄色い液体だ。かなりどろっとしているようで、もしかして花粉か蜜か?
『エアカッター』は直撃しなかったものの、羽をザックリ切り落とせた。故にミツバチは地面に落下する。
「よぉし、止めだ! 毬栗『サンダー!』」
孫の手状態の『サンダー』を握り締め、花びらから跳躍!
ばちばちと放電する先端の毬栗でミツバチを殴ると、何故か奴の体が緑色に光る。これって回復エフェクトだよな?
つまりこいつってば……。
じぃっとミツバチを見つめると、モンスター名が頭上に浮かぶ。
その名を――
「サンダー・ビー……かよ」
〔ブブブビビィー!〕
尻の針から放たれる雷が俺を襲う。が、INT型の俺に魔法は効かないぜ!
「痛くなぁ〜い! 『エアカッター!』」
見た目は文房具のカッターナイフ。普通のカッターナイフと違うのは、五十センチはあろうかという事と、半透明だって事。
キリキリと刃を伸ばし、羽を無くしたミツバチににじり寄る。
「ほああぁぁっ!」
〔ブッブッブブブッ〕
なんか〔こっち来ないで〕とでも言っているように見えるな。
顔を左右に振って、六本ある手のうち二本を突き出してふるふるしてやがる。
「っくくく。止めだあぁぁぁっ――」
叫んでカッターナイフを振り上げると、ひゅ〜っとソレが消えてしまった。
魔法が発動して長い事放置しすぎたか……
〔ブブブブブブブブ〕
「あ、痛い。止めて、針で刺さないでっ」
書籍原稿が・・・終わらない!
ふひひひ。
ふひひひひひひひ。