193:この母にしてこの息子である。
晩飯を食い終え、ロビーで待つこと数分。
『セシリア様がログインなさいました』
「お、サンキュー」
『どう致しまして。近々、彗星マジック様からご提案のあった、ロビー内にフレンドを招待するというシステムが実装される予定となっております。待ち合わせなど、正招待システムをご利用頂けるようになるかと』
ほほぉ。アレをやるのか。
じゃあ今回みたいなときは、事前に連絡し合ってロビーで待ち合わせなんかすれば、プレイ時間の節約にもなるんだな。
『セシリア様をお呼びして、二人っきりでのお時間をお過ごし頂けます』
「ほぉ、二人っきりの時間……ってなんでそうなるんだよ! それじゃあまるでデートみたいだろっ」
『っくくくく。初心ですわね』
ニヤりと笑うシンフォニアを殴ってやりたい衝動に駆られるが、だからって女の顔は殴っちゃいかん。それぐらいの理性はまだあるようだ……。
くそぅ。メイドじゃなくって執事のほうだったらなぁ。
奴の眼を見ないようにして、さっさと旅の扉を潜ってログイン。
背後で扉が閉まるのを確認してからフレンドチャットを操作する。
フレンド登録一覧からセシリアの名前をタップし、メッセージ送信ボタンを押す――で、普通に喋る。
この間、他の人には俺の声が聞こえないんだが……この前、フレチャット中のプレイヤーを見かけたが、口パクで独り言いってるような感じで、かなり危険人物的な印象だった。
『彗星マジック:セシリア、今大丈夫か?』
暫くして返事が返ってくる。すぐ後ろで。
「ふえぇぇ、マジック君っ」
『彗星マジック:ぶっ、すぐ後ろに居たのかよ!』
っと、フレチャットオフ。
「すぐ後ろかよっ。まぁいいや。スキルの相談の件なんだけどさ、実は――」
「ふえぇん、マジック君っ。実はあと七分しかログインできないのぉ」
「……おぅ」
俺より兵が居た。
七分ってのはリアルでの七分かと尋ねると、ふぇふぇ言いながらセシリアが頷く。
なら十五分も無いな。
「スキルの相談って、どんなスキルを作るかって相談だよな?」
「うん。新しいスキルをまったく作ってなくって、今回の襲撃で自分の弱さを痛感した。でもどんなスキルを作ったらいいのか、いまいち分からなくって」
「手持ちのスキルは?」
技能の初期スキル以外の作成スキルを教えて貰って、そのうえで攻撃か防御かパッシブ、ブースト、どんなのが欲しいのか聞いておこう。
で、彼女が持っているのはヘイトスキルが一つ、回避スキルが一つ――以上。
え、以上?
「いやいや、さすがに作ってなさ過ぎ」
「ふえぇぇ」
「まぁいい。IMP余り放題なら、結構あれこれ作れるかもな」
「ほ、本当?」
目を輝かせるセシリアに、どんなスキルがいいのかと尋ねる。
だが俺は忘れていた。
こいつは勇者願望の強いポンコツ娘だということを。
きらっきらの笑顔でセシリアは答える。
「強くてかっこいいスキル!」
セシリアは制限時間を迎え、ついでに俺もログアウト。
強くてかっこいいスキルか……アバウトすぎるんだよ。
まぁIMPはほぼ残ってる状態だというし、俺同様に運営から配布された技能経験値アップアイテムも使ってないというし、ポイントには困らないだろう。
いっそ攻撃、防御、パッシブ、ブーストと一つずつ作るのもいいかもしれないな。
セシリアはAGI戦闘職だし、スキルレベルに応じてAGI上昇か、回避上昇のパッシブがあると便利かもしれない。あと火力底上げで剣による固定ダメージ追加とか。
パッシブスキルで防御と攻撃の両面もカバーできる。
ただパッシブスキルだと、セシリアの言う『かっこいい』にはならないからな。あとは攻撃スキルでここを補えばいいか。
ふふん、かっこいいね。
かっこいいなら俺に任せろ!
まずはスキル名からだな。パッシブスキルのほうは適当でいいだろう。攻撃スキルのほうが重要だ。
こう、爽快感があって、強そうで、叫び甲斐のありそうな、そういうネーミングにしなきゃな。
「『ゴッド――』うぅん、いまいち。『バーニング――』は魔法スキルみたいだ」
漢字スキルはどうだ?
超絶破壊斬り!! カタカナにすると、スーパーデラックスクラッシャー!!
……。
「な、なんでもかんでもスーパーだのデラックスだのつければ良いってもんじゃないよな。うん」
何か参考になるようなものはないかな。
ネットでいろいろ検索してみたものの、まず何を参考にすればいいのかすらまったく分からない。
仕方が無い、とりあえず便所に行くか。
スッキリすれば頭も冴えるだろう。
用を足してリビングに行くと、親父とお袋がきょとんとしてこっちを見ていた。
「彰人、ゲームしに行ったんじゃないのか?」
「緊急メンテ? 緊急メンテなのよね?」
「なんでメンテだって思うんだよ。っていうか今時緊急メンテとか、そう滅多にないからな」
「えぇ〜、そうなのぉ」
お袋よ、何故そう残念がるんだ。
プレイ上限時間に達したから、今日はもう遊べないと説明すると同情するような眼差しでこちらを見る二人。
「VRになってから、そういう制限が付くようになって可哀相ねぇ」
「MMOの時代には何時間遊んでも、文句を言うのは親ぐらいだったからなぁ」
「でも外国で、何日も接続しっぱなしだった廃人が倒れて、そのまま病院送りに〜なんてのもあったらしいからねぇ」
「死人も出たとかなんとか」
「「廃人だね〜」」
どこか懐かしそうに、それでいて恐ろしい内容を話す両親を無視し、何かネーミングの参考になるものはないかと物色する。
テレビ――何も思い浮かばない。
観葉植物――フラワー!! ……やめよう。
ビール――アルコールフラーッシュ! 酔っ払いスキルかよ!?
おつまみ――ナッツブレード! 弱そうだ。めちゃくちゃ弱そうだ。
ぐぬぅ。何かないものか、何かっ。
「彰人、さっきから何一人で百面相してるの?」
「あ? 顔に出てた?」
アイス片手にお袋が頷く。
アイスか……アイスクラッシャー!
いや、これじゃあ魔法スキルだって。属性単語入ると剣スキルっぽくならないな。
「物理攻撃スキルのスキル名に出来そうな何かを探しているんだ」
「ふぅん。彰人がやってるゲームって、スキルを自分で作れるんだったねぇ」
「何故知っている!?」
「ネトゲ情報サイトに載ってるもん。わりと人気あるらしいよ。今年の夏サービス開始した7タイトル中、二番目人気なんだって」
ほほぉ。案外成功してんじゃん。
っていうか、元MMOゲーマーだけあって、チェックしてんだなお袋って。
じゃあお袋に聞いてみよう。
「強そうでかっこいいスキル名」
「ライトニングプラズマァァ!」
即座に拳を突き上げ答えるお袋。
「却下」
「えぇぇぇっ」
「だってそれ、魔法スキルじゃん。俺が欲しいのは物理攻撃スキル」
「グランドデラックスクラッシャー!」
……俺のネーミングセンスはお袋譲りだったのかっ。
お袋から逃れるように視線を逸らすと、新聞のチラシが目についた。
こういうのにもヒントが隠されていないだろうか。
後ろであれこれスキルっぽい何かを叫んでいるおふくろを無視し、チラシに目を通す。
ホームセンターのチラシか。殺虫剤特集だな。
虫だけに、無視。
っぷくく。
他にはテントだのバーベキューセットだの、DYA関係もあるな。工具が豊富に取り揃えてますってか。
「ん? ……こ、これは!?」
目に飛び込んできたのは電動工具。
いい。
これはいいぞ!
「よし、これに決めた!」
「え? ギャラクシーエンドレスドッカンハイパーボンバー斬りがいいの?」
……セシリアならそれでもいいか?
とか一瞬思ってしまった俺がいる。