192:マジ、胴上げされる。
大賢者がピリカに懐柔されてしまえば、そこからは早かった。
逃げた先住民たちはスルーし、南の火災現場へとテレポすると、大賢者が水の上位精霊クラーケンとかいう大王イカを召喚してあっという間に消火完了。
イカか……。
上位精霊とも契約したいが、俺はウンディーネちゃんでいいや。
消火が終われば村人NPCもスタコラと村に戻っていく。その間、このエリアに生息する一般モンスターとすれ違ったりしているんだが、何故攻撃されないんだ! そして何故俺たちは攻撃されるんだ! 理不尽だろっ。
けどまぁ、既にこの辺りのモンスターは雑魚化してるもんな。
サクっと倒して村へと戻ってくると、辺りは静まり返っていた。
「まさか、寝たのか?」
「さすがNPCでござるな。何事もなかったかのように、日常生活に戻ったでござる」
「でもまだ夜だし」
そう言ってセシリアは天を仰ぐ。
釣られて視線を上に向けると、そこにはまんまるお月様があった。
ゲーム内の時間は――十時ちょい前か。一日が十二時間設定。日の出はだいたい二時頃だったかな。
「夜はまだまだこれからだぜ?」
「マジック君。電気というものが無かった時代は、陽が沈み暗くなれば寝る。陽が昇り明るくなれば起きる。それが当たり前の日常だったのだぞ」
……マジレスされると凄く恥ずかしいんですけど。
気づけば大賢者の姿もどこにもない。やっぱり寝たのだろうか。
「どうする? ファクトかガッソのイベントに戻るか?」
「うむ。そうでござるな。ネームドと一度も戦っておらぬし、少しは戦利品が欲しい」
「私は戦うぞ! そこに悪がある限りっ」
「悪があるかどうかは分からないが、んじゃまぁ行きますか」
と言ったものの、よく考えたらガッソにはまだ行った事がなかったんだった。なのでテレポできない。
今度ガッソに行っておかないとな。
「んじゃあ『テレポート』」
ファクトの南門付近に飛ぶと、視界にはふんどし姿の男たちが大勢……これなんのイベントですか!?
「おっ。ふんどし王子であらせられるぞ!」
「我らの教祖様キタァァァ」
「ふんどしワッショーイ!」
「「ワッショーイ!!」」
わ……わっしょーい?
『お帰りなさいませ、彗星マジック……さま? お疲れのご様子ですね』
「お、おぅ……」
疲れもするさ。
なんせふんどし軍団に囲まれ、胴上げされるわ担がれるわ。
セシリアと霧隠さん、他、女プレイヤーからはドン引きされるしよぉ。
そして俺も、ピリカにつっこまれた後もふんどしのままであることを思い出す。その事に関して霧隠さんには「今更でござるか」と呆れられたもんだ。
散々ワッショイされたあと、シリウスさんとブリュンヒルデもやってきて大カラオケ大会が始まった。
そのカラオケ大会の最中に『応援歌』技能を習得した人が数人居た。もちろんその人たちが歌えば、周囲のプレイヤーにバフが付与される。みんなにありがたがられてたなぁ……。
『泣いていらっしゃるのですか?』
「は? 泣いてねえしっ。マジだって」
『よしよし』
話を聞いていたシンフォニアが、俺の頭を撫でようと背伸びをする。
撫でられて堪るか!
さっと避けると彼女が舌打ちした。
こういう女なんだよ、こいつは。
『それにしても、随分とお楽しみだったようですね』
「まぁな。祭の後の祭って感じだったな。ただ――」
『ただ?』
結局ネームドを一体も殴れず、ノーマルドロップしか手に入らなかった……。
セシリアはいいよ。最初から全身レジェンドなんだし。
俺や霧隠さんは楽しみにしてたのにさぁ。ガッカリだぜ。
『彗星マジック様、そもそもの目的を既にお忘れではありませんか?』
「そもそもの目的?」
目的って、ネームドが大量に出てくるから、ふんどし姿の野郎どもが集まってレアレジェンド祭じゃなかったっけ?
え? 違う?
目的……目的……。
『ディオさん……』
「ディ……おぉ! ディオの妹とピリカを友達にさせるって目的だったな!」
手を一つ、ポンっと叩いてそう言うと、何故かシンフォニアはガクっと肩を落とす。
あれ、違ったか?
他の目的だと……
そういやずぅっと忘れてたな。狩場探し。
運営から配布された、技能経験値アップアイテムを使って、ガッツリ稼ぐっていう目的。
まぁ新しい技能も増えたし、寧ろこのタイミングでよかったかもしれん。となると、風や水が有効な狩場を探したいよな。
水だと火属性モンスターに強いし、北の荒野のほうか。
『やはりお忘れですね。まぁいいでしょう。ピリカさんのお友達計画も、似た様なものですし』
「おぅ。そうだな。俺たちと先住民との友達計画なんだ、そこにピリカが混ざっててもいいもんな」
『お忘れではなかったんですねっ!?』
「はい?」
再び肩をガックリ落とすシンフォニア。俺、なんか悪い事言っただろうか?
ずごごごごごっという効果音でも聞こえてきそうな形相で顔を上げた彼女は、その後ニヤりと笑った。
怖い。怖いですって。
『彗星マジィックさまぁ』
「は、はひっ」
シンフォニアはにたぁっと笑うと指をパチっと鳴らし、なにやら視界にタイマーが浮かび上がった。
表示しているのは『25:03』だ。
『本日の残り接続可能時間は、二十五分と三秒でございます』
「三秒って必要か? ってか、もうそれだけしか残ってない!?」
一日の接続上限は十時間。
えぇっと、朝八時前にはログインしてペットフードの合成をしまくった。昼飯の時間以外……あ、ずっとログインしてたな。
やべぇ。晩飯のあと、セシリアのスキル相談に乗るって約束してきたのに、どうすんだ。
とりあえず、二十五分あるならゲーム内では五十分だな。スキルの相談ぐらいなら一時間も要らないだろう。
「なぁ、ここからフレがログインしているかどうか、確認出来たりするのか?」
『フレンド登録なさっている方でございますか?』
「そうそう」
『ワタクシのほうで確認が出来ますので、その方のお名前をお教えくだされば検索いたしますよ』
よし。なら飯を食ったらとりあえずセシリアがログインして来るまでここで待機していよう。