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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バージョン1.02(予定)
190/268

190:マジ、勘違い勇者。

 シリウスさんには引き続き、町防衛のプレイヤーをバフって貰う為に残って貰い、俺たちは開拓村へとテレポした。

 村の様子は一見すると、被害にあってはいなさそうだが……。


「マジック君。あっちの森が火事になっているようだ」


 セシリアがそう言って、町の南側にある森を指差す。

 確かあの方角って、引越し護衛で通ってきた森じゃないか? 間に川が流れてるから、距離としてはそんなに近くもないが。

 ウッドマン……大丈夫かな。


「村人が森の方に向っているでござるな。火を消しにいくようでござる。拙者たちはどうするでござるか?」

「消化活動か。俺の『ウォーター』が火を噴くところだが……」


 所詮水芸。消防の真似事まで出来るかどうか妖しいもんだ。

 などと考えているとセシリアが真顔でこう言う。


「マジック君。水は火を噴いたりしないぞ」


 ……うん、分かってるから。

 俺たちが馬鹿な会話をしている間にも、結構な人数の村人がバケツや鍬なんかを持って出て行く。

 おいおい、まさかバケツリレーで消火する気か?

 いっそウンディーネを召喚して、水撒きを手伝って貰うか。


「よし、俺たちも消火の手伝いに――」


 くるんっと踵を返したところできらりと光る何かを発見。

 いや、あれは『発見』技能による発見ではないな。なんていうか、光を反射した何かだ。

 その何かは素早く移動している。

 月明かりがあるとはいえ、それが何なのかまでは見えない。

 ただ、人影であることは分かった。その人影が手にしている何かが光っているのだ。


「彗星殿、どうしたでござるか?」

「いや、あっちでな……誰かが走ってるんだが」


 俺が指差した方角を霧隠さんとセシリアが凝視する。


「うむ。人だな」

「人でござるな。武器を持った」

「武器?」


 俺には暗くて見えないが、霧隠さんは見えてる?

 技能か何かだろうか。

 武器を持って走ってるってことは、森のモンスターに対処するためか?

 なんて考えていたら、人影が一軒の家の前で立ち止まり、あろう事か手にした武器で叩きはじめたやがった。

 おいおい、まさか火事場泥棒じゃないだろうなっ。

 同じように他の人影も別の家を武器で殴りはじめてるし。

 家って、HPがあるんだろうか?


「マジック君! 火事場泥棒だぞっ」

「不届き者でござるな」

「お、おぅ。ちょっと懲らしめるか」

〔ぷっぷ〕

「え?」


 ぷぅがぱたぱたとホバリングし、人影をじっと見つめる。

 おい、お前って……鳥目じゃないのか!?

 あ、でもモンスターだから、実際の鳥の常識なんて通用しないのか。そもそもあのボディで飛んでるんだしな。

 そのぷぅが、走り去る人影に見覚えがあるという。


〔ぷっぷぷぅ〜ぷぷ〕

「え? 鉱山の森で出会った男、だって?」


 それってもしかして、ディオの事か?


「どっちに向った?」

〔ぷっぷぷぅ〜〕


 セシリアと霧隠さんを連れてぷぅの案内する方がうへと駆け出す。その方向が、まさかのピリカ亭!?

 人影が本当にディオだとして……計画が変更になったのか?

 まさか火事で大人たちが出て行ったのを見計らって、子供を誘拐!?


 ディオが幼女誘拐!?


「うおおぉぉぉぉぉ、早まるなぁぁぁぁぁ。真っ当な道に戻ってこおぉぉぉぉぃっ」


 ダッシュでピリカ亭へと駆けつけると、そこには灯りに照らされてハッキリとディオの姿が見えた。

 手には鉤爪のような武器を装備しているが、それを振り上げてもいなければ振り下ろしてもいない。寧ろ固まってる?

 ディオに駆け寄り、腕を引っ張ってピリカから離す。そして彼に思いとどまるよう説得した。


「ディオ。こんな幼い女の子をかどわかして何をしようってんだ……変質者みたいな真似は止めるんだっ」

「かどわかして何ヲ……何ヲスル…………」


 あ、シンキングタイムに突入したな。


「はぁはぁ……マ、マジック君、足速い……」


 おろ。いつの間にか二人を置いてきてしまってたみたいだな。

 男と女とでは足の速さに差があるんだろうか。

 まぁいい。今はディオだ。

 変態の道に足を突っ込ませないよう、俺が更生してやらねば!


「ディオ、正気を取り戻せ。お前の妹が何歳か知らないが、この子が妹だったらどうするんだ? そんな子に、あんな事やこんな……ふぐっ」


 い、いかん。無駄に想像するもんじゃないな。

 ディオがお医者さんごっことかしてるの思い浮かべてしまったぜ。笑える。


「イ、モウ、と。ティナ……」

「ティナっていうのか?」


 視線が定まらぬディオだが、俺の言葉に頷いてみせる。まだ若干シンキング中のようだ。

 が、次の瞬間、視線が定まってこちらをじっと見つめてきた。


「マジックか。何の事だかサッパリ分からないが、だがお前のお陰で思いとどまる事ができたよ」

「そうか! お前が変質者にならなくてよかったぜ」

「だから何故俺が変質者に……」


 俺とディオが話しをしている間に、セシリアと霧隠さんがピリカを連れて家の中へと入っていくのが見えた。

 ピリカのほうは寝ぼけてるっぽいな。ぼぉっとしている。

 三人が家の中へと入ると、突然――


「ピィィィィリイィィィィカアァァァァッ」


 地響きと共に大賢者の凄まじい雄叫びが聞こえてきた。

 マズい! ここでディオと遭遇させるのはマズいぞ。

 絶対殺される!!


「っく。大賢者が戻ってきたのか。予想より早すぎるっ」

「ディオ、今すぐ逃げるんだっ」

「ピィィィリィィィィカアァァァァッ」


 まるでピリカを呪っているかのような声の大賢者が、遂に――現る!

 っていうか、ベヒモス大きすぎ! 民家より背丈が高いじゃねえか。

 お向かいの家の上から見下ろすように、にゅっと出てきたベヒモス。その頭部に大賢者は跨っていた。

 見てるっ。こっち見てるぅぅぅ。


「儂の大事な孫に、何をしおったぁぁぁっ」

「何もしてないっ。してないってばぁ」

「っく。こうなったらっ」


 だから逃げろって言っただろ。なんでベヒモス目掛けて走り出すんだよっ。

 その時、ピリカの家の戸がバンっと開き――駆け出そうとしたディオに直撃した。

 ……痛そうだ。


「おぉおぉ。ピリカ、無事であったか?」

「あれ? おじいちゃん、お帰りぃ〜」

「ただいまピリカアァァァッ」


 うっとうしいです。そしてピリカは寝ぼけてます。あとディオは悶絶中っと。

 ピリカの後ろから出てきたセシリアと霧隠さんが、顔面を押さえているディオを気遣っている。セシリアなんかは『ヒール』まで掛けたりしているな。


「ピリカ、おじいちゃんが今悪者を退治してやるからのぉ。ベヒモス、行けっ」

「ちょ、ピリカは無事だし悪者も居ないってばよぉっ!」


 お向かいの民家を跨いでこちらにやってくるベヒモス。なにこの怪獣映画。

 ようやく悶絶から回復したディオの目前にベヒモスが迫っている。

 くそっ。こうなったら破れかぶれだ!


「うおぉぉぉぉっ」


 俺がディオの前に仁王立ちすれば、きっとベヒモスは止まるはず。いや、大賢者が止めてくれるはず。

 だって俺は大賢者の愛弟子なんだからな!

 そうだよね? そうだと言ってよお師匠さまぁ〜。


 だが無情にもベヒモスの動きは止まらない。


「マジック、どけ! お前まで巻き込んでしまうっ」

「いやどかないっ。どくのはお前だ、ベヒモスウゥゥゥッ」


 お願いしますどいてくださいっ。

 両手を突き出しこっち来ないでアピールをすると、ベヒモスの鼻先に手が触れた。

 条件反射とでも言うのかな……思わずベヒモスの鼻先を鷲掴みしてしまう。

 うん……ちょっと湿って――ると思ったら、さらさらぁっと砂になって消えてしまった。


「え? まさか俺、ベヒモスを……」

「マジック。お、お前、ベヒモスを――」

「い、今はそんな事よりっ。逃げるのが先だっ」


 実はベヒモスを倒した瞬間、奴に跨っていた大賢者が――お隣さん宅に落ちた。

 まぁ大賢者だからな、あれでどうこうなるとは思えない。つまり、ピンピンしているだろう。そして怒り狂って出てくるはず。

 今度こそディオが殺される前に逃がさないと。


「行け、ディオ! 俺が大賢者を食い止めている間にっ」

「マジック……っく。すまない」


 ディオは踵を返すと口笛を吹き、東へと駆け出した。

 辺りから同じように口笛が聞こえてくる。

 先住民グループの撤退の合図かなにかだろう。そうであって欲しい。


 ディオの姿が闇に消えてから、ようやく大賢者がお隣さん宅の戸から出てきた。


「悪者はどこだあぁぁぁ」

「それどこのなまはげですか」


 まるで某東北のアレですやん。寝起きのピリカもなまはげ大賢者を見てドン引きだ。大賢者が一歩近づくと、ピリカが一歩後ずさる。


「勇者様ぁ、ピリカ怖いよぉ」

「ピリカ、怖いなぁ。アレは怖いよなぁ。ほら、怖がられてますよ大賢者様」


 俺がそう言うと大賢者の動きがピタリと止まる。

 シンキングタイムではなく、動揺してだ。


「ピ、ピリカァ〜」

「おじいちゃん、そんな怖い顔しちゃダメ!」

「し、しかしのぉ、ピリカ。お前、怖い目にあわされたんじゃないのかの?」


 が、ピリカはきょとんとして首を横に振る。


「さっきの男がお前を――」

「さっきのお兄ちゃん? ううん、なぁ〜んにもなかったよ」

「そ、そうですよ大賢者様。ディオがピリカに手を出すはずないじゃないですか。あいつにも妹がいるんだ。歳の近いピリカに手を出すなんて……」


 手をだしたらそりゃあもう、犯罪ですから!

 段々としおしお〜っとしてきた大賢者に止めを刺すべく、ピリカにひそひそと耳打ちをする。

 さっきのお兄ちゃんってのが、例の両親を亡くしたほうの兄だという事を。その妹と――確かティナって言ってたな。その子と友達になるためには、兄であるディオとも仲良くならなきゃな。

 ――と。


「ティナちゃんっていうんだね! おじいちゃん、ピリカ、ティナちゃんとお友達になりたい!」


 輝かんばかりの笑顔でそう言うピリカを見て、孫馬鹿大賢者の顔がにゅるぅっと緩み始める。


「いいでしょ、おじいちゃん?」

「おぉおぉ、いいぞいいぞ。お友達になるとええ」

「でね、さっきのお兄ちゃんがティナちゃんのお兄ちゃんなの!」

「そうかそうか」

「あのお兄ちゃんとも仲良くなるね!」

「分かった。おじいちゃんが協力してやろう!」


 チィヨロイモンダゼ大賢者。

 孫とキャッキャウフフな大賢者の隣で、その孫が改めて俺を見つめる。

 そして何故か突然顔を赤らめた。


「勇者様はどうして水着なの?」

「は? みず……ぎ?」


 何故俺が水着なんか――いや待て、今の俺って……


「うわぁあぁぁっ、ふんどしじゃないかあぁぁぁっ」

「今更何を言っているんだ、マジック君」

「まったく今更でござるな」


 あわわわ、あわわわ。

 こんな夜中にふんどし姿で家を訪ねてくる奴なんて、どう考えても変態だぞ。

 俺は……俺は……


「ねぇ、どうして勇者様は水着なの?」

「み、水……」

「ピリカ、あんまりまじまじと見るんじゃない。ダンディ水着なんぞ、子供には目の毒じゃ」

「ダンディ……はっ。そうか! これはふんどしじゃない! 水着なんだ!!」


 だから恥ずかしくないんだっ。きっとそうなんだ!


「ねぇねぇ、どうして水着なのぉ〜?」

とうとう190話です。

もう少しで200話……

今後とも生温かい応援、よろしくお願いいたします。


いや、この時期だと冷たい応援のほうがいいのか……とにかく暑い。

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