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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション0.00【オープンベータテスト】
19/268

19:マジ、脅迫される。

《ありがとう、冒険者よ》


 女の声が聞こえてきた。その声はばっさばっさと羽ばたくピッピから聞こえてくる。

 ちょっと艶のある声だな。

 俺はいったい何を言っているのだろう。

 ほげ?


「あー、あー、夢乃さんや。モンスターが喋っているでございますですが」

「うん、そうだね彗星君。驚き過ぎて喋り方がおかしいばい」

「あんたは驚かねえの!? モンスターが喋るのってデフォなのか!?」

「いやいやビックリやけど、君ほど壊れてはないだけばい」


 そんなやり取りも完全スルーなピッピは、地上の一点を見つめて容赦なくしゃべくりまくった。


《奴は音も無く忍び寄り、ことごとく我が一族の子らを食らう、悪魔のような輩です》


 いや、モンスターだろ。


《我もまた奴に気づかず、あやうく子を食われるところでした。本当に感謝いたします、冒険者よ》


 ……卵をくれと言い出せなくなってきたぞ。


《あともう少しで我が子との対面が叶う。そう思って油断しておりました》


 ……かあちゃん……


《しかし……我はもう行かねばなりません》


 え……。


「な、なんで早朝の一定時間にしか現れないんだ?」


 ばっさばっさと羽ばたいていたピッピが――停止した。

 羽ばたくのを止めても落ちないのかよ。さすがだな。


「彗星君。あの子、動きが止まったね」

「あぁ。あれな、考え中なんだよ。シンキングタイムってやつだな」

「へぇ……」


 クローズ経験者も知らなかったのか。

 ふっふっふ。なんか勝った気がする。


 再び羽ばたきはじめたピッピの嘴が動き出す。考え中終わりか。


《我はもう行かねばなりません》

「回答になってねえしっ! 考えるの止めやがったなっ」

「逃げたってことやね」

《お願いです、冒険者よ。どうか我の変わりに子を……愛しい我が子を育ててください》


 子供? 雛か??

 ピッピが見下ろす地面の所まで行ってみると、そこには青い斑模様の卵が一つ転がっていた。

 ひ、一つ? これ一つなのか?

 二つでもあれば一個譲って貰おうと思ってたのに。


《愛おしい。あぁ、愛おしい……。もう少しで孵化するところだったのです。けれど我が滞在できる時間は既に過ぎております。我の変わりにどうか……どうか》


【ピチョンの願いを聞きますか】

【『はい』『いいえ』】


 そんなシステムメッセージが出るので、なんとなく『いいえ』を選択してみる。しかもなんかモンスター名バグってるしよ。

 俺は大賢者の為に卵が欲しいんだ。たぶん食うのだろうから、育てられない。


《愛おしい。あぁ、愛おしい……。もう少しで孵化するところだったのです。けれど我が滞在できる時間は既に過ぎております。我の変わりにどうか……どうか》


【ピチョンの願いを聞きますか】

【『はい』『いいえ』】


 ……強制かよ!

 これエンドレスパターンだろっ。

 もう一度『いいえ』を選択すると、やっぱり《愛おしい〜》から始まる。


『いいえ』だ『いいえ』。連打してやる!

『いいえ』『いいえ』『いいえ』『いいえ』『いいえ』『いいえ』


「彗星君、終らんけん『はい』押してよぉ」

「くそうっ。俺はここで屈服せねばならないのかっ。糞っ糞っ」


 そして『はい』を選択する。


《おおっ。ありがとう冒険者よ。お礼に我が用意できる範囲で、望む物を与えよう》

「え!? マジで!? それ早くいえよ。じゃあピッピの卵」

《――お礼に我が用意できる範囲で、望む物を与えよう》


 つまり卵は用意できない、と。

 糞っ。


「わ、私は?」

《もちろん、そなたも我が子を助けてくれた冒険者じゃ。望む物を言うがよい》

「じゃあ……素材になりそうなアイテムを。ちょっと珍しい物だと嬉しいけんど……」

《――そなたは生産技能を持つ者であったか。ならば、我ら一族の羽などどうであろうか? この季節、羽の生え変わりで抜け羽根が多いのでな》


 ピッピが《ピチョーン》と甲高く鳴くと、突然宙にピッピの大群が現れた。

 そしてばっさばっさと羽ばたいたかと思うと、大量の羽根が舞い落ちてくる。


「は、羽根ばいーっ。青い羽根、水色の羽根、白い羽根っ。あぁぁ、菫色の羽根もあるぅ〜。何作ろうっ、これで何作ろうっ。ねっ、ねっ?」

「い、いや、俺に聞かれても……く、苦じい」


 興奮のあまり、夢乃さんは俺の襟首を掴んで左右に振り回す。

 フレンドリーファイア実装されてたら、俺、死ぬかも?


 ごめんごめんと言いながらようやく首を離してくれた夢乃さんは、落ちてくる羽根を集めようと右往左往しはじめる。

 が、その必要もなかたったようだ。

 落ちてくる羽根は途中で光の粒子になり、そのまま彼女の腕時計の中へと収まっていったからだ。


「うわぁうわぁ。各種羽根が九九九枚になった!」

《足りぬか?》

「足ります! これ以上はあなた方が禿そうやし、十分です」

《そうか。良いものが作れる事を祈っておる。次はそなただ》


 他のピッピ達がすぅっと消え、お袋ピッピが俺をじぃーっと見つめる。

 そうか。純粋にプレイヤーとして欲しい物でもいいのか。


「攻撃力9999の杖」

《――お礼に我が用意できる範囲で、望む物を与えよう》

「絶対死なない防具」

《――お礼に我が用意できる範囲で、望む物を与えよう》

「彗星君、物欲丸出しやね」

「やっぱ壊れ装備はダメか……。どうすっかなぁ……」

「防具はさ、この羽根で何か作ってやるばい。武器もレア持っとるんやし……アクセサリーとかは?」


 アクセか。前のゲームにもあった装備だが、ドロップは少なかったんだよな。

 あれこれとっかえひっかえするの面倒だし、最初から高い能力なのがいいな。けど、ダメだろうなぁ。


「うーん。アクセサリーで魔法使い向けの。出来れば先々まで使えるのがいい。装備変えが面倒くさいからな」

《――では成長するアイテムなどどうか?》

「お、それいいね! 俺のレベルアップに合わせて効果も上がるって事か」


 ピッピが頷く。


《そなたにはこれをやろう。それともう一つ……我が子の為の寝床を――》


 羽ばたきながらじょじょに高さを増していくピッピ。

 くるんっと一回転すると、一枚の大きな羽根を落としてきた。


「羽根?」

《それは我の頭の飾り羽根である》


 あぁ、そういや頭にでっかい飾り羽根があるな。心なしか、さっきより薄くなってる気がするのは、ここに一本あるからか。

 ん?

 そういやピッピにこんな飾り羽根あったか?


《それには知力を高める効果が備わっておる。あと風の加護も付与しておいた》

「おぉ、よく解らないが、サンキュー」

《約束しましたよ、冒険者よ。この約束、違えれば必ずや後悔するでしょう》


 え、なにその脅迫。


《では……あぁ、愛おしい我が子……どうか、どうか無事に成長する事を、母は祈っていますよ》


 一方的にそう言うと、お袋ピッピは上空へ向ってと羽ばたいた。

 ばっさばっさぴこんという音と共に、ピッピの姿はすぅっと空に溶け込むようにして消える。すると、ピッピが消えた付近から何かが落下してきた。

 その落下物は、不思議と俺の頭目掛けて落ちてくる。

 まさか……鳥の糞!?


「やべぇっ。汚ねぇっ」


 ささっと避けると、落下物が追跡してくる!? 誘導装置でも付いてんのかよっ。

 全力で走って振り向くと、落下物の影はどこにも見当たらない。

 ふぅ、撒いたか。

 そう思った瞬間、頭の上にぱさっという軽い音と僅かな重みが生じた。


 糞……付いた?


「ゆ、夢乃、さん……俺の頭の上……」

「ぷふっ。何、それ……鳥の巣? か、可愛い、やん。ぷふふふ」


 鳥の巣?

 意を決して物に触ろうと手を伸ばし、それが糞で無い事は直ぐに解った。

 小枝のようなもので作られたザルのような、そんな物だ。両手で掴むとアイテム情報が視覚化されて映し出された。



◆◇◆◇


 名称:ピチョンの巣|(卵IN)

 備考:ピチョンの雛の寝床。

     取引不可。

    彗星マジック専用装備。


◆◇◆◇



 ここでもモンスター名がバグってるよ。 

 卵INな寝床……。俺専用って、もうね。


「夢乃さん。里親、代わってくれないか?」

「無理ばい。それ、取引不可やし。あ、ネームドのほうはドロップ無かったみたいやね。まぁ鳥さんがほとんどHP削ってたし、貢献度的に向こうに行ったんやろうね」


 モンスターがドロップ掻っ攫っていったのかよ。経験値も――あ、ほとんど入ってないや。


「それより私は裁縫レベル上げんとダメやから、工房に引篭もるねっ。あ、フレンド登録させてね。装備作れるようになったら連絡するけん」

「あー、はい……」


 早口でそれだけ言うと、夢乃さん、もう行っちゃったよ。

 はぁ、どうするかなこの卵と巣。


 港町に戻ってきたのは、すっかり太陽が昇りきった頃。

 午前中ってところなんだろうけど、プレイヤーは四六時中わんさかいる。

 プレイヤーとすれ違う度に、頭のほうに注目が集まるのはどうにかならないものか。

 当たり前だが、高確率で笑われていたりする。


 とりあえず大賢者様の所に行くか。これ見て何か解決策を教えてくれるかもしれねえし。

 寧ろ食ってくれ。

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