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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バージョン1.02(予定)
189/268

189:マジ、仕分けする。

「可愛い孫娘の『友達百人計画』のためじゃ、滅びよっ」


 年寄りのそんな声が聞こえた気がする。

 俺たちプレイヤーはファクトの門周辺で攻防しているので、東からぞろぞろやってくる軍団にはまだ対処しきれていない。

 倒せば倒したぶん、後ろのモンスターが前に出てくるという、順番待ちのような状況だ。

 その順番待ちをしているモンスターの列に、割り込みしてきたのが大地の精霊王ベヒモスたん。

 もちろん召喚したのは大賢者なんだろうが、ピリカの友達百人計画ってなんのことだ?

 っていうか、大賢者まで参戦するのかよ。


 ちょっと見ている間にモンスターの数が激減しているぞおい。

 今だって月光に照らされ宙に舞う粒のような影が見えてるし。もちろんあれはモンスターだ。

 俺の周囲も唖然としてその光景を見ている。

 ぼぉっとしててもブリュンヒルデが全部倒してくれるから安全だ。


「マジックさんっ。ゴブリンリーダーとコボルトリーダーが居たですの。やっつけるですの?」

「は? あ、いや、いい!」


 ブリュンヒルデがリーダー格を見つけ指差すと、差された当の本人たちは怯えきった顔して震えている。

 まぁ、そうだろうな。同情は――しない。

 彼女が声を上げたことでリーダーの場所が明確となり、当然それを目にしたプレイヤーが蟻のように集っていく。

 俺も向おうとしたが時既に遅し。

 あっという間に光の粒子となって消えた。


「やった! ネームドを倒したぜっ」

「レジェンドキタアアァァァァァッ」

「くそ、出遅れた」

「あ、マジックさん、リーダーが居たですのっ」

「「どこどこ」」


 俺じゃない奴らの反応が早すぎ!

 リーダーレーダーと化したブリュンヒルデが指差すと、すぐさまプレイヤーがそこに群がる。まるでハイエナのように。

 二百メートルほど離れた所では、ベヒモスに蹂躙されているモンスターが次々に宙に舞い、光の粒子となって消えていく。

 気づけば俺たち冒険者の支配領域も拡大していき、門は完全に安全地帯となっていた。

 ブリュンヒルデのリーダー発見報告に備えるが、それは他のプレイヤーも同じ事。彼女が指差した瞬間には、報告の言葉を聞かずに走り出す連中がゴロゴロゴロゴロ……。

 か、勝てる気がしねぇ。廃人どもに勝てる気がしねぇ。


「うぅむ。競争率が高いでござるなぁ」

「たぁっ! 二人とも、手が疎かになっているぞっ。正義のために、モンスターを駆逐するのだあぁぁっ」

「……ぽんこつ勇者め」


 お前は全身レジェンドだからいいよな。

 いや、そもそもアイテム目当てじゃなく、勇者思考で参加してるんだからな。

 

 大賢者とブリュンヒルデの活躍はかいかつどうもあって、プレイヤー側の火力底上げとかもう気にしなくていいよな。

 歌うのを止めて攻撃に転じよう。というか身を守ろう。

 何故かさっきからモンスターの攻撃がこっちに集中している気がする。セシリアのヘイトスキルも効果がなかったし。


〔フゴオォォオッ〕

「マジック君、危ない!」


 おっと。またいつものパターンか。

 いつもいつも突き飛ばされて堪るか!

 突進してくるセシリアをちょいっと躱し、隣の誰かさんにぶつかる。


〔フゴ〕

「あ、どうもすみません」

〔フゴオォォッ〕


 ひぃっ。オークにぶつかっちまったよ!


「彗星殿、危ないでござるっ」

「『リターンオブ・テレポートッ』」


 とにかく見えた隙間に意識を集中して飛ぶと、そこは――


〔ゴブゴブ?〕

〔ゴブブ!〕

〔ゴブブブ!〕


 ゴブリンゾーンだった。


「アイヤー! こっち来ないで『焔のマント』」

〔ゴブギャーッ〕


 襲ってくるゴブリンどもを炎の壁で押しのけ、『サンダーフレア』と『雷神の鉄槌・トールハンマー』で止めを刺していく。

 そうしながら二人の下へ必死に戻ってくると、こちらでも霧隠さんがフルボッコされていた。

 が、ほとんど回避してるっていうね。羨ましい。


「マジック君っ、不用意に飛んじゃあダメでしょっ」

「反省している」

「無事でよかったでござる。拙者も危ういところだったでござるよ。しかし何故拙者とマジック殿が?」


 もしかして例のメインストーリー関係だったりするのか?


「いやぁ、そうでもないらしいよ」


 と突然知らない女の人に声を掛けられる。

 彼女自身は獣人だったが、直ぐ隣に女ダークエルフがいた。随分と疲れきった顔をしているな。


「うちのパーティーのこの子も、何故かずっと狙われてたのよ」

「リーダーがヘイトを取ろうとしても、全然剥がれなかったわ……もう死ぬかと思ったぁ」

「実際に一回死んでるけどね」


 おぉう。ダークエルフに恨みでもあるんですかね?

 そういえば彼女、ボディペイントしているな。何気に発光しているし。


「え? 俺は全然狙われてないぜ」

「マジで? 俺やられまくった」

「私は平気だったわよ」


 ぞろぞろと集結しはじめるダークエルフプレイヤー。

 攻撃されまくった人、そうでない人の差って、なんなんだ?

 ダークエルフだらけの輪の中で、唯一それではない、白いエルフの混血であるハーフエルフのセシリアがぽんっと手を叩く。


「蛍光塗料を塗っているか塗っていないかの差だ!」

「「蛍光塗料?」」


 それボディペイントですからっ。

 顔を見合わせた俺たちダークエルフ軍団。


「じゃあ、狙われまくった人はこっち、そうじゃない人はそこのハーフエルフ側に分かれてみるか?」

「「オッケー」」


 俺の言葉で全員がぞろぞろと移動を開始する。

 そして見事に分かれた。

 発光ペイント組と、ペイント無しか別の色のペイントをしている発光していない組とに。

 何故発光ペイント組だけが狙われまくったのか……モンスターを引き寄せる効果でもあったのか?

 全員で首を傾げていると、頭上の壁に立つプレイヤーから声が上がった。


「東の方で爆発みたいなのが発生してるぞ」


 その声はあちこちから上がっている。

 東……といっても、ここからじゃよく分からないな。


「ぷぅ、何か見えるか?」

〔ぷっぷぅ〜〕


 見てみるわ、といって上空に羽ばたいていくぷぅ。どこからどうみても青いボールです。

 しばらく上空でホバリングしたあとぷぅが戻って来ると、慌てたようにぷっぷと鳴きだした。


〔ぷっぷぷっぷぷっぷぷぅぷぷぷぷ〕

「いやいや、慌てるな。えぇっとなになに? 東にある開拓村近くの森が燃え……燃えてるだと!?」








 某ビル内――数分前。


「な、なんで始祖と大賢者が!?」

「これ無理ゲーすぎっ」


 悲鳴にも似た声を上げる男性スタッフ陣の近くでは「自業自得よ」と呟く小松女子の姿があった。

 彼女はこの状況を把握している唯一の人物である。


 お気に入りのプレイヤーキャラクター、彗星マジックを日々観察している彼女は、彼がダークエルフの始祖ブリュンヒルデと接触していたのを知っている。

 NPCとの好感度が高い彼は、始祖ブリュンヒルデに襲撃阻止に参加すると伝えてある。

 この時、双方にいろいろと誤解があったのは言うまでもない。

 片や合成剤にお金を払う事に対し「気にするな」と言ったつもりであるが、受け取り手はそう解釈していない。

 ダークエルフも町の防衛に協力すると言った事に対し、彗星マジックが――

「気にするな。俺がなんとかする」

 美化100%でそう言ったのだと解釈しているのだ。

 これにより、始祖ブリュンヒルデの彗星マジックに対する好感度が加算された。

 その結果、始祖ブリュンヒルデは彗星マジックの二度目の『戦闘不能』をきっかけに登場するという事態になったのだ。


 尚、『Imagination Fantasia Online』において最強クラスのエキストラデラックスNPCが、このダークエルフの始祖ブリュンヒルデと、数十年前に魔王とかいう厨ニ病モンスターを倒したとされる大賢者パルカスの二人である。


 ちなみに大賢者はまた別の要因で参加しているのだが、結果的にその要因を生み出したのも彗星マジックだったりする。

 結果、孫の為に友達百人計画を応援することに。

 その為にもまずは、開拓民と先住民との直接対決を避けるべく、モンスター襲撃を阻止する行動にでたのだ。


 そんな事とも知らないスタッフたちは、それでも野生の勘というのか、それとも日頃の恨みなのか、口々にこう叫ぶ。


「「奴のせいだ!」」


 実はまったくその通りなのであるが、プレイヤーの言動によってNPCの行動が左右されるというプログラムを作ったのも彼らである。

 そして圧倒的な強さを誇るNPCまで作り、しかも彼らがプレイヤーと行動を共にするよう設定したのも自分たちだ。


 つまり、


 自業自得である。


「ああぁぁぁぁぁっ。ファクトの東が落ちたあぁぁぁっ」

「大賢者糞があぁぁぁっ」

「こうなったら開拓村を襲ってやる!」

「やるなら今だっ。大賢者がファクトに居る間に!!」


 既に運営スタッフとしての役目を忘れている奴等だった。

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