183:マジ、装備合成を行う。
ダンジョン脱出スキル。
別命『死に戻り』ともいう。
MP消費ゼロのコスパ最強スキルだぜヒャッハー!
ファクトの中心地からやや西にある復帰ゾーンで肩を落としていると、ピコンとシステム音が鳴った。
『シースター:鉱山に行ってたみたいだけど、もう戻ってきたんだ?』
『彗星マジック:おう。デスペナ貰って帰ってきたぞ』
『シースター:南無ぅ』
『彗星マジック:南無あり』
『シースター:町に戻ってきたんならさ、丁度いいからこっちに来てくれないかな』
『彗星マジック:うぃよ』
製造祭の手伝いだろうか?
そう思いながら工房へと向うと、予想外に人が少ない。
シースターの姿は直ぐに見つかり、作業台で木を削っている最中だった。
あ、なんか完成したようだ。
おぉ、杖だな! それを俺にくれる――あ、他の人に渡してしまった。請負品だったわけね。
っち。
「うぃ。来たぜ」
「ほいほい。もう一つ製造したら終わりだから、待っててね」
そう言ってシースターは、長細い木材を鉋で削り出す。
何往復かさせると、木材の形が歪み、今度は弓になった。
彫刻刀に持ち替えると出来上がった弓をゴリゴリ削りだし、あっという間に模様を描き終えた。更に弦をつければ完成か。
僅か一分足らずで弓が作れるって、ゲームってば凄いね!
「お待たせマジック」
「おぅ。で、何か用か? 製造の手伝いも要らなさそうな状況だけども」
装備を求めてやってきているプレイヤーの姿は皆無という訳ではない。が、数十人程度まで減っている。
職人も同じぐらい居るので、製造祭は終了と言ってもいいだろう。
なら何故呼ばれたのか。
「うん。ほら昨日さ、アクセサリーを作ってやるって言ったじゃん」
「アクセ……あぁ、風斬り羽根の件でだっけ」
「そうそう。マジックがリクエストしないからさ、適当に作ったから」
と言ってシースターがイヤリング二つを取り出す。
鳥の羽根を模した銀製のイヤリングだ。羽根の付け根には、それぞれ赤と青の石がはまっている。
「イヤリングは左右それぞれが独立してて、性能も違う物を用意できるんだ。こっちが――」
羽根の付け根に小さな赤い石がはまっている方が、魔法攻撃力10%アップ。青い石がはまっている方はMP自然回復量+20とあった。
有り難い。マジありがたい!
MP自然回復量は、動かず、じっとしていれば五秒毎にINTと同じだけ回復する仕様だ。
今の俺だと五秒間じっとしていれば164回復するが、それが184になる。
いいねいいねぇ~。
「本当にこれでいい? MP回復はいいとして、魔法攻撃力のほうは微妙なんじゃないかと思うんだけど」
「いや、これでいい。絶対にいい」
何故微妙だと思うのか、そっちのほうが理解できないんだが。
まぁいい。せっかくシースターを捕まえられたんだ、古着の分解を頼もう。
良い能力石が出れば、未合成部位に付けてもいいしなぁ。ついでに杖をもう一本作って貰おう。
「ってことで、よろしく」
「うえぇー。製造祭終えたばかりなのにぃ」
と言いながらも作業を開始するシースター。
合成済み装備を分解してもらい、更に分離した装備を分解すれば能力石や素材になる。
「へぇ。成功率いいな」
「技能レベル43だからね。装備レベルより技能のほうが高いと、成功率も上がるからねぇ」
だから分解技能をメインに上げているとシースターは話す。
ほほぉ。でもさっきレアコートがゴミ屑になったんだよな。なので100%成功というのは無いんだろう。
古着全部を分解し終えた結果、失敗したのはマントだけ。
そして手に入れた能力石は――
「ステータス関連だとSTR+5、DEX+5、INT+5、AGI+3、VIT+3か」
「物理ダメージ8%減少ってのもあるね。タンカー系の人は、各装備に全部物理ダメージ減少を付けたがるし、需要はあるよ」
そして孔雀のパンツからは、状態異常をランダムで発生されるアレが出て、全属性耐性の石もあった。
その他素材が各種。
デバフは付けておきたいな。あとはINT+5か。
「シースター。INT石とデバフ付与以外はお前にやるからさ、これで杖作ってくんね? お金も出すからさ」
「つまり素材は無いってこと?」
頷く俺。
レジェンド素材は無いからと、レア杖の作成を開始する。
あっという間に完成し、杖を見せてくれた。
「お金はいいよ。そのかわり、また風斬り羽根お願いするよ」
「おぅ。それなら任せてくれ。さてっと、さっそく……」
合成開始っと。
まずコートをマフラーに合成……よ、よし、成功。
出来たてほやほやの杖を手袋に……うぉぉ、成功!
デバフ石はまたズボンに合成しておくかな。となるとINT石は靴に……
「うおぉぉぉっ。合成全部成功!!」
「おぉぉ、おめでとう」
これで火力も防御力もランクアップだぜ!
「それにしてもマジック……裸マフラーって、結局変態なのは変わらないんだね」
「……ほっといてくれっ」
マントだった頃はそこそこ隠せていた裸が、マフラーになって隠せなくなってしまった。
で、でもいいじゃん!
RPGとかだとさ、上半身裸のワイルドなキャラとか、結構いるんだからさ。
「まぁ二箇所合成すると、外見が消えてしまう仕様だから仕方ないけどね。だからこそ、大抵の人はアバターで外見上書きしてるんだけど。マジックはそういうのしないの?」
「うぅん。アバターで金を使うのは勿体無いと思って」
が、どんなアバターがあるのかは気になる。
試しにアイテムモールを開いて商品一覧を覗いてみる。
「MMOのアバターって、世界観無視したデザインとかよくあるよな」
「うん、そうだね。でもまぁ、『IFO』は比較的まともかも」
俺が知ってる人の中に、一升瓶を武器にしていた人がいるんですけど。あれがまともなのか?
そう思いながら衣装アバターのページを捲っていく。
一ページに四着しか紹介されてないが、正式サービス開始して間もない時期にもう五ページ目があるって、どんだけ課金に力を入れてるんだよ。
「お、ボディペイントなんてのもあるのか」
「あぁ、それね。マジックみたいな裸族向けだよ。結構自由に描ける様だから、わりと人気っぽい」
「へぇ、自由にねぇ」
ペイントの価格は300AQと50AQの二つがあった。
違いはモノクロか、カラーかというもの。
モール画面でお試し使用ができるとあるから、ちょっと弄ってみよう。
お試しをタップすると、マネキン人形みたいなものが映る画面が現れる。その左側にはペイントパタンがあった。
星やハート、剣に盾、骸骨なんてのもある。このパターンだけで二十種類もあった。
更にサイズはバーを動かす事でいろいろ変えられる。
好みのペイントをクリックドラッグでマネキンに載せればいいという、簡単な操作だな。
「どうせ裸なんだったら、ペイントするってのも手だね」
「おう。買った」
「はや!」
さて、どんなペイントを貼ろうかな。
【現在の装備】
上半身:外見は裸+マフラー+ギター / ギターin28レジェンド杖 : マフラーin32レアコート
下半身:32レジェンドズボン / デバフ能力付き
手:32レア手袋in32レア杖
靴:32レジェンドズボン
耳:イヤリング左右一つずつ
呪いのメダルin32レジェンドコート
28杖:
一:聖属性の攻撃力、及び回復力向上。
二:アンデッドに追加ダメージ15%。
三:CT50%減少。
32レジェンドコート
回避率+12%、VIT+8、物理ダメージ20%カット。
32レアコート
VIT+5、HP自然回復+20。
32レジェンドズボン
火属性耐性+30%。動物型モンスターからの被ダメージ10%減少。被ダメージの20%を反射。+九種類のデバフランダム付与。
32レア手袋
DEX+5、火属性攻撃の際、ダメージ10%UP。
32レア杖
INT+5。風属性攻撃力+10%。
32レジェンド靴
風属性耐性+25%。落下速度減少。非ダメージ時、一定確率で物理ダメージを防ぐバリア。
その頃、某開拓村では、プレイヤーの目に触れないところで激しい戦いが繰り広げられていた。
ファクトから帰還したピリカは、自宅に戻ると勇者様から聞いた話を祖父に聞かせた。(というデータが発生)
そこからはシステム内で行動がデータ処理化される。
【ピリカ】:祖父に先住民の子と友達になりたいと話す。
【大賢者】:『許す』 or 『許さない』 → 『許さない』
【ピリカ】:『駄々を捏ねる』 or 『諦める』 → 『駄々を捏ねる』
【大賢者】:『怒る』 or 『うろたえる』 → 『うろたえる』
【ピリカ】:『駄々を捏ねる』 or 『諦める』 → 『駄々を捏ねる』
【大賢者】:『怒る』 or 『うろたえる』 → 『うろたえる』
以下延々と続く。
この流れが百回を超えたとき、システム側が第三の選択肢を発生させた。
【ピリカ】:『駄々を捏ねる』 or 『諦める』 or 『泣く』 → 『泣く』
【大賢者】:『怒る』 or 『うろたえる』 or 『負ける』 → 『負ける』
【ピリカ】:祖父に友達百人計画を語って聞かせる。
【大賢者】:純粋無垢な孫に感銘を受ける。
【大賢者】:孫の友達百人計画に賛同する。
【ピリカ】:勇者様の『モンスター襲撃阻止』計画を祖父に聞かせる。
以下、NPC側でもそれぞれの思惑で行動することになる。