180:マジ、団子をばら撒く。
翌朝。
ペットフードの再販は九時から。なので早めにログインし、作り置きを大量に用意した。
その数、ざっと一万個。
もっと作りたかったが、ペットフード一万個、それに合わせた食材を買い込んだら、六十万近かったお金が残り十万ENに。
そこから課金用の食材と合成剤も用意しておかなきゃならないし、作り置きはこれ以上無理だ。
朝から合成三昧で、技能のほうは39になってしまった。
作業回数を考えると、レベル35を過ぎてからは上がり難くはなってるよな。なってるけど、短期間で集中作業したから一気に上がった感はあるけど。
「冒険者様、お疲れ様です」
「あ、村長さん。無理言って大量のペットフードと食材を用意してもらってすみません」
「いえいえ、売れ行きがよい様で何よりです」
つまり、この村で販売する事になったら、がっぽがっぽ稼げるから嬉しいぜってことですね。
あ、村の宣伝もしておかなきゃな。
「また足りなくなるようでしたら仰ってくださいね」
「い、いいんですか?」
正直、また昨夜みたいに途中で仕入れに来ることになるだろう。
「いいんですよ。合成作業中、冒険者さんの召喚したノームとウンディーネのお陰で、畑は潤っていますから」
とにっこり顔の村長さん。
せっせと合成中にノームとウンディーネを交替で召喚し、ノームには『ちゃぶ台返し』で畑の土をおこしてもらい、ウンディーネには『ウォーター』水撒きをしてもらった。
慈善事業ではない。れっきとしたレベリングだ。
畑仕事でノームの『ちゃぶ台返し』のレベルは10になったし、ウンディーネの『ウォーター』は6に。
残念ながら戦闘経験値を得られたわけじゃないので、精霊としてのレベルは上がらなかった。
二人の活躍で実りが早くなるなら、安心して仕入れさせて貰おう。ガッツリと。
大量のペットフードも用意できたし、さて、行くか。
「勇者様〜、ピリカも連れてってぇ〜」
「ピリカ!? 今日も来るのか?」
とてとてと駆けて来るピリカ。後ろからトリトンさんが一緒にやってくる。
「だってね、おじいちゃんのコップ、買ってあげるの忘れてたんだもん」
「あぁ……そういえば」
「という訳ですので、今日もよろしくお願いします。ピリカ、マジックさんに迷惑掛けるんじゃないぞ」
「はぁ〜い」
そうか、ピリカもついてくるのか。
そうかそうか。
じゃあ――
「ピリカね、東の方に住んでるっていう先住民の子とお友達になりたいの。その子はね、お父さんもお母さんも居ないんだって……。でも寂しくないよ、大丈夫だよって言ってあげるの」
「「うおぉぉぉぉぉピリカちゃあぁぁぁんっ」」
「ピリカちゃん、優しいのね」
「ち、違うよっ。優しいんじゃないもん。ピ、ピリカもね、お母さんが居ないから、その子の気持ちが分かるの」
「「うおぉぉぉぉぉピリカちゃあぁぁぁんっ」」
「ピリカちゃんと先住民の子が友達になれるよう、我々も協力するぞ!!」
「「おおぉーっ!」」
チョロイもんだぜ。
ロリコンどもはピリカのいう事にYESマンだし、女性プレイヤーなんかは母性からなんだろうな、健気なピリカを応援すると言っている。
つまり、先住民NPCとは非戦闘派になるってことだ。
その他まともなプレイヤーも相手がNPCとはいえ、子供の言う事に正面から否を唱える奴も居ない。
『彗星マジック様の思惑通りでございますね』
「あぁ。まったくだぜ。くっくっく」
『お主もワルよのぉ』
……どこでそんなセリフを覚えてくるんだ。
まぁ確かに思惑通りだな。
ピリカをだしに使うのはアレな気もしたが、でも、上手く行けば友達を増やせてやれるってのは本当だ。
けど本音は……
「ピリカ、お友達百人作るの〜」
「応援してるよっ」
「頑張ってね」
「「うおぉぉぉぉぉピリカちゃあぁぁぁんっ」」
俺より確実にプレイヤーの心を一つに纏めてるんですもん。
『彗星マジック様。情けない顔などせず、注文の品をお作りください』
「……はい」
今俺がやるべきことは、課金ペットフードの必死合成!
やれることをこつこつとおぉぉっ。
作業ゲーも大概飽きた。飽きたが頑張る。
今の俺、きっと輝いてるんだぜ。きっと――そう、こんな風にきらきらと――
『レベルアップ、おめでとうございます』
「……作業ゲーでレベル32になってしまった……」
「勇者様、おめでとう〜」
「王子様おめぇ〜」「「うおぉぉぉぉぉピリ「おめ〜」「おめおめ」
「ふんどしおめ」「おめ」「おめでとう」
おめでとうの大合唱。
う、嬉しい。こんな大勢に祝って貰えて、嬉しい。
よぉし、こうなったら。
「一人一袋限定、ペットフード無料配布しちゃうぞぉ〜」
「「おおぉぉぉぉっ」」
はっはっは。大盤振る舞いじゃ〜。
はっはっは〜。
一時間後後、ペットフードの在庫が無くなった。
そして所持金は十五万EN程度。。
一つ60EN販売してたんだ。半分を無料配布してたって三十万ぐらいになっててもいいはず。
どういうこと?
「シ、シンフォニア。無料配布って、いくつぐらいだった?」
『はい。六千九百八十二袋でございます』
……おぅ……やっちまったぜ……。
「アザーッス!」
「ピリカちゃんの勇者さん、ありです!」
「太っ腹だなふんどし王子は」
「さすが放電の人」
「タダで七千とか、ワロス」
「え? 一万用意して半分以上無料配布?」
「どんだけ金持ちなんだよ」
十五万EN持ちだぜ?
リアルで考えたら結構金持ち?
所持金が減ったので、補充は少しずつしか出来なくなった。
完売してはテレポで仕入れ、また完売しては仕入れ。そして販売。
途中で大賢者用のカップを探すピリカの為に、木工技能持ちに頼んで作って貰ったりもした。くっっくっく。チューリップ柄だぜ。
それからピリカを帰し、また仕入れ。何往復かしてやっと所持金は三十五万まで戻った。
『所持金、今朝の半分ほどまで減っておりますね。ふふふ』
「ふふふじゃねえよ。そういや頼んでおいた――」
『はい。ペットフードをお渡しする際に、今後の販売は開拓村で行うという宣伝でございますね』
「そうそう」
俺も宣伝をしておいたが、シンフォニアのほうでも頼んでおいた。
これでペットフードが必要になったら、開拓村に行ってくれるだろう。まぁ今はまだ店舗が建ってないようだけど。
「じゃあ俺は昼飯食いに行ってくるよ」
『はい。お疲れ様でした』
「おぅ。お前もサンキューな。マジ助かったぜ」
『いえ、これもお仕事でございますから。それではワタクシも失礼いたします』
じゃあこっちも――と思った矢先、
「彗星くぅ〜ん! デラックス、ちょうだぁ〜い!」
目を爛々に輝かせたエルフが、こっちに向って走ってきた。
何故だろうな。
猛烈に逃げたいと思うのは。