18:マジ、卵をめぐって戦う。
訳も解らず後を追ったが、何故彼女が走り始めたのか直ぐに理解した。
《ピピーッ!》
「うおぉりゃあぁあぁぁっ」
草原から飛び出す真っ青なボール。
「あぁん。先越されたばい。次探しにいくとよっ」
訂正。
あのボールがピッピらしい。
よく見たら球体に翼と足、黄色い嘴が見えるな。
全身真っ青の、まるで幸せの青い鳥だな。
しかし、あんな丸い体型で空飛べるのかよ。
フリー状態のピッピを探して草原を走りまくる俺たち。
まさか……まさかこんなにピッピ狙いがいるとはなっ!?
「レアアイテムでも落とすのか?」
「解らない。でも、レアモンスターだから落とすのかも。情報は無いけど、クローズでもピッピは人気やったけん」
希少モンスターなら誰でもそう考えるから仕方ないか。
一匹でもいいから、倒さないとな。そして卵をゲットしないと!
だが世間はそう甘くは無かった。
走れど走れど、地面から羽ばたくピッピは既に戦闘中だったり、今まさに戦闘に突入した奴ばかりだ。
やっと魔法をぶっぱなせる!
そう思って目前まで走っていたのに、前方から矢が飛んできてピッピがそっちに向って飛翔する。
あぁ……あんなに丸々太ってんのに、飛べるんだな。
「あぁんもうっ。同じ弓使いとして、目の前まで他人が走ってきてたところを狙うとか許せんばい! 横殴りと同じやんっ」
「まぁまぁ、そう目くじらたててないで、次探そうぜ。まだ時間はあるんだし」
「あと十分しかないんやよっ」
十分か、厳しいな。
「こうなったら私が――」
「いやいや、ピッピのレベルって9じゃないか。5の夢乃さんじゃきついだろ」
「でもぉ〜」
もしもの時は、誰かに譲ってもらう手もある。
それまでは運を天に任せて――
「走るぜぇーっ」
「走るしかないのかぁ〜」
だが天は我に味方しなかった。
太陽が地平線から完全に姿を見せ、大地を赤く照らす。
タイムリミットだ。
「マ、マジか」
「やっぱり、ちょっと無理してでも私が矢を射っとったら」
「いやいやいやいや、また……明日があるから」
そう答えながらも、走り回った疲れからなのか、精神的なものなのか、その場に膝を落としてしまう。
はぁ……競争率高すぎだろ。そんなに良いアイテム落とすのかよ。
項垂れる俺の耳に、小さな声が聞こえた。
《ピチョーン》
天は我を見捨ててはいなかった!
所々に背の高い草が生い茂っている部分もあり、その茂みから声は聞こえる。
他のプレイヤーに見つかる事も無く、ここでじっと身を潜めていた賢い奴なんだろう。
「夢乃さん。ピッピ、まだ残ってる」
気づかれないよう、小声で彼女を呼び寄せる。
「こ、今度こそ……」
いや、彼女に危険を侵させる訳にはいかない。
俺が飛び出して行って――
「俺がやる。俺が……奴の注意を引く!」
走れ、急げっ。他のプレイヤーに取られる前に!
そう祈りながら右手に意識を集中させ、左手の杖をぎゅっと握り締める。
そして――声の聞こえた方角に向って右手を突き出した。
「『サンダーッ!』」
青白く光るイカヅチが掌を這う。そして――
草を舞い散らせながら、ぬるっとした何かに触れた。
「ぬる?」
《シャボボボボッ》
「なんか違うの来たあぁぁっ!?」
明らかにさっきの声とは違う、別のモンスターに当たってるぞっ。
どうして、どうしてそうなる!
「うわあぁぁ、なんか大きい蛇だよ彗星君っ」
《シャアアアァァッ》
◆◇◆◇◆◇◆◇
☆卵大好きエッグスネーク / LV:10
◆◇◆◇◆◇◆◇
やべぇえぇっ。ネームドモンスターじゃないですかあぁっ。
しかも卵大好きとか、どう見てもライバルですし!?
「渡さねぇ。卵は渡さねぇぞっ」
「や、やる? やるしかないよね。『鑑定っ』」
「うおおぉぉぉっ。『サンダーッ』からの『ライト』」
うねうねとした蛇の側面へと周りこみ、素早く魔法を叩き付ける。
ん? サンダーのダメージがライトの倍以上?
「彗星君! そいつ、水属性やよ!」
「やった! 水辺の蛇だったのか。くっくっく。勝機が見えてきたぜ」
そう言ったのも束の間。
ギラリと目を光らせて身をくねらせると、長い尾を振り回して俺を薙ぎ払う。
ゲフッ。吹っ飛ばされた!?
――ぼふん。
ん?
なんかふわもこな物が背中に……
《ピチョチョチョチョッ》
真っ青な鳥さん!
うげっ。さすがにネームド相手にしながら二匹同時とか、無理っ。
逃げるか!?
「夢乃さんっ」
《ピチョォォーンッ》
ピッピがばさばさと羽ばたくと、温かい風が流れてきた。
その瞬間――
【STR+10】
【AGI+10】
【VIT+10】
【DEX+10】
【INT+10】
【KUL+10】
という文字が視界に浮かぶ。
これ、称号効果か?
……いや、勇者はオール+1のはず。
「す、彗星君、これ……ピッピのバフスキル!?」
「え? え? モンスターが、俺らを支援?」
《シャアアァァァ》
《ピチョォォッ》
蛇はピッピを睨み、ピッピも蛇を睨みつけている。
まさか……卵大好きって、ピッピの卵を狙っていたのか!?
偶然タイミングよく蛇に俺の魔法が当たった事で、ピッピの卵が守られた、とか。それで親鳥が……
あ……。
「卵って、まさかピッピからドロップするんじゃなくって、既に産み落とされてるとかそういうオチなのかぁぁっ」
「あはは、そうかもしれんねぇ」
「ああぁぁぁーっ」
全力で走った努力があぁぁっ。
《ピッ》
《シャボオオォ》
「死ねやあぁぁっ」
怒りの鉄拳ならぬ、怒りの雷を蛇にぶつける。
この際だ、親鳥を助けて卵を一個くれと頼もう。
「とりあえずスネークを倒すんやねっ。『ショットアローッ』」
後ろから飛んできた矢は、これまで見た攻撃よりも速度が速かった。その分、威力も高いのだろう。
「ふっふー。生産の成功率はDEXとLUK依存。今はDEX極だから、生産メインといえど弓限定なら強いんよ。ただしHPがゴミ過ぎてすぐ死ぬんやけど」
「最後の一言がなかったらかっこよかったのに」
「本当のことやけん、仕方ないっちゃね」
よし。
よく解らない状況で、モンスターと共闘する事になったが……
「『サンダーッ』そんでもって『ライト!』」
おぉぉ。INT+10のお陰で、ダメージがワンランクアップしてやがる。
《ジャジャッ》
蛇は大口を開けて向って来たっ。丸呑みされるんじゃね!?
そう思った瞬間、俺の体は宙に浮いていた。
ばっさばっさと羽ばたくピッピの足に鷲掴みされて、飛んでるうぅっ。
《ピチョロロロロッ》
行くわよっ。
そんな風に言われた気がした。
「おっしゃあぁぁっ、行けぇーっ」
急降下しながら、ピッピは俺と蛇の真上で――落とした!?
ふぁっ!?
「ぎゃああぁぁぁっ『サンダーッ』」
「彗星君っ。『ショットアローッ』」
鬼だ。
鬼のような鳥がおる。
蛇と衝突しながら、魔法をぶっぱして転げ落ちた。
奴の全身を雷が駆け巡り、矢が深々と突き刺さる。
《ピチョッ》
そこへピッピが急旋回して戻ってきて、鋭い嘴でもって蛇を突いた。
なんか蛇のHPゲージがとんでもなく減ってるんですけど?
寧ろ俺ら二人で一割しか削ってないのに、ピッピの一突きで残り全部削ってますけど?
あぁ、あれは死んだな。
《ジャ……ボオォ》
蛇の断末魔が、朝日を浴びて光る草原に木霊する。
時としてモンスターとも手を携え戦う。
このゲーム、そんなコンセプトあったか?
*ピッピの容姿を
腹は白くから、全身真っ青に変更しました。