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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バージョン1.02(予定)
179/268

179:マジ、作業ゲーに没頭する。

 舞い落ちる羽根と同じく、空中に浮かんだ扉からふわりと下りてきたメイドさん。

 何しに来たんだ、あいつ。


『彗星マジック様をサポートするために、ログイン! 致しました』

「……意味わかんねぇし」


 一気に周囲がざわつきはじめる。

 たぶん、外見でこいつが俺のロビースタッフだってのは分かるだろう。男プレイヤーの場合、スタッフはメイドだっていうし。

 GMゲームマスター代行で登場するのはわかるが、今回はどうなんだ? いや、町長の館にもいたけどさ。


「サポートって、何をしてくれるっていうんだ?」

『はい。今回の製造祭の件は、運営でも既に周知されたものとなっております。このようなプレイヤー同士でゲームを盛り上げてくださる事に対し、とても感謝しております。そこで、運営といたしましても、この製造祭のサポートをさせて頂きたいと思いまして』

「え? じゃあ運営公認なのか?」


 シンフォニアは頷く。

 製造依頼者が俺たちプレイヤーだけでさばききれる人数だったら、サポート不要と判断して見守る事にしていたそうだ。だが、こうして大勢のプレイヤーがつめ掛け、既に混乱も生じているようだからと登場したと彼女は話す。

 工房に目を向けると、確かに列がどうとかいうレベルじゃなくなってるな……。あ、メイドさん発見。じゃあ他のロビースタッフも出て来てるってことか。


『彗星マジック様。ワタクシが注文をお受けしますので、とにかくじゃんじゃん合成を行ってください。出来上がったペットフードは、自動的にワタクシのほうへと送られるようにしておりますので』

「お、おう。じゃあ……通常版は60ENな。課金ペットフードは、それを受け取ってから合成になるんだが」

『畏まりました。課金ペットフード分はある程度数が溜まってからお渡しします。その際に注文の食材もお伝えしますので』

「ピリカもお手伝いする~」


 何をどうするのかよく分からないまま、とりあえず手元のノーマルペットフードの合成に取り掛かった。

 まずは肉だ。ひたすら肉を合成していく。

 向こうではピリカがプレイヤーを並ばせ、シンフォニアが注文を聞いて回っていた。ただ、一斉に注文を口にするプレイヤーの言葉を、どこまで聞き取れているのか……。


 肉を百袋用意し、次は野菜に取り掛かる。

 えぇっと、どの野菜を――あれ? 作ったはずの肉合成が……あ、シンフォニアのところにダイレクトで渡ってるのか。

 じゃあ気にせずじゃんじゃんいこう。

 野菜を百袋用意する間にシンフォニアが戻ってきた。


『『三ツ星ペットフード』『五つ星ペットフード』をお渡しいたしました。内訳はこのようになっております』


 シンフォニアがそう言うと、視界に文字が浮かんだ。

【三ツ星ペットフード:●肉10/0 ●野菜7/0 ●木の実5/0 ●果物15/0】

【五つ星ペットフード:●肉15/0 ●野菜5/0 ●木の実20/0 ●果物12/0 ●海鮮6/0】


 お、これは分かりやすい。

 合成を開始すると、【0】だった部分が増えていく仕様で、幾つ合成したかってのが一目瞭然だった。

 全部を作り終えると再びシンフォニアが列のほうへと戻っていく。

 その間にまた合成作業だ。

 どんどん合成しまくり、どんどん……どんどんどんどん……。


 何この作業ゲー。


「勇者様、大変そう」

「お、ピリカ。ま、まぁ技能レベルもガンガンあがるし、大変だけど遣り甲斐はあるぞ」


 大変というより、実際は『飽きた』だな。

 けどレベルはガンガン上がりまくっている。もう既に『合成』技能のレベルは38になっている。上がりすぎ。


「ねぇねぇ勇者様。どうしてこんなにたくさん作ってるの?」

「え、どうしてって……」


 えぇっと、そもそもは――そうだっ。襲撃イベントを広く知って貰う為だったんだ!


「お、お客さんにお知らせです!」


 俺は作業ゲーをしながら声を張り上げる。

 内容はコンサート後に話した事や、掲示板に書き込んだ事と重複するが、知らなかったプレイヤーも結構居た。

 安く装備が手に入る製造祭が開催されると、人づてに聞いてやって来た人が多かったという。

 襲撃イベントと聞いて色めき立つプレイヤーたち。

 まぁ俺たちプレイヤーにとっては、ゲーム内でのお祭の一種だもんな。

 経験値がっぽがっぽ、レアやレジェンド装備だって手に入るかもしれない。

 それに、なんたって……知らない人と協力して馬鹿みたいに突撃していくってのは楽しいもんだ。鉱山ダンジョンでのモンスターハウス潰しがまさにそうだったもんな。

 しかも、襲撃イベントともなればその規模は――


「勇者、さま……この町、モンスターに襲われちゃの?」

「え?」


 震えるような声で話すピリカ。

 し、しまった……ここにはNPC――ピリカが居たんだった。

 しかもピリカはダークエルフに誘拐された後だ。ただただ怖いだけだよな。


「ピ、ピリカ……あのな……」


 震えるピリカを見て、ふとディオの言葉を思い出した。

 ――俺には幼い妹が居るんだ。

 うん。確かこんなセリフだったはずだ。そんで、両親が病気で死んで、ずっと泣いてたとかなんとか。

 ディオの妹って何歳ぐらいだろうな。幼いとか言ってたし、ピリカぐらいか?


「ピ、ピリカは、その……友達、欲しいか?」

「お友達?」


 震えがピタリと止まったピリカは、そのままシンキングタイムに突入したかのように動かなくなった。

 ペットフード欲しさに並んでいたプレイヤーも固唾を呑んで見守る。

 考え中――考え中――


「うん! ピリカ、お友達たぁ~っくさん欲しいっ」

「そ、そうか! あのな、ピリカ。この大陸にずっと住んでいた人達は、とっても貧しい暮らしをしているらしいんだ」


 食べるものにも困ってるし、薬も無くて病気で死んでしまう人も多い。俺が出会った先住民には妹が居て、彼らは両親を亡くしたんだとピリカに話す。するとピリカは目に涙を浮かべ、


「可哀相。ピリカもお母さんが病気で死んじゃったから分かるよ。きっとその子も寂しくて寂しくて、ずっと泣いていたんだよねぇうわぁ~ん」


 泣き出したよ!?

 そ、そうか。ピリカもお袋さんが居なかったもんな。感情移入しちゃったか。

 周りからは「王子が泣かした」と攻め立てられる。

 お、俺のせいかよ!


「ピリカ……ピリカね……その子とお友達になる!! おじいちゃんに頼んで、病気のお薬も作って貰う! それで……それで……」

「うんうん」


 ピリカがやる気になったぞ!

 ピリカの頼みとあらば、大賢者もころっと行くだろう。


「それで……お友達、いっぱい増やすの~」

「よぉしピリ――「よぉし! ピリカちゃんのお友達百人作戦だぁーっ!!」

「「おおおぉぉぉぉっ!!」」


 え……?

 一人のプレイヤーがピリカを肩車しようとし、ぷぅに突かれまくっている。

 それを見てピリカは笑い、他のプレイヤーも笑いだす。

 何このほのぼのとした空間。

 ピリカが……ピリカが今、大勢のプレイヤーの心を一つにした!?

 俺が話している最中は、経験値になるんだからとか、レジェンド落とすかもしれないだろとかで先住民討伐派の意見も多かったってのに、今はお友達百人作戦ワッショイ状態。

 ……純粋な子供って、偉大だな。


「勇者様、ピリカ、お友達百人作るぅ~」

「お、おぅ。頑張れよ」

「うん♪ 勇者様はペットフード作り、頑張ってねっ」

「お、おぉう」


 こうして再び作業ゲーが開始された。

 





 途中、ペットフードや食材が底を尽きるというアクシデントが発生。仕入れのついでにピリカを村に送り、この作業ゲーは日付変更前までずっと続いた。

 その結果、恐ろしい事に俺の懐には六十万近いお金が……。


『それでは皆様、本日はこれにて彗星マジック様の合成ペットフード屋さんは閉店となります。ご購入を逃した方々は、明日……彗星マジック様、明日はいつほどから開店されますか?』

「へ? あ……え、ええっと……」


 まずは合成剤やらペットフード、それに食材を確保しないとな。あと出来れば先に大量生産しておきたい。

 襲撃イベントは四時頃だし、午前中、午後……あ、レベルも32にしておきたい。


「あ、朝の九時からで! それまでに何とか大量のペットフードを用意しておくんで」

「何時までですか!」

「あ……十二時、まで……」


 リアル三時間。ゲーム内だと二倍だから……げっ、六時間かよ!

 先に時間計算して答えればよかったよ、とほほ。


 あっという間に解散していくプレイヤーを尻目に、俺はシンフォニアに明日も手伝ってくれるのかと尋ねてみた。

 彼女はにっこりと笑って『当然です』と答えてくれる。

 これでなんとか、なる?

 十二時から飯食って、すぐログインして……一時から二時の間でも、ゲーム内では二時間に相当する。本気狩りをすればなんとか32に上がってくれないかな。

 そうだ。32にするなら装備の相談もしておかねえと。


 工房ではまだ結構な人が集まっていたが、職人連中は作業の手を止め寛いでいた。メイドだの執事だのがうろうろしているが、プレイヤーからの注文を聞いているようだ。


「終わったか?」


 そう声を掛けると、一斉に職人たちが振り向く。

 種族はいろいろだが、とりあえず……こっち見んな。


「おつかれい。そっちは?」

「終わったぜ。とりあえず、な」


 そう答えると、ドドンがニヤっと笑ってもう一度「お疲れ」と声を掛けてくる。

 どうやら察したようだな。


「俺らも明日、朝から製造祭だ」

「俺も合成祭だよ。んでさ、午後はレベリングしようと思って」

「ほむ」


 まぁ鍛冶職人のドドンには用は無い。

 32の杖、布防具一式が欲しいと告げる。


「でもマジのズボンって、レジェンドだろ?」

「杖もだよ。ぼくが作ったんだから」

「うへぇ」


 ギターと合成しているレジェンド杖は、性能も良いし、次のランクまでこのまま行こうと思う。なので、レア杖分だけ新調したい。

 ズボンに関しては、装備レベルが結構低いので、防御とHPの補正分がな……。

 そろそろこの派手なパンツともお別れしていい時期だろう。

 ってことで――


「布防具一式、お願いしゃっす!」

「任せて! もうデザインは決めとるけんっ」


 ドドンではない、別の人が……一番不安な人が返事したよ……。

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