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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バージョン1.02(予定)
178/268

178:シンフォニア、降臨す。

 ファクトに戻ってきた。


「わぁ、人がいっぱいいるねぇ」

「そう……だな」

〔ぷっぷぷぷぷぅぷ〕

「迷子になるんじゃないわよ、とぷぅが言ってるぞ」

「うん!」


 と元気よく返事した傍から駆け出すピリカ。ダメだこりゃ。


「ぷぅ、ピリカの頭上を飛んでてくれ。目印になっていい」

〔ぷぅ……ぷっ〕


 仕方ないわねぇといいつつ、パタパタ飛んで行ってある所でぐるぐる旋回しはじめる。あそこか。

 追いかけていってピリカを見つけてから、ダークエルフの合成屋へと向った。そこでかくかくしかじかと、今回の製造祭でペットフードを大量に合成するから、合成剤を売って欲しいと頼む。大量に、だ。

 するとダークエルフたちはシンキングタイムに突入し、暫くした後、俺は村の救世主だからと、素材代の4ENで売ってくれるという。


「いやいや、それじゃあ申し訳ないから」

「いえいえ、あなたさまから儲けようだなんて、神に誓っても出来ませんから」


 神様、信仰してんのかよお前ら。

 ぐぅ……まぁ赤字にさせてるわけじゃないし、有り難く4ENで売って貰うか。

 

 ヒャッホー!


 合成剤二千個をゲットし工房へと向う。ドドンたちが待っているだろうからな。

 が……


「うわぁ、こっちも凄い人だねぇ〜」

「そう……だな……」

〔ぷっぷぷ〕


 凄いなんてもんじゃない。

 工房の周辺はかなりの人数が集まっていて、人を掻き分けて前に行く――のもちょっと無理そうなぐらいだな。

 ドドンなんか小さいし、どうやって探せばいいんだよ……。いや、居る場所は確実に工房内だろう。その場で作って渡すなんてこともすると言っていたし。

 どうやって前に行ったものか。


「勇者様、ピリカが見てきてあげようか?」

「ん? そうか、ピリカなら小さいから――」


 工房のほうを眺めていると、ふと数人のプレイヤーと目があった。いや、正確にはピリカをガン見している男数人が見えたというべきか。

 いかん。奴等はロリコンだ! 守らねばっ。


「ぷぅ、ピリカに手を出そうとする奴がいたら、容赦なく嘴の餌食にしろ」

〔ぷ!〕

「ピリカ、お兄ちゃんから離れるんじゃないぞ」

「うん!」


 俺はピリカを肩車し、『テレポート』を唱えた。ピンポイントで工房へと飛ぶためにだ。

 工房には屋根があるので、その手前に出なければならない。入場規制なんかが敷かれて、若干のスペースがある事を祈って飛んだ。

 もし誰かの上に落ちても、まぁいいだろう。

 ロリコンの魔の手からピリカを守るためだ。許して貰えるさ。


 シュタっと飛んだ先には誰も居なかった。

 ちょっと残念な気もする。


「わっ。マジックが降ってきた!?」

「ん? その声は、シースタか?」


 背後から声を掛けられ振り向くと――しまった……。


「ぶはっ。おいっ、マジで光ってるぞっ」

「きゃぁぁぁっ、王子様ご光臨っ」

「おおお、生キラキラだ。初めてみた」

「どんだけ目立ちたがりなんだよ」

「すげぇ登場の仕方だな」

「やだ、本当にカッコイイ」

「さすがわうんピーの人」

「もう止めてよそのネタ! 王子様が穢れるでしょっ」


 入場規制が敷かれていた。

 どこから持ってきたのか、それとも作ったのか、赤い三角こーんが立てられ、紐で繋がれ、外側には大勢のプレイヤーがひしめきあう。

 前方にいたプレイヤーが俺を見て笑っている。

 もう、どうにでもなれっ。


「マジック、人気者だね」


 そう言って微笑みながらやってきたのは犬獣人のシースター。

 お前のせいだ。お前が後ろから声を掛けるからこうなったんだ。


「条件反射って、悲しいね」

「そう言いながら笑ってんじゃねえよ!」

「いやぁ、だってさぁ」


 更に笑うシースター。

 ぐぬぬ……尻尾までふりふりしやがってこんちくしょー。

 周囲から笑いものにされている最中、背後から迫り来るパタパタという足音。

 ま、まさかこの展開は!?

 ハーフエルフ娘かっ。


「いやぁ〜ん、彗星くぅ〜ん。久しぶりぃ〜。背ぇ伸びてない? 太ってない? 痩せてない? 採寸しなおしたほうがいい?」

「ぎゃはっ!?」


 どんっという衝撃と次にやってきたのは、むにゅっという感触……。

 この声……


「夢乃さんっ」

〔ぶぶぶっぶぶぅぶぅっぶ!〕

「こらぁ、ピリカの勇者様に抱きついちゃダメなのぉ〜」

「痛いっ、痛いっちゃ。ぷぅちゃん、大きくなってるし! 痛みも倍増しとるやん〜っ」


 でもノーダメージです。安心してください。

 ピリカからも駄々っ子パンチを浴びて、さすがにたじろぐ夢乃さん。


「夢乃さんがどうしてここに?」


 そう尋ねると、首を少しだけ傾げ、上目使いになる。そして――


「なんでって、彗星君のためやん……」


 と囁く。

 背後では「引っ込めデブス」だの「決闘で勝負よ」とか、なんとも恐ろしいセリフが聞こえてくる。もちろん全部、女の人の声だ。

 女って、怖いな。


「ねぇ、無反応なん?」

「え? あぁ、うん。じゃあ、俺、忙しいんで」

「えぇ〜っ」

「ぶわっはっは。姉貴はそういうキャラじゃないんだよ。マジもドン引きじゃん。ぶわっはっはっ「死ね馬鹿弟め」グフッ」


 ドドン。登場して早速殴られた。

 あぁ、そうか。ドドンが呼んだんだろうな。夢乃さんも一応、生産組だし。いや、一応じゃなく立派な、か。

 周りを見てみると、鉱山ダンジョンで一緒だったドワーフも何人か居た。知らない連中もたくさんだ。いったい何人の職人が集まったのやら。


「何人来てるんだ?」

「ファクトには七十人ぐらいだな。これ以上だと工房に入りきらなくなるから、他は工房施設のある村に分散して作業してもらってる」

「……七十って……他の町は?」

「同じぐらいの人数だよ。職人組合ってね、全部で三百人ぐらいいるんだよ」


 シースターも横から会話に参加してきた。

 三百人って、マジかよ。

 しかも今回は、組合に参加してない職人プレイヤーも参加してきているらしい。

 組合員が全員ログイン出来るわけでもないが、結果的に同人数が製造祭に参加しているんだとドドンたちは言う。

 人数が多すぎて工房の作業台が足りなくなるうえ、製造祭ではない職人も工房を使うだろうから空けていないといけないし、ということで、入りきれない人は他の村なんかで製造をするんだとか。


「な、なんか凄い事になってんな……」

「まぁな。でも、こういうのもMMOの醍醐味なんだぜ」

「そうそう。じゃあ、そろそろ始めようか。マジックは合成ペットフードをお願いするね」

「オッケー」


 それから製造祭の概要が伝えられた。

 重装備、軽装備、布装備ごとに列を作ってなんちゃらほい。

 俺はドドンたちとは少し離れた所でペットフード屋を行う。

 人が集まる前に作り為をしておこう。

 そう思ってせっせと合成を開始すると、あっという間に人だかりが出来てしまった。


「あのぉ、課金ペットフードに合成をお願いしたいんですが」

「え? 課金?」


 最初の客は、足元に角の生えたカピバラを連れた男プレイヤーだ。剣を腰に差し、軽装備っぽいので戦士系だろうか?

 うぅん、課金かぁ。団子は150AQと200AQだったよな。2000AQは持っているが……これをペットフードで使いきるのはちょっとなぁ。


「団子、先渡しのほうがいいですかね?」

「え? あ、そうして貰えると助かります!」


 な、なんだ。団子は出して貰えるのか。それならなんぼでも作りまっせぇ〜。

 取引画面を介して渡されたのは、五つ星の団子が十個……。おいおい、これだけで2000AQだぞ。どんだけそのカピバラに貢つもりなんだ。


「そ、それで、何と合成しますか?」

「カピバラは草食動物なんて、草が好きなんです。あと果物も」


 ほぉほぉ。なら――インベントリから取り出したのは葉物野菜と林檎だ。これを見せてどっちにより良い反応を見せるか確かめる。

 ……ぬぼぉ〜っとしてて、どっちにも反応をしめさない。


「あ、どっちも好きみたいです」

「は? え、反応してました?」

「はい。目を細めて、鼻のほうを高く持ち上げてるときは嬉しいんですよ」


 ……わっかんねえよ!

 ま、まぁいい。ご主人の依頼で、野菜と林檎、それぞれ五袋ずつ依頼されて作業に入る。

 はい、完成。


「値段は?」

「あ……課金の場合は考えてなかった。とりあえず今回は特別価格で60EN販売予定だったけど、ペットフード代が要らなかったわけで」

「え? それ、原価割れしてないかい? ペットフードだけでも150ENだろ?」


 ペットフードも原価で仕入れたからと説明。課金は20ENにしよう。

 金額を言うと相手は大喜びしてくれた。ついでにカピバラも早速ペットフードを貰い、目を細めて鼻を高くしてもしゃもしゃ食っていた。

 喜んでくれている……んだろうな。

 その後も課金ペットフードを依頼するプレイヤーが多く、取引の手間が掛かる分、作りおきの作業をする暇が待ったくない。

 もっと早くログインしておくべきだった。

 誰か……誰か……


「誰か手伝ってくれぇ〜」

『お任せください』


 思わず口から出た言葉に返事をする声が。聞きなれ過ぎているこの声は――シンフォニア!

 パァーっと天から光が降り注ぎ、純白の羽根が舞い降りてきた。

 おいおいおいおい、いったいどんな派手な登場をするつもりなんだ。

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