174:マジ、新たなる力を手に入れる。
謎のホゲホゲ効果で集客率は鰻上り!
シリウスさんの演奏も完璧すぎる内容で、どんなリクエストにも応えてくれた。ただリクエストするたびにシンキングタイムに入っているので、観客プレイヤー曰く「ネットから曲をダウンロードしてるんじゃね?」との事。まぁ、ありそうだ。
何度目かのアンコールを迎えたとき、突然観客が座りはじめた。
疲れたのか?
「おや……マジック様、新しい技能を習得されたようですね」
「え? 新しい?」
熱唱して気づかなかったが、ステータスを確認すると『応援歌』という技能が追加されていた。
「しかもマジック様、呪いのアイテムもお持ちですよね?」
「え、持ってるけど、どれが?」
「その『応援歌』という技能は、歌の力で味方の潜在能力を上げる効果があるのです。その効果が呪いのアイテムの力によって、真逆になっているようですよ」
おぅ……。ついに俺はバフスキルを手に入れてしまったのか。
技能の確認をすると『応援歌』には基本スキルとして、これまた『応援歌』というのがあった。
効果は全ステータスALL+1。HPとMPの自然回復量50%アップ――だ。
スキルの説明文に、気持ちを高揚させるというのもある。
観客が座り込んでいるのは、高揚の反対――気落ちとか、そういうのだろうか?
「マジック様、演奏はここまでに致しましょうか」
「あ……はい」
くっ。
ギター効果のせいで、二度と歌えなくなったじゃねえか!
うぅ。一人カラオケならぬ、森でこっそり一人オンステージでもするか。
あ、これ、モンスターには効果ないんだろうか?
だったらピッピやチュンチュンやポッポに聞いてもらうかなぁ。
「ふ、ふんどし王子、恐るべし」
「歌の力で俺たちを屈服させるとは……さすがだぜ、放電の人」
「はぁ〜。デバフでもいい、もっと聞いていたぃ」
そ、そうなのか?
ま、まぁ町の中だし、今から戦闘するわけじゃないからいいか。
じゃあ俺のオンステージ再開!
「てっ! 俺の目的はこれじゃねぇっ! み、皆、聞いてくれっ」
「聴いてま〜すっ」
歌の事じゃねぇえぇぇぇっ!
集まった観客は五十人以上いる。その観客を前にちょっと緊張。
「ふんどし王子様、どうしたんですか?」
「おう、呪い覚悟で聞いてやるよ」
「光れーっ」
「脱げぇー」
「脱ぐか馬鹿野郎!」
「まぁまぁ彗星殿、落ち着く出ござるよ。どぉ、どぉどぉ」
ふがー、ふがー。
そ、そうだ。霧隠さんの言う通り、落ち着け、俺。
ちゃんと話して、大勢のプレイヤーに参加してもらわなきゃいけないんだ。
さっきみたいなナンパ内容だとダメだ。
よし、参加してやるぜ! って気になるような話し方じゃないと……。
「なんだよ、オンステージはもう終わりか」
「えぇ、残念」
「もう光らないのか。あ、SS撮りそこねたわ」
「え、ちょ、待って」
集まった連中が蜘蛛の子を散らすようにバラけていく。
待ってくれ……明日……明日ぁ、
「明日、モンスターによる大規模襲撃が行われる。こことガッソがターゲットだ!」
手を伸ばし、あらん限りの声を振り絞って叫ぶ。
誰か聞いてくれ。振り向いてくれ――
「「なんだって!?」」
「お、おい。王子様は町を襲撃なさるのか!」
「ちっがーっう! 俺じゃなくって先住民NPCがだっ」
「なんだ、違うのか」
何故そこで残念がる!
が、襲撃と聞いてか、バラバラに散らばろうとしていたプレイヤーが一斉に集まってくる。
通りはもう通行も間々ならないほど人が溢れ、何事かよく分かってないような人も足を止めて注目していた。
これってば……せ、成功?
ちらりと霧隠さんの方を見ると、彼女は笑みを浮かべていた。
「彗星殿。我々プレイヤーは、襲撃イベントが大好きなのでござるよ。だってこれは、ゲームなのでござるから」
「イベントが、大好き……そ、そうか!」
何も深く考える必要はなかったんだ。
襲撃イベントが行われる。それだけでプレイヤーは飛びついてくるんだ。
よしっ。
『ふふ。よろしかったですね』
「おぅ。お前のアドバイスのお陰さ」
『そうですとも』
ぐぬ……どんだけ上から目線なんだ。
『それではワタクシはロビーに戻りますが、最後に彗星マジック様のお手伝いを致しましょうかね』
「お手伝い?」
こくんと頷いたシンフォニアは、次の瞬間、両手を大きく掲げ、突然声を張り上げた。
『来たれぇぇっ、時空の門よおぉぉぉ。我を元の世界へと、いざなえぇぇっ!』
「はぁ?」
何その恥ずかしい呪文。しかも本当に門がニョッキしてるし!
ざわつくプレイヤー。
突然現れた三メートルほどの、しかも地獄の門かよってぐらい仰々しいデザインの門。
〔ぷぷぷぅっぷぷ〕
「え? 遠くからどんどん人が集まってくるって?」
〔ぷぅ〜〕
遠目でも見えるこのデカイ門のせいで、人が集まってきてるのか。
『では皆様、ご健闘をお祈りしておりますね』
そう言って彼女は門を潜った。それと同時に門は閉じ、下の方からすぅっと消えていく。
その光景を、俺たちプレイヤーは奇怪なものでも見るかのような目で見つめていた。
門が完全に消えてから少しして、誰かが呟く。
「カッケー」
……マジか。
「そ、それで、襲撃イベントってなんぞや?」
「あ、ああ。実は――」
カッケーの事は忘れて本題にはいろう。
ディオ――先住民NPCから聞いた襲撃計画の内容を、大声で伝えていく。
リーダー格、つまりネームドの名を口に出すと、当然のようにプレイヤーは色めき立つ。
「そういや俺、『ゴブリンリーダー』ってネームド見た事あるぜ」
「俺は『コボルトリーダー』なら」
「なんとかリーダーって名の付くネームドは実際に居るのか。わくわくしてきたぞ!」
ほほぉ。実際に生息しているネームドなのか。
既にやる気満々のプレイヤーもいる。が、もちろん「ガセネタなんじゃ」という声も上がった。
するとシリウスさんが、
「既に冒険者ギルドには、町長より警固の依頼がいっていると思います。安心してください、というのも変な話ですが、偽りの情報ではないのだけは確かです」
NPCである彼がそう擁護してくれると、不審に思っていたプレイヤーもあっさり納得。
そこからはもうお祭ムード全快だ。
俺は出会った先住民NPCの事を聞かれたり、中には面白い意見もあった。
「先住民NPCと交流フラグ立ったんじゃね?」
「対立か友好か。どちらにも進めるルートなんだろうな」
「戦争イベントあるなら、やってみたいけどな」
「でも防衛が失敗して、襲撃成功ってなると町に被害でるんだろ? そうなったら施設やらNPCやらが利用できなくなるんじゃね?」
「あぁ、それは困るよな」
「他の町のを利用すればいいじゃん。問題なし」
戦争か……。シミュレーションゲームは苦手なんだよなぁ。
って、これはVRMMOだから、ジャンルが違うか。
一人で遊ぶコンシューマーならいざ知らず、こういうMMOで戦争はなぁ。
「俺なら……遊ぶ為にゲームやってんだから、もっと軽い気持ちでプレイできるほうが良い。戦争とか重くてやってらんねぇよ。そもそもシリアスなのはノーサンキューだ」
と、ついぽろっと本音を溢す。
周囲からは「わかるわかる」という賛同の声もあれば、「ゲームなんだから気軽に戦争できるんじゃん」という反対意見もある。
まぁ確かにな。
リアルで戦争なんて、やりたいと思うわけがない。
まぁどっちに転ぶかは分からないが、俺は『友好ルート』を進みたい。
その為にもとりあえず――
「この襲撃計画を絶対阻止し、先住民とのお友達計画を実行するのだ!!」
ばさっとマントを翻し、拳を突き上げ高らかに宣言する。
決まった。今のは絶対決まった。
そう思った瞬間、自然と顔が緩み……
「おおおぉぉ、光った!」
「半裸にマントとか、どんだけHENTAIなんだ」
「これか……これがHENTAI光か!」
「神々しくさえあるな」
「私、もうダメ。はうぅ〜ん」
「ちょっと、カナちゃん! カナちゃんしっかり!!」
これかっ。このキラキラが全部悪いんだなっ。
誰か助けてぇ〜。
「おおぉーい。変態やぁ〜い!」
どこからか聞こえてくるあの声は……
救世主の声ではない。
俺を更なる地獄へと叩き落す声だ。
「誰が変態だとぉっ!」
振り向くと、周囲を囲った観客の噴出す顔が見えた。