表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バージョン1.02(予定)
173/268

173:マジ、街頭コンサートを行う。

「次の満月か。四日後……あまり時間もないな」


 話終えると誰かがそう呟いた。


「四日後って、リアルだといつになるんだ?」


 隣のシースターに小声で尋ねると、明日の夕方だという。

 ゲーム内の一日は十二時間。そのうえゲーム内は時間の流れが二倍速になっている。

 つまり、リアル六時間でゲーム内は一日が終わる!

 と教えて貰った。

 分かりやすい説明に感謝。


「ゲームでは四日でも、実際は二十四時間後か。確かに時間が少ないな」


 そう思ったのはプレイヤー側だけなのかもしれない。

 NPC軍団は数百匹から数千匹のモンスターが大挙して押し寄せると聞くと、「こんな時の為の冒険者ギルドだろう」と。

 他力本願ですねわかります。

 まぁゲームですしぃ、モンスター襲撃とか絶好のクエスト案件じゃないですか。


「我らもただ黙ってみているわけではない。ちゃんと町の警固は固めるつもりだ。町の中にモンスターどもを進入させるつもりはないからな」

「そうだそうだ」


 騎士っぽい出で立ちの奴等がかっこつけて言ってるが、要は町の中に入られなければ何もしないよみたいな?

 そんな感じで会議はあっさり終了。

 冒険者ギルドにモンスター討伐依頼を出す流れにはなったようだが、早めに襲撃情報をプレイヤーに行き渡らせる為に――


「では君たちには多くの冒険者にこの事を伝えて欲しい」

「……はぁ」

「よかったね、マジック。最初の予定通りじゃん」


 よくねえよ。

 ギルドに依頼出すって聞いたときは、これで俺が街頭演説しなくて済むと思ったのによぉ。






「あ、あのぉ、ちょっといいデスかー」


 営業スマイルで夜の街を歩く冒険者――つまりプレイヤーに声を掛けていく。


「な、なんだよっ」

「あのですね、その……明日の夕方、ログインしてくれませんか?」


 正確には四時前。出来れば三時頃から町に居てほしい。

 夜中に襲撃というが、具体的に何時何分ってのがよく分からないので。

 お願いしたプレイヤーは、顔をひくつかせながら俺を上から下まで舐めるように見つめる。

 言っとくけど、俺、そういう趣味は無いからな!


「言っとくけど俺、そういう趣味ありませんからーっ!」

「は? え? いや、それ俺のセリフ……」


 脱兎のごとく逃げられた。

 なんでだよ!


「彗星殿……言葉がいろいろ足りないのと、見た目のせいで変質者扱いされてるでござるよ」

「見てる分には面白いんだけどね」

「笑うな!」

「振り返ったら光る仕様なんだから、振り向かないでよマジックぅ」


 くそうっ。もう好きなだけ笑ってろ!

 しかしこの分じゃ、大勢のプレイヤーに周知させる事は難しいぞ。


『逆に目立ってしまわれては?』

「なんでお前はここに居るんだ。仕事はどうした!」

『もう終わりましたので』


 そう。襲撃対策会議は終わった。というか収拾が付かないのでお開きになった。

 明日――ゲーム内での――また、改めて話し合われるらしい。面倒なのでもう参加はしない。大賢者には冒険者は冒険者でやるからと伝えてある。

 具体的には至極単純なことで、多くのプレイヤーに、件の時刻、町で襲撃に備えて貰う。ただそれだけだ。

 そのためには大勢に話を聞いて間ら貰わなきゃいけないんだか……。


「じゃあぼくは、知り合いの生産組に連絡付いたし、話をしてくるよ。その後はあちこちの掲示板に書き込んでくるね」

「お、おう」

「公式掲示板はよろしく」

「お、おぉう」


 掲示板。情報を広めるには最適な場所だ。

 でも俺は……うぅ、どうせなら公式の方も書き込みしてくれればいいのに。

 既に公式デビューしてる俺の方が信用されやすいからと……。


「しかし、どうやって話を聞いて貰えばいいんだ。目立てって、どうやってだよ」

『さぁ?そこはご自分でお考えください』

「っち。半端なアドバイスなんかしやがって」


 やっぱ手当たり次第、声を掛けていくしかないか。


「ほむ。歌ってみては如何でござるか?」

「え?」

『まぁ、それはよろしいですね』

「いや、どうしてそうなるんだ」

「『目立つ』」


 そうですか。それゃまぁ目立ちますね。

 でもアカペラで歌うのはちょっと……なんていうか、アカペラじゃあ熱唱できないんだよ。やっぱ伴奏あってこそだろうし。


「もしよろしかったら、わたくしも混ぜて頂けませんか? 楽器でしたら弾けますし」

「え?」


 突然声を掛けて来たのは、サラッサラなオカッパヘアーの男――だと思う――だった。


「あ、あの……」

「あ、申し送れました。わたくし演奏家にして吟遊詩人のシリウスと申します。先ほどの会議の場にも居たのですが、覚えておりませんか?」

「はい。覚えて――はっ、い、いえ。見ました。覚えてます」



 咄嗟に嘘を付いてしまった。本当はぜんっぜん覚えてないです。

 シリウスと自己紹介したこの人は、名前や声のトーンから男と見て間違いないだろう。まぁ野太くも無い声だから、もしかしてってことはあるが。

 でも霧隠さんの時と違って、確信はある。

 だってこの人、NPCだもんな。さっきの会議に参加していたプレイヤーは、俺と霧隠さん、そしてシースターの三人だけだし。

 そのシリウスさんはこちらをじっと見つめ、にこにこしながら、


「嘘を付きましたね?」


 という。

 こ、怖い。あの仏様のような笑顔で、サラっと嘘を指摘するとは……怖いっ。


「はい、嘘を付きましたっ。ごめんなさぁい!」

「ふふ、いいんですよ」


 くっ。このシリウスって人。シンフォニアと同じ匂いがする!

 しかしこのシリウスさん。演奏するというが、手に持っているのはファンタジーあるあるな竪琴だ。言っちゃあなんだが、竪琴での演奏とマッチするような歌、俺知らないから!


「あ、ご心配なく。楽器はいろいろ持ち歩いておりますので」

「え? 持ち――ふぁっ!?」


 竪琴ガン見してたから気づいたのか、彼が突然ピアノを取り出した。

 いや、待て。どこから出したそのピアノ!

 グランドじゃないピアノだが、どこにもそれを入れる(・・・)スペースは無いだろっ。


「NPCもインベントリを持っているのでござろうか?」

「あ、それがあったか。ま、まぁそうだよな。あんなもの、ポケットに入る訳ないよな。はは、はははは」


 それでも若干ドン引きした俺と霧隠さん。ついでに周囲で見ていたほかのプレイヤーも引いている。


「どんな楽器がよろしいですか? 貴方様が背負っているような楽器もございますよ」

「え、ギターもあるのか? ならそれがいいかな」

「はい、では」


 そういうと次の瞬間、ピアノがギターに変身した。

 もうなんでもありだな。


「あの、どうしてシリウスさんは……」







 NPCって、普通ならもう寝てる時間だぜ。ゲーム内の一日は短いんだ。さっさと寝ないと、夜は終わってしまうぞ。

 なのに彼は何故かギターをぼろろんっと弾き、何かに浸っている。

 大丈夫か、この人?


「マジック様は、この大陸に以前から住む方々と交流を持ちたいと、そうお考えなんですよね?」

「え……」

「わたくしも、そのお考えに同調させていただきたいのです」

「お……」


 NPCの中にも先住民と仲良くしたい人、居たかもぉー!?

 にっこり微笑むシリウスさんは、ギターの音調節をしながら尋ねてくる。


「で、曲のリクエストは?」

「え……じゃ、じゃあ。『燃える勇気のアドベンチャラー』で」

「燃えるゆう――」


 あ、固まった。シンキングタイムか?

 やっぱりアニソンはダメだったか。

 と思ったら動き出した。

 そして突然すっくと立ちあがり、前傾姿勢でギターを握ると――

 ジジジャーンっとギターをかき鳴らし、俺に目で合図してくる。

 

 さぁ、歌え!


 と。

 なんかキャラが変貌してるんですけど。あれじゃあまるでロックグループのギタリストだぞ。

 だがギターから響く音は、彼の変貌振りも置いておきたくなるような物だった。

 重低音からはじまる伴奏。胸のそこから湧き上がってくる、力強い響き!

 うぉぉ。うおおおおぉぉぉぉぉっ!!


「皆あぁっ。俺の歌を聴いてくれぇぇぇぇぇぇホゲホゲェェェェエェェェェッ!」


 うおおおぉぉぉぉお、お?

 伴奏が止まった。


「あ、あの、どうしたんですか?」


 シリウスさんが再び硬直している。

 道行くプレイヤーも足を止め、全員、こっちを見て固まっている。


「き、霧隠さん?」


 彼女も固まっている。


『ホゲホゲが原因でございますね。これは重大な不具合でございますよ』

「えっ、ふ、不具合!?」


 ま、まさか、俺はザ・ワールドを唱えてしまったのか!


「す、彗星殿、なんでござるか、そのホゲホゲとはっ」

「マジック様、い、今のはどのような呪文なのですか?」


 ちょ、不具合じゃねえしっ!

 固まってたプレイヤーも一人、また一人と動き出しては笑っている。主に鼻で。


「い、いいじゃないかっ。お、俺の魂が、ホゲホゲと叫べと言っているんだよ! 皆ぁ、ホゲホゲしているかぁーっ!」

「「ホゲホゲェー」」


 ……ノリが良いのもまたなんとも、恥ずかしいんですが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ