172:マジ、お屋敷に招かれる。
ハリネズミモンスター『ニードルッチュ』を見たときのココネさんの反応。
突進していって、ビクついているニードルッチュを抱きしめ、思いっきり攻撃されながら頬ずり。
あの……物凄い勢いで赤文字出てるんですけど……。
「『ヒール!』」
「ココネ殿、気を確かに持つでござるよ!」
「さすがマジックの知り合いだね」
「何がどうさすがなんだ! ココネさん、早く卵使ってえぇっ」
じゃないと死にますからぁっ。
つつぅーっと額から血を垂れ流しながら、彼女は卵を割るようにしてニードルッチュにあてる。
ぶわわんっと白煙が上がり、そして――
「うぇん。失敗しましたぁ」
「これ、失敗しても再度投げれるの?」
「一度失敗した後だと、たぶんダメでござる」
「みたいだよ。一度倒してしまって、他のニードル探そう」
「うぇん。ごめんねドルっち。ばいばい」
そう言ってココネさんは『ファイア』を唱える。
え? いつのまに他の属性魔法を!?
いやそんな事より……躊躇なくニードルッチュを火葬したな。なんか名前まで付けてたみたいだし、そんなあっさり倒せるものなのか。
「じゃ、次探しま〜す」
「お、おぅ」
女の子って、怖い。
その後、十数匹目でようやくニードルッチュの捕獲に成功。
ゲットした卵に頬ずりした後、ココネさんは既に持っていた孵化器にそれを入れた。
「よろしくね、ニっちゅん」
名前、さっきと違いますやん。
ニっちゅんを無事ゲットできたし、このまま狩りを続行。
この辺り一帯に生息する、岩ダルマのようなモンスターから『大地の欠片』というアイテムが落ちる。試しにシースターが分解すると、案の定『能力石』が出た。
これを集めながら暫く狩りを続けていると、突然地響きと共に地面が揺れ始めた。
「地震か!?」
「え? もしかしてこのお山、火山なんですか?」
「いや、この揺れは……あれでござる!」
霧隠さんが麓を指差すのでそちらを見ると――
ベヒモスが居た。
その背には大賢者が乗っている。
それが近づくにしたがって、山肌が僅かだが崩れ落ちてきた。
「おぉ、探したぞい」
「大賢者様。山が崩れますから、ベヒモスで走ってくるのは止めて下さい」
「……すまん」
そういや大賢者って、元の大陸でもやらかしたんじゃなかったっけ?
確か年のせいで魔力の調整かなんかが出来なくって、魔法を暴走させて地形を変えてしまったとか、そんなだったはず。
つまり、前科持ち! 超危険人物じゃん!
ベヒモスから大賢者が下りると、巨大怪獣はすぅっと消えていった。
時間切れか。
「ようやく準備が整ったわい。詳しい話しをしたいからの、お前さんは儂と一緒にファクトに来てくれ」
「うぅ。やっぱそうなりますよねぇ」
面倒ごとに巻き込まれそうだ。いや、すっかり巻き込まれてるか。
「あのぉ、ぼくもご一緒していいですか?」
「構わんぞ」
霧隠さんとココネさんに、NPC絡みのイベントが発生しているからと、狩りはここで抜ける事を伝える。
話を聞く間、ココネさんの長い猫の尻尾がくねくね動いているのが気になって仕方が無い。
掴みたい。握りたい。
「もしかして例の虐殺がどうとかいう、ダークエルフ絡みでござるか?」
「うぅん。ダークエルフって訳じゃないけど、まぁその計画の一端だと思う」
「なら、拙者も同行するでござる。ココネ殿は?」
「私はそろそろ落ちないと、夕飯のお手伝いがありますのでぇ」
え?
手伝うんだ?
何故か不安に駆られる。想像するのは、真っ黒に焦げた食材が並ぶテーブル。
ガクブル。
「ではファクトじゃぞ。町の北側荷の町長の館がある。そこに来るがよい。門番には名前を伝えておるから、通してくれよう。儂は一足先に行っておるからの」
「あ、はい」
一緒に連れて行ってくれるんじゃないのか。
まぁこっちも『テレポート』ありますし、困ることはないんですけどね。
しかし、領主なんて居たのかよ。
大賢者が一人テレポした後、ココネさんがパーティーを抜け、挨拶を済ませると彼女一人でテレポしていった。
じゃあ俺らもテレポしますかね。
「『テレポート』」
ファクトへと到着すると、そのまま町の中を北上する。
町をぐるりと囲む壁沿いに、大きな建物があった。西欧の中世に建てられたような、立派な屋敷だ。
その屋敷を更にぐるりと囲む壁。装飾の施された門扉には、左右にそれぞれ一人ずつ門番が立っていて、近づいた俺たちを睨みつけてくる。
「え、えっと。彗星マジックですが、大賢者様に呼ばれて来ました」
【どうぞ中へお入りください】
【屋敷の入り口に案内人がおります】
「ど、どうも」
声無しか。
ちょっと表情も少ないNPCに通されやってきた屋敷の扉前には――
『お待ちしておりました。どうぞ、ご案内いたします』
いつもロビーで見るのとまったく同じ、白と黒の王道メイド服を着た奴が立っていた。
「何やってんだ、シンフォニア」
『ワタクシはとう屋敷のメイドでございます。皆様を会議の場までご案内するよう、仰せつかっておりますので』
「いや、どう見てもシンフォニアだから」
『っち』
ほらみろ! 舌打ちしたじゃねえかっ。そんなNPCはシンフォニアぐらいしか居ねえよっ。
ってかGMの時と比べても、変装すらしてないじゃないか。これで別人ですとか、無理があるだろ。
『これも立派なお仕事ですので。ささ、ご案内いたしますので、どうぞ中にお入りください。今すぐに』
「微妙に命令口調に聞こえるのは気のせいだろうか」
「彗星殿の知り合いでござるか?」
「あぁ……俺んところのロビースタッフだ」
「さすがマジック担当の人だね」
だからその「さすが」って、どういう意味だよ!
シンフォニアに案内され中に入ると、正面に幅の広い階段が。その階段を上って二階へと上がり、これまた真正面の部屋へと入っていく。
そこには――めっちゃ人がいるんですけど!
音楽室に飾られた、昔の作曲家の肖像画のような、ちくわのような巻き毛の連中がちらほら。騎士のようなフルプレートを着込んだのもちらほら。
あ、ダークエルフとの商談に参加してた、組合のおっさんもいるな。
他には――お、ファリスとアイリスもいるのか。まぁいるだろうな。大賢者も彼女らと一緒にいる。っち。爺様のくせに盛りやがって。
彼女らの周りには、明らかに職業特化のNPCがずらりと並んでいた。
攻守のバランスの取れた騎士ファリス。
支援特化の聖女アイリス。
マップ破壊兵器の大賢者――名前なんてとうの昔に忘れたな。
この三人以外に、二本の剣を背負ったがたいの良い隻眼のおっさん。
弓を背負ったイケメンエルフ。
そのエルフから一番遠くに斧を杖代わりにしているドワーフと、その隣でにこにこしている竪琴を持った……男だろうな。ちょっと中性的な顔立ちなんで自信は無い。
竪琴……演奏家かな。楽器は武器扱いなのだろうか。
あれでガスガス殴ってるのを想像すると、トキメクんですけど。
「それでは皆さん、全員集まったようなのでお席にお座りください」
恰幅のいい、豪華な服を着た中年の男がそう言うと、他のNPCたちが一斉に椅子へと着席する。
こういうところは照るよな機械じみてるよな。
そして都合よく、椅子が三つ並んで空いていた。当然そこに座れという全員の視線が注がれるわけで。
「す、座るか」
「そうでござるな」
「なんか緊張するね」
俺たちが座ると同時に、会議が始まった。
まずは大賢者のほうから、先日の誘拐事件の詳細が伝えられる。
まずはモンスターを使って村を襲撃し、子供たちを誘拐。その際、たまたま居合わせたダークエルフ――はい、俺と霧隠さんの事ですね――が誘拐犯であると思いこませるような演技をし、真犯人であるダークエルフらは逃走した。
大賢者とブリュンヒルデが犯人を追いかけたが、後から追いかけていた俺と霧隠さんが無事に子供たちを救出したという内容だ。
ファリスとアイリスの二人も、子供たちを誘拐したダークエルフが居ると聞き、荒野に向うダークエルフ二人の目撃情報から砦に到達したという。
その二人ってのも、たぶん俺と霧隠さんなんだろうな。
何人かのNPCから質問が飛んでくる。
「本当にお前達は奴等の仲間ではないのか?」
「町長。それに関しては儂が保障しよう。そこのマジックは移民団の船に乗船しておったのじゃ。つまり我らが故郷の大陸から渡ってきたダークエルフじゃからの」
「ではそちらの女は――」
「霧隠さんも冒険者だ。向こうの大陸から来たに決まっているだろう」
「私から見ても、その方に邪悪な気配はございません。ご信用なさってもよろしいかと思います」
アイリスがフォローすると、町長ってのがあっさり納得する。
次に俺の名が呼ばれ、遂に襲撃計画の内容を話すときが来た。
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あ、でも。
私、剛毛な上に髪多くてパーマ代も割増されるほどだった・・・